表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/11

ディアナッツン!

ナッツン最高!皆さん、元気ですか?


今日もナッツンが幸せでありますように。

皆さんもナッツンの為に祈りましょう。


ナッツンは神、ナッツンは神、ナッツンは神!


ナッツンへ届けとばかりに、両腕を天井に伸ばして祈った。

その長さなんと20cm。

色のハッキリしない視界に、小さな手がユラユラしてるのが見える。

赤ん坊だてらに必死に手を伸ばすが、天井でさえ遥か彼方だ。

こんな事を続けていれば私の二の腕はもげてしまうんじゃないだろうか。それでも止めない。


ナッツンへの愛が私を止めないのよ。


赤ん坊の二の腕は、ものっそいプルプルしていた。

(はた)から見るとお漏らし3秒前。


彼女の限界は近い。


そんな敬虔(アホ)なナッツン教徒に近寄る小さな影が1つ。

彼女は桃色のお団子をプルプル揺らし、おやつを食べるついでに妹に近寄った。


「桜ちゃーん!お姉ちゃんですよ〜!べよべよばー!」


突然 私の前に顔を出し、舌ったらずな言葉で喋るお姉ちゃん。

彼女は私をあやそうと、いないいないばあをした。

お姉ちゃんがドヤ顔で私を見たタイミングに笑う。

私にあやされ、歓喜する姉。

お姉ちゃんは直ぐにお母さんの元へ駆け、ピョンピョン跳ねながら自分の戦績を報告する。


「母様!母様!桜ちゃんが笑ったなのよ!」

「あら、そうなの?桜子はよく笑う子ね!桃子は泣いてばかりだったのよ」

「あぁん!それは言わないなのだわ!」


お姉ちゃんがお母さんのお腹を太鼓みたいに、ポカポカ叩く。

いやぁ、どっちも可愛いね。眼福眼福。

ところで…


「桜子!お母さんでちゅよ〜」


お祈り途中におっとりとした和服美女に抱き上げられて、デレデレェ〜っと愛想笑いを浮かべた。

私の笑顔に癒され、幸せそうに微笑む美女…。


彼女の名前は染井 佳乃(そめい よしの)

ナッツンが主人公でお馴染みの『疑心暗鬼』の中盤に出てくる大蝶華帝国の黒幕ラスボス……っぽい家の女当主で、中盤に行方不明になった人だ。

皇帝の台詞から何処かで殺されちゃった雰囲気だったけど、駆け落ちしていたらしい。

元が凄いお嬢様だからか、未だに乙女のような若々しい美人だ。

これで2児の母だなんて信じられない。


私の頬をツンツンした佳乃さんは満足気な笑みを漏らして

「この子ったら将来は傾国の美女になるわね!」

と言ってくれた。


「あぅあ〜(どーも)」

本物の傾国の美女にそう言われると、説得力がありますね。


ところでナッツンの…


「ほぅらぁ!パパだぞぉ〜!」


「ふぎゃぁぁぁ!!!(ヒゲ!あっち行け!ヒゲ!)」


突然、私の体を鷲掴みして、乱暴に高い高いをしたモサモサ男。

髪型を整えてヒゲを剃れば悔しいけどハニートラップが出来るレベルのイケメンな人。

この歩く猿山は私のお父さんだ。


彼の名前は御子神 一之心(みこがみ いちのしん)

『疑心暗鬼』作中では、ナッツンの刀を打ってくれた謎の多い武器屋さん。

最終回で いきなり現れたと思ったら、ナッツンを森に呼んで撃ち殺した奴。

コイツが殺したかはハッキリ書かれてないが、ナッツンを例の森に呼んだ時点で有罪!

たぶん、次回作で色々と暴かれる予定だった人。

ちょっぴり嫌い……。


「僕の可愛い天使ちゃ〜ん!」


「ふぎぃぃぃぃぃい!(ヒゲ男!ヒゲ!ヒゲ痛い!)」


首痛い!抱き方が違う!脇が痛いんだよ!私に触っていいのは可愛い女の子だけ!


お髭ジョリジョリのモンスターを遠ざける為、大声で泣き、保護してくれそうな人に手を伸ばす。


「ふえぇぇ〜(美人でボインなお姉さ〜ん)」

「あらあら、私の可愛い子ちゃん。泣かないでね〜」

避難成功!


私はグズグズ泣きながら お母さんのボインな胸に顔を埋めて、ニヤニヤしてるのがバレない様にした。


美人の胸は、良い匂いがするなぁ〜。ニヤニヤ。


「もう!桜子が嫌がってるわよ!」

「あーあ!父様が泣かせたなのだわ〜!」

「ふにゃあ!ふにゃあ!(バーカ!バーカ!)」


家族みんなで阿保父ちゃんを責め立てる。

妻、娘2人から非難された お父さんはショックで耳からマッシュルームを落とした。


おい待て、何で今耳から茸ドロップした?!


