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ハッピバースデー☆ナッツン!

うはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!


「お誕生日おめでとう、ナッツン…!!」

年明けだよ〜!みんなが待ちに待ってたナッツンの生誕祭だよ〜!

1月1日は、お正月なんて空気読めない発言する奴はいねぇがぁ〜!!ヒャッフゥ〜!


「今年もナッツンが健やかで元気に暮らせます様に!ナッツンが幸せになります様に!」


朝日も上りきらぬベランダに向けて、五体投地でお祈りをする。


私は、岩永(イワナガ) 優子(ユウコ)と申します。

貴方様(ナッツン)の信者で御座います。

好きな物はナッツンです。大好きな物もナッツンです。

趣味もナッツンです。職業もナッツンです。

あぁ…!ナッツン素晴らしい。人類皆、崇め奉りなさい。ナッツン…ナッツン…。


今日は何があろうとナッツンの事しか考えないぞぉ〜!


 明るくなってきた部屋は、白い壁が見えない程にナッツンの画にまみれていた。


どこに居てもナッツンの視線を感じる素晴らしイイネな部屋だ。


右のナッツンも(→)左のナッツンも(←)上ナッツン(↑)下ナッツン(↓)

今は見えないけどクローゼットの中のナッツン(in)も麗しいです。


「あ、ついでにお誕生日おめでとう。自分」


ナッツンと同じ誕生日で幸せ〜!


ろうそくを100本立てた通称 狂気のバースデーケーキに、火を灯していく。

ロウソクの火に照らされて、部屋中に飾られたナッツンが、オレンジ色にユラユラと輝いた。

雛人形を置く台だけを実家から譲り受け、現在大量のナッツンとナッツン関連商品を並べた祭壇に向かって、誕生日の歌を歌う。


「ハッピーバースデートゥーユー。ハッピーバースデートゥーユー。ハッピーバースデーディア…」


ディアなんて恥ずかしい!


ケーキを落とさない様に配慮しつつ、私はポッと赤くなった頬を左手で包んだ。

なるべくナッツン達から可愛く見える様に、女の子らしい笑みで照れ笑いをする。


「ハッピバースデ〜♪ディア、ナッツ〜ン♪」


ケーキを祭壇の下にお供えして、膝を着いた姿勢のまま一歩後ろに下がった。


「ハッピーバースデートゥーユー。」

パチパチパチ!


「音痴でごめんなさい」


ナッツン達が見てるのでお淑やかに微笑んで一礼した後、ナッツン達に煙が掛からない様にロウソクの火を消す。

真っ暗になった部屋で余韻に浸りつつ、もう一度ナッツンの祭壇に一礼して、電気を点けに向かった。

スイッチの近くには水着ナッツンのポスターがある。


「ナッツンに導かれる私は最強。多少暗くても、電気電気…」


スイッチを求めて手を前に出し、恐る恐る歩く。


壁際で手をウロウロさせていると、冷たいモノと手が触れ合ったり、何かに襲われそうで怖くなる。


足を掴まれたり、首を絞められたり…。

実際、この部屋は心霊現象がよく起こるのだ。


お化けさんは確実にいる!用心するに越した事は無い…!


ガチャッと音がして、何かをひっくり返した。

この感じを足で探るに、盛り塩を入れていたお皿だ。


いざとなったらナッツンが守ってくれると思うんだけど、ナッツンに迷惑を掛けない為には、自衛も大事だよね!

と、盛り塩やお札を用意している私って偉い!褒めて褒めて!


「あった」


カチッと音がして、部屋が明るくなる。暗闇になれた目をシパシパさせて、盛り塩を確認した。


「溶けて…る?」

と言う、私の声がやけに浮いてるように感じた。


盛り塩さん、茶色く変色して溶けてるんだけど、これって塩と砂糖を間違えたのかな?自分の足を確認すると、靴下についた塩は真っ白だ。


バンッ!!!


