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転生オークの流離譚  作者: 桜
転生編
64/66

64. 召喚魔法

マッサージの精霊を呼び出して欲しいです~

 その場で茂みの中に身を低くするクロとロロナとダリ。3人の視線は自然とクロの左手の小指へと向けられていた。それを捧げることで、中心的寄生個体の息の根を止めることが出来るという保証はない。ただ、クロたちには他に幾つもの選択肢が残されていないのも事実だ。


 「クロ様、早まってはなりません。必ずしもそれほどの強力な魔法で敵を仕留めるということではなく、集落への進行を阻止したり、動きを封じるような魔法でもよろしいのではないでしょうか?」

 「まあ、そりゃ確かにそうだな」


 ダリの言うことはもっともだが、進行を止めたところでどうやって止めを刺すかだ。今のクロたちにはその決定打が欠けていた。


 「であれば、例えば中心的寄生個体が這い上がれないほどの大穴を作って、そこへ突き落としてくれる精霊などでもよろしいのでは?」

 「そんな精霊がいるのか?」


 クロが問い掛けで返すと、慌てたダリはその問い掛けをそのまま、ロロナへと丸投げするように視線を向けた。突然話を振られて困り顔になったロロナは”土の精霊と言うのはいますが、落とし穴に落とすとかはぁ……”と歯切れの悪い答えで言葉を濁すと、ダリも自らの浅慮を恥じるように顔を赤らめて俯いた。


 「まてよ……そうか。それならそこまで大きな生贄は必要ないかも知れないな」


 そう呟くとクロは、ロロナに向き直って細い両肩を掴んで真剣な表情で問い掛ける。


 「ロロナ、雷を起こす精霊はいるか? その精霊自体が雷で中心的寄生個体を仕留めてくれようとしなくてもいいんだ」


 クロの質問の意図が掴めずにロロナは眉をハの字にして考え込む。


 「すまん。オレの聞き方がまずかった。要は雷雲を呼ぶような精霊だ。とにかく強力な雷が発生する条件さえ揃えばいいんだ。どうだ?」

 「それならその名の通り”雷雲の精霊”と言うのがおります。薄灰色で半透明の羽の生えた、蛇のように長い尾を持つ鳥の姿で現れ、それが鳴き声を上げれば上げるほど、頭上に大きな雷雲が発生します」

 「それを呼ぶにはオレの何を差し出せば良い?」


 ロロナは申し訳なさそうにクロに視線を向けると、遠慮しながらも品定めするようにクロの全身を確認した。そして、遠慮がちに”左手の────”と続ける。やはり雷雲だけでもこの小指とはおさらばしなければいけないか。クロは自らの小指に視線を落とす。


 「────爪を数枚いただく事になるかと思います」

 「爪? 爪だけか? 小指はいいのか?」


 半ば小指を失う覚悟を決めていたクロは、あまりにも拍子抜けした内容に思わず声が裏返りそうになって聞き返した。


 「ですが雷雲の精霊はあくまで雷雲を呼ぶだけです。雷を操って敵を殲滅させるには、もっと強力な精霊を召喚する必要がありますが?」

 「いや、とりあえず雷雲の精霊でいいんだ。オレも出来ればここは五体満足で切り抜けたいからな」


 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべると、クロはダリに言付けを頼み、ひと足先に防衛班へと合流しに向かわせた。ダリは真剣な表情でクロの話を聞くと、力強く頷いて茂みの中を掻き分けて進んで行った。


 「ロロナ、雲の精霊を呼び出すにはどれくらい時間が掛かる?」

 「生贄をいただければ数分で」


 覚悟を決めた眼差しでロロナが答える。それを確認するとクロはロロナを引き連れて、ドラケルドたちに合流するために茂みを進んだ。かなり時間を消費してしまったらしく、中心的寄生個体は既に防衛班まで数百メートルの位置まで集落に迫っていていた。


 中心的寄生個体は時折、射掛けられる矢を嫌うように太い触手を大きく振り回し、それと同時に胞子嚢ほうしのうを矢のように吹き出して応戦する。木をなぎ倒し茂みを潰して中心的寄生個体は暴れる。既にドラケルドとバンガルの両班を合わせても、6人しか戦闘可能な班員は残されていなかった。


