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転生オークの流離譚  作者: 桜
転生編
61/66

61. 開戦

いよいよ戦闘開始!

 茂みに身を潜めながらクロは考える。次に街に行く機会があれば、蝋燭ではなくランタンのような物がないか探してみようかと。そんなことを思う間も、クロは霧の中を近付く徘徊魔植物クロウリングブッシュの気配に耳を澄ます。ズルズルとまるで巨大なミミズが地を這うような音が少しずつ近付くのを感じる。


 霧の中から姿を現したのはサイほど大きさの奇怪な姿の魔物だ。大きな枝角が4本。全身から体毛のように伸びる蔓を思わせる触手は、まるでそれ自体が別の生物であるかのように蠢く。ゆっくりとした足取りは大地を踏みしめると言うよりは、まるで這うようにも見える。


 よく見るとその背に誰かが乗っているように見える。暗がりな上に霧が立ち込めてはっきりと見えないが人型のように見える。もしかしてレミイナだろうか。


 「ズモ、ズモォォ……」


 クロが背の上の存在に注意を払っていると、サイの化物のような徘徊魔植物が地響きのような咆哮を上げた。するとその背後からそれに呼応するかのように”うがぁぁぁ”と悍ましい唸り声が響き、やがてたくさんの足音が聞こえて来た。


 引きずるような重い足取りで霧の中から姿を現したのは、徘徊魔植物に寄生された豚面人種オークの群れだ。そんなのが20体以上。はっきりと確認できないが、もしかすると30体近くいるかも知れない。茂みに身を隠す狩猟班たちに戦慄が走る。主戦班の面々は思わずクロに視線を向けた。無論、今は豚面人種の姿をしているものの、クロ自身は元は人間なので、寄生された彼らを見ても同胞の無念を慮るような感傷は湧き上がりはしない。クロが考えているのはこの数をいかに効率良く掃討するかだ。


 サイの化物のような徘徊魔植物を先頭に、寄生された豚面人種の群れはゆっくりとした足取りで移動集落方面へと向かう。やがて集団が近付くと、サイの化物のような徘徊魔植物の背に跨るのも、寄生された豚面人種の1体であることが見て取れた。と言うことはあのサイの化物のような徘徊魔植物がレミイナなのか。


 攻撃開始を合図するクロの右手はまだ下ろされていない。十分に敵を引き付ける。クロたちの位置からでは周囲の寄生された豚面人種が邪魔となり、サイの化物のような徘徊魔植物はやや狙い難い。いずれにしろこちらから狙えなくても、ドラケルドたちが射抜いてくれるはずだ。満を持してクロの右手は下ろされた。


 バシュッ。空を切る音が何重かに聞こえると、その直後に矢を喰らった寄生された豚面人種が苦しそうに悲鳴を上げる。更に反対側の茂みからドラケルドの班が射掛ける。火矢が寄生された豚面人種に突き刺さる。その隙に矢を構えたクロの班が再び矢を放つ。そして、更にドラケルドの班も。2巡目の矢が放たれると寄生された豚面人種の数は一気に半分以下になっていた。


 火矢を全身に浴びたサイの化物のような徘徊魔植物も、痛みに怒りを露わにするように暴れ回っているが、あれだけの巨体を何本かの矢で仕留めるのはやはり無理なようだ。


 「油壺いきます!」


 叫び声と同時にクロは油壺を抱えて茂みを飛び出すと、勢いを付けてサイの化物のような徘徊魔植物を目掛けて壺を投げつけた。壺は見事に命中すると辺りに油が飛び散った。それを確認したクロは再び茂みへと跳び込む。


 直後にドラケルドの班から放たれた何本かの火矢が標的を捉えると、たちどころに轟々と燃え上がり、苦し紛れに暴れるサイの化物のような徘徊魔植物が、周囲の寄生された豚面人種を巻き込んでいく。その背の上に跨っていた寄生された豚面人種もその反動で振り落とされ地面に叩き付けられた。


