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第一章 ダメ弁護士、異世界転移する。

 ……ふと目を開けると、そこは地平線の彼方まで何もない空間だった。


 見渡す限り360度夜空。地面の下が透けて見える。俺は最初浮いているのかと思ったけど、どうやら見えない地面がある模様。


 ……なんでここにいるんだ?夢の中か?

 そう考えて、記憶を辿り、思い出す。


 そうだ、俺は死んだのか。


 俺は弁護士で、確か家裁に離婚調停で出頭していたはず。

 あ、もちろん代理人としてだよ。俺の離婚調停じゃないよ?

 俺は独身だからね。彼女いない歴=年齢=35年だからね。


 DV旦那から命からがら逃げてきた、可哀想な奥さんの代理人として、裁判所に離婚調停申し立てた。

法律にやれって裁判より先に調停という話し合いの手続きやれって書いてあるからさ。


 でもどうせまともな話し合いになるわけないんだよ。ダメな弁護士の俺でも知ってる。

 だからさっさと手続き終わってもらって訴訟起こす予定だった。


 調停委員(話し合いの間に入るえらい人)にもそう話した。さっさと終わってくれと。

 調停委員は今度は相手方の話を聞くって言って、申立人待合室で待つように俺に言った。


早く終わんねえかな、とスマホをポチポチしながら待合室で待っていると、調停委員から呼び出されたので調停室へ。

 そしたら入って早々、相手方と思しきオッサンに椅子ぶつけられて、気がついたらここにいた。


 ここが死後の世界かあ。どうせいいことのない人生だったしなあ……


 小さい頃から勉強しか出来なかった。だからそれだけ頑張って司法試験に受かって。

そして弁護士になった。


でも弁護士も就職難の時代。初めて入った法律事務所ではミスばっかりで怒鳴られ続けて辞めた。

とりあえず独立したはいいものの全然売り上げ伸びなくて。

赤字も出たから借金して補填して、でも売り上げはやっぱり伸びなくて……


 もう最近は、なんで自分が弁護士の仕事してるのか分からなかったなあ。

 友達もいなかったから、司法試験受かって喜んでくれたのも、両親だけ。

二人とももう死んじゃったけど。


 どこで間違ったのかなあ……借金したこと?独立したこと?初めて入った法律事務所でミスしたこと?司法試験を受けたこと?それともこの世に生まれて来たこと?


 見知らぬ空間の中でそんな自己憐憫に浸っていると、目の前に綺麗な女の人が現れた。

こんなキレイな人、今まで見たことない。大都会とかですれ違ったらみんなガン見しちゃうレベル。


 なんか杖を持って、白い布で体包んでて(服に詳しくないから名前が分からない)、まっすぐ立っている。背は俺と同じくらいか、少し向こうのほうが大きいか?


 その女の人は言った。「あなたは、神に選ばれました。救って欲しい世界があります」


 ちょっと女の人に見惚れていたから、「はあ……」みたいなアホな応答しか出来なかった。


 「あなたには、神からある能力を授かりました。法律を具現化する魔法を使う能力です。」


 ちょっと何言っているかわかんないな。魔法って言った?


