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第19話 -提案-

ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。

未熟な私の作品に目を通して頂き感謝です。頑張ります!


今日は朝から昨日の続きが行われている。

昨日と違うのはそこに姫様とグレン様までもが加わっているということだ。


わたしはディーの執務室に顔を揃えた面々を見回し、何だこの面子はなぜここに集う?と眉を顰め溜息を零し萎縮してしまっていた。

隣の休憩室にいますと伝えたがそれは許してもらえず同席させられている。

はっきり言って居心地が悪い。時折向けられる姫様やグレン様の視線がグサグサと突き刺さる。


たまにディーに用のある神官やグレン様に用のある騎士が訪ねてくるが、皆一様に扉を開けて中を見ては顔を引き攣らせ要件を言うことなく扉を閉めてしまう。


うん、まあその気持ちよくわかりますよ。

この面子ですものね。

それに明らかに穏やかでない雰囲気で論争が繰り広げられているのだから、声を掛けようものなら氷漬けにでもされてしまいそうだ。

これは言い過ぎだろうが、とにかく今この執務室内は他者が入り込む隙も無い程の喧騒に包まれていた。


口を開くことなく扉を閉めてしまった彼らの心境が手に取るように分かり、わたしは明後日の方向を見ながら口元を引き攣らせていた。


「埒があかねーな」


鍛え上げられがっしりとした身体をソファにドカッと埋めながらグレン様が大きな溜息と共にそう零した。

ルーク様も昨日から一向に進展しない状況に少しずつ苛立ちを見せている。言葉に出しはしないが、眉間に皺が寄っている。姫様もその美しい相貌を困ったように顰めていた。


「召喚の儀をもう一度やり直すというのは無理なんでしょうかね」


そう口を挟んだのはジェイドさんだ。

彼はわたしが召喚された日もその場に居て一部始終を見ていたので状況を良くわかっている。

しかも昨日から繰り広げられる論争を聞いていたので、これまでその意見が出ていなかったことも知っていた。

部屋にいる全員の視線がジェイドさんに向けられた。

その中でディーだけがわたしをちらりと見てから口を開いた。


「多分無理だ。ユズハはすでにこちら側に居る。大陸の反対側にでもいるなら話は別だが、術が発動しないだろう」

「いっそのこと行ってみるとか、大陸の反対側に」


ニヤリと笑って告げたのはグレン様だ。

だがそれが実現不可能であることはわたしでもわかる。


「ど阿呆が。俺とユズハは一定距離以上離れることができない。大陸の反対側どころかこの部屋からすら出られん」

「あー……だったなぁ」


その後しばらく沈黙が続き、誰からともなく溜息が零れた。



*・*・*



一向に解決策が見つからないままその日も夕刻に近づいていた。

一息入れましょうと声を掛け、紅茶を淹れて全員に配った。

皆の顔に浮かぶ疲労が見て取れる。


「なぁ…」


ソファにその長く逞しい四肢を投げ出し天井を仰いでいたグレン様がぼそりと呟いた。

全員がグレン様に視線を向ける。


「緋龍に会いに行ってみるとか……」

「は?」

「え!?」

「………」

「何をまた馬鹿げたことを」


グレン様の提案に皆が一斉に反応を示した。

その中で珍しく難色を示さなかったのはディーだ。顎に手を置くと何やら考え込んでいる。


「だってよー、この国を守護する龍だぜ!何百年と生きてる。何かしら知ってんじゃねーのか!?」

「……確かに、一理あるわね」

「………緋龍」


グレン様の言葉に今度は姫様もルーク様も思うところがあったらしく考え込んだ。


「あの、緋龍ってそんな簡単に会えるのですか?」


至極当然の疑問がわたしの口から発せられた。

ここに緋龍の加護を受けた人物が四人いるとは言え、どこに行けば会えるというのだろうか。


「緋龍の棲み処は国内に点在している。向かうならある程度予測をつけて行くしかないな」

「闇雲に行っても無駄足になれば時間が勿体ないわね」

「……焔煉の谷…」

「げっ!ルークそこは……」

「……目撃情報が特に多い場所ではあるな」


ルーク様が予想を付けた緋龍の棲み処の一つにグレン様は難色を示した。

ディーの反応を見る限りあまり良い場所でもなさそうだった。


