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9/11

ナッツンはキュウリが嫌いで、河童にイジメられた事がある

☆前回のあらすじ☆


涙の説教の後、みんなでお風呂に入った。

母様が怖かった。姉様は大胆だった。父様は貧血で寝込んだ。


という事で、外出封じの札は 1週間程 作れないらしい。

やわらかな日差しの午後、布団の上で青白い顔をした父様が鼻栓をしていると、なんかアレに見える。母様の畳んでいる洗濯物を横から拝借して、白いパンツを父様のオデコに乗せてみた。それから合掌してみるが…

うーむ、ただの変態に見える。

母様のパンツを使って、ちょっと不謹慎なネタをやってる私に、父様は感動した風で

「ありがとう、桜子〜!」

と泣いていたが、別に看病しようと思った訳ではない。それこそ、知らぬが仏だろう。

「佳乃のパンツ被ったら、元気が出たよ!」

「変態!!」

パンツ仮面は母様のパンチによって、安静にする期間が2週間伸びてしまった。





おかしい…。おかしいぞ。


通常、ギャグシーンで受けた傷は次のページかコマには無くなっている。登場人物で無さそうな私でさえ、母様の隣の部屋まで壁を破壊して飛んでいくツッコミ傷を5分後には治していたのだ。確実に登場人物な父様の怪我が、2週間も治らない筈が無い。

母様が真剣(シリアス)に殴ったのか…。

白目を剥いてピクピクしている父様を、つま先で突く(つつ)。幸せそうに涎を垂らして、何かを呟いていた。血だるまで笑う父親を見て、姉様も若干 引いている。

まったく…子供の教育に悪い男ね。

何故かブーメランと書かれた棒が頭に刺さって血が吹き出たが、次のコマには治っていた。父様は相変わらず、ミイラ状態で寝込んでいる。

もしかしたら、この怪我に何か物語的な意味があるのかもしれない。












翌日…

「桃子、桜子、集合!」

「はーい」「はいなっ!」

昼食後、父様が布団に戻ったのを見計らって、母様が私達を台所に集合させた。コソコソ話をする気配を感じた姉様が、流しの側に置いてあったザルを被って、サササッと母様の前にしゃがみ込んだ。私も真似して、1番小さいザルを頭に乗っけて、カサカサッと移動する。それを見ていた母様がクスクス笑って、自分も頭にザルを乗っけた。

私の家族、世界一可愛い。

みんなでムフムフ笑いながら膝を着き合わせて、母様の言葉を待った。姉様によく似た蜂蜜色の目を楽しそうにタレさせて、母様が笑む。

「今から みんなで、一之心さんにプレゼントする お花を摘みに行きましょう」

「まぁ!私、お花摘み、大好きです!」

「わー、素敵です!」

母様の言った『みんな』という言葉には引っかかったけど、雰囲気に釣られて喜んでしまった。

『みんな』って言っても、9歳未満の私は外に出られないはずだ。

私の疑問を感じ取ったのか、母様がパチリとウインクをして、唇の前に人差し指を置いた。

「一之心さんには内緒よ」

マンマミーア!!!(意味知らない)

姉様と2人で母様の美しいポーズを真似しようとするが、ザルが ずり落ちて失敗する。

おかしいと思ったんだよ!この超人夫婦には、どうせ家の中の会話は筒抜けなのに内緒話って意味あるの?って思ったんだよ!流石 佳乃さん!前々から貴女は、私を外に連れ出す事に賛成派の人間だと思ってました!

サプライズプレゼントを名目に、一之心さんを黙らせたんですね!こんな家の中で私を外に連れ出す事を堂々と宣言しても、一之心さんが

「ちょっと待った!桜子は置いて行きなさい」

なんて言うが、この状況でそれを言った日には

「え?一之心さんったら、盗み聞きしてたんですか?せっかく驚かせようと思ったのに…」

「あぁ!父様が母様を泣かせました!」

「うわー、父様 盗み聞きしてたんですね」

と愛する妻と可愛い娘2人から滅多打ちにされるのだ。奴の性格上、それは出来ない。

策士だ!策士だよ、佳乃様!!

「母様、大好き!」

赤ちゃんの頃 吸いまくったモチモチの胸にダイブして、頭をグリングリンして感触を楽しんだ。それに便乗して、姉様も母様をモチモチしに行く。

「うぇひひ…」

と漏れる私の声を真似して、姉様も

「うぇひひ〜?」

と言って、首を傾ける。

「あらあら、どうしたの?」

と笑う母様にくっ付いて、私は堂々と山へお花摘みに出掛けた。










夜光村は8つの山と1つの小さな港で出来た土地で、私の家は信武山(のぶたけさん)に近い。今回 私達が向かったのは、村の南寄りにある悌蛇山(ていださん)