 「きえぇええい!」


 後方で呪文を唱え続けていたジャコナが、ここぞとばかりに放った祈祷術はサイの化物のような徘徊魔植物を中心に、その周囲の寄生された豚面人種の動きを鈍化させた。だが、その効き目にはバラつきがあるらしく、中には活発に襲い掛かる徘徊魔植物の姿も見える。


 「今じゃ! クロ殿!」


 ジャコナの掛け声とほぼ同時に、再びクロが茂みから飛び出した。その右手には火竜槍が握られている。勿論、槍の先端には褐色の火竜の喉仏も既にセットされてある。クロは左手に構えた鋼斬りで向かい来る寄生された豚面人種を薙ぎ払い、サイの化物のような徘徊魔植物を目掛けて火竜槍を投げ付けた。


 槍は真っ直ぐに標的の胴体付近に向かって飛んで行った。そして、それが突き刺さった直後、激しい地鳴りと共に半径1メートルにも達するかと思われる巨大な火柱が上がった。その熱風は凄まじく、周囲の寄生された豚面人種と同時に、茂みに逃げ込もうとしていたクロをも吹き飛んだ。


 「杙車くいぐるま、今です! 突撃!」

 「おぉぉ!」


 態勢を崩しながらも必死に叫ぶクロの号令で、両班が一斉に怒号を上げて茂みから飛び出した。ドラケルドの班からは2台の杙の先に炎を纏った杙車くいぐるまが飛び出す。1台を2人掛かりで押し進む杙車くいぐるまは寄生された豚面人種を跳ね飛ばしながら、サイの化物のような徘徊魔植物を目掛けて突き進む。


 火竜槍の炎で最早、瀕死の状態となったサイの化物のような徘徊魔植物は、最後の力を振り絞るように4本の枝角で1台の杙車くいぐるまを蹴散らした。その隙に横転した1台を避けるように突き進んだもう1台の焼け付く杙が、敵の横腹に見事に突き刺さった。


 「グモォォォオオ!」


 炎を身に纏うサイの化物のような徘徊魔植物の、悲痛な叫びが辺りに響き渡る。


 「皆さん、止めは慎重に! 周囲に散らばった寄生された豚面人種にも注意してください! まだ息がある者がいるはずです!」


 ここまでは完璧に作戦通り進んでいる。だが、クロは尚も追撃の手を緩めることはない。この機会に殲滅しなければ、寄生という手段で徘徊魔植物はまたその猛威を振るうはずだ。周囲に転がる寄生された豚面人種を1体ずつ確認し止めを刺していく。その際も不用意に近付くことはせず、狩猟班は遠間の槍を使って確実に仕留めていく。


 近くに転がっていた寄生された豚面人種を確認するクロの手が不意に止まった。既に事切れたその遺体の額に見える十字傷と白濁した瞳。見覚えがある。項の辺りにチリチリと嫌な予感が走る。クロは急いでサイの化物のような徘徊魔植物へと駆け寄った。


 「クロさん、そんなに慌ててどうした? こっちはもう大丈夫だぞ?」


 サイの化物のような徘徊魔植物に止めを刺していたバンガルが、大勝に浮かれたように明るい声を掛けた。


 「バ、バンガルさん、これって────」

 「どうやらグランラプトスらしいな。野生の巨獣だが、飼いならされた物は家畜とされる場合もある」


 グランラプトス。焼け焦げたその生物は口から飛び出した牙が上顎を突き破って、まるで4本の角のように天を突いていた。この特徴的な見た目は間違いない。この世界に降り立った時に見た生物だ。周囲では逃げ惑う寄生された豚面人種に、狩猟班たちが止めを刺している。自分はとんでもないミスを犯したのかも知れない。すぐに皆に伝えなければ。


