第27章 顛末
レオニーは事情を話した。
俺がザガンに乗っ取られたこと、すぐにフルフルが俺の腹を貫いたこと。
その瞬間にザガンが俺の体を飛び出し、ヴァルターがすぐさま斬ったこと。
ヴァルターの一撃と同時に、カミラと戦っていた骸骨の巨人は活動を停止したらしい。
「これで一件落着となったわけですね?」俺が聞く。
「とんでもない!その後が大変だったのです!」レオニーが目を大きくして言う。
「救世主様が制圧したナベルス、いましたよね?
フルフルと救世主様が二人で居城の地下にいたときに襲い掛かってきた狼の魔神です。」
ああ、そういえばいたな。
確かとっさに警職法4条1項で取り押さえたんだっけか。
今思うと、最初っからこの条文だったら、犯罪能力とか言わずにネルネルに食べられかけずに済んだんだよなあ……
「で、そのナベルスとかいうワンちゃんが、何か?」俺は聞いてみる。
魔神とか言われてた気もするが、俺の法律魔法で一瞬でおとなしくなったしなあ。
「ワンちゃん……あの恐ろしい魔神も、救世主様にかかればワンちゃんなのですね。」
レオニーがしみじみと答える。
「あの魔神ナベルスが、地下から出て暴れだしたのです。
おそらく救世主様の意識が途切れて拘束が解かれたのでしょう。」
「すぐに我々勇者一行の4人とフルフルで取り押さえようしたのですが、予想外に素早く、何より強かったのです。
驚きました。ただのザガンの僕かと思ったのに、ザガンやフルフルよりはるかに強い力を持っていたのですから。」
え?そんなに強かったの?
「我々5人。ジュリアが地元のギルドからかき集めてきた冒険者達。レオポルド3世軍。それから城外で待機していたカール将軍率いる王国軍。」
「これらの総力を結集し、消耗戦に持ち込んで、何とか弱らせるので精一杯でした。
センデロスと軍属魔術師数人がかりで魔法をかけてようやく拘束出来ました。」
「多くの負傷者を出しましたし、センデロスとカミラもケガをしました。
特にセンデロスは、ケガしている状態で拘束魔法の仕上げを行ったので現在昏睡状態です。」
すげえなあのワンちゃん。
「そのナベルスは今どこにいるの?」
「もともと救世主様とフルフルがザガンと遭遇した地下の空間。
あそこに入れられればいいのですが、調査もろくに済んでいない段階でうかつなことはできません。」
「その他にあのような巨大な生き物を収容できる設備が周囲にないので、外にそのまま野ざらしにしてあります。レオポルド3世軍の兵士が交代で見張っています。」
大変だなあ……見張りの兵士さん。
「そんなことしないで殺してしまわないの?」
「力が強すぎてすぐには殺せないのです。こちらの兵力もかなり損耗しています。」
「今カール将軍の手配で、王都から調査隊が軍隊や冒険者有志と共にこちらに向かっています。
王自身もいらっしゃるかもしれないとのことです。
その調査隊の判断で、その場で殺すか、王都に連れ帰るか決めるでしょう」
「ヴァルターは今どうしているの?」
「休まず働いています。
レオポルド3世の居城の地下の調査、ザガンの目的の調査。
周辺にナベルスやザガンの下僕や仲間がいないかの調査。
そういったものをジュリアや冒険者メンバーと手分けして行っています。」
「彼自身もかなり消耗しているので、出来れば休んで欲しいですが……」レオニーは心配そうだ。
「それで、ネルネルは?」
「……」
「ネルネルはどこに?」
「それは私が話します」ヴァルターが部屋に入ってきた。
「ヴァルター?大丈夫なの?休んでいないみたんだけど……」レオニーがつぶやく。
「フルフルは、私とカール将軍の協議で、レオポルド3世の居城の地下牢に魔法で拘束しています。
「ナベルスと同様、どうするかは調査隊に委ねます。」
一呼吸おいて、ヴァルターは言う。
「私とカール将軍は王都で裁判にかけたうえでの処刑を進言する予定です。」
俺の知らない不思議な力なのか、俺の動きを抑えるような力が働くのを感じる。
多分、俺の動きを警戒しているのだろう。
「すぐには殺さなかったんだね」俺は聞いてみる。
「ええ。私も判断に迷いまして。私の一存で決めるべきことでないかと。」
「ネルネルはヴァルターや他の人間の言うこと素直に聞いたの?」
俺は聞いた。
ちなみになぜか、ネルネルのことをフルフルと呼ぶ気がしなかった。
「ええ。救世主様が安全であるのなら止むを得ないと」
「……まさかと思うけど、ネルネルを脅したの?逆らえば俺を殺すって」
「……そうです。仕方がなかった」ヴァルターは嘆くように言った。
苦しそうに見える。
「そんなにネルネルを何とかしないといけなかったの?」俺は聞いた。
「率直に言うと、フルフルをすぐに殺すべきでないと考えているのは、私とカール将軍くらいです。」
外を見てみた。兵隊は見あたらない。
まさか、また用済みの俺達を殺す気なのか?
「一応念のために行っておくけど、俺やフルフルに危害を加えようとしたら、俺が殺せる人間は全て殺すからね」俺はハッタリをかましてみた。
一応、俺を殺そうとしたセンデロスやカミラ、兵隊達のような殺人未遂罪が適用できる人間は死刑に出来るはず。
「大丈夫です。救世主様は今安全です。さすがに救世主様を殺そうという動きはもうありません。」
「ネルネルは安全なの?」
「一応見張りの兵隊はいますが、正直フルフルの護衛に割く人員が割けません。
ナベルスが再び暴れだした時に備えた体制作りや住民の避難、その他もろもろの雑務で手一杯なのです。ご理解ください」
ヴァルターがつらそうに見える。
ネルネルと俺、アティベル国の人々。
その間で板挟みなのが苦しいのだろうか。
「なんでヴァルターはフルフルを殺すべきでないと考えているの?
この世界の人から見たら、大量の人間を殺した恐ろしい魔物なんでしょ?
魔神っていうんだっけ。」
「もちろん、救世主様のお怒りを買いたくないし、その結果センデロスやカミラを殺されたくありません。
またフルフルは少なくとも救世主様には従っているようですし、人間側の貴重な戦力となりえます。
魔神についても情報も得られるかも知れない。それから……」
ヴァルターは一生懸命弁解しているように見える。
多分、ヴァルターには俺の信頼が必要なのだろう。
「それから?」
「……私も情が移ったのかもしれません。」
意外だった。勇者がモンスターを可哀そうに思うとは。
しかもヴァルターにとって、ネルネルはクロエという女性の仇だったはずでは?
「少なくともそばでふるまっている分には、話の通じる、まともな、感情を持った人間に見える。
救世主様を慕う、無表情だが健気な可愛い女の子に見える。
裁判もかけずに殺すべきだろうか、と。」
「……」
「私も分かりません。何が正しいのか」
「私が判断するには重大すぎる。
でも勇者と呼ばれるようになってから、そんな重荷を背負わされてばかりでした。
分からないことばかりだ。私はただ力が強いだけの若造に過ぎない。
でも決断だけ迫られるんだ!」ヴァルターが一息にしゃべった。
その表情に疲れと焦りが見える。
ヴァルターがかわいそうになってくる。
この若者は、ゲームに出てくる、疑問を持たずにやたらモンスターをレベル上げで殺す「勇者」とは違うように見える。




