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第30章 ネルネルの量刑見込

カール将軍と俺は俺が目を覚ました教会に戻った。


周りを兵隊たちが警護していた。

敬礼をする兵隊たちを横目に俺たちは元いた部屋に戻る。


部屋にはマルゴットがいた。

そばに寝ているヴァルターの横でレオニーが突っ伏して寝ている。

彼女も寝落ちしたのか?


「レオニーも寝てしまったのか。」カール将軍が小声でマルゴットに言う。

「ええ。起こそうかとも思ったのですが、お疲れのようでしたので……」マルゴットは答える。


「まあレオニーもろくに寝ないでけが人の手当てやら看護やら頑張っていたはずですからな。

無理もない。」カール将軍は言う。

「本当に、似た者同士なんですね」マルゴットが言う。


「ヴァルターとレオニーは付き合っていたりするんですかね?」俺は聞いてみる。

二人の関係はこれまで誰にも聞いたことなかった。


「いやあ、私の知る限り、ただの幼馴染で、ただの同じパーティの仲間だそうですわ。

はっはっは。」カール将軍は笑う。


その後、流れで俺はカール将軍とマルゴットと応接室というか会議室というか、そういう部屋で話をすることになった。


「お茶を淹れましょう。ヨウ様はコーヒーがいいですかな?紅茶がいいですかな?」

「カール将軍が淹れるんですか?」俺は驚いた。


てっきり副官のマルゴットが淹れるのかと早合点していたからだ。

先入観とは恐ろしい。


「では、コーヒーをブラックでお願いします」

「マルゴットはミルクティー、砂糖入りでいいな。」

「はい。ありがとうございます。」


「この世界では、男性も女性も普通にお茶淹れるもんなんですか?私のいた世界では、女性が淹れるものだという偏見が根強く残っていたもので……」

「こちらでもそうですよ。カール将軍が素晴らしい方というだけです。」マルゴットは答える。


「はい。」カール将軍は慣れた手つきで俺にコーヒーを、マルゴットにミルクティーを置く、自分はストレートティのようだ。


「早速聞きたいことがあります。フルフルが裁判にかけられる場合、どのような感じで手続きが進むのですか?」俺が聞いてみる。


「すべて国王が決めることですが、おそらくレオポルド3世の領地にある裁判所を使ってやることになるでしょうな。王都までフルフルを運ぶのは危険ですので。」カール将軍が答える。


