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微弱デンキのおしおき師  作者: 龍輪龍
第三章 ヴァンパイアハンター
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ごめんなさいでは済みません


 工場の裏手に回ると視界が再び開けました。

 真っ暗な山道側への通用門が70m先に見え、脇には小さな警備員室がありますが、当然無人です。

 敷地内は高い塀と有刺鉄線でグルリと囲まれていて、正門か通用門を使わないと出入りできない作りなのでしょう。

 この辺りは搬入口のようです。トラック用のプラットホームが3つもあり、フォークリフトでそのまま積み卸しが出来るようになっています。

 今は工場内に続く長大なシャッターも閉ざされていて、施錠されているのは勿論のこと、人力では到底開けられません。

 プラットホームに上がって端まで歩くと、奥の敷地に車が並んでいることに気が付きました。それもかなりの台数。

 建物が作る死角にひっそりと、寂れた工場には似つかわしくない高級外車。黒塗りのワゴンバス。冷凍用の荷台を積んだ中型トラック。それに、パトカー。

 ゾッ、と総毛立ちました。

「……つ、佃先輩。グールは繁華街に移動しているはずでは……」

「おかしいな。我輩の推理では――――」

「その推理、半分ぐらい外れてますからね。水鏡君は吸血鬼じゃなかったし、吸血鬼が犯罪者しか襲わないってのも、外れです。あと……」

「だ、だがほら、ここが本拠地なのは間違いなさそうだぞ……?」

 言い合いながら後退りする私達の背後から、ギィィィ、と何かが軋みました。

 シャッター脇の扉が突然開いたのです。

 のそりと現れた大男のシルエット。月に照らされて、腐りかけた顔が露わになります。

 白濁した眼が、萎縮して固まる私達を捉えて。


「キィィャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 不気味で甲高い悲鳴。

 ガグンッと胸を反り、耳まで裂けた口を大きく開いて、大音量のサイレンで夜のしじまを破ります。

 まるで妖怪の警笛。

 私達は背筋を凍らせて震え上がりました。

 扉の奥からは凄まじい足音が迫ってきます。

 それはもうドガガガガという勢いで地面まで揺れています。一人二人の物じゃない。

 私を庇う姿勢のまま固まった部長の背を引っ掴んで一目散。


 程なく扉からグール達が溢れ出すのを肩越しにチラと見ました。

 蜂の巣を突いた騒ぎです。プラットホームから飛び降りて、目指すのは通用門。

 学内ではトップクラスの身長を誇る部長ですが、筋骨勝負になると中学生にもコールド負けします。もやしです。

 グールの群れ相手に敵うはずがないのです。

 しかしそれも正面から取っ組み合えばの話。

 日々のフィールドワークで鍛え上げられた私達の健脚に、重鈍な死体が追いつけるはずもありません。

 彼我の距離はグングン開いていきます。


 窮地は脱しました。

 危なかった、まさかあれほどのグールが詰め込まれているなんて。

 間もなく出口、間もなく生還、というところで通用門から強烈な光が差し込みます。

 それがヘッドライトのハイビームであることはすぐに気が付きました。

 エンジン音を響かせ、パトカーがまた一台飛び込んできたのです。なんて間の悪い!

 こちら目掛けて更に加速するパトカー。真っ直ぐに轢き殺す勢い。

 もう駄目だ、と思った瞬間、体がふわっ、と浮きました。

 私を抱えてすんでの所で横っ飛びした部長が背中から着地します。

 パトカーは後を追ってきたグールの群れに突っ込み、ボーリングのピンみたいに彼らを吹き飛ばして止まりました。

 敵が一掃された――――訳ではありません。四枚のドアが一斉に開き、中から出てきたのは、爛れきった奇怪な面相。身に纏った警官の制服で辛うじて人型を保ってる、そんな印象のグール達でした。

 前に向き直れば通用門を塞ぐように更にもう一台のワゴンバス。老人のグールがゾロゾロと降りてきて、挟み撃ちの形。

「こっちです!」私は部長の手を引いて走り出しました。なにがこっちなのかは私にも分かりません。進退窮まれば行ける方に行くしかないのです。


 パァンッと乾いた音がして、走る私のすぐ横でコンクリが弾けました。

 チャカです。拳銃です。ピストルです。

 この安っちい音が地球より重い人命を簡単に奪えるなんて、とても信じられません。

 背中から例の悲鳴が幾重にも追いかけてきて「ごめんなさい」で済ましてくれる雰囲気ではなさそうです。

 知られたからには生かしておかない、と何よりも銃声が雄弁に語っているのです。

「ゾンビが銃使うなんて反則ですよ!?」

「平気だ! 拳銃など、双方走りながらじゃ滅多に当たらんっ!」

 部長の言葉を否定するように連続して響く銃声。私達は間一髪、資材の影に飛び込みました。老人のグールが握っているのは拳銃などと言う生易しいものではなく。

「……百式機関短銃サブマシンガンであるな」

「ここ日本ですよ?! 銃刀法どうなってるんですか!?」

「それだ!」

「え?」

「芥屋さん、ごめんっ」

 言うが早いか私のスカートが豪快に捲りあげられました。

「ひゃああっ!? な、なにを?!」

 カラン、カラン、カランッ、と地面に転がる金属筒。

 スカートの内側に括り付けられていた手榴弾の安全ピンが一斉に外れたのです。

 あわや大爆発。

 伏せようとする私の首ねっこが引っ掴まれて、再びお姫様抱っこ。

 走り出す彼の後ろで手榴弾が爆発しました。

 炎も破片も撒き散らさず白煙だけが怒涛の如く広がって、こちらに突撃してきたグールの群れも濃煙に沈み、私達はその間隙を辛うじて擦り抜けました。

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