 「おぉ、クロ殿! よくぞご無事で!」


 クロの姿を確認したドラケルドが嬉しそうに声を上げた。クロが戻って来てくれた。その言葉を聞いた傷だらけの班員たちの目にも幾らかの力が湧き上がる。今やクロは彼らにとって最後の希望となっていた。


 「酋長、これからロロナが魔法で雷雲を呼びます。合図を出しますので目一杯、中心的寄生個体の注意を引き付けてください」

 「合図? いったいどんな?」


 クロはすぐに気付く合図なので心配はいらいないと言って笑顔を見せる。


「クロさん、雷雲なんか呼んでいったい何をする気だ?」

「雷雲が現れればいずれ落雷します。バンガルさんたちは落雷に巻き込まれないように、出来るだけ遠くへ離れて身を低くしてください。いいですね?」


 横で話を聞いていたバンガルの問い掛けにそう言い残すと、クロはロロナを引き連れて忙しく茂みを通って防衛班の元へと向かった。


 防衛班の元に着くと言付けを頼んでおいたダリが既に合流して、クロに言われた準備を仲間たちと一緒に進めていた。クロに気付いたダリは”クロ様、もうすぐ整います!”そう言いながらも、作業の手を休めることはなく忙しく動き回っていた。


 ダリたちが用意したのはたっぷりの水が入った大きな桶が3つ。それと鉄製の槍が4本。そして即席で用意した取っての付いた巨大な杙だ。


 「アニキ! 生きてたダか!?」

 「勝手に殺すな。それよりシン、ダリからの言付けはどうなった?」

 「ばっちりダヨ。桶の中にタップリ塩を入れておいたダヨ。こんな時に料理でもするダか? ちょっと濃過ぎないダか?」


 シンの天然ぶりに思わず笑みを漏らしながら、クロは”疲れた時には味の濃いものがちょうど良いんだよ”と合わせてやった。


 「皆ちょっと集まってくれ。これからオレたちは最後の作戦を決行する。説明するのでよく聞いてくれ」


 中心的寄生個体は目と鼻の先まで迫っていたが、班員たちは真剣な眼差しでクロの説明に聞き入る。誰もがこの作戦に失敗すれば、集落を引き払ってでも逃げる他に方法がないことを認識していたからだ。流石にこのときばかりは、シンも真剣な表情でクロの話に耳を傾けた。ひと通りの説明が終わると、班員たちの視線がクロとロロナへと注がれ、やがて作戦の成功を祈るようにお互いに小さく頷いた。


 「よし、チャンスは1回だ。準備はいいか?」

 「「おう!!」」

 「よし、ロロナやってくれ! シン合図を送れ!」


 クロの号令と同時に全員が配置に着く。クロとロロナは茂みへと身を隠し中心的寄生個体の右側面へ、シンが左側面へそれぞれ移動すると呪文を唱え始めた。他の班員たちは中心的寄生個体を正面に見据えて鉄製の槍を構え魔法の発動を待つ。


 これでダメなら打つ手はない。もし、ロロナの召喚魔法が連発可能なら、そのときは小指でも薬指でもくれてやる他ない。クロは槍を持つ手に力を込め密かに内心でそう決意する。先に魔法が発動したのはシンだった。


 「北方より吹く風 我が声を 高らかに伝えよ──── 『角笛ホーン』」


 重低音の角笛が辺りに響き渡った。流石にこれには中心的寄生個体も驚いたらしく、ビクリと歩みを止めて音の方を向いた。その直後にどの道もう後がないドラケルドたちが、矢の残り本数など気にすることなく、ありったけの弓を射掛けた。矢尻の1本1本には溝が掘られ、そこには火炎草が練り込まれている。中心的寄生個体はたまらず振り返って、ドラケルドたちを目掛けて太い触手を叩き込む。それを2手に分かれてかわしたドラケルドたちは尚も矢を射掛け続ける。