頂上には小さな湖があって、底の方に昔、子供を亡くした蛇神様を祀っているらしい。

何チャラ鬼子母神とも言うんだって。

その蛇神様の子供が女の子だったから、外に出ると連れ拐われるとかで夜光村の女の子は8歳まで外に出れないとか何とか。傍迷惑な神である。

「母様と桃子は薬草を摘んでくるので、桜子は父様に花束を作ってあげてくださいね。くれぐれも、母様が作った結界から外に出ない事。分かったわね?」

「はい!」

私の肩を掴んでゆっくり言い聞かせる母様に、4歳児らしく耳に手をつける良いお返事をした。天高くビシリと突き上げられた手を見て、母様がクスリと笑う。

「本当に?」

そんな事を言われると、自信が無くなる。








「それじゃあ、大人しくしてるのよ」

「行ってきまーす」

結局 私は、母様が何処からか出したロープで大きな木に繋がれ、ロープが届く範囲で花を摘む事になった。今なら、スーパーとかコンビニの前で電柱に繋がれた犬の気持ちがよく分かる。漫画でよく見る

「お前、ソレ何処から出したんだよ」

を生で見られて、楽しかった。

我が家の内装が和風+中国チックなので、家具や装飾の至る所に赤をアクセントに使われているのを覚えている。なので花は玄関の花瓶、食卓の花瓶、床の間の花瓶に合わせ、ふんわりとした白や黄色よりも鮮やかなオレンジ色や赤、差し色に小さくて青い花なんかを選んで、無駄な葉っぱはブチィッと千切る。

「どうせなら、ミステリーサークル作っちゃおう!」

縄のピンと張る所からギリギリの場所をぐるっと回って紐コンパスの様に円を描いていく。そしたらこの桜の木を中心に大きな穴が出来て、人々は人知を超えた力を感じてしまうのだ。

これがゴンブリッチの言う自然界の破調の力やで。…違うかも。


ともかく、ミステリーサークルを見つけた人はこうなる。

「これは何だっぺや!?」

「UFOが来たんだっぺ!ひぃぃぃ!村の長老に知らせねぇと…!くわばらくわばら…」

的な感じ。そんでもって、大事件になったらどうしよう?

『夜光村の怪奇! 突如現る謎の円陣〜桜の木の呪いか、UFOの仕業か!?〜』とか呼ばれちゃうのよ。それを聞きつけた各地の妖払いや怪奇探偵、果ては怪盗なんかも現れて夜光村は大変な事になるの。うふふ…。

脳内妄想が膨らみ過ぎて、作業の手が一時中断してしまう。

「はっ!ナッツンが調査に呼ばれたりしたら…」





【桜子ちゃんの妄想劇場】

小さく平和そのものであった村に起きた不可解な事件。母親と姉が少し目を離した隙に消えてしまった少女と現れた謎の(サークル)。現場に残るのは1本のロープと少女が父親の為に摘んだ花のみであった。

この事件を解決せんと各地からは凄腕の妖払い、降霊術者、巫女、占い師。果ては怪奇探偵や史上最強の麒麟児、魔性のピザ屋や巷を賑わす猫童子なども夜光村へ集結したが、事件の解決に至るどころか手掛かりさえ掴めていなかった。

誰もが最後の望みを託したのは、1人の少年。数多の事件を解決し、世界を何度も救ったヒーロー 高天ヶ原 甘奈津だった。

いや、ここの時点で もう少しナッツンについて紹介した方が良い。彼のネット界隈での あだ名は厨二病の闇鍋(カオスナベ)なのだから。

ナッツンがいかに愛されていて、可愛くて格好良くて、器用で強くて、純粋で…まるで赤子の様な天使なのに、おじいちゃんらしく悪知恵が働いたり90年以上続くトラブルメーカー体質の所為で変な体験をしてる事が多くて、番外編とかでよく回想してる所とか!色々あるんだよ、ナッツンは。彼は設定のゴミ箱なのだ、良い意味で。

ナッツンを知る為にはまず彼の歴史を知り、信念を知り、彼を愛する人達の事を知らなければならないのだ。でもソロソロ私とナッツンが出会うシーンの妄想をしたいから次に進もう。



「ふむむ。これが信乃の故郷に出来た謎の円ですか…。嫌な気配は感じませんね。無害そうで良かったです」

色とりどりの花に囲まれた大きな桜の木の下に、天女…。天男?の如く立つサラリとした黒髪の美青年。彼は花に語りかける様な穏やかな表情で、肩に乗る雑巾へ話しかけていた。

ゾウキンさんはナッツンの言葉にもっともらしく頷く。そうだ。それで良い。お前は赤べこの様にナッツンを全肯定してれば良いんだよ。

とにかく、陽光はスポットライトよりも柔らかく青年を照らしていたが、彼の姿はこの美しい花園の中でも一際 目を引く美貌を揃えていた。

そりゃ当たり前です。ナッツンだからね!

