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微弱デンキのおしおき師  作者: 龍輪龍
第一章 瞳の中のあなた
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呪いの子


 全ての記事は結論から始まります。

 けれどあなたは、始めから話して、と。

 どこが最初なのかは、迷うところですけれど。

 ……そうですね。


 私には霊感があります。


 ――――なんて言ったら、引きますか?

 お友達になってくれるというのなら、あなたも結構ヤバい方です。


 子供の頃、はばからずに霊感を主張して孤立しました。

 それが真っ当な反応だったと、今考えれば分かります。

 悪乗りした一部からは「証拠を撮って来い」とか。「そこにいるなら物を浮かせてみせろ」とか。

 そんな風にはやし立てられました。


 私には視えるだけ。

 往々にして意地悪なお化け達が協力してくれるはずもなく、嘘吐きの烙印を押されました。

 そのくせ誰かが風邪を引いたり、怪我をすると、決まって私のせいにされます。

 つまり、呪いだと。


 学校も登下校も、いつも一人。

 そのタイミングを狙って彼らは寄ってきます。

 特に絡んできたのが『すねこすり』。

 ご存じでしょうか? 人の足に纏わり付く、猫に似た妖怪。

 通信簿に「よく転びます。気をつけましょう」などと書いて頂けるほど、お世話になりました。給食のシチュー鍋もひっくり返しましたし、ブーイングも浴びました。おかげさまで、今でも本物の猫すら苦手です。


 だからロングスカートで奴を防げることを発見した日には、珍しく自分を褒めたくなりましたね。

 けれどこの画期的服装は輪をかけて陰気で、妖怪よりたちの悪い方々から不評を買いました。

 教室を仕切っているつもりの彼らは、イケてない異物の存在が許せないのです。

 何日も従わずにいると、体育のあと墨汁を掛けられていて。

 結局、丈を戻さざるを得ませんでした。


 すねこすりは「久し振りだにゃあ」とばかりにやってきます。

 前までは1,2度で飽きてくれた悪戯も、その日は雨上がりでぬかるんでいて、転ぶ度に泥んこになる私を見るのが楽しかったのでしょう。


 何度も何度もしつこく転ばされ、私はついに泣き出してしまいました。

 握り締めた拳も、投げつけた石も避けられて。

 悔しくて悔しくて、駄目だと分かっていても涙が止まらなくて。


 これは経験則ですが、妖怪は人の感情を吸っている節があります。

 だからこそ視える人を積極的に驚かし、困らせ、悲しませるのです。

 この体質こそが私の呪いでした。

 泣けば相手の思う壺。

 けれどもう、どうしようもありません。

 わんわん泣く私の前で、猫はむくむくと、虎のように膨れあがっていきます。


 目の前に開かれる真っ赤な口腔。

 上下に二本、長い牙を備えたあぎとの中へ。生温い吐息をかけられて。

 ――――喰われる。


 そう思って身を固めましたが、どれほど待っても何も起こらず。

 代わりに「大丈夫ですか?」と。そんな声が降ってきたのです。

 

 見上げれば虎の姿は霧散して、代わりに学ランを着た中学生のお兄さん。

 どうして、と思えば、暁神社の紙袋を下げていました。

 長ネギ束のように飛び出した破魔矢の山は、ちょっと滑稽で。

 あっけにとられる私へ、差し伸べられた手は大きくて。


 泥まみれの私を背負って家まで送り届けてくれました。

 うわんうわんと泣きじゃくり、肩口まで汚してしまった私を怒りもせず、慰めてくれた優しげな顔。今でも時折思い出してはベッドの上でのたうち回ることがあります。

 黒歴史です。

 

 分かりますか? 見ず知らずの相手に甘えて泣きついて。荷物まで捨てさせて。

 その上ミニスカートでおんぶされた時、後ろ姿はどんな格好になるか。

 丸見えです。大惨事です。市中引き回しです。

 だというのに私と言えば、彼の温もりを必死に離すまいとしていたのです。

 思い出す度に消え入りたくなります。

 けれど、恥ずかしさの中に少しだけ嬉しさみたいな物が混じってて、それを噛みしめるように、何度も何度も再生してしまうのです。


 そんな淡い気持ちを4年間も抱いてしまったこと。

 これが一番の不覚。


 憧れの人と再会したのは高校に入ってすぐ。

 けど暫くは気付けませんでした。


 本物があまりにもあんまりな有様だったからです。

 私の中で美化され続け、あり得ない騎士ナイト様に育っていた可能性を十二分に考慮して差し上げ、多めに差し引いたとしても。

 やっぱないわー。となる訳です。


 幼い日の憧れを粉微塵にされたのが高一の夏。

 それから冬が過ぎ、新たな春を迎え。

 修復の見込みはありませんでした。

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