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第18章 ネルネルの懇願

というわけで、俺たちは帰路についた。

帰りは道も覚えているから行きよりはペ―スが早く帰れる。




引き返してから最初の夜、地下60階で、俺の法律魔法で出来た空間で寝ることになった。


総理大臣公邸。


それぞれの部屋に分かれ、俺も寝ようと電気を消してベッドに入った。

誰かが入ってくる気配がする。

びっくりして飛び起きた。


「申し訳ありません、主」ネルネルだった。

「おお、どうしたの?」

「主、お話したいことがあります。私とデ―トして頂けませんか?」

「は?」

「二人っきりで話がしたいのです。」

「え?今から?」

「お願いします」

「ここではダメかな?」話している間にどんどんネルネルが距離を詰めてくる。

「ここではないほうがいいです。二人きりになれる空間を作って頂けませんか?」

「う―ん……」


というわけで、俺とネルネルは、国立近代美術館にいた。もちろん、俺が魔法で作ったやつだけど。

独立行政法人国立美術館法第四条に基づいて、独立行政法人国立美術館の事務局がある国立近代美術館を作ることが出来るらしい。


一応2人で絵を見て回っているが……

「どう?この絵。」俺は絵を見た。


坂道を描いた風景画のようだが、プレ―トに書いてある絵と作者の名前を見ても、誰か分からなかった。


「素晴らしいと思います!これはどうやって描かれたものなのですか?」

ネルネルは少し興奮しているように見える。

「いや、絵の具と筆で、ペタペタってやって……じゃないかな?多分。」絵の画法はさらにわからん。


「主の世界では、みんなこんな素晴らしい絵が描けるのですか!?」

ネルネルが目をぱちくりさせてこちらを見る。

より一層幼く見えた。


「そういうわけじゃないよ。ここは美術館だからね。選りすぐりのすごい絵が集まっているだけ。」

「そうなんですか。でも素晴らしい。」ネルネルが大きい声で言う。

こんなにテンション上がっているネルネルを見るのは、初めてかも知れない。


「そうしたいのはやまやまなんだけど、明日も早いから、用件を言ってくれないか?

