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第45話 -兆し-

足を運んでくださる皆さまありがとうございます。


強烈な光が収まって周囲も普段の明るさを取り戻すと、一番に視界に入ってきたのはうつ伏せに倒れている一人の人物と、その人を挟んでわたしたちと反対側に立っているディーとルーク様の姿だった。


全員が無事な姿にほっと息をつく。


よく見れば地面には複数のダガーのようなものが突き立っていた。

どれも柄の先には魔導石がついていてまだ仄かに光が灯っている。しかしその光もすぐに消えて魔導石は完全に沈黙した。

見覚えのあるそれらが、こちらに来る前に訓練場でルーク様が受け取っていた魔導具であることに気づく。

先程起こった不可思議な現象はルーク様がおこしたものなのかもしれない。


「…うまくいって、よかった」

「ああ」


ルーク様の呟きにディーが短く応えていた。


何がどうなってああなったのか理解不能だったわたしにディーが簡潔に教えてくれた。

予想は何となくついてはいたが、姫様が放った光魔法の方向を途中で曲げたのはルーク様とディーだったらしい。


まずルーク様が拘束魔法を使うため地面に描かれた魔法陣に沿って、先端に魔導石の付いた楔となる小さなナイフを数本撃ち込み、その楔に沿って風魔法を展開。

ルーク様の風魔法で光の屈折率が変化し、姫様の光魔法がその風魔法とぶつかった位置で光の軌道が変わり上方向へと光が立ち上った。そして次にディーが、軒の高さの位置に魔導石のついたナイフを打ち込み、ルーク様と同様の魔法を展開し上へと向かう光の軌道を下方向へと変えたのだそうだ。


大したことではないとしれっとした表情で教えてくれた二人に、こんなの簡単にできることじゃないしと呆気にとらわれていると、その光を屈折させた原理とかまでディーが説明し始めようとしたので丁重にお断りしておいた。


今わたしの脳みそはそれらを理解することを完全に拒否している。

もう異世界不思議現象のままでいい!


半ば現実逃避に近い叫びを心の中で上げながらわたしはうつ伏せに倒れている人物へと視線を向けた。


その人物はピクリとも動かなかったけれど、ディーは念には念をと言って拘束魔法をかけ直し、その身を厳重に光の帯で締め上げていた。

グレン様たちが周囲を確認し、魔物の追撃もみられずこれ以上危険はなさそうだと判断を下し、全員が拘束された意識のない人物の周囲に近寄った。


「まさか本当に、人だったとはな」


グレン様が短く呟いている。


「人の身であれだけの闇を纏っていられるなんて、よく体を保っていられたわね」

「発していた気は完全に瘴気だったが…」


ディーはあの黒い塊が人だとは思っていなかったようだった。


瘴気の濃度が濃くなるとそこから魔物が発生する。

その中心と言ってもおかしくないほどの濃密な瘴気の塊だった為、何らかの作用でそれが動いているのだろうと、そう思っていたらしい。


普通、瘴気から生まれる魔物はどれほど濃い瘴気の中でも平気でいられるけれど、人はほんのわずかな時間触れただけで精神が狂いだしてしまう。瘴気に触れている時間が長くなったり、たとえ短時間であっても濃度が濃いものに晒されてしまえば、発狂しのた打ち回り、最後には死んでしまうのだそうだ。


そこまで知らなかったわたしは目を見開いて驚いた。


「その人、死んじゃったんですか…?」

「いや、瘴気を浄化されて一時的に気を失っているだけのはずだ。死んではいない」


思わず口に出した問いは、すぐにディーが否定してくれた。


命を奪うという行為に覚悟ができていなかったわたしは、彼のその言葉に足から力が抜けて座り込んでしまいそうなほどに安堵した。

そして同時に自分の考えの甘さを痛いほど思い知った。

いつも一歩ひいた場所で色んな人に護られ安全なところにいるということがどれだけ恵まれていたかということを。


これまでの戦いでも、誰かが命を落とす危険が常に隣り合わせにあって。自分が誰かの命を奪う可能性もあったわけで。

それらのことを今更ながらに痛感して目の前が一瞬くらりと揺れた。目の前に居たディーが咄嗟にわたしの背に手を回し支えてくれなければ地面に倒れこんでいたと思う。


「顔色が悪い。大丈夫か?」

「……はい、だいじょう、ぶ」


目を閉じて深く深呼吸をしてから、そっと目を開けると目の前に倒れている人物に改めて視線を移した。


周囲をも暗い闇で覆い、自身の姿形すらも認識できないほど真っ黒に染め上げてしまう瘴気を纏っていたその人。姫様の光魔法によって一片の曇りもなく闇が全て祓われた今のその姿は、どこにでもいる一般的な青年の一人にしか見えなかった。


その人の様子をそのままじっと見つめていると、左腕の二の腕あたりの服が破れた位置に痣のような黒いものを見つけ、それがなぜだか無性に気になってしまい眉間に皺が寄ってしまった。


