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第18話 -停頓-

ブックマークありがとうございます。

お待たせしてすみません。中々進みませんが今後も頑張ります。


翌日、昼近くになってからルーク様がディーを訪ねて部屋にやってきた。

休憩室にて本を読んでいたわたしも呼ばれ、執務室のソファに座り一緒に話を聞く。

応接テーブルにはすでにたくさんの書類が広げられていて、ルーク様の座るソファーの空いている部分には彼が持ってきたのだろう書物が数冊積み上げられていた。


昨日の今日でこれだけの資料を集めてくるなんてすごいと感心しながら二人の話に耳を傾けた。

その会話はわたしの存在などそっちのけで進められていく。



この術式は?

それだとこの部分の理論が当てはまらない。


これは?

これだと時間軸が合わないな。



ルーク様が見当をつけてきた内容をディーが一つ一つ精査している。

いくつもの術式についてあーだこーだと二人は論争を続けているが、この世界について若葉マークすら脱しきれていないわたしではそもそも話についていくことができない。たまに専門用語まで飛び交っているので、余計に意味不明だ。


時に、わたしここに居る意味ありますか?と問いたくなるが、候補から外れた資料をルーク様は無造作に床に放り投げるので、わたしはそれらをいそいそと片付けていた。

大事な資料を投げていいのだろうかと心配になってしまうが、ディーが何も言わないところを見ると大丈夫なのだろう。


そうこうしていると遠くで正午を告げる鐘の音が鳴ったが、二人は討論に夢中で気づいていない。

ちらりと二人を見ると間髪入れずやり取りが続いていた。

きっとわたしが呼び鈴を鳴らしたことにも気づいていないだろう。

こんこんと執務室の扉が控えめにノックされたことももちろん気づいてはいなかった。

二人の邪魔をしないよう静かに扉へと向かい、やってきていたスヴェンさんに要件を話した。


討論の邪魔になりにくく食べやすいものが良いだろうと思い、スヴェンさんに食事を頼んだ。

ここのところパニッツォが続いてしまうが仕方がない。


それ程待つことなく再び扉がノックされスヴェンさんがワゴンを押して戻ってきた。

上にかけられたナプキンを少し持ち上げ、準備してくれた食事内容を聞いた。

パニッツォに挟まれた具材は昨日の物とは違い、これまた美味しそうだ。

昨日に引き続き同じ物を頼んだので、具材を変えてくれたようだ。小さな心配りに笑顔が零れる。

お礼を告げて後はわたしがやりますと言うと、彼は一礼して退出した。


二人の間では未だ白熱した討論が続いている。

そんな二人に苦笑を零しつつ、スヴェンさんが持ってきてくれた茶葉を手に隣の給湯室へと向かった。


三人分の紅茶を淹れて戻ってくると、執務室入口扉の脇の壁に背中をつけて腕組みして立ち、ルーク様とディーの様子を眺めているジェイドさんの姿があった。


紅茶を淹れて戻ってきたわたしに気づいたジェイドさんは颯爽と近寄ってくると、わたしの手からトレイを取り上げた。

ワゴンの空いている棚に置いておくねと言ってトレイを持って行ってくれるジェイドさんにお礼を言うと、わたしは給湯室へ戻りもう一つ紅茶を淹れてから戻った。

なんだか前にも似たようなことがあったなぁとぼんやり思っていると、討論をしていたディーが驚いたようにジェイドさんの名前を呼んだ。


「お前、いつの間に入ってきたんだ」

「声は掛けたけど、返事がなかったんで勝手に入っちゃった」


ジェイドさんの悪気のない返事にディーは目を細めて軽く睨み付けている。

普段と変わらないそのやりとりに苦笑を零すと二人に声をかけた。


「キリが良いところで食事をとりませんか?」

「もうそんな時間か、気づかなかった」


丁度良く話が中断したので、食事をとるか確認を入れるとすんなりと受け入れられた。

執務室のテーブルの上の資料はまだ確認が必要なものもあり、簡単には片付けられないのでそのままにして隣の休憩室で食事をとることになった。

ディーとルーク様は散乱している資料を軽く寄せていたので、わたしは一足先にワゴンを押して休憩室へ行き、食事の準備をした。

ジェイドさんがくるとは思っていなかったが、パニッツォは多めに準備してもらったので量は大丈夫だろう。

様子を見ながら足りなければ追加をお願いすれば良いと思いながら食器を並べ終えたところで三人がやってきた。


「ジェイド、お前は何をしにきたんだ」

