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第22話 -装着-

大変長らくお待たせしてすみません。


わたし達は焔煉の谷のすぐ手前まで来ていた。

眼下には紅く煮えたぎるマグマ溜りがあちこちに見える。

緋龍の棲み処とされる場所に行くには切り立った崖の岩肌沿いを走る細い道を降りていくしかないらしい。

人一人が壁に張り付くような体制を取り、カニ歩きの様に横に少しずつしか移動できない程に道幅は狭く険しい。


わたしはその崖の岩肌沿いを走る道を覗き込み、そのあまりの危険極まりない道筋に驚愕し顔を青ざめさせた。


「ここを降りるの…?」


谷底から吹き上げてくる熱風がわたしの髪をかき上げる。

この風の勢いによろけただけで谷底に真っ逆さまな気がする…。

恐怖に体が小さく震えてしまうのが止められなかった。


「ただの冒険者ならそうするしかないだろうな」


ディーの言葉にわたしは顔を上げて、崖の岩肌に向けていた視線を彼に移した。


「転移魔法で谷の中央まで一気に跳ぶ」


続くディーの言葉にその場に居た全員の顔色が険しいものから一遍する。


「はぁー良かった。この道を進めって言われたらさすがに躊躇するとこだったぜ。魔物に襲われたらひとたまりもねーからな」


グレン様が吐き出した長い安堵の溜息とその言葉に全員が同意して頷いた。


「だが、全員を連れてはいけない」


そう言ってディーはジェイドさんへ視線を向けた。


「わかっています。私達、龍の加護を受けていない者はここに残りましょう」

「悪いな」

「いいえ、ここから先は一緒に行っても足手まといになりかねない。それに何か役目を与えるんでしょう?」

「察しが良いな。お前達には帰りの為の道標になってもらう」

「道標?」


ディーが持っていた荷物の中から魔導石を取り出した。

同じ形、同じ色をした物が二つずつ全部で五組あった。

対になっている魔導石の片方は身に着けられるよう金具が付いている。


ディーは金具がついている方の魔導石を谷底へ向かうメンバーに一つずつ渡し、金具の付いていない方の魔導石をジェイドさんに預けた。


「この魔導石は魔力を流すと、対になっているもう片方の魔導石の元へ転移する様に魔法を組み込んである。身に着けている者以外が魔力を流しても作動する。命の危険に晒されたり、谷にいる必要がなくなれば各々使用しろ。術が発動すれば対の石を持つジェイドがいるここに戻ってこられる」


ディーが渡した魔導石について説明してくれた。

転移可能な距離は近距離に限るが今回の使用には問題ない筈だと付け加えている。


彼の話を聞いてなんて便利な物なんだと驚愕するのと同時に、わたしはどうやって魔力を流すんだと疑問に思ってしまった。

他者の魔力でも発動すると言っていたから、わたしの分は多分近くにいる他のメンバーが魔力を流すことになってしまうのだろう。

申し訳なくて少々焦り谷へ下りるメンバーに視線を向けると、心の中で『足手まといで大変申し訳ありません』と呟いていた。


「ジェイド、間違ってもその魔導石を谷へは落とすなよ」

「……責任重大だね」


ディーに対となる魔導石を託されたジェイドさんは掌の上の石を見つめ口元を引き攣らせていた。

魔物に襲われでもして魔導石が谷に落ちれば、転移魔法を発動してもここには戻って来られない。

わたしはその状況を想像して血の気が引く思いがした。

ジェイドさんの心境が手に取る様に分かる。

掌の魔導石を見つめ盛大な溜息を零した彼はそれらをぐっと握りしめると、腰に着けていたポーチの中に大事そうに仕舞った。


金具が付いている方の魔導石を受け取った姫様達は、金具の一部を取り外し耳に着けている。


形状からしてそうかもとは思ったけどこれってやっぱりピアスなんだ…。


ルーク様もグレン様も慣れているのかすぐに装着し終わっている。

その様子を見て、騎士のグレン様も普通にピアスとかつけるんだと内心で驚いていた。

そしてわたしは周りにいる面々を一人ずつ見回し、その耳をしっかりと確認した。

なぜジェイドさん達までも皆ピアスしてるんだと少々焦る。

この世界ではピアスをするのは当たり前のことなのだろうかと疑問に思ってしまった。


「ねぇ、ディー」

「なんだ」

「これって指輪とかネックレスとかにできなかったの?」

「肌身離さず身に着けていられる物が良いからな。腕は最悪切り落とされれば体から離れてしまうし、ネックレスにしても鎖が切れれば同じことだ。耳が一番肉体から離れにくい。首が落とされれば終わりだがな」

