第15話 vsドラゴン
竜破壊の剣――Sランク(価格不明)
かつてドラゴンに家族を皆殺しにされた高名な刀匠が竜を殺すために自らの憎しみの魂を打ち込み、命と引き換えに生み出された魔剣。
その力はドラゴンを容易く切り裂くだけではなく、周りのドラゴンを弱体化させる効果も併せ持つ。
――――街道――――
「てえへんだ!てえへんだ!」
ウルに乗って移動していると。
パタパタと手足をばたつかせ、可愛らしい姿のウロンが大声で叫びながら近づいて来る。
「俺を迎えに来てくれたのか、ウロン!」
ウロンが迎えに来てくれたのが嬉しくて大声を上げる。
声を上げてから後ろにバーリが乗っている事を思い出して振り返るが、バーリはウルの背中にぐてっともたれ掛かりながら昼寝中だった。
こんな揺れる中よく眠れるもんだと呆れつつも、これ幸いにとウロンに歯の浮くようなセリフを投げかける。
「愛してるよウロン!君にずっと逢いたかった!」
「そんな寝言をほざいてる場合じゃありません!ドラゴン討伐ですよ!ドラゴン討伐!!」
俺のありったけの気持ちの叫びを寝言呼ばわりするとは、流石俺のウロン。
相変わらず手強いぜ。
しかしドラゴン討伐って何のことだ?
「ドラゴン討伐?」
「そう!ピンチなのですよ!」
ウロンの提示する情報は端的過ぎて何を言っているのか全く理解できない。
解読すべく頭を捻っていると、ウロンの代わりにアバターが分かりやすく伝えてくれる。
≪ビッチ3人組がドラゴン討伐を行なっていて、ピンチに陥っているとマスターは仰っているのです≫
便利な翻訳機能だ。
しかしドラゴン討伐でピンチ?
リリーは確か狂人討伐者だったはず。
巨人はドラゴンと並ぶ魔獣。それを弱冠15歳で倒したリリーがドラゴン相手にピンチに陥るとは思えないのだが。
≪1匹ならそうでしょう。ですがドラゴンは全部で5匹いるようです≫
5匹!?
5対1ってそれは幾らリリーでも無謀だろ!?
「アホだから5匹いる事に気づかなかったんですよ!!アホだから!!」
ウロンにあほ呼ばわりされたら世も末だ。
ん?ちょっと待てよ。
何でリリーに俺の心の声が聞こえてるんだ?
≪私が随時マスターへと中継しています。因みにマスターと連絡を取ったのも私です≫
余計な事スンナ!
いや、連絡してくれたのは有難いんだけども。
俺にもプライバシーってもんが……
≪マスターに聞かれては困るような如何わしい事を考えるのですか?≫
え……いや……まあ……
≪不潔です≫
獣姦勧めたりBL見せろとかほざいてた奴に言われたくねぇよ。
≪純粋な好奇心です。ミスターと一緒にしないで頂きたい≫
あー、はいはい。
どうせ俺は不順ですよ。
って今はそんな事よりリリー達の事だ。
「そんなにやばいのか?」
「後10分以内にはおっちにます!私のパンツをかけてもいいですよ!!」
「パンツ……」
ウロンの脱ぎたてのパンツを頭からかぶるイメージを思い浮かべる。
≪死んでください≫
うっせぇ!
好きな子のパンツを被るのは男のロマンなんだよ!
たぶん。
「エロイ妄想なんてしている暇があるなら早く助けに行ってください!そしたら妄想ではなく、生身のビッチ共が筆卸しをしてくれるますよ!」
そんな流れには絶対ならねーよ。
そもそも俺はウロン以外に興味は無い。
「ハイハイ、分かりましたから。さっさと転移魔法で助けに行ってください」
俺が行って何とかなるのか?
ドラゴン5匹相手に自分が大立ち回りするビジョンが全く浮かばない。
大体Sランクスキルは俺の切り札に近い物だ。それを移動に使ってしまったら、殆ど何もできない気がするのだが。バーリとウルが居たら何とかなるもんだろうか?