 「試しにやってみましょう。ちょっとボ―ルペンをお借りします」

 そう言って女の人は俺の元に来て、俺の胸ポケットからペンを取り出した。俺、仕事中はス―ツの胸ポケットにボ―ルペン刺していたんだっけ。


 ボ―ルペンを取る仕草の時に、女の人の胸元が見えそうになって、俺は慌てて目を逸らした。

女の人の胸元など見ようものなら、今はセクハラやら条例違反やらで責任問われかねない。


 女の人はボ―ルペンを持って少し離れて、俺に言った。

 「今、私はあなたのボ―ルペンを持っています。誰かに自分のものを返してもらうときの条文か訴訟物を言って、そのあと目的物を言ってみてください」


 お、おう。いきなり専門用語出てきたな。訴訟物って何か?どうでもいいです。

え―と、フツ―は所有権に基づく返還請求をするけど、条文ないし、え―と、じゃあ……


「民法200条。ボ―ルペン。」俺はそう言ってみた。

 民法200条はざっくりいうと、自分の持っていたものを返せっていう時に使う条文だ。占有回収の訴えって言うんだけど。どうでもいいんで忘れていいです。


すると。

ボ―ルペンが女の人の手元から消え、胸元にボ―ルペンが入っていた。


「そうです。これがあなたの能力です。ちなみに訴訟物でもいいので、『所有権に基づく返還請求、ボ―ルペン』と言っても同じことが出来ます。目的物や対象者が明らかなときは省略も出来ます」


 おおお、まあ、すごいのかな?


「だから例えば、殺人犯に追われている時に、『人格権に基づく接近禁止請求』といえば殺人犯は近づけなくなりますし、殺人犯に「刑事訴訟法213条」といえば現行犯逮捕、すなわち身動きを封じることが出来ます。」


 おおお、まあ、便利なのか?


「また、あなたはこの能力においては、裁判官や警察官、その他の公務員でなければ使えない権限を使うことができます。」

 ああ、そうなの?35歳にもなると、説明がパッと頭に染み込んでこない……


「細かいことはおいおい分かっていくでしょう。今全て理解する必要はありません。

 何か分からないことがあればあれば、「テミス」と私の名前を呼べば、答えられる質問には答えましょう。」


 おおお、なんか最近はやりのデジタルアシスタントみたいだな。OKテミス!HEYテミス!みたいな?


「この能力を使って、あなたに救って欲しい世界があります。

 その世界は、モンスタ―が人々の生活を脅かしています」

 お?なんかそれっぽい。


「今、あなたは召喚されようとしています。

 どうか、世界を救って下さい。」

 女の人がそう言うと、俺の体が光はじめた。


 ん?ちょっと嫌な予感が。俺のうろ覚えの法律知識が正しいとすると……

 ちょっとちょっと、質問が……


 そう質問を口にしようとした瞬間、光は強くなり、キ―ンと言う音が大きくなって、俺の声も女の人の声も聞こえなくなった。

 そして何も見えなくなって、俺は気を失ったと思う。


 ……気がつくと、俺は洞窟みたいなところにいた。

 目の前に、大きなドラゴン。

 俺は一瞬のけぞった。


「やった……成功した……」

 後ろから声をしたので振り返ると、若い男がいた。どうやら座っているみたいだ。


 ゲ―ムの主人公みたいな鎧とマント、あとサ―クレットっていうの?そんなのを被っていた。兜はつけていなかった。勇者っぽい格好。

 顔や服が赤くて最初何かわからなかったが、どうやら血塗れみたいだ。え?


「大丈夫?」俺は声をかけた。

「大丈夫です……それよりどうか、あのドラゴンを……」


そう言って俺は後ろを振り返る。

でかいドラゴンが目の前にいる。俺の倍くらいの背丈はあるだろうか。

四階建てくらいの建物を見上げているみたいな感じ。


「戯れに待ってみたが、大袈裟な召喚術のわりに、出てきたのは人間一匹。お前に何が出来る?」


……それは俺が聞きたい。

多分後ろの勇者さんはドラゴンに痛めつけられて怪我しているはず。嫌な予感はするがとりあえず言ってみる。


「刑事訴訟法213条!」

現行犯逮捕の根拠条文。


言った瞬間、頭の中で声が聞こえてきた。

――現行犯逮捕は出来ません。


なんで?現行犯の要件満たさないってこと?じゃあ通常逮捕か?

「刑事訴訟法199条!」

通常逮捕の条文を言ってみる。


フツ―は逮捕するときは裁判所に令状請求するところから。

そして裁判所から令状もらって、その後捕まえるんだけど。


――令状請求は却下されました。

なんでだ?よくわからないが、じゃあ別の手を……


「人格権に基づく違法行為差止請求権!」

超マイナ―なやつ。

――請求は却下されました。

なんでだよ?訴訟物でいいって言ったじゃん!もしかして……



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