「姫様から進捗状況を聞いてこいって言われてね」

「今のところ進展はない」

「みたいだねー」


ディーとルーク様のやりとりからジェイドさんはある程度状況を読み取っていた様だった。

ルーク様はあらゆる文献や過去の資料から沢山の構想を持ち込んでいたが、一向に有益な解決策が見つからずディーも眉間に皺を寄せていたのだ。

そんなやりとりを見ていれば内容が理解できなくとも、状況に進展がみられないことは安易に予想がつくのだろう。


「お前は国王の側近だろう。なぜここにいる」

「今は状況が状況だからね、可能な限りディクスたちについて良いって言われたんだ。離れられないのは色々と不都合があるからさ」

ジェイドさんの返答にディーは眉間に皺を寄せ、小さく溜息を零した。

その表情から『面倒臭い』という思いがありありと読み取れた。


昨日、国王様に謁見した際、その隣に控えている彼の姿を見てわたしは驚いた。

王宮近衛騎士とは聞いていたが、まさか国王様直属の騎士とは思っていなかったからだ。

この兄弟いつも平然としているにも拘わらず、重要ポストに就いていて吃驚してしまう。

こんなに気軽に話をしても良い人たちなのかたまに心配になってくる。


僅かに顔を顰めたわたしに気づいてディーが「こいつに気を使う必要はないぞ」と声をかけてきた。

ジェイドさんも「普段通りでお願いしますね」とにこやかに微笑んでいるが、素直に聞き入れてよいものか若干考えてしまうところだ。

それでも彼らのわたしに対する態度がこれまでと変わりがないので、こちらも変に畏まったりすることなく接することができた。


ディーとルーク様は食事を取っている間も先程の続きを議論している。

よほど時間が惜しいのだろう。

ルーク様に至っては、召喚の術式を行使した者と呼ばれた者とが離れられなくなっているというこの現象がよほど興味深いのか、進展がないにも拘わらずその瞳の輝きは失われていない。

それどころか、自身が見当をつけていた対応策が悉く通用しないという結果が、より一層彼の探究心に火をつけているようだ。


食事をとった後も二人のやり取りは相変わらずだった。

わたしもルーク様がよけた資料を黙々と片付けていく。途中こられの資料はわたしが目を通しても良いものか聞いてみると、見て構わないと言われたので気になる単語を見つけた資料は引き抜き別にしておいた。


その日もすでに夕刻近くになり、進展が見られないまま解散となった。

ルーク様とジェイドさんが部屋を出ていくとディーはぐったりとしてソファに身体を預けた。

膨大な資料が持ち込まれ一つ一つ検討したにも拘わらず一向に手がかりが見つからずディーの溜息をつく回数が増えていた。

わたしはほんのり甘めの紅茶を準備するとディーへ差し出し、そのままソファの空いている方へ腰を下ろした。

彼の顔を覗き込めば疲労が見て取れた。


「少し横になってもいいか?」

「どうぞ」

「そのままでいてくれ」

「?」


何のことかわからず首を傾げて見ていると、隣に座っていたディーは少し身体をずらすとそのままわたしの方へ身体を横たえてきた。


「っ!ディー!?」


彼の頭はわたしの太ももの上にある。いわゆる膝枕というやつだ。

突然のことに慌てふためきあわあわと声にならない声を発してしまう。

驚きと恥ずかしさから彼の名を呼ぶが、ディーはこちらをちらりと見てから目を閉じた。


「少しだけでいい。こうしていると疲れが抜けていく」


そう言われてしまえば大人しくする他ない。彼の顔がお腹側を向いていないことが唯一の救いだ。

そっと溜息を零しソファに身体を預けた。

右手でそっと彼の髪を梳き優しく撫でると気持ち良さそうに頬を緩めた。

普段の威圧的な雰囲気を放つ彼もこうしていればただの可愛らしい人にしか見えない。


「眠ってもいいですよ?」

「……ああ」


暫くすると規則正しい呼吸音が聞こえてきて、ディーはそのまま眠ってしまった。

よほど脳を酷使したのだろう相当疲れたのだとわかった。


起きている分には寒くもなく暑くもない気温だったが、眠ってしまうのならば話は別だ。

肌寒くはないか気になったが時すでに遅し、もう動くことはできない。

少々困り果ててしまったが、寒さを感じれば目も覚めるだろうから無理に起こすことはないと思い、空いている方の手を彼の手に重ねた。


そうしている内にわたしもいつの間にか眠りに落ちていた。



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