という衝撃音がして、壁が揺れ始めた。

ポスターの隙間にテキトーに貼ったお札がボロボロと崩れ、真っ赤な筋を残して落ちていく。


これはマズイぞ…。


バチンッと閃光が走って、電気が消えた。


「うへぇっ〜!お化けさんって言ってごめんなさい!!!お化け様です!」


こんな状況でも、ナッツンの漫画での初台詞「うへぇっ〜!」を引用できる自分が誇らしい。


うっすらと白み始めた窓に、大人、子供、大勢の真っ赤な手形がベタベタとくっ付いていく。

部屋の電気は若人の見るミュージックビデオばりにリズム良く明滅を繰り返していた。


「何でナッツンだらけの部屋に、お化け様が出るの〜!!!」


近くにあるナッツン人形と一緒に、お布団の中に避難した。

怖い事があったら、ナッツンの事を考えるのが1番だよね。

ナッツンといえば最高、最高といえばナッツン…(エンドレスパーリー)


えぇ〜〜〜〜〜ぃっ!!!


「悪鬼滅封!」


説明しよう。


『悪鬼滅封』とは、『疑心暗鬼』作中、ナッツンとナッツンのお師匠様、ナッツンの母方のお爺ちゃんにしか使えない高次元な技で、《滅せるなら滅して、滅せないなら封印してね》という、何とも便利な二段構えの術なのだ。


思いっきり柏手(かしわで)を打った瞬間から、全ての怪奇現象が収まる。


ナニコレ、流石ナッツン!ありがとう!


お布団からソロッと顔を出して、辺りを見回す。

変な笑い声も壁を引っ掻く音も無くなった!

電気も点いたし、もう安心だ!

いざ行かん!外の世界へ〜!


ピンポーン


インターホンの音にビビって、超光速で布団の中にインした。


心臓が口から転げ出るかと思った…!

こんなに自分が早く動けるなんて知らなかったぞ!

今、宙返りして布団の中に戻ったからな!凄くない?自分。


「すみませーん」

「うへぇっ〜!」

ナッツンは神、ナッツンは神、ナッツンは神!


ナッツンを生き返らせる為に購入した数多の数珠や壺に祈る。


総額いくらだと思ってるんだ!どんなお化け様も怖くないぞ!

役立たずの何たら石共よ、今こそ真価を発揮せよ!


「ナウマクサラダバー、チンピラ、フッケンショー、ソバカ!ナマクラサラマンダー、キンピラ…」


やべ、この呪文ナッツンが間違えて覚えてた奴だ。

可愛いなぁ、もう!このままじゃ神学校の生徒に笑われる。

もっと威力の高い呪文を唱えねば。


ナッツン人形が痛く無い様に袖だけガッチリ握りしめて、十字架のポーズをさせた。

あれ、これって不謹慎?と一瞬 思うが、いやいや、ナッツンは神だから。高威力よ。

十字架ポーズの人形を、十字架の様に掲げて祈る。


ナッツンは神、ナッツンは神、ナッツンは神!


「すみませーん!宅配便でーす!」

宅配便…?

「恥ずっ!」


ナッツン達の前で、かなり取り乱してしまったじゃんか…。


ビビりめ。髪型をテキトーに直してから、玄関で荷物を受け取る。


「たぶん注文してた数珠です」

「ありがとうございます」


「たぶん」って何だ。最近の兄ちゃんは、職務怠慢だなぁ。

もっと日本人の良い所を活かしていこうぜ。


ナッツンの手の平2つ分の大きさの箱を受け取り、伝票を確認すると、確かに数珠だった。

掌に握るとじんわりと熱い。

透明の水晶らしき石をベースに、ナッツンカラーの黒、青、赤。頼んだ気がする様なしない様な。


まぁ…。何にせよ、


「ナッツン達に捧げよう」


数珠も積もればナンタラ。こんだけ願ってればナッツンも生き返るさ。


物語の結末を変える事は出来ないだろうが 『疑心暗鬼』の続編が出たら、ナッツンが生き返るかもしれないじゃないか。


100歳の誕生日に殺されたナッツンへ。


何時の間にか電気の消えたナッツン部屋に戻る。


「ハッピバースヘブッ!」


ヌルヌルの元 盛り塩で足が滑った!


暗がりの中で微かに見えるナッツン人形を押し潰さない様に、慌てて空中で体勢を変える。


握っていた数珠がスポーンッと飛んで、狙ってるかの様な正確さで口の中に入った。


「んぐっ!」


こうして私は死んだ。

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