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第49話 -行方- 

サブタイトルに沿う内容を書いていると文字数が大幅に増減してしまう問題に悩まされます。

長かったり短かったりして読み辛くすみません。


夕暮れのオレンジ色が空を彩り始めた刻限に緊急の招集が掛けられ、わたしはディーと共に急ぎ指定された部屋へと向かった。

重厚な扉を抜けて中へ入ると、そこには既に伝令を持ってきたのであろうキースさんとジェイドさんに姫様、グレン様、他に数名の騎士がいた。

間を開けずルーク様もやってきて、メンバーが揃ったのが確認されるとキースさんがその内容を告げた。


「先日グラヴィーでの一件にて捕えた人物が、護送中に行方不明になりました」

「なんだとっ!」


ディーとルーク様、そしてわたしの三人は驚きを隠せず目を見開いていた。

予想もしていなかった報告に声を発したのはディーだった。

先に集まっていたメンバーは一度報告を受けていたようで眉間に皺を寄せ考え込む表情をしていた。


「やっぱりオレが護送につくべきだったな」

「いや、お前がいたとしても難しかっただろう…」


グレン様の悔しそうな呟きに、ジェイドさんが言葉を挟んだ。


「どういうことだ」


訝しむ表情を隠すこともせずディーが問うと、キースさんが詳細を教えてくれた。


「護送中の馬車の中から忽然とその姿が消えたらしいのです。出入り口の鍵も施錠されたままでした」

「あの護送専用の馬車は魔力封じも施された頑丈なやつだ。窓もなく出入り口は外から鍵をかける一カ所のみ。しかも護送中のそいつは、お前が封印を施した上に魔封じのマントと縄で縛っていた。本来ならそんな状態で逃げられるはずがねぇ」


深い溜息を零しながらグレン様が補足してくれるが、その内容を聞いてディーの表情は益々険しくなった。


「護送中の騎士団は?」

「誰一人怪我もしてない」


グレン様の返答を聞いた後、ディーはキースさんへと視線を向けいくつかの質問を行った。


「逃げたことに気づいたのはいつだ」

「馬車の中から突然叫び声と暴れたような音が聞こえて停車し、そのまま様子を窺っていると静かになったので小窓から中を確認すると既にその姿はなかったそうなのです」

「なんだと!」


ありえないと呟きながらディーは机の上に広げられた地図へと向き直り、地図上に示されていた行方不明となった場所を確認していた。

ディーたちが険しい表情で状況確認と今後の動きを話し合っている中、わたしは邪魔にならないよう少し離れた場所でその様子を見つめていた。



「魔力の残滓を追ってみるしかないな」


色々と議論されていたようだったけれど、一向にその行方を掴む良い案がでないことからディーが下した決断だった。

方々からは「それしかないか」と呟きが零れていた。


何が行われるのだろうと彼らのやり取りを見守っていると、ディーがこちらへやってきた。

その後ろでは机に広げられた地図が片付けられていた。

その様子に首を傾げているとディーがこれから行うことについて説明してくれた。


「別の部屋で、やつを拘束した際に使用した俺の魔力の残滓を追って行方を探すことになった。行くぞ」


そう言われてわたしは大人しくディーの後に続いた。


魔力の残滓を追う。

ディーはそう口にしたけれど、そのやり方については教えられなかったので何をするのかさっぱり分からない。

わたしが一緒にいてもいいものか悩んだけれど、ディーは行くぞと言ったし、ジェイドさんにも一緒に行くよう促されそのままついて行った、


移動した先にあった部屋。その部屋はわたしも知っている場所で、足を踏み入れいたのは三度目だった。

わたしがこの世界に召喚された時、そして時空の狭間に落ちてしまって再召喚された場所、それが今いる石造りの部屋だ。

そこが清浄の間と呼ばれる神聖な部屋であることをこの時初めて知って入るのに躊躇してしまった。

大がかりな儀式や精密な魔法行使の際に神官が使用する特別な部屋なのだそうだ。


大きな机が運び込まれ、その上に透明なガラスでできた大きな容器が置かれた。

ディーはそのガラス容器の中に地図を広げている。

そこへ数人の神官らしき人たちが大きな水差しを数個と小箱を手にやってきてディーに渡していた。

大きな水差しに入っていた液体がディーの指示で地図が広げられた容器の中へと流し入れられていった。


「えっ!」


容器の大きさは広げた地図がすっぽり収まるサイズでかなり大きい。深さのあるものだったので何かを入れるのだとは思っていたけれど、まさか地図が入れられたまま液体を投入するとは思わなかった。

