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第21話 -遭遇-

読んでくださってありがとうございます。

中々進みませんが頑張ります。



「え?緋龍の鱗!?」


ディーが小さく零した言葉に驚いて、女の子の掌の中にあるものをもう一度今度は注意深く見つめた。


鱗と言われれば普通に目にする一般的なサイズの魚の物を想像してしまう私は、手のひらサイズ程の大きさの鱗など見たことがなかったので全くわからなかった。

しかし鱗と言われて再度見直してみれば確かに鱗にしか見えない。

緋龍のものだと言われればそれは規格外に大きくて当然だ。なんせこの国を守護する龍なのだ。小さい筈がない。

ディーに視線を向けると彼は間違いないと呟いた。


「それ、お兄ちゃんがくれたお守りって言ってたよね」

「うん!お兄ちゃんは冒険者?なんだけど、ちょっと前に帰ってきてこれをくれたの!」


そう言って女の子はキラキラとした笑顔を見せた。


「お兄ちゃんは今もお家にいるの?」

「ううん、何日か前に出て行っちゃった」

「そっか、お兄ちゃんはそのお守りのこと何か言っていた?」


わたしがそう言うと、女の子はお守りを貰った時のことを話してくれた。


「お兄ちゃん龍に会ったんだって。炎の様に真っ赤な龍だったって。ここからずっと、えっとお日様が昇る方にある山の中で。すっごく大きかったって。戦ったけど勝てなくて、もうだめだと思ったら龍が話しかけてきたんだって。なんか、かご?っていうのをもらったって言っていたよ」

「緋龍の加護を受けた!?」


ディーが再び発した突然の声に女の子はびくっと体を震えさせた。

わたしはその子の頭を撫でながら落ち着くのを待って話しかけた。

ディーは気まずそうに再び口を噤んでいる。


「お兄ちゃんはその加護については何か言っていた?」

「んー…俺は強くなった!って」

「それだけ?」

「うん」

「そっか」


女の子が話してくれたことをまとめると。

彼女のお兄ちゃんは緋龍と戦った時にその体から剥がれ落ちた鱗を持って帰った。

この国を守護する龍が落とした物。

お守りとしてこれ以上の物はないと思って大事な妹を護ってくれるように彼女に渡したようだ。

彼が緋龍と戦ったのはここから日が昇る方角にある山の中で半月ほど前のこと。

戦いの後、緋龍はこの街の方へ向かって飛び立ったので怪我が治るのを待って家族の様子が気になったこともあり帰ってきたということらしい。

そして家族が元気なことを確認するとまた出て行ったそうだ。


思ってもみなかった情報が得られ、わたしとディーは顔を見合わせて頷くと女の子に話してくれたお礼を言って立ち上がり、滞在先の屋敷へと戻った。



*・*・*



陽も落ちて薄暗くなりつつある邸に情報収集に散らばっていた全員が戻り応接室に集まっていた。

各々が集めてきた情報を一つ一つ確認し、ディーからも街で出会った女の子の話がなされると緋龍の居場所について、焔煉の谷にいる可能性がかなり濃厚であることが明確となった。


「じゃあ、緋龍が焔煉の谷にいる可能性は更に上がったということね」

「数日前から姿を現す魔物がめっきり減ったという情報もある。近くにいるのは間違いないだろうな」


姫様の言葉に続き、グレン様が魔物の出現についての情報を告げると全員が頷いた。次いでディーが短く全員に問いかける。

「いつ出る?」

「早い方が良いでしょう」

「同感だ」


ジェイドさんの返答にグレン様も他の騎士達も同意した。

姫様もルーク様も異論はないようで頷いている。

その後緋龍の棲み処までの移動ルートについての綿密な打ち合わせが行われ、焔煉の谷へ向かう最終確認をしたのだった。



*・*・*



王宮からついてきた侍女さん三人とその護衛の為の騎士一人が邸に待機することになり、ジェイドさんと残りの騎士の三人を含むわたし達八人はフィレントの街を朝早くに出発した。