「問題ありませんよ!転移魔法なんかは発動から完了に若干ラグがあります!転移した瞬間変換すればあら不思議!使ったはずの魔法がノーカンに!正においしいとこどり!!」
≪流石はマスター!狡賢い事を考えさせたら超一流です!!≫
「ふふん!」
リリーが偉そうに胸を張る。
小さななりではあるがその胸はしっかりと膨らんでおり。胸を張った瞬間プルンと柔らかそうに揺れる様を見て、思わず鼻の下が帯びる。
≪エロ……いえミスター。私に案があります≫
く!
言い返せない!
≪竜破壊の剣を使われる事をお勧めします≫
ドラゴンバスター?
聞くからに竜に効きそうな名前だな。
≪竜を殺す為だけに生み出されたSランクの武器です。それさえあればミスター程度の実力でもドラゴンをなぎ倒す事が可能です≫
まじ!?
そんな凄い武器が有るのか!?
程度って言葉は気になるが、有用な情報を貰った事だし今回は聞き流してやろう。
「話が纏まった所でさあ転移です!」
≪位置に関しては私が誘導をします≫
「ああ、そうそう!犬っころと後ろのあほ面は此処に置いて行ってください!」
「は?何でだ」
「一人で駆けつけた方がカッコいいからです!雌共は間違いなくあそこがびしょびしょになりますよ!」
え?そんな理由?
ドラゴン相手にそんな理由で戦力置いていけってか?
相変わらずの気違いっぷりに、惚れ惚れする。
≪安心してください、ミスター。ドラゴンバスターと私の指示があれば、ドラゴン如き敵ではありません。マスターにカッコいい所を見せつけるチャンスですよ。それとも一人では怖くて何もできないとバーリ達に泣きついて、かっこ悪い所をマスターに堪能してもらいますか?≫
カッコいい姿を見せる……か。
俺の最終目的は魔王を倒す事だ。
だがそれ以上に大事な目的がある。
それはウロンのハートを掴む事だ!
良いだろう、やってやるぜ。
ウロンにカッコいい所を見せつけてやる!
「あ!不味いですよ!ドラゴンに囲まれちゃいました!30秒後にはミンチか丸焼きです!ミンチ系ヒロインとか丸焼き系ヒロインが好きとかじゃないなら、さっさと転移してください」
嫌な系列のヒロインだな。
勿論そんなグロイものに興味は無い。
俺は強欲を転移魔法に変え、発動させる。
目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。
体から重力感が失われ、まるで浮遊しているような感覚に包まれる。
≪今です!ドラゴンバスターに変換してください!≫
頭の中にアバターの声が響き。
それに反応して等価交換を発動させる。
手の中に剣が現れ、俺はそれをしっかりと握り込んだ。
それと同時に体に重力の影響が戻り。
視界に映る景色が、絵の具を混ぜたような目が周りそうな歪な空間から、一気に正常なものへと変わる。
「ふぁ!?」
視界いっぱいに広がる炎を目にして、思わず変な声を上げる。
オワタ。
俺の人生オワタ。
そう絶望した刹那。
突如炎が消え、鈍い光りを放つ金属がぼとぼとと音を立てて地面に落下する。
余りの急な出来事にぽかんとしていると、アバターの解説が入った。
≪オートガードです。ドラゴンのブレスは魔法扱いですので、オートガードが全てオリハルコンのインゴットに変換しました≫
オートガード先生!
ありがとうございます!
「「「勇人!」」」
背後からリリー達の声が響く。
「よお、待たせたな!」
その声に答えるかのように俺の声が……
当然発したのは俺ではない
横を見るとウロンがひゃっほうと言いながら、楽しそうに宙返りしていた。
≪カッコいいシーンでカッコいセリフ。マスターの憎い演出です≫
そんな演出は要らねぇ。
余計な事すんな!
俺はこっぱずかしさから、顔を引きつらせた。
「それじゃあ、ちょっくらドラゴン退治と行きますか」
またかよ!
勝手に声真似すんな!