これでは地図がずぶ濡れになって使い物にならなくなるのではとわたしは一人焦っていた。


「大丈夫ですよ、地図は複数枚ありますし」


おろおろするわたしにすかさずジェイドさんが教えてくれた。

しかも魔力の残滓を追跡する際に必ず行う手法なので、使用した地図がこの後使い物にならなくなるのはいつものことなのだそうだ。


「いつものことって…あんなに大きい地図が…」


準備するのにもそこそこお金がかかりそうなものなのにとジェイドさんを見上げると、彼は黙ってにっこりと微笑んだ。


「必要経費ですし」

「………」


彼がぼそりと続いた言葉に絶句するしかなかった。

確かにそうなんだろうけど…。


「頻繁に使える方法ではないですから、大丈夫ですよ」


そう言われてようやく納得するが新たな疑問が浮かんだ。


頻繁に使える方法ではないとはどういうことなのだろう。


問いかけようとしてジェイドさんを見上げ口を開きかけると、彼はそっと人差し指を口元にあてた後、視線でディーの方を指示した。

思わず口を噤み彼が見つめる先にわたしも視線を向けた。


広げた地図に透明な液体の入ったガラス容器を置いた机の傍にはディーしか立っていない。

他の人たちは少し離れた位置に見守るようにして立っている。

室内はしんと静まり返っていて、聞こえるのは動いているディーの衣擦れの音だけだった。


持ち込まれた小瓶の蓋を開け、ディーはその中身をガラス容器の液体の表面に薄く散りばめていく。

半透明で光をうけてキラキラと虹色の輝きを放つ小さな粒。オーロラフィルムを微細に裁断された物に似ているそれは、容器に満たされた液体の表面を敷き詰めるように浮いていた。


