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第10話 手駒

≪魔力を感知しました。恐らく人間の物です≫


岩場の陰でウルを休憩させていると、アバターが唐突に人間の存在を俺に告げた。


「人間?こんな所で?」


アバターの申告に驚いて思わず声を上げる。


ウルをテイムして3日。

自分達の現在位置は未だ魔族領真っただ中だ。

そんな場所に人間の反応があると聞かされれば驚かざる得ない。


一瞬魔人ズィーによる誘拐が脳裏を過る。


≪安心してください。魔人の魔力は感知しておりません≫


「そうか」


胸をほっと撫で下ろす。

あんな化け物との遭遇は勘弁願いたい所だ。


≪如何いたしましょう?≫


人間か。

こんな場所で迷子ってことは無いよな?


この辺りから人間領に出るには直線でも300キロはあり、人間がふらっと迷い込むには無理がある場所だ。何のためにこんな場所に来てるのか知らないが、不用意な接触は避けた方がいい気がする。


≪残念なお知らせがあります。どうやら此方に気づいたようで、真っすぐ向かって来ております≫


「へ?」


≪30秒程度で此方へ到着するかと≫


「ちょ、ちょっと待て!?30秒?」


≪さらに加速したため、20秒を切りました≫


兎に角俺は立ち上がり。

腰に下げた革袋の中のボーションをスキルへと変換し、万一の際の戦闘に備えた。


俺の様子を察してか、ウルもすぐに起き上がり辺りを警戒する。


≪来ます≫


「うおおぉぉーん!」


アバターの合図とほぼ同時に、ウルが上を見上げ雄叫びを上げる。

俺はそのウルの視線を追う。


するとそこには人影が。


「飛行か!?」


≪いえ、跳躍です≫


ザンッという音と共に人影が地面へと着地する。


降ってきたのは青年。

年の頃は俺と同じぐらいだろうか。

黒髪黒目の浅黒い肌をしており。

筋肉質な上半身は剥き出しで、下には獣の皮を鞣した半ズボンをのみの出で立ちだ。


「よお!俺の名はバーリ・トゥードだ!」


青年は親指で自分を指して挨拶し、ワイルドな笑みを見せる。

一瞬ぽかんとしてしまったが、無視するのもあれなので此方も挨拶を返しておく。


「あー、えっと。俺は勇人・高田だ」


挨拶を返す際、等価交換で相手のスキルを確認する。


スキルは無しか……

じゃあどうやってさっきみたいな跳躍したんだ?


≪恐らく純粋に身体能力だけで行ったのでしょう≫


とんでもねーな。


まあ相手の能力は兎も角、挨拶してきた位だ。

問答無用で揉めると言う事は無いだろう。


「勇人・高田か。いい名前だ。そんな大きな魔獣を従えるくらいだから、強いんだろ?」


「いや、別にそういう訳じゃ……」


「俺は強い奴と戦いたい!だから勝負だ!」


「はぁ!?」


「行くぜ!!」


バーリはそう宣言すると、身を低く構える。


「ちょっと待て!俺は――」


「ぐるぅあぁ!!」


俺が言葉を言い終えるよりも先に、ウルがバーリに飛び掛かる。

その巨体から繰り出されるパワーとスピードの乗った爪の一撃を、バーリは容易く身を捻って躱し。そのままの勢いで体を旋回させ、回し蹴りをウルに叩きこんだ。


「げ!ウルを蹴り飛ばしやがった!」


蹴り飛ばされたウルは盛大に吹き飛び、転がる。

数百キロはあるであろうウルを吹き飛ばす威力の蹴りを自分が喰らったらと思うぞっとする。


「2対1か。まあ別に構わねぇぞ」


「いや、まて!俺は戦うつもりは――」


「いっくぜぇ!」


人の話聞いちゃいねぇ。

まあ勝手にとはいえ、ウルが先に仕掛けた以上仕方なしか。


≪目を瞑ってください!このままでは危険です!≫


アバターに言われて目を閉じる。

直後オートガードが体を捻らせた。


「痛ぅ」


頬に痛みが走り、血が垂れる感触が伝わる。

完全には躱しきれずに、頬を軽く引き裂かれたようだ。


「俺の攻撃を躱すとはやるじゃん!じゃんじゃん行くぜぇ!」


相手の攻撃に体が勝手に反応する。

避け、躱し、飛び退る。

だが相手の攻撃が此方の防御性能を上回っている為か、完全には躱しきれずに傷を負ってしまい。体の至る所に痛みが走る。

致命的な直撃を受けていないとはいえ、このまま行けばじり貧だ。


ウルはまだのびてるのか?