まだ少年らしさの残る華奢な腰には二本の刀が下げられており、幼い顔立ちに似合わぬ仙人の様に聡明な目のアンバランスさを上手く中和している。風はフワリと彼の頬を花の香りでくすぐるが、ナッツンの方が無限倍に良い匂いがするのだ。きっと太陽とお布団とお花とお菓子よりも良い匂いがする。

「ん…?君は何処の子ですか?」

夢の様な光景を打ち破る様に。遠くからナッツンを見ていた私に、ふと気付いたという顔でナッツンが話しかける。桜色の髪をした少女は彼が最高に良い人だという事を知っていたので一目で恋に落ちる。

うふふふふふふふふ!そんな不思議そうな顔してても、ナッツンは気付いていたのだ。

お花畑に来てから ずっと誰かにみられているなぁ…。と。

ナッツンは全部お見通しなんだから。

それでも敢えて、小さな子供への気遣いとしてナッツンは

「あれ?」

という体で話し掛けてくれるのだ。あの孫を見る様な優しい目を細めて、私が怖がらない様に背を低くして。

くぅぅ!優しい!!!ナッツンの優しさについて原稿用紙400枚は語りたいが、そんな語彙力と時間は持っていないので泣く泣く割愛。

優しい優しいナッツンに私は土下座…をするとナッツンが困るので、深〜いお辞儀をして謝った。

「ごめんなさい!そのミステリーサークルは私がイタズラをして作ったんです!」

「凄い行動力ですね…」

少し呆れた時の癖で、ナッツンが人差し指で眉間をゴシゴシした。

その仕草が生で見られて嬉しいです!!!

※ これは桜子の妄想内の出来事です。

ナッツンはまず褒めてくれる。優しいから。頭ごなしに人を否定したく無い。そんでもって悪い事をしたら、ちゃんと叱ってくれる!

「でも、お花さん達が泣いています。友達が根こそぎ奪われて悲しいって…」

花だけに根こそぎだなんて、流石ナッツン!

とか思ってるのは表に出さず、私は素直にナッツンに謝るのだ。

「必要以上に命を奪ってはいけませんよ」

「ごめんなさい!」

「良い子ですね」

ナッツンの微笑みにキュンとしちゃった私は、ここで気絶する。そこから家に運んでもらい、佳乃さんとか一之心さんとかの伝手で仲良くなって、たまにナッツンに遊んでもらう子供になる。

そして、ナッツンに素直な良い子だと気に入られた私は、ゆくゆくはナッツンの冒険について行ったりして、ピンチを救ってもらったり、救ったりしながら仲良くなり…

「うふふ…うふふふふ…ぐへへ、んふんふぅ!」

結婚しちゃったりしてぇ〜!やだっ、もぅ!結婚式は和風と洋風どっちが良いかしら?

紋付羽織袴ナッツンとタキシードナッツンを想像して、唇の端がにやぁ〜と釣り上がった。ナッツンがウェディングドレス着たいなら逆でも良いけど?やっぱりナッツンは和服だよね!でもでも、スーツなら前髪は上げて欲しいかな〜?ナッツンにはニキビなんて存在しないから、可愛らしいスベスベのオデコを出して、綺麗なお目目を拝ませてもらいたい。やーんっ!可愛いっ!!

「みません…」

ナッツンなら何でも似合うわよね!きゃっ!でもでも〜、ナッツンと結婚なんて畏れ多いわ!あら、でも私ったらブーケトスのブーケを作ってる途中だった気がする。という事は、もうナッツンと結婚してるも同然よね?

「すみません!…様!」

もぅ!もぅ!駄目よ!私ってば、こんな事 考えてたら お顔が崩れちゃう!

「すみません、そこの物の怪様!!!」

「誰が化け物じゃい!」

「げぶふぉっ!!?!」

ナッツンとの幸せな世界を破壊した緑の物体を、作ったばかりの花束で殴り飛ばした。手に薄緑の汁がくっ付き、花束が手からすっぽ抜ける。桜の大木にブチ当たったキュウリみたいなのはバラバラに砕けて、地面に落ちた。

「いけない!ナッツンの花束が…!」

慌てて緑の汁を そこら辺の草で拭いて、花束の無事な所を拾う。

「ふぅ…私ったら女の子なのに」

キュウリを殴るだなんて、お転婆が過ぎるわ。でも、キュウリよね。キュウリなら殴っても良いわよね?キュウリだし。

キュウリって死ぬのかな?

なんて、頭の中で割り箸に『キュウリ』と書いた お墓を建てながら恐る恐る桜の木の根元に近寄る。

「ぴよぴよぴよぴよ…」

「それって自分の口で言う奴だったんだ…」

漫画でよく見る星を頭の上で回転させながら、大きめのズッキーニが目を回していた。

最近、友達と金木犀の匂いがするなって話をして和みました。

私の友達は風流で素敵です!

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