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第三章 魔神フルフルの様子がおかしい

「こちらへ。」そういって隊長は俺を洞窟の奥のほうに連れて行く。人だかりのある場所だ。

そこには、手を拘束された女性がいた。ドレスみたいな服をきたショ―トカットの10代後半くらいの女性で、さっきドラゴンが変身した女性とは別人だ。


「これが、あなたのいう、勇者のフィアンセに化けたドラゴンということでよろしいか?」隊長は言った。


「どうかな……姿が違いますが……」

「そのドラゴンは、人間に姿を変えられるのです。

正確に言うと、こっちの姿が本来の姿です。戦うときにドラゴンに変身するのです。

別の人間に変身したりもします。


この拘束を施したのはあなたではないのですか?」

カ―ルなんとかという隊長は聞いてくる。


「おそらく……」俺は答える。

確かに、俺がさっきかけた光の手錠と同じようなものが、目の前のショ―トカットの女性にかかっている。


「どういう術式か、教えてもらえますか?この者の処置を決めねばならないので。」

「う―ん、術式と言っても……私にもよくわからなくて……」

俺は刑事訴訟法の条文の番号?を口にしただけだ。どんな効果があるのやら……


「我々はこの部屋の外で待機していたのですが、中の様子が静かになったので我々の部隊で突入しました。

その際こいつに私や部下が切りかかったのです。


しかし傷一つつかない。こんなことは今までなかったのに。

次に私や部下がいろいろ話しかけてみたのですが、こいつは一言もしゃべらない。

さてどうしたものかと……」


将軍が自分のアゴに手をやる。

「お前の名前はなんていうんだ?」俺はショ―トカットに聞いてみた。

「魔神フルフルと申します。」ショ―トカットが答えた。隊長がびっくりした顔でショ―トカットを見ている。


「俺の質問には答えるのか……なんで他の者の質問には答えなかったんだ?」

「下賤な人間共に答えてやる理由などありません」ショ―トカットが答えた。


「お前、俺を食ったドラゴンということでいいの?」

「申し訳ありません!いかなる罰も受ける所存です!」

え?何で謝るの?


「いや、あの、責めてるんじゃないんだ。

ていうか、なんでそんな俺に丁寧な口調なの?

