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第38章 そういえば見られていたのか

「……あのー、お取り込み中ごめんなさいね?そろそろいいかしら?」

ジュリアが半分申し訳なさそうに、半分悪戯っぽく言った。


俺は慌ててネルネルから離れる。

「あ、やっぱ全部聞いてましたよね」俺は言う。顔が熱くなるのを感じる。


「まあホラ、二人っきりにしたいなあとは思いつつ?

でもさすがに判決当日にネルネルを一人には出来ないじゃない?みたいな?」

ジュリアはいやらしさ100%の笑顔でいった。


「いやあ、若者が愛を囁きあう。いつ見てもいいもんですなあ。はっはっは。」カール将軍も言う。

「はっはっは」ジュリアがカール将軍のマネして笑う。


二人のからかうような口調にイライラしつつも、俺の顔はますます熱くなる。

こういう気持ちになったのは生まれて初めてだ。


一人静かだったヴァルターに、俺は声をかけた。

「ありがとう、ヴァルター。おかげでネルネルの死刑執行を止めることが出来たよ。」

「……いえ」


「あそこでヴァルターが雪冤宣誓をしてくれなければ、終わりだったし。

こんなこと言うのもなんだけど、もしまかり間違えばネルネルともども死刑になるところだったのに。」


「私は、救世主様の弁論に、心から納得しただけです。」ヴァルターが意外なことを言う。

「え?そう?」意外。俺はもうそれっぽく演じただけなのに。


「ええ。特に、理由の二点目、真犯人の取り逃がしの点です。

 救世主様の言う通り、万が一、フルフル、いえネルネルというべきでしょうか。彼女以外にまだ殺人を犯した者がいるかもしれない。それは詳細に調べるべきだ、と思いました。」


「だから自らの命をかけて止めてくれたの?」

「ええ。もしそんなのが万が一いたら、我々がフルフルを殺して満足している間に、こっそり人殺しを繰り返してしまうかもしれない。ザガンのように。」


元いた世界を思い出す。

刑事弁護をやっていると、冤罪の恐ろしさを繰り返し教わる。

俺はその押しつけがましさが嫌いだったけど、真犯人を取り逃がすことの恐ろしさだけは、その通りだと思っていた。


「救世主様、その代わりと言ってはなんですが、お願いがあるのです。」

「なんだろう?」


「カミラとセンデロスを、許してあげて頂けませんか?」

「……でも彼らは、今でも俺のことよく思っていないでしょ?」


「まず、センデロスはそうではありません。自らの判断が誤っていたと今では分かっています。

もし機会があれば、直接改めて謝罪したい、そう言っています。」


「まあ……別にいいけど……カミラは?」

「カミラは、気が強く誇り高い性格で、なかなか誤りを認めませんでした。

しかし今では誤りを認めています。」


「まあ……どうなんだろうねえ」

俺は信じられない。ヴァルターがかばっているだけではないだろうか。


「実は、センデロスが救世主様に謝罪したいと言った時、カミラは泣き出してしまったのです。」

え?なんで?


「カミラは泣きじゃくっていました。どうしようどうしようと。

罪悪感からだと思いますが、あれほど弱々しく震えるカミラは初めて見ました。


カミラはもともと南方の国アラビスの反政府組織のリーダーで、政府軍は魔物と手を組んで民を苦しめていました。

魔物の討伐のために私と手を組んだのがきっかけで、反政府組織が新政府を発足させたのを契機に私の仲間となったのです。


もともと女性なのに反政府組織のリーダーを務めてきたこともあって、弱いところは絶対に人に見せられない、弱みなど見せたら付け込まれる、そういう考えを持っているのです。


そんなカミラが泣き出すなんでよっぽどです。行動には出しませんでしたが、ずっと苦しかったんでしょう。」


まあ、色々あるんだろうが……

俺の顔を見たら怒りを抑えきれなくなりはしないのだろうか……


人間、腹の底では、自分の誤りを正せないもんだし。

センデロスは突然襲いかかっては来ないだろうが、カミラはしかねない。


「どうか、カミラの謝罪を受け入れてもらえませんか?」

「……まあ、他ならぬヴァルターの頼みとあれば、そうしよう」

正直感情的には受け入れられないが、ヴァルターには恩があるしな。


「ありがとうございます。改めて二人に頭を下げさせます。」

「まあ、わざわざ頭を下げなくてもいいよ。俺を殺そうとしたりしなければね。」


俺はヴァルターの顔を見る。


勇者というと、俺の頭の中では、世界は俺が救ってやるぜ!とか。

世界の真理を自分だけが知っているかのようにしゃべるやつが多くて、俺は嫌いなイメージだったけど。


目の前のヴァルターは、勇者に期待される救国の英雄としての役回りを果たしつつ。

様々な人々の間で、なんとかそれぞれの気持ちに配慮しつつ、最悪の事態を回避しようと奮闘している。


その苦悩と、そこから来る謙虚さは、俺には好ましく映っていた。

あんだけ強ければ、心も傲慢になりそうなもんだけどなあ。




その日は軍の手配した宿で一泊。

ネルネルは俺と同じ部屋と最初は言ったが、何とか説得して別の部屋にしてもらった。




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