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第二章 ダメ弁護士、ドラゴンに食べられる

「テミス!もしかして、請求却下されてんの、ドラゴンには犯罪能力も権利能力もないから?」

――そうです。


おお、そうか。嫌な予感的中♪

今の日本だいたいの法律は、人間と法人にしか適用されないんだよね。

分野によって、人権享有主体性の問題だったり犯罪能力の問題だったりするんだけど。


……それじゃあモンスタ―退治なんて出来ないじゃん!モンスタ―に効かないんだから!

意味なくね?俺の能力!


「なんかぶつぶつ言っていたが、それで終わりか?」


気がつくと、ドラゴンが俺の目の前に立っていた。


「じゃあお前も念のため、食べておくことにしよう。」

言うが早いか、俺は一瞬のうちに、ドラゴンに食べられた。

腹のあたりに牙が食い込むのを感じた。


あ、俺終わった。

このまま生きたまま食べられるのか……


リアルではいいことない人生だったから、異世界でくらいちょっとだけでも活躍したかったのに、

出てきた途端食べられて終わりなんてあんまりだよ……


その瞬間。


「させるかアアアアアアッ!」


先ほどの勇者の怒声が聞こえ、俺の腹から牙が離れ、俺は地面に落ちた。

右手には腹に傷跡があるドラゴン、左手には剣を振った体勢のままの勇者。

勇者の苦しそうな呼吸が聞こえてくる。


一瞬わけがわからなかった。


どうやら勇者は、怪我した体のまま、渾身の力で剣を振って、俺が食べられるのを止めたらしい。


その途端、腹と背中の痛みが伝わってきた。いたたたた。

腹と背中が痛い。両方とも温かい。多分血が出ている。


「バカが。こんな役立たずを庇うとは。さすが勇者様と言ったところか。」

ドラゴンが言っている。腹の傷は見る間に癒えていく。


「思いついたぞ。勇者様にお前の愛するものの姿でお前を殺してやろう。」

そう言ってドラゴンは、若い女性の姿に変身した。


「……地獄に落ちろ、悪魔……」勇者はそう言ったが、すでに声は弱々しい。

「その苦悶の表情、なかなかいいものだ。」ドラゴンだった女性は、邪悪な笑顔で言う。


「お前を殺した後、まずこの女から殺してやる。クロエといったか?

さぞかしいい悲鳴が聞けるだろう。全て食って、我が贄としてやろう。楽しみだな?」


女性は透き通るような声と裏腹に、どす黒い邪悪な笑い声をあげている。

勇者は何も言わない。もう首をあげていることすら出来ないようで、うずくまっている。


俺も腹から血が出て、意識も朦朧としてきた。

これで終わりか……?


待てよ……?

もしかして……?


今、人間になったから、法律の適用対象になるのでは?

一応やるだけやってみるか……


俺はもう一度、痛みを堪えて発声してみる。

「刑事訴訟法……199条……」

声を出すのも苦しかったが、なんとか言い終わった。


その時。


――令状請求は認容されました。被疑者は逮捕されます。

そう声がした。その直後。


女の人の手が前に周り、手首が重ね合わされる。手首に光の輪が見える。どうやら手錠のようだ。

「な、なんだ!」そう言って、手を振りほどこうとするが、解けないようだ。


「お前、何をした!」女ドラゴンはそう怒鳴った。

何か話そうと思ったが、頭もまわらず、声もうまく出ない。

そのまま俺は意識を失った。




……気がつくと、俺は毛布?をかけられていた。

腹と背中の傷は治っている。血はついているが、痛くない。

さっきドラゴンやら勇者やらがいた洞窟にいた。


「あ!目を覚ました。婦長様婦長様、目を覚ましたよ!」

声に気がついてその方向を見ると、修道女の格好をした女の子が、ぱたぱた走って同じく修道女の大人の女性を連れてくるところだった。


「よかった。具合はどうですか?私の言葉はわかりますか?」婦長と呼ばれた女性は、俺のそばに膝をついて言った。

「ええ、まあ……大丈夫です」俺は答える。

「傷は痛みませんか?お腹は空いていませんか?」

「痛くはないです。お腹も……別に」


ふと周りを見渡すと、同じような格好をした人がもう一塊いる。また、剣やら鎧やらで武装した兵士?らしき者たちの塊がある。


「よかった。救世主様には本来、ちゃんと治療を受けた後、しかるべきおもてなしがされると思います。

ただ今は、いろいろお尋ねしたいことがあって……隊長を呼んできます。」


そう言って、婦長はぱたぱたと掛けて行った。

とりあえず、俺は生きているのか?

頭がよく回らない。


そのうちに、立派な鎧と剣をつけた、がしっとした大柄な体躯の男が来た。


「救世主様、ご無事か?私の言葉はわかりますか?」

ん?キュウセイシュ?救世主って言った?


「言葉はわかります。」

「それはよかった。私は魔神討伐軍隊長のカ―ル・グスタフ・アイゼンシュタインと申す者。我々も状況が把握できておらんのです。状況をご説明願えますかな?」


「えっと、男の人がいたはずですが……剣とマントをつけた。彼はどうなりました?」

「ヴァルタ―のことですか?

彼なら、かなり重傷だったので、別の場所で治癒魔法を受けているところです。

命に別状はないようです。ただ傷が深いゆえ、しばらくは目を覚ましますまい。」

ふう、あの勇者、無事か……


とりあえず俺は、ここに飛ばされてから見たことを説明した。

混乱しっぱなしなんでうまく説明できないところもあったけど。


「ふむ……そういうことでしたか。それなら……」隊長は少し考えこむ。


「ちょっとこちらへ来てもらえますかな。立てますか?」

「ええ、おそらく……」そう言って俺は立ち上がってみる。

別に大丈夫。ふらついたりもしない。



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