第21章 ザガンの挑発と……裏切り?
だいたい半日かけて元いた町に帰った。体があちこち痛い。抱えられるのも大変だよな。
ギルドにいると、ジュリアとマドライナがいた。
「よかった!」そういってジュリアは躊躇なく俺を抱きしめてきた。
俺は驚いたが、努めて体を動かさないようにしていた。
下手に体を動かすと、お尻に手が当たりかねない。
「いやあ、心配したのよ!ネルネルが助けたの!?」ジュリアは何事もなかったかのようにハグを解いていう。
「ええ、まあ」ネルネルは不愛想に答える。
「ヨウ、だいじょうぶ?」マドライナが声をかけてくる。
「おお、大丈夫だよ。心配かけたね。」俺が答える。
ジュリアは俺たちの体調が無事なのを確認した後、連れていきたいところがあると言った。
ジュリアは俺たちを村はずれの空き家に案内する。
そこには、ヴァルタ―とその仲間(俺を殺そうとした女戦士カミラと魔法使いセンデロス、ヴァルターのもう一人の仲間の神官レオニ―の3人)、フルフル討伐隊の隊長のカ―ル将軍、それから兵隊が数人いた。
「無事だったんですね。よかった」ヴァルタ―が言う。
「いやあお元気そうで何より。攫われたと聞いた時は心配しましたよ」カ―ル将軍が言う。
この二人を見るとなぜかホッとする。
カ―ル将軍は続けて話す。
「早速ですみませんが、お二人に話しておきたいことがあります。」
「ヴァルタ―の報告を受けて国王と私、側近らで話し合いました。
その結果、軍隊の中から少数の精鋭を選抜してレオポルド3世の調査に当たり、ヴァルター一行はザガン出現に備えてここで待機してもらうことになりました。」
「やっぱりレオポルド3世を逮捕するとか、拘束するとかはできないんですね」俺が聞いてみる。
「まだ事実が明白とは言えない状況でそのような動きをすれば下手すりゃ内戦になりますからな。
なるべく避けたい、との国王の御意思です。ご理解いただけますかな?」
「まあ、そうじゃないかと思っていました」俺が答える。
「ネルネルだったね?どこにヨウ様が囚われていたか分かるか?」カール将軍がネルネルに聞く。
「……」ネルネルは黙って俺を見る。俺の意思を問うているのだろうが、犬みたいで可愛い。
「ネルネル、話してくれ」俺は答える。
「……何か、地図はありますか」ネルネルは口を開く。
「地図を出してくれ」カ―ルが指示を出す。
そばにいた兵士が地図を取り出して広げる。
「ここです」ネルネルは指をさす。
「……やっぱりそうか。」カ―ル隊長はため息をつく。
「そんな重要な場所なのですか?」俺が聞く。
「ここはレオポルド3世の居城です」カ―ル隊長は答える。
「……レオポルド3世が、何かよからぬことを企んでいるのは明確ですな。
ただ方針は変わらない。しばらく偵察や調査を重ね、実体の把握に努めます。」
カ―ル隊長は答える。
「やっぱりこれでレオポルド3世のところに乗り込むというわけにはいかないのですね」俺は一応聞いてみる。
「目的は何か、誰か共犯者がいるのか。
調べなければならないことはいろいろあります」ヴァルタ―が話す。
「不用意に軍隊を引き連れてレオポルド3世の下へ行けば、下手すれば宣戦布告ととらえられかねません。
内戦をさけるためには、慎重に進めないと。」センデロスが話す。
小難しい政治的な話は、こっちの世界でもおんなじか……
「それは困りますねえ」入り口から人を小馬鹿にした声が聞こえた。
皆が驚いて振り返ると、一人の人間がいた。背の小さい、小学生くらいの男の子に見える。
「おまえ、ザガンだな」ネルネルが鬼気迫る声で言う。
「ええ。といっても、この体は近くで拝借した人間のものですがね」
そういえば、ザガンは人間を操れるとかなんとか誰かが言ってたような気が。
ということは、法律魔法をこいつにかけても無意味か?
「あなた達の目論見も、そこの救世主様のことも、私は全て知っていますよお。
救世主様の魔法は人間や亜人、人型の魔物に全て聞くんでしょう?怖い怖い。」聞いててイライラする声。
「……何しに来た」口を開いたのはセンデロス。やはり魔法使いだけあって、冷静沈着なのかな。
「なあに。あなた達が何をしようと、無駄ですよ、と教えにきたんではありませんか。
何せあなた達の動きは全て筒抜け。
レオポルド3世を探ったり、屋敷に忍び込んだりするのは止めることですな。」
得意げにペラペラ男の子がしゃべっているが、俺は突然のことであまり頭が回らない。
その時。
何かがザガンにぶつかり、ザガンが跳ね飛ばされた。
ネルネルが蹴飛ばしたということに気づいたのは、少し遅れてだった。
「ちっ。人間の奴隷風情が。」
男の子は跳ね飛ばされ壁にぶつかった体制のまま、ネルネルに冷たい視線を浴びせる。
男の子は立ち上がった。
「救世主様、いいんですかあ?彼女を止めないで。この体は何の罪もない村人の子どものものですよ?」
ザガンがバカにしたような声で言う。
言い方がイラっとする。
ちょっと頭が回ってきた。操られているということは。
「人身保護法2条。被拘束者はここにいてザガンに操られている子ども」
俺がそう言ってみる。これでいけるだろうか。
―請求は認容されました。被拘束者を釈放します。
テミスの声がした。
そのとたん、子どもはその場に倒れた。
ガスのようなものが出てくる。
とっさに、カミラがガスに向かって何かを投げた。
ガスはよけた。
「おっと、救世主様はそんなことも出来るんでしたね。
素晴らしい。今日はこれで帰りましょう。」ガスが言う。
「皆さんも、おとなしくしておくのが世のため人のためですよ。」
気持ち悪い笑いを浮かべ、ザガンの声でしゃべるガスは消えた。
「……消えましたね。」神官のレオニ―が話す。
「ネルネルと救世主様は奴を知っているかのようでしたが、何者ですかな?」
ネルネルはこっちを見る。
しゃべっていいですか?という目だ。
「ネルネル、話してくれ。」
ネルネルはザガンについてみんなに話す。
「どうやら、国軍や村人の中にザガンの手下や人形が紛れ込んでいるのは間違いなさそうですな。」カ―ル将軍が話す。
「……しかし、これからどうします?手の内はバレており、誰がばらしたかもわからないとなると……」ヴァルタ―が言う。
「なんでわざわざ姿だけ見せに来たのかしらね。自慢?」ジュリアが言う。
「多分時間を稼ぎたいんだろう」センデロスが言う。
「どういうことですか?」ジュリアが聞く。
「おそらく、ザガンかレオポルド3世は何か時間が必要な術法をしようとしている。その術法が完成し、効力が発生するまで、我々に邪魔されたくないのだろう。」
「じゃあ、すぐにでも攻めこまないといけないのかしら」ジュリアが聞く。
「いや、さっき言った内戦の問題もあるし、奴が魔神であれば、攻め込む気配がした段階で、この町を襲撃するくらいはするだろう。
姿を見せたのは、念のため、というところだろうな。」
「テミス。刑事訴訟法199条に基づいて、マドライナを通常逮捕。
被疑事実は脅迫の共同正犯、刑法222条と60条」
―逮捕状請求は認められました。マドライナは拘束されます。
その時、マドライナの両手に光で出来た手錠がはめられる。