時刻は正午を幾分か過ぎた頃だろうか。太陽が真上よりも少し西に傾いた頃。

わたし達は軽く食事をしてから焔煉の谷に向かって森の中を進んでいた。


辺りを警戒しながら進んでいたが、さして強い魔物と遭遇することもなく順調に目的地の傍までやってきていた。

特殊な磁場というのがわたしにはどういうものか分からなかったが、ディー達の様子が変わらなかったことから、緋龍は未だここには現れていないのだろうと思われた。


視線の先に目的地である龍の棲み処と言われる場所が見え、もう少しで辿り着くそう思った時それは起こった。

何かがガサリと草を踏みつける音がして、全員が一斉にそちらを振り向く。

そこには数匹の魔物が悠然と立っており、そのギラギラとした目を光らせてこちらを見つめていた。


「焔獣狼ゲシュトロス……」

「……五匹…」

「最悪ね」


ディーが呟いた名を持つ魔物は鋭く長い牙の隙間から呼吸をするたびに焔を吐き出している。真っ黒な毛並みに覆われた体躯はがっしりとしていて大の大人よりも大きく、四本の足の指先にある鋭く尖った爪が吐き出された焔の光を浴びてキラリと妖しい光を放った。


金色に輝く瞳がわたし達をぐるりと見回すとそれらは一斉に飛びかかってきた。

最後の一匹が地を蹴ったのと、それを空から地上へと走った雷が貫いたのはほぼ同時だった。


「ギャウン」


雷に打たれ魔物が叫び声をあげた次の瞬間には空から勢いよく落ちてきた氷の粒がその身体を貫いていた。

一瞬の内に脅威と思われた魔物の一匹が地面に伏した。

淡い光を放つルーク様の持つ杖が視界の端に映り込み、雷と氷による攻撃は彼が放った魔法だと分かった。


その光景に目を奪われていると近くでガキンッと金属と硬い何かがぶつかり合う音が鳴り響いた。

わたしの右と左、両方からほぼ同時に。

硬直する体を叱咤して視線を向ければ、右側ではグレン様が魔物の牙を剣で受け止め、左側ではジェイドさんともう一人の騎士が飛びかかってきた魔物の爪を剣でそれぞれ受け止めていた。

残りの二匹は低い唸り声を上げながらこちらの様子を窺っている。


わたしの横に立つ姫様の首下で輝く宝石が眩い光を放った。


「グランディオーラ!」


姫様の放った魔法が光を纏ってわたしたちの体を覆う。

馬車の中で聞いた姫様が使う魔法の一つ、身体機能を向上させる聖属性魔法だ。

物理、魔法問わず全ての攻撃力とあらゆる耐性値を著しく上昇させるそれはとても分かり易くその効果を見せた。


「よっしゃ!」


魔物の二本の牙の間に剣を差し込みその攻撃を受け止めていたグレン様が持っていたその剣を捻る。

姫様の魔法によって底上げされた力が剣を握るグレン様の腕に上乗せされ、魔物はその体を簡単に反転させ地面に転がった。


「降れ、幾万の剣」


ディーの右手首にある腕輪に埋め込まれている宝石から青白い光が溢れると、空から数本の柄のない剣が降ってきて地面に転がり無防備に晒していた魔物の腹へと突き立てられた。


「グァオォオオ!」


瞬く間に二匹目が地に伏し、その姿は煙の様に掻き消えた。


わたしがそちらへ目を奪われている間にジェイドさん達が対峙していた魔物の方からも獣の呻き声が聞こえた。

ジェイドさんと騎士の一人が前足の爪を封じ、がら空きになったその背にもう一人の騎士が剣を突き立てたのだ。

一撃で葬り去ることは出来なかったが、傷を負った魔物が距離を取る為に一旦飛びのいたところにルーク様が再び雷を落としその体を雷撃が貫くと、魔物は短く呻き声を上げて絶命した。

その姿も煙となり消え去る。


残り二匹。


ルーク様の杖の宝玉とディーの右手首の腕輪の宝玉はいつでも魔法が発動できる光を保ったままだ。

グレン様達も剣を構えていつでも動けるよう魔物の次の動きを見据えている。


グルルと低い唸り声を発しながらギラギラとした瞳でこちらを見ていた魔物が前足にぐっと力を入れたのが分かった。


「っ!」


跳びかかってくるのだろうと全員が武器を握る手に力を込めた時、魔物はその身を翻し、森の中へと走り去っていった。


「随分とあっさり引いたな」


魔物の姿が消えた森の奥を見つめたままグレン様が呟いた。

辺りが再び静けさを取り戻すと、ようやく全員が緊張を解いてほっと息を吐き出した。




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