「あれは……!」


わたしの視線を追って同じように倒れている青年の腕を見たディーは、何かに気づき音でもしそうな勢いで青年の傍に膝をつくと、彼の破れた袖を捲りあげ二の腕にあった痣を露わにした。

それを見たディーは驚愕に目を見開いている。

そしてそれはディーだけでなく傍にいた姫様、グレン様、ルーク様もまた驚きを隠せない様子でその痣を注視していた。


「紋様があのように黒く……」

「まさかここであれを持ってる奴に出くわすとは、な…」

「……龍の…」


ディーは厳しい表情で倒れている青年の腕を持ち上げ、無言でその紋様の状態を確認していた。

姫様たちが思わずといった様子で呟いた言葉が耳を掠める中、わたしの意識はどこか遠くに向けられていた。



わたし、あの黒い紋様…見たことが……あ、る……。



それはこの国フォストゼアでは本来、緋の色をしているはずの紋様。

この国を守護する緋の龍から加護を授かった者であるという証。

しかしその紋様が体の表面に視認できるのは、加護を受けた直後だけのはずで。


龍から加護を授かるということは、その龍の魔力を分けてもらい身に宿しているということを意味している。

龍の魔力が授けられた直後はまだその魔力が自身の魔力と馴染んでいない為、身体の表面に紋様という形で表れるが、時間の経過と共に互いの魔力が混ざり合い次第に紋様は薄れ、最後には消えてしまうのだ、とディーは教えてくれた。


そのことを照らし合わせれば、目の前に倒れている青年は緋龍の加護を受けた者であるということに他ならない。

そしてその身に溶けるようにして消えたはずの紋様が、誰の目にも分かるよう彼の左腕の表面に今はっきりと浮かび上がっている。

緋色だったはずの紋様は黒く変色しており、その紋様から植物のツタのようなものが伸びていた。



「ひっ!」

「呪いだ!」


突如耳に届いたその言葉に顔を上げると、剣を片手に持ったまま怯えた表情で小さく震えている自警団の人の姿が目に入った。

傍に立つもう一人の団員もまた恐怖に体を震わせ蒼褪めていた。


「まずいな…」

「グレン、急ぎそいつを王都へ運んで騎士団で取り調べを行え。騒ぎが大きくなる」

「ああ、わかった」


ディーたちのそのやり取りのすぐ後、たくさんの人たちがこちらへやってくる慌ただしい足音が聞こえてきた。

だんだんと近づいてくる喧騒の方へと視線を向けると、最初にやってきたのは馬に騎乗している数名の騎士たちだった。近くの駐屯地から駆け付けた彼らは、さっと周囲に視線を走らせ魔物の気配がないことを確認すると、馬から降りて姫様たちのもとへと駆け寄って膝をついた。


「やつが今回の騒動の元凶だ。取り調べを行うため王都の騎士団本部まで護送する」

「はっ!」


グレン様が簡潔に告げ、彼らが持ってきた物資の中から特殊な縄とマントを受け取り、倒れている青年へと近づいていった。


ディーの拘束魔法で縛られたままうつ伏せに倒れているその人をグレン様がマントで包み縄で縛りあげていく。

彼の腕にある紋様は騎士たちが駆けつける前に、すでにディーによって人目に触れないよう隠されていて、自警団の二人とわたしたち以外の人が目にすることはなかった。


護送するための馬車の準備ができるまでの間、元凶である青年の監視はディーが行い、グレン様と姫様が次々と集まった騎士や自警団の人たちに指示を出していた。


邪魔にならないよう離れた位置に移動し、周囲に視線を向けた。

遠くで聞こえていた魔物の叫び声や応戦している人たちの声、爆音などはもう聞こえてはこなかった。

落ち着きを取り戻しつつある状況にほっと安堵の息を零し、元凶である青年へと再度視線を移した。

うつ伏せに倒れていたその人は縛られ仰向けになっていた。

その表情は被せられたマントの陰になって見えなかったけれど、じっと彼を見ていたわたしはその口元が妖しく弧を描くのを見逃さなかった。咄嗟に駆け出し、声を張り上げ叫んだ。


「ディー!後ろっ!!」


青年の監視をしていたディーは一番近くに立っている。

駆け付けた騎士たちの中にいた魔導士の一人と話しているところで、青年には背を向けていた。


わたしの叫び声にディーは背後で地面に転がされている青年を振り返り警戒態勢を取ったが、拘束魔法で縛り上げていることに加え、魔封じのマントと縄で縛っていることもあって青年の行動は完全にディーの予想外のものでその初動が遅れた。

ディーが動くよりも駆け寄ったわたしが彼を突き飛ばす方が速く、再び闇をその身から立ち上らせた青年は容赦なく目の前の人物を攻撃した。


「ユズハっ!」

「――あ……」


青年から立ち上った闇がわたしの左肩を貫く。

痛みを感じるよりも先に意識が闇に囚われ、彼の感情が一気に流れ込んでくる。

目の前がくらりと歪み、ディーの声をどこか遠くで聞きながらわたしはそのまま意識を手放した。



最大の謎は、書き進めるたびに長くなっていく私の文章力。とほほです。

早く完結させたいのにっ

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