目を瞑っている為、周りの状況が自分では分からないのでアバターに尋ねる。


≪すでに起き上がっています。ですがバーリが高速で動き回りつつ此方へと接近戦を仕掛けてきている為、手出しができずにいます≫


くそっ!折角2体1だってのに!

数の利を生かせず、心の中で悪態をつく。


≪ミスター先程から気になっていたのですが。何故強欲を戦闘用スキルへと変換されないのですか?≫


あ…………忘れてた。


覚えたばかりというのもあるが、強欲の効果が空気過ぎて完全に失念していた。


≪私に案があります≫


どんな案だ?


≪強欲を水神の加護へと変換し、水中戦を仕掛ける事をお勧めします≫


水中戦か……


≪水中では人間の動きは大きく制限されますが、水神の加護さえあればこちらは地上と同じか、それ以上の動きが可能となります≫


成程、良さそうだ。

俺は早速スキルを水神の加護へと変換し、息を大きく吸い込んで当たりの空気と地面を水へと変える。


足場だった地面が消え、ドボンと体が沈みこむ。

ゆっくりと眼を開けると、目の前でバタバタと暴れるバーリの姿が映る。

バーリは暫く水中で苦しそうに手足をバタつかせた後、ぱたりと動きを止め、背中からゆっくりと浮かんでいく。


どうやらカナヅチだったようだ。


≪上手くいきました。作戦通りですね≫


水中戦って話はどこ行った?


≪これも立派な水中戦です≫


……うん、まあいいけど……

何となく釈然としない気持ちを抱えながら水から上がり、ぷかぷか浮いてるバーリを引き上げ地面へと転がす。


ピクリとも動かないバーリを見て、応急手当てをするべきか迷う。

蘇生した瞬間襲われないとも限らないし。

何より…………マウストゥマウスとか絶対にしたくない。

とりあえずほっぺを叩いてみて、それでだめなら寿命だったという事で諦めてもらおう。


そもそも勝負を仕掛けてきたのはバーリの方だしな。


「おい起きろ!」


二回程全力で往復びんたを喰らわすと「ヴォエ」っという呻き声と共に水を吐き出し、バーリが意識を取り戻す。


「…………まいった…………俺の負けだ」


バーリの口から参ったと聞き、一安心する。

これでもう襲われることは無いだろう。


「勇人は強いな」


あれで強いとか言われても正直もにょる。

水だして溺れさせただけだし。


≪勝ちは勝ちです≫


ま、そだな。

別にバーリとの優劣が決めたいわけでもなし。

細かい事は気にせずに、気になっていた事を俺はバーリに尋ねる。


「ところでバーリは何で魔族領なんかに居るんだ?」


「魔族領?なんだそれ?」


俺の質問に対し、バーリが不思議そうに首を捻る。

馬鹿っぽいとは思っていたが、真正だったか。

名前も知らない危険な場所にいるとかアホの極みだ。


≪ミスター、彼は魔獣とのハーフの様です。魔族領を知らないのはその辺りが原因なのではないでしょうか≫


ハーフ!?

人間って言ってなかったっけ?


≪あの時点では不確定でしたので、ちゃんと恐らくと付けましたが?≫


そういや言ってたな。

でもあの報告だと普通人間と思っちまうぞ。


≪そんな事は私の知った事ではありませんので≫


左様で。


しかし魔獣と人とのハーフか。

バーリを見る限り、どう見ても普通の人間にしか見えない。

アバターを疑う訳ではないが一応確認してみる。


「バーリは人間と魔獣のハーフなのか?」


「ああ、そうだぞ」


本人が肯定するなら本当なのだろう。


≪私の言葉を疑われたのですか?≫


心外と言わんばかりに声のトーンが下がる。


≪私への疑いはマスターへの疑いと同義。この事は合流出来次第マスターへと報告させて頂きます≫


すいません!

もう二度と疑いませんから勘弁してください!


