第22章 ヴァルターの提案と誠意
「やっぱり、マドライナはザガンのスパイだったか。」俺は皆に知らせる意味で口に出す。
「え、マドライナ!?」ジュリアがマドライナに向かって驚いた声で言う。
マドライナは血の気の引いた顔をしている。
「どうして!?」ジュリアがマドライナの肩をつかんで問い詰める。
マドライナは何も話さない。
「私の力を使えば、この場にいる人間くらいはスパイかどうかあぶりだせると思います。
同じ術を掛ければ、スパイはマドライナと同じ状態になり、そうでなければ何も起きませんから。」
「じゃあそうして頂きましょう。魔力の方は大丈夫ですかな?」カ―ル将軍が言う。
「ええ。」
その後、その場にいる全員(ネルネル含む)に同じ法律魔法を掛けたが、マドライナ以外は誰にも何も起きなかった。
「どうして……」ジュリアはショックを受けた表情をしている。
「私はよくわからないですが、何か術をかけられているか、脅迫されているか、では。」俺が答える。
「操られているの?」ジュリアが聞く。
「そうだとするとさっきの俺の魔法は効かない」俺が答える。
「時間があれば私が調べてみます。
一口に操ると言っても、意識を乗っ取るものから、意識はそのまま体だけ操るもの、術者が合図をしたときにだけ聞かれたことをしゃべってしまうような術など、さまざまです。
術がかけられているかどうかくらいは分かるでしょう。」センデロスが答える。
「ただ、これからどうするか……」ヴァルタ―が言う。
「この子がスパイで、他にスパイがいなければ、もう大丈夫じゃない?」カミラが聞く。
「いや、ザガンの情報源がこの子だけとは限らない。虫を操りスパイさせる魔法もあるし、この中にザガンに脅されている者もいるかもしれない。作戦会議をするにも一苦労だな。う―ん……」カール将軍が困ったようにつぶやく。
「あ、そうだ!救世主様の法律魔法で作った空間をアジトとさせて頂けませんか?」ヴァルターが言う。
「ああ、それはいい。確かに救世主様の魔法はこの世界にはないもの。簡単には破れないでしょう。お願いできませんかな?」カ―ル将軍が言う。
「え?う―ん……」
「やはりご負担ですか?」ヴァルタ―が言う。
「……俺を殺そうとした人は、悪いけど入れられません。」カミラとセンデロスを見ながら俺は言う。
「残念ですけど、私はここにいる何人かに殺されかけたんですよ。率直に言って、そんな人たちのためにリスクを冒す必要もない。」
「いえ、そんなことは、決して……!」カミラが言う。
「今もそう考え、私を後ろからブスっといくんじゃ?」
「いや、今はそんなことしません!私が憎いのは……!」カミラが言う。
「……救世主様」カ―ル将軍が俺の前で膝をつく。
「どうか、我々を助けると思って、ご協力をお願い出来ませんか。救世主様の安全はアティベル国軍が全力でお守りしますし、救世主様を殺そうとするやつがいれば勇者の仲間でも誰でも私がたたっきります!どうか……・」
「私からもお願いします。救世主様のご意向はごもっともなのですが、アティベル国を救うためにはカミラもセンデロスも、ここにいるすべての者の力がいるのです。」ヴァルタ―も同じ姿勢で俺に懇願する。これがこの国での礼儀作法なのだろうか。
「カミラ!センデロス!お前らも頭を下げろ!」ヴァルタ―が怒鳴る。ヴァルタ―が怒鳴るところを見るのは多分初めてだ。
「申し訳ありません。どうか、過去のことは一時忘れ、我々を救世主様の世界に入れてもらえませんか」センデロスが両ひざをついて懇願する。
「……申し訳ありません。どうか……」カミラも同じ姿勢を取る。
「……地位も実力もあるのに真っ先に頭を下げたカ―ル将軍と、自分の国でもないのに頭を下げるヴァルタ―に免じて、皆さんに協力します。センデロスもカミラも私の作った空間に入れましょう。」俺は答える。
「念のために言っておきますが、あの時私を殺す計画に加担した者は、カミラもセンデロスも国王でさえも例外なく、私の魔法でいかようにも出来ます。私に何かあればそれらの権限を行使し、私はこの世界を見捨てて自分の世界にこもります。」俺は言った。
殺人未遂罪の最高刑は死刑だから、嘘ではないはずだ。
半ばハッタリだけど。
「分かりました。肝に銘じましょう。皆も肝に銘じるように!」カ―ル将軍が答えた。




