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第42話 -防壁 ※神官視点

足を運んでくださる皆さまありがとうございます。


このグラヴィーは街の中心に東西へ横断する石畳の街路が設けられおり、商店や宿屋がその両側にずらりと並んだ造りをしている。

住民の居住区の多くは北側にあり、南側には倉庫や加工工場などが立ち並んでいた。


東側に広大な森、北側には山、南側と西側は開けた特に何もない平野という立地のこの街は周囲をぐるりと防壁が囲んでいる。

森には美味しい木の実をつける木々や質の良い薬草が豊富に自生しており、山からは魔導石の元となる石が採掘されたりと何かと生活に便利な土地なのだが、稀に森や山から魔物が出てきたりすることがあって危険な為、その防壁が街を守る役目を担っていた。


定期的に討伐隊が組まれ魔物の駆逐が行われているのでこれまで大きな被害は出ていなかったが、もしもの時に備え、東西の門が利用できない際は北側の山へ逃げることができるよう北門が設けられている。


すなわちこの街へ出入り可能な場所は東門、西門、北門の三箇所ということになる。

空を飛べる魔物はこの限りではないが、街を囲むようにしてぐるりと形成されている防壁には魔物避けの対策が施してあるので、単独で防壁を超えてくることはまずない。


建物の中から街へと踏み出し、左右へと素早く視線を向け状況を確認した。

転移魔法で降り立った聖堂を出て東側、人々の悲鳴や破壊音、魔物の叫び声などが聞こえる方へ視線を向ければ、遠くに魔物と戦っている人々の姿が見えた。

一足先に聖堂を飛び出したグレンが向かったのもそちらだ。ここから見えるその姿はすでに小さく、かなりの速度で移動していったのが分かった。



あいつが向かったのなら、俺たちは他の門へと向かうべきだな。



西門、北門の方を確認すべく視線を動かしているその一瞬の視界の隅で、東門付近の上空を飛んでいるワイバーンへ向けてグレンが攻撃したのが見えた。


唯一使える焔魔法を刀身に纏わせて戦うこともあるグレンだが、あいつはその焔を利用して遠距離にいる敵を攻撃することもできる。


刀身を覆う焔を一定方向へ押し出すようにして魔力を流し、その状態のまま力いっぱい剣を振りぬけば、剣先から一塊になった焔が対象物へと飛んでいく遠距離攻撃となるのだ。

先程グレンがワイバーンへ行ったのもこの攻撃だった。

予想外の方向から焔の攻撃を食らったワイバーンは避けることもできず、まともにその攻撃を食らうと皮膚の表面を焦げ付かせながらギャウと悲鳴を上げて地面へと落下していった。

その後のことは確認するまでもないが、付近に居た冒険者たちが間もなく討伐するだろう。


魔物の侵入はまだ街の入り口付近のみのようで、幸いにして被害は街の中心部には達していないようだった。

商人の出入りがある為、常時開放されている西門の方からも魔物が侵入してくる恐れがある。

北門は有事の際以外は開放されないが、念のため確認しておいた方がよさそうだ。

状況を素早く分析し、それぞれに支持を告げた。


「王女はグレンと合流、後方にて戦闘支援を任せる」

「わかったわ」

「ルークは北門の状況を確認し、状況に応じて応戦、完了次第東門へ合流しろ」

「うん、わかった」

「危ないだろうが、ユズハは俺と西門へ向かうぞ」

「はい!」

「各々無理はせず、撤退も視野にいれろ!東門の指揮は王女、任せるぞ!」

「ええ!」


それぞれが向かう先へと一斉に駆け出す。

ルークは風魔法を纏い屋根の上へ飛び上がると、道なき建物の上を最短距離で北門へと向かっていった。


聖堂は街の中央より西側よりに建っている為、西門へはすぐに辿り着いた。

予想通り魔物が五匹ほど入り込んでおり、もともと西門に配備されていた自警団の二名を含めた十名ほどが応戦していた。

門は閉められておりこれ以上の魔物の侵入は不可能だ。中に入り込んだ魔物を討伐してしまえば、この場は一旦鎮静化する。


戦闘の輪に加わることなく彼らから数歩離れた位置で立ち止まり、魔物の動きを封じる拘束魔法を使用する為の魔力を練り上げていく。それとほぼ同時に補助の役割を果たす腕輪の宝石が淡く光を放ち始めた。