私以外の全員がマッシュルームを気にする事なく寸劇を続け、私は鼻水デロデュルのお父さんに泣きながら抱かれている。


「うぐぐ…。ずびゅるる、ずずず……。ごめんなぁ〜!桜子〜!悪い父ちゃんだなぁ〜!」

「ばぶぁ〜。(良い年したオッサンが泣くなよ〜)」

小指の爪レベルで可哀想な父を慰める為、手を伸ばす。

その手を押しのけるようにして、私の顔に到達する刺激物。


じょーりじょーり。


紙ヤスリみたいな頬が、赤子のやわい肌を削り取っていく。


「ぶぇぇぇぇえ!!!(だからヒゲを近付けるなって何回言えば済むんだ針ネズミ!)」


私の泣き声に呼応する様に窓ガラスが割れ始める。


「きゃぁぁぁ!!!泣かないで!泣かないでね〜!おぅ、よしよ〜し!良い子ねぇ〜!鬱陶しいパパはバイバイでちゅね〜!」


はいはーい!バイバイしまちゅ!


お母さんが右手を持ってブラブラさせるのに合わせて、ヒゲネズミにバイバイした。


「むむ…今月で3回目か。どうして桜子が泣くと怪異現象が起こるんだ?」

知らんがな。


「桜子は私に似て繊細なのよ!」

「ソユコト?!?」

ソユコトだ。


お母さんに保護してもらって、やっと人心地つく。

ションボリした針ネズミは、部屋の隅でお札の製作を始めた。

それを元気なお姉ちゃんが妨害する。


「桃ちゃんはとっても良い子だから、父様のお手伝い出来るなのよ〜!」

桃子お姉ちゃんが、すずりに手を伸ばす。

その手をガッシリ掴んで、お父さんが菩薩の様な笑みを浮かべた。


「ありがとう。でも、触っちゃ駄目だ」

お父さん、声がガチ。相手は何歳だと思ってるんだ。


一之心さんのガン開きの眼に負けず、ムムムと頬を膨らませるお姉ちゃん。


「ブー!桃ちゃんにも筆、チョーダイ!」

「あぁっ!!?」


お姉ちゃんがお父さんの筆をグイグイ引っ張って、お父さんの肘が墨壺を倒す。

いやぁ、微笑ましい光景だね。


ところでナッツンの世界に転生出来たんだけど、みんな祝福してくれない?

すげくね?私、すげくね?この愛、ナッツンに通じたんじゃね?


マジで最初に意識戻った時は


「だう…!(マジかー。アレじゃん、アレ。赤ちゃんになるアレじゃん。よく読んだわー。ここ和風だけど明らかに地球っぽく無いし、異世界じゃね?ナッツンの存在しない世界とか生きてる意味ないだろ)」


って思ったんだけどさ!周り観察するにつれ、ナッツンの世界との共通点が見えてきて興奮したね!

具体的に言うと、ナッツンの世界の空気を吸おうとスーハーし過ぎて、気絶する位には興奮した!

そっからはもう毎日が遊園地だよ!


「まぅ!(数珠飲んで良かったぁ〜!)」


お母さんは美人だし、お姉ちゃんは可愛いし、ナッツンの存在する時間軸と重なって産まれたし、ここってナッツンが最終的に永住する気だった土地だし、幸せだなぁ〜!


知らない髭もじゃの男(父親)にベタベタされるのは嫌だけど、幸せだなぁ〜!


ナッツンの恩人且つ死因の一端である男(父親)が五月蝿いけど、幸せだなぁ〜!


「お机、汚してごめんなさい…」

「桃子が反省したなら良いんだよ。一緒に片付けをしようね」

「うん!」


お姉ちゃんがショボーンと下げていた眉毛を嬉しそうに上げ、花の様な笑みを浮かべた。

お父さんも鶯色の目を細めて、ニッコリと笑う。


窓の外から入ってきた風で、ベッド脇に吊るされた てるてる坊主がユラユラ揺れた。


「そろそろ お寝んねしましょうね」


お母さんの優しい声がして、ピアノが似合いそうな白い手が窓を閉める。


「おやすみなさい」

オデコにチュッとキス1回。


蜂蜜色の目に見守られながら、トロトロと眠りにつく。


ナッツンの夢が見られます様に…。

カーテンが運んだ庭先の残り香から、夢を誘う様な淡い匂いがした。


























ところで、あの桜の花びらみたいになってる変な眉毛って遺伝するのかな…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