「緋龍の棲み処の一つで、加護を受けたオレらが力を放出すれば案外びっくりして飛んでくるんじゃね?」

「……バカの発言も所々で的を射ているから、聞き流せなくて困るのよね」

「ちょっ、リスティニアひどくね?」

「貴方がバカなのは間違いないでしょう」

「……ひでぇ」


グレン様ががっくりと項垂れている横でルーク様は何やらぶつぶつと呟いている。

ディーもグレン様の発言に気になることがある様でずっと考え込んでいた。

何の進展もなく泥沼に嵌っていたかの様だった状況に一筋の光明が差し、重たかった部屋の空気がほんの少し軽くなったように感じた。

全員の意識が緋龍に会うことへシフトされていた。わたしを除いて。

じわじわと浮かんでくる不安から、気づけば言葉を発していた。


「わたしは加護を受けていません。わたしは会うことを認められないのではないでしょうか」


その疑問に答えてくれたのは姫様だった。


「大丈夫よ、貴方がこの世界に現れたその瞬間から緋龍はその存在を認識しているはず。なんせ貴方は『神子』なのだから」

「…神子?」


初めて聞いた言葉だった。

これまでわたしに課せられた役目について聞いてはいたが、『神子』という言葉は聞いたことがなかった。


「龍の加護を受けた者にはそれぞれ役目が与えられる。稀に役割を持たない者もいるが。ユズハにはまだ話していなかったな、加護を受けた者の役割を話しておく」


そう言ってディーはこれまで教えてもらっていなかった龍の加護を受けた者の役目について話してくれた。


「龍の加護を受けている者は、龍の代わりに役目を果たすことを条件に力を与えられている。加護によって与えられる恩恵は、あらゆる攻撃に対する耐性値の大幅なアップ、行使する力の増幅、生命力の増加。対して課せられた役目は―――」


緋の神官は、緋龍の代わりにまつりごとを担い、必要なえにしを結び物事を鎮静へと導くこと。

緋の騎士は、緋龍の代わりにその力を振るい、立ち塞がる困難を切り開くこと。

緋の魔術士は、緋龍の代わりにその力を行使し、はびこる魔を祓うこと。

緋の聖女は、緋龍の代わりに祈り、その力の恩恵を皆に与えること。


そして緋の神子は、緋龍の為に彼を称える詩を詠いその心を尽くすことで彼の力を増幅する。



「我々の誰よりも『龍』のために存在する神子であるお前を、緋龍は否定しない」


ここにきて知らされた新たな事実にわたしは驚愕せずにはいられなかった。

ていうか詩って何!?そんなの知らないんですけど!?


「詩って…何」

「それについてはまだ教えられる状況ではない。まずはこの国の言葉を覚えろ」

「うっ……はい」


多くを語らないディーだが、彼の言葉でおおよその見当がついた。

この国の言葉を覚えたその後に、また新たな言葉を覚えなければならないのだろう。

意味を知らなければ心を尽くすことはできない、つまりはそういうことだ。


え、もしかしてまたあのスパルタ学習期間が待ってるの…?


そのことに考えが至り顔を青ざめて頭を抱え込んでいると、傍に居たジェイドさんが苦笑を零してわたしの頭をぽんぽんと撫でてくれた。

きっとジェイドさんにも分かったのだろう。

近いうちにわたしがまたあの悪の帝王の教鞭を受けることになるであろうということが。


「代わって差し上げますよ、ジェイドさん」


彼を見上げにっこりと笑ってみせると、即座に「遠慮しときます」とにこやかに返された。

がっくりと項垂れるわたしをよそに、ディー達の間では緋龍に会いに行く為の段取りがちゃくちゃくと成されていた。


そしてわたしが現実逃避をしている間に日程が組まれ、準備が進められた。

翌日にはそれらのことが国王様に報告され、一連のことに許可が下りた。


出発は三日後。

メンバーは姫様、グレン様、ルーク様、ディーとわたしにジェイドさん。他に護衛騎士が数名と身の回りの世話に侍女が三人つくとのことだった。


緋龍に会えるのは加護を受けている四人とわたしだけだろうから、最終的には五人になる。

侍女さん達は目的地近くの街で待機、ジェイドさんと護衛の騎士達は一緒に行けるところまで行きそこで待機することとなった。


わたしは一抹の不安を抱きながら、出発の日を待った。



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