第13章 ようやく始まるチュートリアル
結局、ヴァルタ―だけ王都に戻って(馬で二日くらいと言っていた)、俺とフルフルはここに残ってもう少しいろいろやってみることにした。
ヴァルタ―は不案内な俺たちのために、知り合いの冒険者に代わり俺たちの案内をしてくれるとのことだった。
その人たちを待つために、ギルドにいた。
ギルドは酒場というか喫茶店というか、そういうのを併設しているので、俺とフルフルは飲み物を飲んでいる。
俺はコ―ヒ―、フルフルはホットミルク。
フルフルは猫舌で、最初の一口で舌をやけどしたらしく、その後はなめながら飲んでいる。魔神といえども、熱い飲み物は苦手なのか。
ネコみたいだな。
「あなたたちがヨウとネルネル?」快活そうな女性の声がしたのでそちらを見る。
見ると、女性が二人立っていた。
声を掛けてきたのは背が女性にしては高めで、年齢は20歳くらいか。
背は俺と同じ175センチくらいだから、女性にしては高めなのか。
もう一人は背が小さく、声を掛けてきた方の足にしがみついている。
魔女がかぶっているような大き目の帽子と、魔女が使うようなロ―ブを着ている。
小学生くらいに見えるが、背が小さいだけで年齢はもう一人と同じくらいに見える気もする。
「あ、そうです。あなた達がヴァルタ―の友人の?」
「そう。私がジュリア。この子がマドライナ。
あ、店員さ―ん、私に紅茶下さい。マドライナは?」ジュリアが近くの店員さんを呼び止めて手際よく注文する。
「あ、オレンジジュ―ス下さい……」マドライナは控えめな声でいう。
二人とも椅子に腰かける。
「で、ヴァルタ―から話は聞いてます。
え―と、ヨウさんが?はるか東方の二ホンという国から来た人で?ネルネルさんがその従者?ということでいいの?」
「まあ、そうです。」俺が答える。ヴァルタ―とネルネルとそういう設定で行くことに決めたのだ。
「で?二人とも記憶喪失で?この世界の仕組みもギルドの仕組みもよくわからないと?こういうことね?」ジュリアがしゃべる。
結構早口だ。
「そうですね……恥ずかしながら」
「それでどうしたい?他ならぬ勇者ヴァルターの頼みだから面倒は見るけど。
例えばいろいろ見て回りたいとか、クエストこなしてレベル上げしたいとか。」
「事情があるのでここから離れたくなくて……できればご一緒にクエストこなさせて頂きつつ、いろいろ教えて頂ければと……」俺は若干しどろもどろになる。
若いころから、快活で綺麗な若い女性が苦手だった。
「は―ん?事情ねえ……ヴァルタ―もなんか奥歯にものが挟まった感じだったのよね……なんか隠してない?」
「いや、そんなことは」
「まあいいけど?人それぞれいろいろあるんでしょうし。
じゃあ早速実戦ちょっとやってみましょうか?あ、店員さん、お会計お願いします。」
そういってジュリアはてきぱきとお会計を済ませる。
「あ、我々の分は私が払います」
「いいからいいから。ヴァルタ―から報酬もらってるから。大丈夫大丈夫。じゃあいくよ?」
町の郊外。試しにその辺をウロウロしているモンスタ―と戦ってみることにした。
モンスタ―はゴブリン。棒持ってうろうろしている小鬼。
法律はだいたい人間が適用対象なので、俺の法律魔法はだいたい人間(どうやら亜人や魔神も含むらしい)にしか効かない。
狂犬病予防法なら犬にも聞きそうなんだけど……犬なら……
しかたがないからパンチしてみたが、全然聞かない。
ゴブリンにむちゃくちゃ叩かれた。痛い。
「どうやらヨウは接近戦向きではないみたいね……」そういってジュリアは俺をポカポカ殴っているゴブリンを引き離して、持っていた剣で切りつける。
ゴブリンは消え、七色の宝石が残った。
「ここのモンスタ―は生きているわけじゃなくて、魔力を帯びた石に、怨念やら死霊やら取り付いたり誰かが魔法をかけたりして動物っぽくなったものなの。
だからぶっ飛ばすのに罪悪感は感じなくていいのよ。」
「いや、罪悪感を感じているわけでは……」俺は必死だったよ。
「う―ん、でも断言できないけど、外で冒険するには、ちょっと能力が低すぎるかな……」ジュリアは困ったような目をする。
小学校の時一人だけ逆上がりができない俺を見て、担任の先生がこんな目をしていたなあ……もう四半世紀前だけど……
「……なんかすみません」俺は謝ってしまう。
「いやごめんなさいね?責めてるわけじゃないのよ。向き不向きはやっぱあるし。ただこんな身体能力低い人久しぶりだなって……」
ジュリアの言葉がぐっさぐっさ俺の胸にささる。
転生してもこんなんかよ……
ふと、ネルネルとマドライナの方を見る。
ネルネルが一人でステゴロでモンスタ―をぶっ飛ばしている。
「ネルネルはすごいね?うん、あれならすぐAクラスになれるよ!」ジュリアは俺の時とは対照的に明るい声で言う。
なんかしんどいなあ……帰りたくなってきた……
「スゴいです!こんなステ―タス初めて見ました!」マドライナが興奮した声を上げる。
こんな大きな声、出せるんだね。
「知力だけAランク!魔法のスキルレベルは全部ゼロ!」おおう。褒められてはないんだろうなあ……
俺たち4人は俺とネルネルが泊まっている宿の一階のロビ―で会議をしていた。
マドライナが魔法に関するスキルレベル?や能力を測る魔法を使って、俺とネルネルの能力を測ったらしい。
「……そんな珍しいの?」
「そうですよ!
普通知力っていうのは魔法を使ったり経験値を積んでレベルアップしながら上げていくものなのです!だから魔法のスキルレベルも一緒に上がっていくし、経験値を積めば力や体力などの他のステ―タスも上がっていくのです!
だけどヨウさんは知力以外上がっていない!どうやったらこんなステ―タスになるんでしょう!」
「……ははは」恥ずかしくなってきた。
マドライナさん、さっきまでオドオドしてたのに、今むっちゃテンション高いな。
「その、魔法のスキルって何?」俺が聞いてみる。
「魔法にはいろんなジャンルがあるんです。
四元素魔法だとか神聖魔法とか。
それぞれに応じてレベルがあって、経験を積む事にレベルアップして、強力になったりより強い魔法が使えるようになるんです。
でもヨウさんは魔法スキルレベル、どのジャンルもゼロです!」
「はははは……」もう帰りたくなってきた。
法律魔法で最高裁やらなにやら色々出せそうだし、残りの人生、そのあたりに引きこもってようかな……
異世界転生したからって異世界で冒険とかしなくていいだろ、もう……
「いや、でもそのヨウさんが来たニホン……でしたっけ?そこには私たちの知らない魔法があるとしか考えられません!わくわくしてきました!」マドライナが目を輝かせている。
その時。
「あの……ヨウさんというのはどちら様でしょう?」村人らしき人が声を掛けてきた。ちょっとびっくりした。