第31章 作戦会議と証拠収集
「実は、ジュリアに頼み事があったんだけど……」
「何?」
「ここで話しづらいなあ……」
フルフルに恨みを持つ人間が極力いないところでしたいところだけど……
「じゃああの、ヨウが作った空間で話しましょ?あのご飯、また食べたいなあ」
「まあそうしよう。その前に一か所寄り道するけど」
「ジュリア、どこ行くの?私も行きたい!」「私も行きたい!」
なんか小さい女の子の双子がジュリアにすがりついてきた。この子たちも冒険者なのか?
「ダメよ。ちょっと大人の話があるんだから」
「行きたい行きたい!」「行きたい行きたい!」
ああ、このくらいの年齢でやたら跳ね回る子、いるよねえ。
「また別の機会にヨウにお願いしましょ。じゃあヨウ、これ以上ややこしくならないうちにお願い」
「お、おう。法務省設置法8条1項」
―拘置所に転送します。
その後、法律魔法で作った拘置所で勾留していたマドライナに二人で迎えに行った。
仕組みはよくわかっていないが、元いた世界で逮捕されてそのまま勾留された場合と同様の待遇だったはず。
マドライナはザガンに操られたり、体を乗っ取られてこっちに牙を剥く可能性があったので、こういう形にしていたが、今はザガンもいないので、釈放することにした。
で、今いるのは前にみんなで一緒にご飯を食べた農水省一階のレストラン。
もっといろいろなレストラン出せればいいんだけど、根拠法がないと出せないんだよなあ。
おいしいレストランの設置を定めた法律、なんかあったっけ……
ご飯を食べながら、まずマドライナの話を聞いていた。
本人の話では、ザガンに意識をのっとられたわけではないらしい。
ザガンに、自分が追い求めている夢魔の正体をちらつかせられ、期待してしまったところに魔法をかけられたと。
操られているわけではないが、ザガンに聞かれたことは答えてしまう、拒めなかった、とのこと。
「うーん、私も専門外だけど、人を操る魔法もいろいろあるしねえ。
一回暗示や魔法を解く専門の神官や魔術師に見てもらった方がいいかも。」ジュリアが言う。
「ごめんなさい、ヨウ」マドライナが謝る。
なんか罪悪感を感じてきた。勾留はやり過ぎだっただろうか……
「いや、いいんだ。」俺は答える。
「それで、内緒話ってなに?いやいやダメよ?私は心に決めた人がいるんだから!」
そう言ってジュリアは体をくねくねさせ始めた。酔っぱらってんの?
「いや変な話じゃないよ。二人にお願いがあって。」
「お願い?なーに?」ジュリアが体をくねくねさせながら言う。
「私と一緒に、私が初めて召喚された洞窟に行って欲しいんだけど。」
「まあ、いいけど……フルフルがいなければそんなに探索は難しいダンジョンじゃないし。なんで?」
「調べたいことがあるんだ。何を調べるのかはまだ言えない。
この世界の通貨あまり持っていないので、十分な報酬が多分だせないんだけど……」
「あそう?救世主様から何かもらうのも悪いなと思ったけど、いやあ、私たちも商売だし?先立つものが必要なわけで?」ジュリアが言う。
まあ、その通りだけど。やっぱダメかな……
「私はここのゴハン1週間分!」笑顔でジュリアは言った。
「そんなんでいいの?」俺は聞く。
「ここのゴハン、私が今まで食べたことない食材なのよね。いやあ異世界のゴハン、ステキ!
マドライナはどうする?」
「もし良ければ……ヨウの元いた世界の本を読むことは出来る?」マドライナが遠慮がちに言う。
「まあ私が元いた世界の図書館を出すことは出来るよ。」
国立国会図書館法があるからね。
関係ないけど、国立国会図書館法前文はすげーかっこいいと思う。
「じゃあそれで……」マドライナが遠慮がちにいう。ジュリアと声のボリュームがだいぶ違う。
なんのかんの言って、二人とも要求が大したことないな。
いい人なんだな。二人とも。
「……ここであっているでしょ?」
俺とジュリア、マドライナの3人は、俺が初めて召喚された場所に来ていた。
ネルネルとヴァルターが戦い、俺が召喚された場所。
俺が食われかけた場所。
法律魔法なるものを初めて使ったのもこの時だ。
今となっては、そんなこともあったなあ、という感じだけど。
そう考えると感慨深くもある。
「でも、ここは誰かが調べたんじゃないの……?
