ナッツンは神!
父様の朗々とした声に続き、祝詞を読む。
「大神の広き厚き御魂の…」
落ち着いてはっきりとした父様の声。
「オオ神の、広き、アツき、ミタマの」
幼い少女特有の高く澄んだ姉様の声。
「おおかみの、ひろきっあつきっ、みたまの」
幼さガン見えで、噛み噛みの私の声。
遠くから母様が朝食を作る包丁のリズミカルな音が心地よく、ゆったりとした祝詞は眠気を誘う。この朝の習慣は、大人になって一人暮らしになったら廃止したいと思う。ウツラウツラ寝ながら手を合わせていると、父様から優しく肩を叩かれる。この修行は祝詞を覚えるのも大事なのだが、1番は
「神様、ありがとうございます。大好きです。これからも色々とお願いしまーす!アイラァービュー!」
みたいな気持ちが大事らしいので、ハッキリ言わなくても大丈夫らしい。
今すぐ寝かせてくれるなら、神でも悪魔でも感謝します。
朝日の昇ったばかりの薄暗い部屋で、香合から漏れる煙がユラユラ揺れている。
「…畏み畏みも白す」
「かしこみ、かしこみ、もまをす」
「かしこに、かちこみ、もーす!」
終わった!
サッと立ち上がろうとすると、足が痺れて動けない。
「父様…」
ウルウルした上目遣いで、父様に両手を伸ばせばチョロい。タクシーは食卓まで私を運んでくれるのだ。私を抱っこした父様は、具体的に母様にお尻を蹴られた時くらいデレデレした顔で、私のホッペを突っついた。
「むふふ、桜子の甘えん坊さんめぇ〜!」
「むぅ!桜ちゃんばっかり羨ましいです!」
「でへへ!そんなに言われると困っちゃうなぁ〜!桃子は今度なぁ〜?」
完全に変態の顔で、父様が姉様の頭を撫でる。
触るな変態!おまわりさーん!助けてー!
父様にポンポンと撫でられた姉様は、フグみたいにプクッと頬を膨らませて
「父様のすけとうだらぁ!」
と言った。
可愛いかよ。
現在の私の生活。
朝は日の出と共に起きて、父・姉・私の3人で祝詞を詠み上げる。
朝食を軽く平らげ、祓道具屋『天野碗屋』の開店仕度を手伝う。
自由時間(母様の手伝い・お店で愛想を売る・自主トレ・ナッツン・ナッツンタイム・姉と遊ぶ…etc)
昼食。
1時間ほどの午睡。
母様から手習い(何も知らない子供のフリをするのが難しい…。姉がいて良かった)
自由時間。
『天野碗屋』の閉店作業の手伝いをする。
夕飯。
身を清め、家族全員で祝詞タイム(その後、姉様は写経もする)
日の入りし、程なく就寝。
(そして一応、寝てからが本番の修行がある。それについては、いつか語らせて欲しい。小1時間ほど。『疑心暗鬼』作中でナッツンが行っていた夢の国って、本当にあったんだね!感動!とだけは、先に言っておこう。ふっふっふ…)
という感じ。
「嗚呼、ナッツン…」
神様、私とナッツンは何時になったら出会えるのでしょうか?
そして4歳児とお爺ちゃん(人夫?)の恋は実るのでしょうか?
ナッツンが居る場所を推測して、その方向に向かって祈る。
1ヶ月ほど前、氷の国で起こった大地震により、鏡面島が水没したってニュースが流れて来たから、次はゾンビパニック編かぁ…。(この漫画では本当に、ニュースは桃の様に流れてくる)ナッツンが表紙で着てたチャイナ服、本編では一切出てこなかったけど、鼻血ブーだったから良しとしよう。凛ちゃんの登場シーンで、チャイナ服のスリットからチラリズムする真っ白い足と圧迫感の激しい巨乳をガン見してるナッツンが俗っぽくて可愛かった!ゾンビパニック編は、綺麗なお姉さんが多いね。そんで照れてるナッツン激カワ。ナッツンは可愛い。可愛いは正義。ナッツンは正義。実際、正義のヒーロー!ゾンビ倒してる姿も素敵だった!普段の鬼戦と違って見た目の変化がある分、恐ろしく見えるけど、ナッツンも容赦無く攻撃しやすくて良かったと思う。お札貼れば停止するし、感染は大きかったけど死人は少ないし。今頃、日元国の港に大蝶華帝国のゾンビが運び込まれちゃってるのかなぁ?というより、あれキョンシーだったよね。
「…ん?」
何だろう?胸がモヤモヤする。
服の襟元をギュッと掴んで、首を傾げる。
「どうしたの?」
私の様子に気付いた母様が、美人オーラと良い匂いを撒き散らしながら私の顔を覗き込んだ。姉様とそっくりな蜂蜜色の澄んだ目がパチパチと瞬く。折角なので両手を上げて、目をゴシゴシしながら母様に擦り寄った。
「母様、眠いですぅ。抱っこして下サ〜イ」
「桜子は甘えん坊さんね〜」
「んふふ〜!」
子供だから良いのだ!綺麗なお姉さん好き!
母様に抱き上げられ、満面の笑みを浮かべながら寝室に連れていかれた。
「おやすみなさい、良い夢を見るのよ」
オデコにチュッとキス1回。
蜂蜜色の目に見守られながら、トロトロと眠りに就く。
ナッツンの夢が見られます様に…。
窓の外からは、鈴虫らしきナニカの子守唄が聞こえてきていた。
「マズイ!」
私は慌てて体を起こした。ゾンビパニック編の何が引っ掛かったのか思い出したのだ。
「最初の犠牲になる村ってココじゃね!?」
大蝶華帝国の属国である日元は、大蝶華帝国唯一の島国だ。海禁の影響もあり、アクセスが悪いのは勿論、大陸からは少し遅れていて立場が弱いのも当然。
「日元よ」
「ははー!」
「ウチの国にいるヤバイ奴、そっちに流刑しても良い?」
「ひぇぇっ!よ、よろこんで!」
ってな感じに、日元の中にあり、一応 大蝶華帝国の飛び地となっている我が夜光村は、大蝶華帝国から送られてきたチョッピ〜リ危険人物や政治犯やらがウヨウヨ住んでいる。(信乃の家もそんな口だった事は、前話で話したよね?)その中には金持ちな奴もいて、ここで適度にヒャッハーしてたりもする。そして偶に大蝶華帝国の品を懐かしんで、大枚をはたく時もある。違法な業者から、大蝶華帝国のヤバイ物品輸入する奴がいるのだ。
「ゾンビなんてお取り寄せしたのは、一体どこの誰なの…?」
村には詳しくても、村人は知らねーわ。原作でも最初に噛まれた人の顔くらいしか分からないし。どうしよう?
…私が何とかする必要ってあるのか?
『疑心暗鬼』作中、最も被害が少ない戦いな気がするし、大丈夫でしょ。家族さえ無事なら良いや。
「嗚呼、ナッツン…」
見えない星空に向かって、お祈りのポーズをする。
みんなもナッツンの活躍を期待しよう!
ナッツンは神、ナッツンは神、ナッツンは神!