≪いいからさっさとドラゴン退治しますよ。そのためドラゴンバスターです≫
仕方なしに、俺は手にした剣を構え。
正面の2体の竜を睨む。
背後にも2体いるが、そっちはリリー達が何とかしてくれると祈るばかりだ。
しかしでかい。
今からこんな化け物と戦うのかと思うと、自然と足が竦んでしまう。
「なーにビビってるんですか!こちはドラゴンバスターがあるんですよ!楽勝楽勝!」
相変わらず能天気な奴だ。
だが不思議とウロンに応援されると、体から緊張が抜けて自然体になれる。
これが愛の力って奴だな。
≪どうやらドラゴン達は御自慢のブレスを無効され事で、ミスターを相当警戒しているようですね≫
ドラゴン達は此方を睨むだけで動かないのはそういう理由か。
「むむむむ、これはチャンスですよ!今のうちにインゴットを回収です!」
≪流石ですマスター!インゴットを斬空波に変えればドラゴンなど一撃です!さあミスター、インゴットをとっとと回収するのです!≫
簡単に言ってくれるぜ。
インゴットはドラゴン達のすぐ目の前に転がっている。
回収するには突っ込まなければならない。
糞でかいドラゴンに突っ込むのは正直怖い。
だがここで臆したら、ウロンを失望させてしまう事に成る。
それだけは絶対駄目だ。
彼女に失望されるぐらいなら死んだほうがましだ。
俺は覚悟を決めてドラゴン達へと突っ込んだ。
幸いな事にドラゴン達は相当俺を警戒していたらしく、俺が突っ込むと大きく後ずさってくれた。お陰でインゴットを容易く回収できた。
≪今です!斬空波に変えてぶち込んでください1≫
言われるがままに、手の中のインゴットをスキルに変換し。
そして放つ。
と同時に、ウロンが俺の声真似で叫ぶ。
「斬空波!」
俺の振り下ろした剣から真空の刃が放たれ。
それは容易くドラゴンを巨体を真っ二つにしてしまった。
…………ぇ……マジで?
その光景を目の当たりにし、ウロンの声真似への不満など頭から吹っ飛んだ。
想像以上過ぎる。
≪ぼさっとしていないで、次のインゴットへ向かってください!≫
その余りの破壊力に一瞬唖然としてしまったが。
アバターの声で現実に引き戻された俺は、次のインゴットへと走る。
目の前で仲間が一刀両断されたのが相当効いたのだろう。
近づく俺にドラゴンが怯えて大きく後ずさる。
俺は二つ目のインゴットを拾いあげ、そして再び斬空波を放つ。
当然今度も真っ二つだ。
後は後ろの二匹。
そう思い振り返った瞬間、バサバサと大きな音を立てて2体のドラゴンが飛翔した。
「あいつら逃げるつもりですよ!ガッデーム!!」
まあ個人的に逃げてくれるなら問題ない。
≪何を言ってるのですか!逃がせばあのドラゴン達は報復として、人間の街を襲いますよ!?≫
げ!
それは不味い。
「逃がすかよ!」
俺は残りのインゴットへと駆けようとしたその時、リリーの声が耳に響く。
「勇人!」
リリーがいつのまにやらインゴットを回収していたらしく、此方へ投げてよこす。
俺は剣を地面に突き立て、高速で飛んでくるで2つのインゴットをそれぞれの手で受け止める。
いってえぇぇぇぇぇぇぇ!!
馬鹿力で投げやがって!
飛んできたインゴットを何とか受け止める事は出来たが、その余りの痛みに涙目に。
≪さっさと斬空波を撃ってくださ。逃げられますよ≫
くそが!
俺は痛みを我慢し、じんじん痛む手で剣を素早く引き抜き斬空波を上空へと2発放つ。
≪お見事です≫
放った斬空波は見事にドラゴン達に命中。
真っ二つになった巨体がどかどかと音をたてて地面に落下する。
とりあえず終わったな。
俺は両手をフーフーしながら余韻に浸っていると、リリーが寄ってきたので。
文句の一つでも言ってやろうかとも思ったが、全身血まみれで超怖かったので止めておいた。
とりあえずアシストの礼だけは言っておこう。
「さんきゅうリリー」
「ふ、礼を言うのは此方の方だ。助かったよ、ありがとう」
リリーが太陽の様に輝く眩しい笑顔を此方へとむける。
血塗れにもかかわらずその笑顔は美しく、つい見惚れてしまう。
俺はその事が無性に照れくさく感じ、頬を書きながら自分が照れている理由を誤魔化した。
「そうやって面と向かって礼を言われると、なんか気恥しいな」
≪フラグ。立ちましたね≫
立ってねーよ。
「あそこもおったってますよ!」
猶更ねーよ!!
こうしてドラゴンの脅威は去り。
俺はリリー達と合流する。