そこへ両掌をかざしディーが何かを行っていた。

わたしにはただ水面に手をかざしているようにしか見えないのだが、実際は両掌から液体の表面に浮かぶ粒に向かって薄く均等になるように魔力を流していたのだそうだ。


その様子をじっと見守っていると、液体の表面に散りばめられた粒がスッと特定の場所に集まりだした。

驚きに目を見開いている中で、虹色に輝く粒が更に収束し、その動きがピタリと止まった。

その場にいる全員が詰めていた息を吐き出す様子が視界の端に映り込む。

ディーが容器の水面近くを円を描くようにサッと手を動かすと、彼も大きく息を吐き出していた。


「うまくいったか!?」


周囲に居た人たちがワッと机の傍に寄る中、わたしはディーの様子が気になって彼の傍に駆け寄った。

顔色がどことなく悪いように見える。

普段汗をかくこともほとんどない彼なのに、その額には薄っすらと汗が浮かんでいた。


「ディー……」

「…大丈夫だ」


スカートのポケットからハンカチを取り出し彼の額の汗をそっと拭う。

心配でその手に触れると軽く握り込まれた。

少しふら付いているその体を私とディーを挟んで反対側に立つジェイドさんが支えていた。


深呼吸をして息を整えたディーは地図を沈めたガラス容器へと視線を移した。


液体の表面を覆うように散りばめられていた小さな虹色に輝く粒は、数か所に集まって容器の底に沈んでいた。


大きな塊の一つは、今いるこの王宮の位置に。

それよりも小さな塊が四カ所。一つは行方不明となったとされた馬車の位置と重なっていた。そしてもう一つはグラヴィーと王都の丁度真ん中あたりにある街の上。

そして残りの二つの塊を繋ぐように虹色の線が出来ている。


「これは…?」


わたしがぽつりと口にすると、ディーが状況を話してくれた。


「俺の魔力の残滓を地図上に示した。今俺がいる此処とは別に四つ反応が出たな」

「一つが護送中だった馬車の位置、こっちの街の上のやつはその馬車の現在の待機場所だな。とすると…」

「この二つは何?」


馬車の位置を示す虹色の粒よりも少し大きな塊が二つ、虹色の一本の線で結ばれている。

全員の視線がそちらに釘付けになりあちこちから呟きが漏れ聞こえている。そこへディーの声が割り込んだ。


「おそらく片方が拘束を解いた場所で、もう片方が本体がいる場所だろうな」

「!」


その言葉に全員が驚き、再度地図上のその箇所をじっと睨むように視線を落としていた。


「拘束を解いた場所には魔封じのマントと縄が落ちているだろう」

「捜索隊を組み、すぐに現地へ向かえ!」


次々と指示が飛ぶ中、ディーが気怠そうに歩き出す。

その体をジェイドさんが支え、わたしもついて行った。

柱と柱の間に設置されているソファーの一つにディーを座らせるとジェイドさんはすぐさまグレン様たちの元へ戻った。

わたしはディーの目の前にしゃがみ込み彼の様子を窺った。


「何かしてほしいことありますか?」

「大丈夫だ…。それより横に座って少し肩を貸してくれ」


ディーのぐったりとした姿を見るのは、この世界に初めてやってきて魔力切れを起こしていた彼に付き添っていた時以来になるので、どうしてよいのか分からず心配でおろおろするばかり。

眉根を寄せて見上げるわたしにディーが望むのは肩を貸すことだった。

すぐに立ち上がり彼の横に座ると、ディーはわたしの肩にその頭を預け片方の手を軽く握った。

きつく握りしめていないのは、きっと力が入らないからなのだろう。

わたしは空いている方の手をディーのその手にそっと重ねた。


「ディー、横になった方がいいのでは…」


問いかけたわたしの声が聞こえていたのかは分からないが、次の瞬間肩に乗せられていたディーの頭が滑り落ちた。


「えっ」


わたしはディーの手に重ねていた方の手を離し咄嗟に受け止めるように彼の頭を抱え込んだ。


「あ、ぶな……」


片手といえど受け止めなかったら膝の上も滑り落ちて地面にごつんといっていたかもしれない。

ディーの頭を抱え込んでいた腕をゆっくりとずらし、膝の上に彼の体を安定させるとほっと息を吐き出した。

肩じゃなくて最初から膝の上に横になってもらえば良かったと驚きで跳ね上がった鼓動を落ち着かせながらディーの頭をそっと撫でた。



ディーが行方を探すために行った追跡方法はとても集中力と魔力を使うらしい。

地図上に描かれた場所と実際の位置を結び付けるための魔力操作に加えて、自身の魔力だけに反応するよう虹色に輝く光の粒にもまた均等に魔力を流すのだそう。

全体に薄くディーの魔力が行き渡っていれば、そこには虹色の粒は反応しない。

強く反応を示すのは現地にディーの魔力の残滓が残る場所ということになる。


単純だけれど非常に緻密な魔力操作を必要とするこの方法は、一度行うだけで極度の疲労に襲われ回復するまで時間を必要とし、使用する地図が広範囲であればあるほど負担も大きいのだそうだ。


頻繁に使える方法ではないというのはこのせいなのだと理解して唇を噛んだ。

ディーにばかり負担を負わせていることが悔しくて、何もできない自分が情けなくて胸が痛んだ。



忽然と行方を眩ませた闇を纏っていた青年がいるとされる場所が特定されてからの騎士団の動きは早かった。

すぐに捕縛の為のメンバーが選出されその準備のため清浄の間に居た人たちは部屋を出ていき各所へ散った。



魔封じの施された強固な護送車をものともせず行方を眩ませた相手であった為、ディーも捕縛部隊のメンバーに入らざるを得なかった。

共に行くのはいつものメンバーに神官が二名、魔導士が二名の合計十名と騎士団から二十名の総勢三十名。


ディーの回復を待っている余裕もなく一行はすぐに出発することになった。

先発隊数名を早馬で出し、ディーを含む数名は馬車でその後を追った。



普段の二倍以上のスピードで移動した馬車が初日の宿となる街に到着した頃、その知らせはもたらされた。


向かった先で青年を見つけることはできず周辺を捜索。

近隣の街や村へ散った先発隊が目にしたのは、破壊の限りがつくされ壊滅したグラヴィーの街の姿だったと。

そして続けて告げられたのは、各地で魔物が活発化し出しているとの報告だった。



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