まさか本当にデ―トしたかったわけではないだろ?」


「……今日入った神殿のことです。主はあれが何かは分からないのですね?」

「そうだけど」

「あれは魔神を奉る神殿です。」ネルネルは言う。

「魔神?お前みたいな?」

「ええ。ただ、祀られているのは私ではありません。」


「ザガンという魔神が、あの神殿にあった像とそっくりです。

ザガンは自らを神と名乗り、人間や亜人、モンスタ―に崇めさせます。

ザガンは、数百年の長い眠りにつくときに、信者たちに神殿を作らせ、そこで眠るのです。

未来に自分を甦らせるよう、信徒に命じるのです。教義という形で。」


「だけど、何もいなかっただろ?そのザガンとやらも。」

「おそらく、誰かがザガンの封印を解いたのです。おそらく最近、ここ数年の話かと。」

「信者がいた、ということ?」

「いえ、あの寂れ具合から察するに、ザガンの宗教は絶えてしまったのでしょう。」


「とすると、誰が?」

「ジュリアは、あのダンジョンの踏破記録を持っているのはアティベル国軍だと言っていました。

多分、その国軍のメンバ―が封印を解いたのです。秘密裏に。」

「となると、アティベル国軍の中に、魔神を呼び覚ました奴がいる、ということか。」

「レオポルド3世は、私の知る限り、5年前に現在の地位につきました。

その前は国軍の元帥、つまりトップの地位にいたはずです。」


「え?そうすると……」

「……レオポルド3世がザガンの封印を解いたのではないかと。

子どもたちを拉致したのも、おそらくザガンの差し金かと存じます。

ザガンは怪しげな魔術に詳しいのです。」


「そりゃヤバいな。

明日朝になったら、ジュリアとマドライナに相談しよう。

レオポルド3世の背後に魔神がいるとなると、さらにまずいことになる」

「それはいけません」

「なんで?」

「ザガンは人間に化けることも、人間を操ることも可能です。

あの二人のどちらかがザガンである可能性を視野に入れるべきです。」


「でもそんなことする理由はないんじゃないか?」

「ザガンの考えなど私には分かりませんが、主を取り込む、主を操る、主の能力を全て知る、そういう機会をうかがっているのかもしれません。」


「まあ、しかし、全てを疑っていては何も出来ないしな」

「私は信じて頂けないのですか?」突然ネルネルが間合いを詰めてくる。

縋るような目をしている。


「いや、まあ信じるけども。まあとりあえず、警戒しておくよ。」

「ありがとうございます。私のイデアル。」

「イデアル?」

「私の一族は、自分が主と認めたものに従うことこそ最高の幸福なのです。

その主のことを、私の一族は[イデアル]と呼びます。

そして、自分のイデアルが誰かだけでなく、私の一族がそういう習性であること、イデアルという言葉すら秘密にしなければなりません。」


「……自らイデアルと仰ぐ者以外には。」


そう言ってネルネルは俺を見る。

少し瞳が潤み、顔は火照っているように見える。

俺の顔も熱くなってくる。


「二人で話が出来て私は嬉しゅうございました。

私の一族でイデアルが見つかる者はそう多くないのです。

私は幸せ者です。」


「どうか、イデアルは命だけは無駄になさらず。

いざとなれば、この空間にこもるのもいいかも知れません。

私も捨て駒にして頂いて結構でございます。

それが私の幸福です。」

そういってネルネルは片膝をつく。


ネルネルの可愛らしい見た目、冷静な口調とその奥に潜む情熱に、俺の心はグラグラ揺らぎっぱなしだけど。

ネルネルも魔神の一人なんだから、ザガンとやらの味方をする可能性もあるわけだからなあ……


といっても何も信じないでは何もできないし……

分かんないことが多すぎる。


何せ自分の目で見たわけじゃない。

でも全て自分の目で確かめる事はできないから、誰かの話を信じないと何もわからない。

でも誰が嘘をついているかも分からない。


本当に、分からない事ばかりだ。

元の世界で生きていたころから、からずっとそうだった。

転生してもそうなんだな。




とりあえず、一旦総理公邸に戻って、寝ることにした。

「じゃあ、お休み」俺がネルネルにそう言って部屋に戻ろうとした。

「お休みなさい」ネルネルはそう言って自分の部屋に向か……

……わずに、まっすぐ俺の後ろをついてくる。


「いや、どういうこと?自分の部屋に行きなさいよ」

「今日は主と一緒に寝ます。というか寝たいです」ネルネルがまっすぐな目でいう。


「いやいや、俺が落ち着かないから別の部屋っていったでしょ?

今まで素直にいうこと聞いてくれたじゃん。」

「状況は変わったのです。

ザガンが関わっている以上、私と主が離れるのはもはや危険です。

ひと時も離れるべきではありません。」


「いやいや、またベッドに潜り込む気か?眠れなくなっちゃうよ!」

「せめて、床で寝せて頂くわけにはまいりませんか?

一人で寝ている時ですら、主のことが心配でたまらなかったのです。

何度こっそり部屋に入らせて頂こうと思ったか。」

サラッと怖いこというね。


「……ザガンが相手となると、もう私で守り切れない可能性が出てきたのです。

私も魔神の端くれ、人間相手ならどんな相手でもお守りして見せましょう。しかし……」このあたりでネルネルが涙声になってくる。


「ザガンとなると……それを思うと、不安でたまらなくなるのです!」

そういってネルネルは涙をポロポロ流し始めた。

そこまでか?そこまで心配か……う―ん。


「じゃあ、お前が俺が寝ていたベッドで寝てくれ。俺は床で寝るから。」

「そんな!私が床で寝ます。主はベッドで十分お休みになって下さい!」


「いやいや、そこが妥協点。俺は床で上着でもかぶって寝られるから。」

元の世界にいたころは、仕事場の事務所で寝袋で寝るなんてザラだったしな。

泊まり込みも多かったから。


「……分かりました。そうおっしゃるなら、そうします。

私の願いを聞き入れて下さって、ありがとうございます」しゃくり上げながらネルネルは言う。

「……ザガンって、そんな恐ろしい相手なの?」

「私の知る中では、多分一番手ごわい魔神です。」





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