瞬時にして十分な量の魔力を生成させると、掌を西門へ向け、そこを中心に街中へ向かって半円を描くようにして直径一メートルほどの魔法陣を地面に次々と形成させていった。


突然地面が光を発し、模様が浮かび上がったことで応戦していた冒険者たちが驚き一瞬体が硬直した。その隙を逃さないように魔物が彼らへ跳びかかっていく。


想定通りの魔物の動きに、思わず口の端が僅かに持ち上がる。

狼型の魔物が口を大きく開け、目の前の冒険者たちへ今にも牙を立てようと攻撃態勢に入っていたが、それよりも速く発動させた拘束魔法が魔物らの動きを封じた。

魔法陣から発生した光が幾本もの光の束になり魔物の足を、体を縛り上げていく。

光のロープによって地面に引き倒された魔物はじたばたともがくが、その拘束が緩むことはない。


「今だ!殲滅しろ!」


その呼び掛けに冒険者たちは瞬時にして硬直から解かれ、弾かれたようにそれぞれ目の前の魔物へと攻撃を繰り出していた。


瞬く間に五匹の魔物は駆逐され、辺りには応戦していた人たちの安堵の溜息が零れ、張りつめていた空気が霧散していった。


「ふぃー、助かったぜ…」

「すげぇな神官様」

「一瞬ダメかと思ったぜ」


気が抜けたようにその場に座り込んだ冒険者が次々と言葉を発している。

その呟きを拾うこともせず、俺は閉ざされた西門へと近づいた。

西門を囲むようにして地面に描かれた魔法陣は消えていない。

そこへ再度己の魔力を流し込み、魔物が入り込んだ際にこの魔法陣を超えれば拘束魔法が発動するようにしておいた。


次に閉ざされた門の隅にある人一人がようやく通れるほど小さな通用扉に向かい西門の外に出た。

あらかじめ魔物の気配を探りそれらが認識されなかったので危険がないことは確認済みだったが、念のためユズハは門の内側に残して出てきている。


街の外側から西門とその両側の防壁へ魔法陣を刻み込んでいく。

門を突破された際に発動する拘束魔法は施しておいたが、そもそもの侵入を防ぐため外へ向けて防御魔法を展開しておくことにしたのだ。


人間には作用しないよう瘴気を纏う魔物だけを対象とし、一定距離近づけば、対象物へ攻撃魔法が発動するように術式を組み上げる。

それらが一通り終わったところで、こちらに近づいてくる複数の気配を感じ、街道の先へと視線を向けた。



一刻ほどでここまで辿り着く距離に……二十名ほどの騎馬の気配。

一番近い駐屯地から精鋭のみが先陣を切ってやってきたか。それならここは任せて大丈夫だな。



通用扉を潜り街中へ戻ると、その場に居た門の守衛二人にそのことを告げた。


「応援が間もなく到着するようだ。二十名ほどの騎馬隊がくるだろうから半数を素早く門を開けて中へ引き入れろ。残り半数は外からの魔物の侵入に対する警戒要員としてそのまま待機させるんだ」

「わかりました!」

「外から門と防壁に対魔物用の防御魔法を施してある。魔物が近づけば発動するから合図になるはずだ」


その言葉を聞いた守衛は驚きに目を見開いた。

二人居る守衛の片方は何度か目にしたこともある騎士だった。

「流石ですね」と呟く彼の声が聞こえたが、特に返事はせず設置した二つの魔法についてのみ説明を行った。


「俺たちは別の区画へ移動する。後は任せたぞ」

「はい!了解しました」


移動しようと一歩踏み出したところへユズハが駆け寄ってきた。


「これ、スヴェンさんから持たされたんです。何か彼らに渡しておくものはないですか?」


ユズハが差し出した袋の紐を解いて中を確認するといくつかの魔導石と短剣、装身具に加工された魔導石が入っていた。

その中から五つの魔導石を取り出す。

透明な魔導石の三つには既に回復魔法が付与してあった。魔力を流せば一定範囲を取り囲む回復魔法が発動するようだ。

残り二つの何の付与もされていない魔導石には焔魔法と風魔法を組み込み、守衛騎士たちへと声を掛けた。


「お前たちは魔法が使えるか?」

「はい、戦力にはなりませんが微力ながら」

「はい。私も手練れではありませんが焔魔法を使用できます」


彼らの返答を聞き、手元の魔導石を掌にのせ相手へと差し出した。


「赤い魔導石には焔、緑の魔導石に風、透明の魔導石に回復の魔法が組み込んである。必要に応じて使え」

「「っ!ありがとうございます!」」


魔導石を受け取り深く頭を下げる守衛騎士たちにその後のことは任せ、ユズハを伴って移動を開始した。

まずは北門へ向かって、場合によっては西門と同様の措置を行う予定だ。


移動に際し、ユズハに手を差し出せば、彼女はことりと首を傾げて見せた。

「お手?」と言いながら手を乗せてくるので、切羽詰まった状況である筈なのに妙に和んでしまった。


「そうじゃないが、まぁ間違ってはいない」


自身の掌の上に乗せられた手を握り、北門へと向かう。


「片手が塞がってしまっては困るんじゃ…」

「問題ない。ここには時空の狭間は存在しないはずだが、以前のように突然目の前で消えられては困るからな」

「あぅ」


焔煉の谷でユズハが時空の狭間に落ちてしまったのは致し方がないことではある。

しかしあの時、手を繋いでいればもしかしたらユズハは狭間へ落ちることはなかったかもしれない。

何処にいるのか見当もつかない時空の狭間から連れ戻すことができ、彼女との間にあった互いが引き合う繋がりも断たれて、自由に動き回ることができるようになったのは運が良かったとしか言いようがない。


