第35章 異世界法廷で弁論を
俺は法廷に入った瞬間、
「判決を言い渡す。主文―」の声を聞いた。
とっさに叫んでしまった。
「待ってください!」
みんながこっちを向く。
かなり緊張する。
心臓がバクバク言い出し、胸も締め付けられるようだ。
もうなるようになるしかない。
「被告人が無罪である証拠があります!」
声の限りに叫んだ。
同時に俺は傍聴席から法廷に入ろうとしたが、兵士が止めに入った。
「傍聴人は静粛に!」裁判官が怒鳴った。
国王陛下が裁判官の席にいる。
「フルフル!自白撤回して雪冤宣誓しろ!」
俺は大声で言った。
「傍聴人は発言を慎みなさい!」
国王たる裁判官はさらに大声で言う。
その後、兵士の俺に対する罵声、傍聴人のざわつきの中で埋もれた。
だけど、フルフルのーネルネルの声は聞こえた。
「……私は雪冤宣誓をします!私は人を殺していません!神でも王でも何にでも誓います!」フルフルは必死に叫んでいた。
「全員静粛に!」国王の一声で鎮まり返った。
俺も黙るべきだろうか。
でも黙っていたら、俺は退廷させられ、ネルネルは殺されるのでは?
そう思って一瞬躊躇した瞬間。国王が俺の方を見て言った。
「今叫んだのは救世主様、オダギリ・ヨウスケ様ですね。」
「そうです」
「傍聴人が法廷に関与しようと発言するのは、アティベル国法廷秩序維持法違反です。それは分かります
か。」
「はい。しかし……」俺がここまでいって、国王がそれを遮り言った。
「救世主様のこれまでの功績を鑑み、特別に発言を許可しましょう。兵士たち、救世主様から手を離しなさい。」
そう言うと、兵士は俺の腕を離した。
「ではどうぞ。」国王はそう言って俺に発言を促した。
心臓がバクバク言うのがわかる。
かなり大声で話さないと届かない。
早口にならないようにしないと。
俺は緊張すると早口になるんだ。
要点は冒頭と最後に。根拠は3つにまとめる。そして……可能な限り簡潔に。
刑事裁判、特に裁判員裁判の弁論の基本として繰り返し俺が習ったことだった。
そして……
一流の刑事弁護人を演じること。
「国王陛下、発言の機会をお与え頂き有難く存じます。」俺は可能な限りゆっくり言った。
俺は一流の弁護人、一流の弁護人……
「私が申し上げたいことはただ一つ。そこにいるフルフルと呼ばれる女性、彼女を無罪にすべきだ―ということ……ではありません。」
ここで少し間を置く。
少しざわめきが起こった。
「彼女が何者であるか、及び彼女の有用性について調査が完了するまで、この裁判手続を停止すべきだ、ということです」
国王陛下は表情を変えない。
俺は国王陛下を見て、息を大きく吸い、三本指を立てた。手の震えが国王に見えなければいいけど。
「根拠は三つあります。」
「一つ目は、そこにいる被告人の女性は、多くのアティベル国民を殺した『フルフル』ではないことを示す証拠があること。」
「二つ目は、ザガンの例と同じように、真犯人を取り逃す恐れがあること。」
「三つめは―」
ここでど忘れした。
なんだっけ、なんだっけ!