フルフルの討伐の時って、軍と冒険者とで討伐隊結成していったみたいだし……」
マドライナが不思議そうに言う。
「いや、討伐隊はだいぶ消耗していたし、ヨウという不確定要素を抱えたままだとリスクが高いから、その時はすぐに引き上げたはず。その後に調査隊が派遣されたって話も聞かないし。」
ジュリアが説明してくれる。
「ヨウ、この後どうするの?」ジュリアが聞く。
「奥に行ってもらえる?多分、俺の探しているものがそこにある」俺が言う。
「そろそろ何を探しているのか教えてくれない?何も知らないのは、ホラ、やっぱり怖いし」ジュリアが言う。
「……実は、フルフルが無実である証拠を探しに来たんだ。」
「「は?」」ジュリアとマドライナが驚きの声を上げた。
「そんなに驚くことか?」
「いや、そんなわけないじゃない……」ジュリアが言った。
「まあ、みんなそう思っているのはわかる。俺も半信半疑。」俺が答える。
「え?じゃあ、なんで……」マドライナが問う。
「いや、怖いな、と思って。もし全てが濡れ衣だったら」
「そんなわけないじゃない!だってたくさん見た人がいるのよ?家族を殺された人も。みんな嘘ついているっていうの?」ジュリアが聞いてくる。
「いや、そうじゃないんだ。」
「じゃあ……意味はないんじゃあ……」ジュリアが問う。戸惑っているようだ。
「とりあえず、奥に行きかないか。気になることがあるんだ。」
「でも、フルフルは認めているんでしょ?ヴァルターがそういってた」ジュリアがなおも食い下がる。
「そうだよ。俺にもそう話した。『このフルフルが殺した』のだと。」
「じゃあ間違いないじゃない。」
「いや、変なんだよね。」
「何が?」ジュリアが聞く。マドライナはずっと黙って俺たちの話を聞いている。
「人を殺したのか?とかどうやったのか、という話、何回かしたんだ。
だけど、フルフルのその答え、必ず主語が『フルフル』なんだよ。いつもは『私』なのに」
「それだけ?フルフルはフルフルでしょ?」
「まあそうだけど。しかもその点について問い詰めると、微妙に答えをそらすんだよね。
質問にまともに答えない。」
元いた世界でも、こういうウソのはぐらかし方をする人を何人か見たことがある。仕事で。
「でもそういう人フツーにいるでしょ。全部はぐらかす人。」ジュリアが言う。
やっぱいるんだ。異世界でも。
「まあもちろんこれだけだと無罪にはならないので、証拠を探しに来たんだ。」俺が言う。
「ちょっとフルフルに感情移入しすぎじゃない?ヨウ。」ジュリアが言う。
若干イラっとした。でもそれは多分、俺が感情移入しているからだろう。
「そうかもね。まあ俺、元の世界でそういう仕事をやっていたので」
「犯罪者をかばう仕事?まあいいわ。探してみましょう。」ジュリアが切り替えたように言う。
「ありがとう。」
「正直言って私はヨウの話を聞いてもこれっぽっちもフルフルが無実だなんて思ってない。だけどね。」ジュリアは続けた。
「だけど、ヨウが召喚される前は、誰も魔神がもう二人もいるなんて知らなかった。
領主様と手を組んでひそかに人さらいをしているなんて誰も思ってなかった。」
「だから今回も、正しいのはヨウかも知れないし。
マドライナはどう?」ジュリアはマドライナに話を振る。
「私は……どっちか分からなくなったけど、奥を探すことに賛成。
うまくいけば、魔神の生態が分かるかも知れないし」
「よし、じゃあ中に行ってみよー!」ジュリアが元気よく言う。
その元気な声に俺はホッとする。




