第12章 疑惑
その後、部屋で身支度した後、フルフルを起こした。
その後、ヴァルタ―の部屋に行って迎えに行って、三人で2階の部屋から一階への階段に降りた。
すると、入り口付近で4〜5人女性が待ち構えている。
俺達を見るなり、その女性たちは駆け寄ってきた。昨日助けたソフィアさんもいる。
「ソフィアさんから聞きました!うちの子も取り戻して下さい!報酬はお支払いしますから!」
みんな一斉に大きい声で言うから耳がキンキンした。
どうやらソフィアさんは昨日俺たちが帰った後、似たような目に合っている知り合いに声をかけてまわったらしい。
全部で4人。
その後、その場で昨日のソフィアさんと同じ要領で人身保護請求をした。
全員、その場に子どもが出てきた。
これには俺も驚いた。
10人に一人いたらラッキ―くらいの気持ちでいたからだ。
それぞれから謝礼をもらい(みんなきちんともってきていたのだ)、一旦部屋に引き返す。
ヴァルタ―とフルフルにも入るよう言った。
「テミス、今の4件の人身保護請求事件について、民事訴訟法91条に基づいて訴訟記録閲覧請求。」俺は自室でそう唱えた。
―- 請求は認められました。訴訟記録を顕現します。
その瞬間、4つのバインダ―に閉じられた訴訟記録が出てくる。
俺のいた現代日本の裁判所が使っているバインダ―と同じもの。
せっかく転生したんだから、なんかもっと雰囲気出してくれればいいのに。
ペラペラとめくり、判決に記載された拘束者の名前を見る。
全て同じ。
ソフィアさんの子どものルカの拘束者と同じだった。
「ヴァルタ―、このファイルが見えるか?」俺はヴァルタ―に聞いた。
「ファイルは見えますが、文字は読めません」
文字は日本語で書いてあるが、ヴァルタ―には読めないようだ。
俺はアティベル国の文字を読むことが出来ていたが、逆はダメみたいだ。
俺がアティベル国の文字が読めたのも、テミスの力なのだろうか。
「昨日から今日にかけて助けた5人は、俺の法律魔法によると、同じ者に拘束されていた。」
このテミスからもらった能力、どう呼ぶか決めかねていたが、結局【法律魔法】にした。
「拘束されていたのですか?救世主様の力でよみがえったのではなく?」
「違う。俺にそんな力はない。
昨日から今日にかけて行ったのは、違法に監禁されたり拘束されている者を解き放つ……法律魔法だ。
そして5人は、同じ者に拘束されていた。」
「分かるのですか。」
「分かる。俺の能力は、おおよそ俺のいた国の裁判手続きを模倣している。
そして俺のいた国では、裁判の記録の閲覧が出来る。
つまり、今の手続きで言えば、拘束していたのが誰かを知ることが出来る。」
「それで、拘束者というのは……」
「……レオポルド3世。」
ヴァルタ―が息を呑む。驚いているようだ。
「……何のためにこんなことを?」
「分からない。もう少しいろいろやってみようと思う。」
「救世主様の言っていたことは本当だったということですか?」
「もう少し慎重に調べてみないといけないが……」
ヴァルタ―に俺の作った最高裁に来てもらった時。今から1か月前。
ヴァルタ―からおおよそ1~2日くらいかけて、この世界の話を掘り下げて聞いた。
それ自体刺激的な経験だったし、いろいろ語りたいところだが、今はおいといて。
その時気になったのは、フルフルによって殺されたとされる人のこと。
その中には、他の奴に殺されたり拉致されたりした者が紛れ込んでいるのではないかということだ。
フルフルは俺を食べようとしたときもそうだが、基本的にドラゴンの姿に変身して、家を壊し、炎を吐いてあたりを焼き払い、そして―人間や亜人、家畜などを食べている。
それ自体恐ろしいことで、フルフルが赦されない罪を犯したのは間違いないのだろう。
ただ、地域や都市によっては、人だけ忽然といなくなった集落や、子どもだけ行方不明になる都市があった。
これはフルフルの犯行態様とは異なる。
フルフルも、その都市や集落で襲撃はしていないと言っていた。
フルフルのいうことを鵜呑みには出来ないが、もしかして他者の犯罪を全てフルフルになすりつけた者がいるのではないか?そうだとしたら、それを捨て置くことは出来ないのでは?
そうヴァルタ―に言い、実際に調べてみることとしたのだ。
ちなみに、フルフルの犯行態様と異なる被害があった地域は、全てレオポルド3世の領地だった。
「一体何のために?」ヴァルタ―は言った。
俺は訴訟記録をペラペラとめくった。
「どうやら今回取り戻した5人の子どもたちは、数年間ずっと液体に漬けられていたみたい。透明な容器に入れられて。そんなことをする理由に心当たりある?」
「う~ん、まあ魔術の儀式で、何かあるかも知れませんが……」
「フルフルは何か知っている?」俺はフルフルに話をふってみた。
「いいえ。」
「魔術は詳しくないの?」
「人間の魔術は分かりません。申し訳ありません。」
ヴァルタ―は腕を組んで考え込んでいたが、口を開いた。
「ああ、センデロスやレオニ―なら何かわかるかも知れません。
センデロスは魔法一般、レオニ―は教会の神官が使う神聖魔法のプロなので。」
「センデロスさんねえ……」会いたくないなあ……自分を殺そうとしたプロの魔法使いかあ……
「というか、一度首都に帰った方がいいと思います。
もしレオポルド3世が絡んでいるとしたら、我々3人だけでは何もできないでしょう。
まさか3人で乗り込んでいくわけにもいかないし。」
まあ、乗り込んでいっても、つかまるだけなんだろうね。
この世界の司法制度よくわからないけど、もしかしたら領主様の一存でテキト―な濡れ衣着せて死刑とか、よくわからん占いみたいな裁判始まって死刑とか、あるかもなあ……
レオポルド3世をやっつけたところで、今度は領主様にケガを負わせた罪で死刑、とかもあるかもなあ……この世界がどうだか知らないが、中世ヨ―ロッパの司法制度、かなりテキト―でぐちゃぐちゃだからなあ……
「問題は山積みだけど、そもそもこの国のNO.2が犯人なんだから、王都に行ったら誰がレオポルド3世の息がかかっているか分からないよ?そのあたり大丈夫?」俺は言った。
「極力気を付けます。」ヴァルタ―は言った。