「この国では裁判はどのように行うのですか?」

「通常の裁判は村や街の長か、その者に指定された役人が裁判官として行いますが、重大な事案は国王自ら裁判官になります。」


「事実認定というか……どうやって誰が何をしたか判断されるのですか?」

「専門ではないので詳しくはないですが、基本的にいろんな人の話を聞いて判断していますな。

詳しいことマルゴットは分かるか?」カール将軍はマルゴットに話を振ってみる。


「犯罪について裁判を行う場合、嫌疑をかけられた被疑者は罪を認めるか、争うかを裁判官から尋ねられます。

認める場合は、そのまま刑罰が裁判官により決められ裁判は終わりです」マルゴットが説明してくれる。


「認めたら証拠調べとか、証人の尋問とか、しないんですか?」俺は聞いてみる。

「しません。罪を認めているわけですからね。」マルゴットは何かおかしいことでも?という表情で言った。


「被疑者が自分はやっていないと言った場合は?」

「その場合は被疑者と、証人3名にその旨宣誓させる手続きを取ったうえで、証拠調べや証人の尋問を裁判官が行います。」


「被疑者に証人がいなかったら?」

「有罪で終わりです。」マルゴットは答える。


たしかヨーロッパの方で昔そんな感じだった気が……

大学の西洋法制史の講義、まじめに聞いておけばよかったかなあ・・


「刑事弁護人は被疑者につくんですか?」

「刑事弁護人?そんなものつきません」マグリットは当然と言わんばかりだ。


「まさか救世主様、裁判でフルフルの無罪の裁判を勝ち取ろうとかお考えなのですか?」マグリットは逆に聞き返してきた。

「……無理なんですか?」


「実際は、裁判はほぼ裁判にかけられた段階で勝負は決まっています。

有罪にする場合は、最低証人二人がいればいいわけですからね。

自白させるか、証人二人用意すればいいですし、どちらもだめなら裁判にかけなければいいわけですから。」

裁判にかければ終わり。俺の元いた国も、ほぼそんな感じだったなあ……


「しかもフルフルの場合、その暴虐はたくさんの人が見ているわけです。間違いなく有罪、死刑でしょうね。」


まあ確かに、みんな見ているわけだから、無理なんだろうな。

俺の考えが間違っているのか?


「例えば、俺がフルフルが犯人じゃない証拠を持ってきたり、真犯人を連れてきたらどうなるかな?」

「まあ判決に間に合えば、裁判を取りやめてやり直しにはなるかも知れませんね。ただフルフルの場合にそれをやっても、そっちの方がでっち上げだと思われますけど」


「救世主様は、フルフルが無罪だとお考えなのですか?」カール将軍が俺に聞く。

「いや、その可能性があるというだけですが……」


「しかし、牢獄で立ち聞きしていましたが、フルフルは自分が殺したと言っていたでしょう?自白したら証人とか連れてくる以前に有罪・死刑ですよ?」カール将軍が言う。


「まあ、そうですが……」フルフルの様子に引っかかることがあったのだが、それはここでは黙っていることにした。わずかな証拠を握りつぶされるわけにはいかない。


「救世主様の気持ちは分かりますが、我々は2年間、あの者に苦しめられてきたのです。

多くの者が、フルフルの姿を、それが自分の愛した者達を無残に引き裂くのを見てきたのです。

どうかご理解ください。これが真実なのです」カール将軍が言う。


「……そうかも知れません。私が情に流されているのかも知れません」俺は言う。

自分の認知の歪みに自分で気づくのは難しい。


「いえ、でもそれが人間というものですよ」カール将軍が笑って言った。




話を終えた俺は、ジュリアに会いに行くことにした。居所をカール将軍に聞いた。

「ジュリア?ああ、あのヴァルターの友達の。ジュリアなら近くの冒険者詰め所にいけば分かるでしょう。」


「しかし、ジュリアも可哀そうに」

「可哀そう?なぜです?」俺は聞いてみる。


「あの子も多分、ヴァルターのことが好きなんですよ。見てれば分かります。」

え、そうなの?それっぽい感じじゃなかったけどなあ……


「なのにヴァルターの奴、はっきりしないんですよ。レオニーやジュリアとの関係、どうするのやら」

カール将軍がやれやれという調子で言う。


ヴァルター、モテるんだなあ。勇者だからな。

俺も転生するなら、モテたかったよ。

前世でそういうの、縁がなかったから。


居城の敷地内にある建物の一つが、簡易ギルドみたいになっていた。


そこに入ってみると、すぐにジュリアが他の冒険者と立ってだべっているのが見つかった。

なんか知らない人と話している途中に割って入るの悪いし、話しかけづらいなあ。


「ヨウ!」向こうから話かけてくれた。

多分俺が入り口でモジモジしているの察してくれたんだろう。


「聞いたわよ!大活躍だったみたいじゃないの!さすが救世主ね!」

ジュリア、声がデカい。びっくりしたよ。


「え!この人が救世主様!」

「すごい!握手してください!」


なんか人が集まってきた。俺はそんなに有名人なのか?冒険者ってこういうミーハーな集まり方するの?

一匹狼とか、プライド高い人多いイメージだったけど。


「そんな有名なんですか?俺?」俺はジュリアに聞いた。

「そりゃあギルドで知らない人はいなくなっちゃったわよ。軍隊総出、ギルド総出でなんとか取り押さえたナベルスを瞬殺したんだから!」


あのわんわん、そんな強かったんだなあ……

まあ俺の力かと言われるとそんなことないからなあ。

どちらかといえば、テミス様の力のはず。


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