 次の刹那、中心的寄生個体は背後に鋭い衝撃を覚えた。そこには3本の鉄製の槍が突き立てられ、それをやってのけたダリたちはすぐさま元の位置まで後退している。側面からはシンが軽弓銃を構えて、慎重かつ素早く鉄製矢を打ち込む。クロには出来るだけ頭部付近に、1発も外さずに全て撃ち切れと指示されていた。


 「天翔ける薄墨の翼 雷を纏い 我が血の盟約に従いその姿を現せ────」


 クロはロロナが小枝で描いた心細い魔法陣の中央に立ち、呪文の詠唱の邪魔をしないように静かにその時を待つ。まるで初めてのピアノの発表会で、自分の順番を待つ少年のような心持でクロは手に汗を握る。


 『雷雲の精霊サンダークラウド召喚』


 その言葉と同時にクロの左手の爪が3枚、鮮血と共に弾け飛んだ。僅かに苦痛に顔を歪めるが、ロロナの集中を切らさぬようにとクロは声を出さずに耐える。やがて魔法陣の上に落ちた赤く染まった爪は、流れ出る血もろとも真っ赤な霧となって跡形もなく消え去った。飛び散った血はサービスでくれてやる。だから頼むぞ。クロは心の中でまだ見ぬ雷雲の精霊に手を合わせた。


 どこからともなく薄雲が立ち込め、やがてその中から1羽の尾の長い灰色の鳥が姿を現した。ヒョーヒョーと耳障りな声を上げながら上空を弧を描くように飛び回る。まさかあんな小鳥が雷雲の精霊か。クロは爪1枚という思った以上に軽い犠牲の対価を見上げ肩を落とす。


 やはり小指1本はくれてやるべきだったか。そうクロが後悔し始めた頃、小鳥が宙に描く弧を中心に雲が集まり始めた。小鳥はますます激しい鳴き声を上げて飛び回る。すると上空に集まった雲は見る見るうちに、薄墨をまき散らしたが如き積乱雲へと発達していった。


 クロは血の流れる左手と、上空に発生した積乱雲を交互に見て笑みを浮かべる。準備は整った。右手には鉄製の槍、血だらけの左手に鋼斬りを持つと、茂みから飛び出して中心的寄生個体の側面を目掛けて駆け抜けた。


 不意にクロを目掛けて触手が薙ぎ払われる。簡単にさせてくれないのは想定済みだ。それを跳んでかわすと、肉薄しそのまま鋼斬りを深々と突き刺した。中心的寄生個体がたまらず悲鳴を上げる。血に濡れる鋼斬りの柄を足場にして、そのまま中心的寄生個体に駆け上ると、頭上高く振りかぶった鉄製の槍を中心的寄生個体の頭上に突き立てた。正面側でドラケルドとバンガルたちが、ボロボロになりながらも槍や剣で最後の抵抗をしているのが見えた。


 「全員、退避だ!」


 クロのその言葉を合図にドラケルドたちが退避し、クロも突き刺したままの鋼斬りを回収する間もなく中心的寄生個体から距離を置いた。入れ替わるように背後からダリたちが、桶に入ったたっぷりの塩水を中心的寄生個体にぶっ掛けて一目散に逃げ去った。塩水を掛けられたのには中心的寄生個体も面食らったようで辺りを見回している。


 クロの狙いは単純なものだ。塩水を掛けたのは落雷時の電流をより流れやすくするためだ。そもそも水は電気が流れやすい性質を持つ。塩水にはナトリウムイオンや水素イオンが含まれており、水よりも更に電気が流れやすくなる。鉄製の槍と鉄製矢を打ち込むことで雷雲からの落雷を引き起こし、塩水によって大きな電流を流し込み、中心的寄生個体を感電死させると言うものだ。


 雷雲はゴロゴロと重々しい音を鳴り響かせながらますます広がっていく。尾の長い灰色の鳥の姿をした雷雲の精霊は既に見えなくなり、その独特な鳴き声だけを薄墨色の雲の中から響かせていた。


読んでくれてありがとうございます。

第1章終了後に気が向いたら大幅改稿しようかと思っています。

読み続けてくれた皆さま本当に感謝です♪


改稿後はご報告いたしますので、気が向いたらまた読んでいただけ

ると嬉しいです♪



※用語※

・雷雲の精霊サンダークラウド

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