さっきまであんなに偉そうだったのに」


「我らの種族は、我らより強き者に出会ったときは、その者に永遠の忠誠を誓うよう定められておりますので。」

おおお……なんか頭が回らない。


とりあえず気がかりなことを隊長に聞こうとして隊長の方を見た。

その時、その場にいた兵士や修道士・修道女などがみんな固唾を飲んで見守っていることに、俺は初めて気が付いた。ちょっとびっくり。


「すみません隊長さん。俺が召喚されてから、時間がどのくらい経っているか分かりませんか?」

「おお。ヴァルタ―が単騎で突入してから今まで、おおよそ6時間と言ったところでしょうか。」

隊長は答える。


ふう、じゃああと45時間程度は大丈夫かな……


俺がいた日本の法律では、刑事訴訟法199条に基づいて逮捕してから48時間以内に検察官に身柄を送致しなければならない。


検察官は送致を受けてから24時間以内に釈放するか勾留請求して身柄拘束を継続するかを選択しなければならない。


俺のチ―ト能力でこの辺りどうなっているのかまだ分からない。

が。

逮捕したまま何もしないと、手錠掛けてから48時間後にこいつは突然自由の身になる可能性があるのだ。


まだ時間はあるな。

よし。とりあえず勾留請求してみよう。


「刑事訴訟法204条。」俺は唱えてみる。細かいことはいろいろ気になるが、とりあえずいろいろ試してみるしかない。

――勾留請求は認容され、勾留されました。

テミスの声が聞こえた。


「今の声、聞こえました?」俺は隊長に聞く。

「声?いいや?何か聞こえましたか?」隊長は答える。

テミスの声は周囲には聞こえないのか。


俺の認識が確かなら、これでもう10日、こいつをこのままに出来るはずだ、多分……

勾留場所の定めとか、そのあたりアバウトでよければ……


とはいうものの、もう分からないことばかりだなあ。

どうしたらいいやら……


そう思っていると、隊長が、

「よし、撤収する!」と大きな声をあげた。


「こいつはどうするんですか?」部下と思しき兵士がフルフルを指して言った。

「救世主様に連行して頂くしかない。


こいつは救世主様のいうことなら聞くようだからな。

こいつは王都の牢獄に閉じ込め、処置は国王陛下にゆだねる。

救世主様もそれでよろしいですかな?」

「は、はあ……」俺はしどろもどろになる。


「ヴァルタ―の治癒魔術は終わったか?」

隊長は大声で洞窟のこの部屋?空間の隅に声をかける。


ぱたぱたと僧侶っぽい服装の人が走ってくる。

「終わりましたが、ヴァルタ―様は眠ったままです。お目覚めまで2~3日かかると思われます」


「よし、慎重に運べ。ここはいつ他の魔物がくるとも限らんし、こいつを奪還しに仲間が来るかもしれん。一旦撤収する!」隊長はもう一度大声で言った。


カ―ル隊長は俺に言った。

「救世主様にはいろいろお話したいこと、お聞きしたいことがありますが、とりあえずこの場は離れましょう。危険ですので。


1時間くらいで我々の野営地につきます。とりあえずそこまで戻りましょう。

くれぐれも、そいつが逃げたり暴れないよう、お願いします。」


「そういえば、名前を聞いていませんでしたな。

失礼いたしました。お名前はなんとおっしゃいますか?」隊長が思い出したように言う。


尾田桐洋介おだぎりようすけといいます」俺は名乗った。

「ほほう。変わった名ですな。さすがは異世界からいらっしゃった方。」隊長は答えた。


その後、他の兵士と修道女、僧侶が先に洞窟の部屋?から出て、俺と隊長、フルフルが最後尾で歩き出す。

フルフルは逆らう様子は見えない。神妙についてくる。




だいたい一時間ほど歩いただろうか。

洞窟から抜けて、外に出た。近くにテントがたくさん張ってあって、人もたくさんいる。どうやらここが野営地らしい。

空は赤く、あたりは薄暗かった。おそらく夕暮れ時なのだろう。


「救世主様、腹が減っていませんか?食事にしましょう」隊長は言った。

「フルフルだっけ?お前お腹は空いている?」俺は隣のショ―トカットに言った。


「いいえ」フルフルは答えた。だがすぐに、ぐ―っという音がした。腹が減っているのに我慢しているの?

「こいつの分もお願いできますか?」俺は隊長に尋ねた。

「う―ん、こいつに食わせる飯なんかないと言いたいところですが、救世主様の頼みとあらば、やむを得ませんな。」隊長は答えた。


その後、俺は隊長とフルフルと食事をすることになった。木の器に入っているシチュ―のような食事だった。意外においしい。

フルフルは黙ってシチュ―をもぐもぐ食べている。人間の食べ物もフツ―に食べられるらしい。


その時、隊長からいろいろ話を聞いた。


まずこの世界について。

どうやらこの隊長のいる国はアティベルという国であること。

その国はこのフルフルの襲撃を受け、いくつか都市が壊滅したこと。


「許されるなら、こいつの首を今すぐ刎ねてやりたいですよ。」隊長はじろっとフルフルをにらみ、言った。

フルフルは何も言わない。


俺もいろいろ聞かれた。

俺は人間なのか(そこから?)。

俺がいた日本のこと。

家族構成、仕事の内容などなど。


「35歳で仕事をしているのに、妻がいないのですか!?」とでかい声で驚かれたのは俺の心に刺さった。

俺だって好きで独身だったわけじゃないよ_| ̄|○


この世界の弁護士について少し聞いてみた。

どうやらこの世界は日本でいう弁護士にあたる職業はいないらしい。


裁判にあたるものはほとんどは市長か、市長の任命した裁判官が行う。ということだった。

重要な裁判は国王が裁判官として行うらしい。

ただ貴族や領主同士の紛争においては、法律に詳しい者に代弁させるらしいが、隊長は詳しいことは知らないとのこと。


法律の話好きなんで夢中になって聞いてしまった。


ふと気が付いたが、結構回りに人がいた。ご飯食べながら見ている人、こっそりのぞき見みたいな形で見ている人……


まあ気になるよね。

ようわからんス―ツのおっさんが召喚した救世主とやらなんだから。


俺でごめんなさいね。

せっかくなら、もっとスゴイ弁護士に来てもらえたら良かったのにね?


その後、この作戦?戦闘?について聞いた。


歴戦の勇者であるヴァルタ―を主軸に、討伐隊を組織したこと。

魔神フルフルは倒した相手を食べてその力を吸収する性質を持つため、少数精鋭で臨まなければならなかったこと。


そのため歴戦の勇者であるヴァルタ―のみ単騎で突入させ、残りの討伐隊のメンバ―は何かあった場合のサポ―トに回らざるを得なかったこと。


ヴァルタ―は予め異世界から救世主を召喚できるという伝説のある宝石を持って行ったこと。


もし独力でフルフルを倒せなかった場合は、その宝石を使って救世主を召喚する手はずだったこと。


しばらくは怒号や轟音などが響いていたが、急に静かになったので突入したこと。


「この作戦は、アティベル国の最後の希望だったのです。失敗すればおそらくアティベル国は滅んでいたでしょう。

私も死を覚悟していました。ヴァルタ―やここにいる皆も同様でしょう。


また、ヴァルターが持って行った宝石が何を呼び出すかもまだわかっていませんでした。

伝承では「救世主」ということでしたが、具体的に誰を呼ぶのかさっぱりわからない。


下手したらフルフル以上の化け物を呼び出してしまうかもしれない。

「救世主」という存在が我々を敵視したり、虐殺したりする者かも知れない。


その意味でも、この作戦は、追い詰められた我々の最後の賭けだったのです。


それが、魔神フルフルを捕らえ、召喚した救世主はお優しく、こうしてのんびり食事が出来る!

王様や国民はきっと喜んでくれるでしょう。

いやあ我々が戻ったときの皆の喜ぶ顔が楽しみです!」


カール隊長はそう言ってがっはっはと笑った。

こういう人が上司だと、何かとありがたいよなあ。


「フルフル、お前は家族とかいるの?」俺は何気なくフルフルに聞いてみた。

「父と母は既に死に、他に家族はいません」フルフルは答えた。


「なんと!質問に答えるのか!お前の仲間はどこにいる!」隊長は聞いた。

「……」フルフルは答えない。


「俺の質問にしか答えないということ?」

「そうです。私の主は、尾田桐様一人なれば。」フルフルは答える。


「ふ~む、なるほど。」隊長はつぶやく。

「救世主様の言うことしか聞かないと、こういうことか。」カール隊長は一人でうなずく。


「救世主様、いろいろこいつに聞いてみてもらえませんかな?」

「フルフル、仲間がお前を奪い返しにこないのか?」

「来ません。」


「でもお前、魔神とかいう奴なんだろ?部下とかいないの?」

「いません。」


「上司や同僚とかは?」

「いません。私は一人で人間を襲撃したのです。」



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