俺はその場で土下座する。

バーリが不思議そうに此方を眺めているが、気にしている場合ではない。

それでなくともウロンは難攻不落だと言うのに、これ以上ハードルを上げられては適わん。


≪分かればよろしい。次からちゃんと気を付けてください≫


こいつを敵に回すのは不味いな。

ウロンに何を吹き込まれるか分かったものでは無い。

だが逆にアバターを懐柔できれば、これほど頼もしい味方はいないだろう。


将を射んと欲すれば先ず馬を射よと言う言葉もある。

俺はウロン攻略の足掛かりとして、まずはアバターの懐柔を心に決める。


≪丸聞こえですよ≫


そうだった。

俺は早々に足掛かりを失う。


「さっきからしゃがみ込んだり首を捻ったりして、一体何をやってるんだ?」


「ああ、いや気にするな。ところでバーリみたいなハーフはこの辺りに住んでるのか?」


「いや、俺一人だけだぞ。俺が生まれ育ったのはこの先の森だ」


バーリーは東を指さし、立ち上がる。

寂し気な表情でその方向を見つめながら、バーリは言葉を続けた。


「最近お袋たちが死んで一人になったから。俺は強くなるために森を出たんだ」


「そうか……」


こういう時なんと言葉をかけて良いのか分からない。

とりあえず神妙な顔つきで「そうか」と言っておく。


「と言う訳でこれからよろしくな!」


「んぁ?」


何がどうなったらこれからよろしくに繋がる?


「強くなる為にはライバルが必要だってお袋たちが言ってた。だから今日から俺とお前はライバルだ!」


≪熱い友情の物語ですね。感動しました≫


友情のゆの字もないんだが。

何をどうしたら感動できるんだ?


「宜しくなって言われても、俺は帰る所があるし」


誘拐されて今は魔族領に居るが、早々に人間の世界に変える予定だ。

こんな所でバーリと遊んでる場合ではない。


「だったら俺もついていくぜ」


「いや、ついてこられても困るんだが」


いきなり他人に喧嘩を売りつけるような奴を連れて帰るわけには行かない。

トラブルメーカーになるのは目に見えている。

何より……こいつはイケメンだ……


ないとは思う……ないとは思うが。

ウロンが気に入ったりした日には発狂する自信がある。


≪それなら問題ありませんよ。マスターはアホの子が基本嫌いですから≫


む、ウロンはアホの子が嫌いなのか。

つまり、知的なタイプの俺はウロンにとって好みのタイプって事だな。

何せ俺は知性の塊みたいなもんだし。


≪よくそれだけ自分に都合のいい想像ができますね?≫


恋愛なんてものはポジティブにするもんだ。

後ろ向きな恋に勝利などない!


≪精々頑張ってください≫


おう!おれはやるぜ!

必ずやウロンのハートをこの手にして見せる!


「いきなりガッツポーズしてどうしたんだ?」


「ああ、気にしないでくれ」


「まあいいけど。それで勇人は何処に帰るんだ?やっぱ強い奴がいる所か?へへ、楽しみだ」


嬉しそうに笑いながらバーリが手のひらと拳を打ち合わせる。

完全についてくる気満々だ。

ウロンの心配は無いにしても、面倒事を起こしそうなので連れて行く気は無いのだが。


≪ミスター、私は彼の帯同をお勧めします。彼が同行すれば魔族領を抜ける際の安全度が増し。手懐けられれば、来るべき魔王との戦いで戦力になるかと思われますので、上手く利用するのが得策かと≫


手懐けて利用ってお前……


≪綺麗事を並べていたのでは魔王は倒せません≫


それはそうかもしれないが。


≪そもそも本人が強者との戦いを望んでいる様なのですから、その辺りを気にする必要はないかと≫


まあ此方の思惑と相手の思惑が一致しているのならお互いさまとも言えるか。

けどまあ手懐けて利用なんてのは気に入らないので、直球で聞いてみる。


「バーリ。俺の最終目的は魔王を倒す事だ。それを手伝うってんなら付いて来ていいぜ」


「なに!?勇人もそうなのか!?俺もだ!」


「え?バーリも魔王討伐が目的なのか?」


「ああ、魔王討伐はお袋の夢だった。だから俺がお袋に変わって魔王を倒す!よろしくな!勇人!」


魔王の首狙ってたとか。

随分とアグレッシブなお母んだ事。


「ああ、よろしく頼む」


≪手駒獲得おめでとうございます≫


その言い方は止めろ。

イメージが悪いわ。



こうして俺の帰還に新たな同行者が加わるのだった。

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