「っ!」


恐いことをさらっと言われてひゅっと息を呑んだ。


「おっまえ、物騒なことをさらっと言うなよ」


すかさずグレン様の突込みが入るが、ディーは間違ったことは言っていないと表情を変えることもなかった。

グレン様の口元がひくりと引き攣るのが見て分かった。


わたしは渡された魔導石を困ったように見つめた。

自分の分の魔導石を耳につけ終わったディーが、掌の上の魔導石を見つめ一向に耳に着けようとしないわたしに気づいて声を掛けた。


「お前も早くつけろ」


そう言われてわたしは眉根を寄せてディーを見上げた。


「そうしたいのは山々なんだけど…」


尻つぼみに小さくなっていくわたしの言葉にディーが首を傾げている。

すでに装着している他の面々もわたしの様子に気づいて視線を向けていた。


「ピアスホールあけてないから着けられないんです…よね」


わたしのその返答にディーが驚いて目を見開いた。

そしてその手を私の耳に添えて確認する。


ディーの手が耳に触れた瞬間にぞわりとした感覚が背中を走り抜けていった。

更にその指がわたしの耳たぶを撫でたり押してみたりとするものだからくすぐったくて身を捩ってしまった。


「ちょっ!ディーくすぐったい!!」


その手から逃れようと体を引くが、今度はディーの両手でがしっと顔を両側から挟み込まれ固定されてしまった。

彼の顔がわたしの耳を確認する為ぐっと近づいた。

右と左とをそれぞれしっかりと確認し、親指と人差し指とで耳たぶに触れる。


近いっ!近いっ!近いっってばぁああ!!!


あまりの距離の近さに硬直して息を呑んだ。内心焦っていて今にも全身から冷や汗が吹き出しそうだ。

なんだかものすごく居た堪れない。皆の視線がグサグサと突き刺さってくる気がする。


はやく離れてぇぇええええ!

何の拷問だこれっ!


目の前にあるディーの顔を直視していられなくて、わたしはぎゅっと目を瞑って耳に感じるくすぐったさを必死で耐えた。

暫くして耳たぶをなぞる様にしていたディーの指の動きが止まりその手が離れていくと、わたしは漸く目を開けて息を吐き出した。

ディーの方からも溜息が聞こえてくる。


「確認ミスだ」


吐き出された声は若干低い。恐る恐るディーを見上げるとその眉根には皺が寄っている。

何か思案しているのか時折考え込む様にしてはわたしの耳を見るを数度くり返していた。


「仕方ない。道具はないが」

「何する気っ!?」

「穴をあける」

「どうやって!!??」


不穏な言葉が発せられ、わたしは半ば悲鳴の様に問いかけた。

ディーの掌の上で光がパチッと小さくスパークした。


「ま、さ…か、雷!?」

「この光で貫通させれば一瞬だ。あいた穴も雷の熱で瞬時に焼かれ血も出らんだろう」

「いっやぁあああああ!!!怖い怖いって!怖すぎる~」


ディーがわたしの腕を掴もうとその手を伸ばしてきたが、それをひらりと躱すとジェイドさんの元に走り彼の腕に縋りついた。


「仕方ない。ならば氷でやってやるから来い」

「壊死しちゃうじゃないのっ!」


雷が嫌なら氷って発想がそもそも間違っている。

そういう問題ではない!断じて!

わたしは真っ青になりながらジェイドさんの背中に隠れるようにして拒否の姿勢を示した。


「絶対いやぁ!そんなことするくらいなら魔導石つけなくていい!」

「ユズハ、我儘を言っている場合じゃない」

「絶対にいやっ!」


ディーの威圧的な雰囲気に恐怖が更に募り、わたしはジェイドさんの後ろから顔だけを出して彼に向けると、絶対に嫌だと半泣きの涙目で睨みつけた。

わたしのその必死の抵抗にディーは深く溜息を零した。

ジェイドさんも雷や氷での強硬手段はあまりに酷だと今回ばかりはわたしを擁護してくれた。


「ディクス、そのやり方は私も賛同はしかねるわ。今回は仕方がないでしょう」


わたしとディーのやり取りを見守っていた姫様も助け船を出してくれた。

ディーはぐっと言葉を呑み込んだ。


「ユズハ、貴方の魔導石を貸して貰えるかしら?」


ジェイドさんの背に隠れていたわたしは姫様に言われて彼女の元へ行き、ディーから受け取った魔導石を渡した。


姫様は身に着けていたネックレスを外し、その細い鎖に通していた指輪を自身の指に付け替えている。

次に姫様はわたしが渡した魔導石の金具を外して細い鎖だけとなったネックレスの中心部分の穴にその針を通し金具を付け直した。

一連の様子をただ黙って見ていたわたしは驚愕して思わず大きな声を出してしまった。


「姫様それはいけません!」

「いいのよ。この鎖はどこでも簡単に手に入る物だし、他に貴方の魔導石を固定できるような物を持ち合わせていないもの」

「ですが…」

「ほら、これで首から下げておけるわ」

「…ありがとうございます」


申し訳ないのと恐れ多いのとで声が震えてしまう。

もうあまりの居た堪れなさに穴があったら本気で入りたい気分だ。

姫様は魔導石を取り付けたネックレスをわたしに着けてくれた。


「さあこれで準備は整ったわ。いきましょうか」

「…わかった。ユズハお前は俺から離れるなよ」

「……はぃ」


しぶしぶと言った様子でディーが姫様に答えるとわたしに念押ししてきた。

その視線の鋭さと声の低さにできれば近寄りたくない気持ちの方が大きかったが致し方ない。

ディーに返事をしたわたしの声は彼に聞こえたのか疑問に思う程小さかった。



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