「……三つ目は、彼女が魔神の生態の解明とこの国の安全に貢献できること、であります。」
俺はため息をつく。なんとか思い出せた。
「順に詳しく述べさせていただきます。」
「一つ目ですが、私は、友人の冒険者と協力して、フルフルと勇者ヴァルターが戦った洞窟を調べました。そこで得た証拠が指し示すことは一つ。」
「アティベル国民を殺した『フルフル』とは彼女ではなく、彼女の父親である、ということです。」
「そんなわけねーだろ!」
「おかしいじゃないか!」口々に罵声が飛ぶ。
「他の傍聴人は静粛に!」国王がそれを遮り、人々は静かになった。
その後国王は続けるよう無言で促したので、俺は続けた。
「確かに、皆様がおかしいと感じるのは重々承知です。被害者の方、ご遺族の方の心中は察するにあまりあるところです。」
「しかし証拠の一つ、ここに音水晶があります。」そう言って俺は音水晶を取り出す。
法の許す限りで視覚に訴えろ。
これも俺が刑事弁護の師匠から習ったことだった。
「今ここで鳴らすことは私には出来ませんが」そこまで行ったところでざわついたが、俺がしばらく黙ったままだと収まった。
「ここには被告人の女性の父親の遺言が記録されています。
それによると、全ての殺人を行ったのは、その女性の父親なのです。」
「そこの女性はヴァルターと戦ったのが生まれて初めての戦いだったのです。」
「でたらめいうな!」
「魔神をかばうのか!」傍聴人が食って掛かってきた。
俺は平然としようとしていた。
兵士がそれを取り押さえた。
「他の傍聴人は静粛に!」国王は再び遮った。
静かになったときに、国王が言った。
「今話しているオダギリ・ヨウスケの発言を最後まで聞くのは、国王かつ裁判官である私の決定である。
傍聴人の中には腹の立つものもいるだろうが、最後まで我慢するように」
そう言って、国王は俺に再び促した。
「他にも証拠はありますし、これがあったそこの女性のかつての住処にも、他の証拠や痕跡があります。十分それらを調べてから裁判すべきだ。これが私の主張したいことの一点目であります。」
少し長くなりすぎた。
しかし焦っては話が聞き取りづらくなる。ゆっくり、ゆっくり……
「二点目は、真犯人を取り逃すおそれがあることであります。」
「私が手にした証拠は、フルフルが殺したとされる者達を殺したのはそこの女性ではない。その父に殺されたのだ、ということを示すものです。」
「しかし果たして本当に、被害者の全てが、その父に殺されたのでしょうか?」
「なにいってんだ……・!」
怒りのこもった大きな独り言が傍聴席から聞こえたが、俺は無視して続けた。
「傍聴人の皆さんにはご存じない方も多いかも知れませんが、国王陛下や、ここにいらっしゃる兵士の皆さんはご存じのはずです。
ザガンという別の魔神がいたこと。」
「独自に人を殺し、あるいは人を誘拐し、それらをフルフルのせいにしていたことに。」
「私たちは考えなくてはならないのではないでしょうか。」
「本当に、全ての殺人が、フルフルによってなされたのか?
ザガンのように、フルフルの陰に隠れて暗躍するものはこの国にいないのか?」
「その被告人の女性を処刑してしまえば、それらを明らかにするチャンスは永久に失われる、そう考えるべきです。
新たな殺人や侵略も発生するかもしれない。」
ここまで夢中で話してきた。
深呼吸。
皆、こっちを見ている。
視線を過度に意識して頭も口も止まってしまわないうちに、俺は再び話し始める。
「三点目、彼女が魔神の生態の解明とこの国の安全に寄与できること、であります。」
「いうまでもなく、世界は今、同時に魔神の襲撃を受けたと考えられます。」
「他国とも連絡が取れない中、これまで我々人間は、魔神と戦わなければなりませんでした。」
「被告人は先ほど申し上げた通り、多くの人を殺した魔神「フルフル」の娘であります。
彼女はおそらく、他の魔神や、その目的、生態、弱点を知っている可能性が高いのです。」
「我々は、今、他国の状況が分かりません。
他国の魔神から侵略を受けるかもしれない。
他国の軍隊から侵略を受けるかもしれない。」
「そこで彼女の力が役に立つのです。」
「彼女は、本能的に、初めて彼女を退治した私に逆らえません。
実際、私の命令に従い、この国にいた他の魔神の撃破に参加し、貢献しました。」
「私の指揮下にある限り、彼女が人を殺すことはありません。
のみならず、この国の人々を守るために、魔神たる彼女の力を使うことが出来るのです。」
「このチャンスを逃す手はないはずです。」
そこで俺は国王や傍聴人の表情を見る。
国王は真剣なまなざしだ。
どう考えているかはともかく、俺の話を聞いてくれているようだ。
傍聴人は首をかしげる人、きょとんとしている人、貧乏ゆすりをしている人、様々だ。
やはりどう考えているかは読みづらい。
俺は最後の結論を言うため、深呼吸し、なるべくゆっくり、言った。
「以上の三つの理由により、彼女を今すぐ死刑にすべきではありません。」
「もちろん、被害者の方の心情、国民感情も鑑みれば、彼女を無罪として自由にすることなどありえないかも知れません。」
「ですから、私は提案したい。証拠を十分調べるまでこの裁判手続を停止すべきであると。」
「その間被告人を国家の監督下に置いて、その知識と力を活用すべきだと。」
「私ももちろん、可能な限り協力いたします。」
間をおいて、言った。
「私の申し上げたいことは以上です。国王陛下、発言の機会を下さり、ありがとうございました。」
そう言って俺はスピーチを終えた。




