突然の報告
僕には長所がない。特別秀でている訳でもないし、運動が出来るわけでもない。冴えなくて、引っ込み思案だった僕は幼い頃からみんなの影に隠れるような子供だった。
そんな僕には一つ夢があった。
それは、アイドルとしてステージに立つこと。
偶然見ていた音楽番組に出演していた男性アイドルグループに、僕は心を打たれた。
眩しいスポットライトに、歓声を浴びる彼らの姿は幼くて未熟な僕に夢を見させるのには充分だった。
いつか自分もそうなりたいと、僕はアイドルになりたいと思った。
勿論、自分の身の程も知っている。でも、僕は引っ込み思案で影に隠れているような弱い自分を変えたかった。
それから何年か経ち、無名のアイドルとして活動しているときに波乱は急に訪れた。
「島野、お前は今日を以て引退だ。明日からは、違うグループに所属することになる。」
僕、島野莉央はライブ終了後の楽屋で所属グループ(曼珠沙華)のリーダーである渡辺望夢に急にグループ引退の話をさせられた。
「そんな…!僕、まだ曼珠沙華にいたいです!」
僕は、頭の中が混乱していた。
(そんな…急すぎだ…)
「しょうがないんじゃないの?だってあんた、まともにステージにも立ってないじゃない。そんな感じで曼珠沙華にいても何にもならないし。」
望夢の横で偉そうに腕を組みながら、メンバーの日比谷仁は言った。
「俺らのグループは仁と千紘と俺で十分だ。」
そう言って、望夢は僕を睨み付けた。
僕は、二年前、曼珠沙華に加入してから一度もステージに立っていない。四人も曼珠沙華のステージにはいらない、と言う望夢の方針により、公にもメンバーが四人になったことを伝えていない。そして当の僕は、雑用を二年押し付けられる始末だ。
そして、今回の引退。僕の曼珠沙華での活動はほぼ雑用で終わった。
「良いじゃないか莉央。まだ莉央のアイドル人生は続くんだからさ。」
そう言って僕の背中をポン、ポンと宥めるように叩いているのはメンバーの夏目千紘。
「でも…僕はまだ…。」
「莉央。」
言いかけた僕の腕を千紘は力任せに思い切り握った。
「お前…望夢さんに喧嘩売ってんの?」
「…っ!」
あまりの痛さに顔をしかめると、望夢がにやりと笑った。
「お前が明日から所属するグループは…(ANGEL LAMP)だ。地図は渡すから、明日直接挨拶に行ってこい。」
「あははっ、今まで雑用ご苦労様でした。」
「じゃあな、莉央。」
三人はそれぞれ言い残して、楽屋から出ていった。
「…早く出よう。」
取り残された僕はぽつりと呟いた。僕が発した最後の一言は、空気中に溶けて消えた。虚しさと悔しさでいっぱいだった。
外に出たとき、息を吐くと白く色づいた。
寒い一月のことだった。
真壁男子です。初投稿です。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
まだ分からないこともたくさんですがこれからも頑張っていきます。
よろしくお願いします。