ユズハとの間にあった見えない繋がりのおかげで、曖昧であっても彼女の存在を確かに感じ取ることができた為、再召喚することに成功したが、繋がりが断たれた後で時空の狭間に落ちていれば、彼女の存在を感じ取ることは不可能で、そこから連れ戻すこともできはしなかっただろう。


ユズハが戻ってきてからというもの、目を離した隙に彼女が何処かへ消えてしまうのではないかという不安が幾度となく訪れるようになった。

こんなことなら、一定距離離れると互いに引っ張られてしまうという繋がりが残っていた方が逆に安心できたかもしれないとすら思ってしまう。

一定距離離れればユズハの居る方に向かって一瞬引っ張られるかのように体が反応する。

その後にユズハ自身が己の元に飛ぶようにやってくるので、改めて確認せずとも彼女が傍に居るのだという安心感があった。


ユズハの手を引き、北門へと向かいながら絶対にこの手は離さないと心に固く誓った。


途中、ユズハが何かに躓いたのか前のめりに倒れ込んだ為、咄嗟に抱き込むようにして支えた。

立ち止まって確認すれば、怪我はしていないようで大丈夫だと笑顔を向けられた。


「すみません急いでいるのに、足を引っ張ってしまって」

「無理をさせているのは俺だ。連れまわすことになって悪い」

「そんな!ディーは悪くありません!謝らないでください」


必死に言い募るユズハに苦笑を零し、ぽんと軽く頭を撫でる。

彼女に異変がないことを確認し、再度北門へ向かおうとしたところでそれは起こった。


ぞわりと嫌な感覚が背中を這い上がっていき、俺は咄嗟に背後を振り仰いでいた。



何だ今のは!?



辺りを見渡してみても、街の中の様子にさして変化は見られなかったが、己の本能が何か異質な存在を感じ取っているのは間違いなかった。

先ほど感じた強烈な嫌な感覚が消えない。



どこだ…。



注意深く辺りに視線を走らせ、その気配の出所を探った。

周囲を警戒して注意を向けている己を、ユズハが不安そうな眼差しで見上げているのが分かり、片手を彼女の背に回し抱き込んだ。

もう片方の手ではいつでも魔法が発動できるよう魔力を練り上げておきながら、地面、建物、上空へと視線を向け一つ一つを確認していった。


北門のある方角、その上空に視線をやれば僅かに空気の歪んでいる箇所を見つけそちらへ意識を集中した。

常人では見落とすであろう僅かな歪みの中に、紫色の淀みが混じっているのを見て取った瞬間、その異質な気配が存在感を増した。



あそこか!




「ユズハ先を急ぐ!しっかり掴まっていろ」

「えっ?……ひゃぁ!」


ユズハの答えを待たず、一方的に告げると抱き込んでいた彼女の体を横抱きにして持ち上げた。

突然の浮遊感に慌てたユズハは俺の首に両腕を回してしがみ付いてきた。


風魔法を纏って地面を蹴り、走る速度の数倍の速さで移動した。

あまりの速さにユズハはぎゅっと目を瞑って握り込んでいる己のローブを更に強く握りしめていた。


目的の場所へ即座に辿り着き、身に纏った風魔法を解除する。

降り立った瞬間に足元から突風が巻き起こり砂埃が一瞬視界を遮ったが、己の視線はある一点をずっと凝視し続けていた。


視界が晴れた時、立っているその場は北門の正面だった。

外からの侵入を阻止する為に閉ざされていたであろう北門の扉は、その外枠を残し大破していた。


門の一部を成していた瓦礫が辺りに散乱している。

魔物は絶命すれば、空気に溶けるようにその姿が霧散し消えてしまうので、どれだけの魔物がここに居たのか分からないが、戦闘があったことが分かる傷跡が地面や防壁の壁に見られることから、この門からも魔物が侵入していたことが窺えた。


そしてここで魔物と応戦したであろうルークと剣を構える自警団の団員たちの姿があった。

俺たちがやって来たことに気づいているはずだったが、ルークもまた杖を掲げたまま北門の奥を注視し続けていた。

彼にしては珍しいほどに神経を研ぎ澄ませており、その視線の先にあるものを最大限警戒していた。


陽が落ちるにはまだ早い午後の時分。

空から降り注ぐ陽の光に周囲は明るく照らされているのに対し、北門の奥は木々に光を遮られているかの如く暗く闇を纏っている。

北門は山に面しているとはいえ、その山の麓を彩る木々が立ち並ぶ場所までは距離があるはずで、先が見えないほどに暗くなるなど陽が落ちてから以外ありえないことだった。


そしてその光を遮る暗闇は、破壊されて門としての役目を果たさなくなった北門の入口へと少しずつ近づいてきていた。


完結までまだまだですが頑張って進めます

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