 「ギュロォォ!」

 「ぐわぁ!」


 そうクロが考えた刹那、霧が霞む向こうから徘徊魔植物の悲鳴と同時に、それ以外の者の悲鳴が聞こえた。クロの背筋に冷たいものが走る。だが、勢い付いた狩猟班たちは”まだ居やがったか、死にぞこないが”と嬉々として槍を構えて止めを刺しに霧の中へと向かう。


 「うわぁ!」

 「ぐはっ!」


 次々と悲鳴が響く。だが、そのどれもが狩猟班のものだ。行っては駄目だ。今すぐに指令を出さなければ犠牲が更に増えてしまう。クロが必死に声を上げる。


 「まだです! 中心的寄生個体はまだ仕留めて────」


 言い終える前にクロたちの前に、変わり果てた姿となった蜥蜴人種リザードマンが放り込まれた。片足は腿から引き千切られ、首はあらぬ方向に捻じれている。だが、その手にはしっかりと弓を握ったまま絶命している。クロと同じ主戦班のイゴルだ。


 「両班、射撃用意! 目標は霧の中の中心的寄生個体!」


 その指示に騒然となりながらも、狩猟班は必死に統制と保とうと弓を構える。クロの隣にいたバンガルとシンも咄嗟に弓と軽弓銃を構えた。


 「ア、アニキ、敵のボスはさっき仕留めたんじゃないんダか?」

 「シン気を付けろ! あれはボスじゃない!」


 不安気に問い掛けるシンにクロはそう言い切る。バンガルたちの話を聞いてあの巨大な徘徊魔植物を、てっきり中心的寄生個体だと思い込んでいた。だが、あれはグランラプトスという巨獣に徘徊魔植物が寄生したものだ。クロがこの世界に降り立った時に最初に目にした生物だ。豚面人種たちは住処の近くを偶然に通り掛かった、中心的寄生個体に寄生されたのだろう。その時にあの巨獣も一緒に寄生されたに違いない。


 燃え上がる杙車くいぐるまの炎が、薄闇の中に真っ白な霧を浮かび上がらせる。霧の切れ間から一瞬、巨大な何かが蠢く姿が見える。大蛇だろうか。風が出て来た。バンガルの言うように雨が近付いているのだろうか。風に霧が流されると、グチュグチュと音を立てながら近付くそれが突如、皆の前に姿を現した。


 大蛇が霧の中で薙ぎ払われると、その衝撃で街道脇の木々が激しい衝突音を立てて倒された。皆は目の前に現れた徘徊魔植物の姿に息を飲んだ。何匹もの大蛇かと思われたそれは、移動式集落で最も大きな酋長の屋敷を思わせる、巨大な蛸のような姿をしていた徘徊魔植物の触手だったのだ。


 「ひぃぃいっ……」


 その姿にシンが思わず悲鳴のような声を上げる。


 「両班、矢を放て!」


 クロの号令と同時に巨大蛸のような徘徊魔植物を目掛けて矢が放たれる。だが、矢は巨大な触手に薙ぎ払われ、何本か突き刺さったはずの矢も、徘徊魔植物が体を震わせるとパラパラと地面に落ちる。蛸のような見た目に反して表皮は随分と頑丈と見える。これでは頼みの矢による遠距離攻撃も、爪楊枝で大岩を削るが如く手応えの無いものだ。


 「両班左右に展開し、角度を付けて十字射撃を開始!」


 その号令で角度をとって両班は十字射撃に入るが、これはあくまで時間稼ぎでしかない。


 「ジャコナ様、あれの動きを止めるのは可能でしょうか?」

 「やってみよう」


 ジャコナを少し離れた安全な場所へと移動させ、祈祷術の準備に入ってもらう。魔法と一緒で祈祷術も術の発動までには時間が掛かる。ましてや祈祷術は本来、魔法とは違い戦闘の最中に使用する類の術ではない。戦闘前の占いや加護、戦闘終了時の負傷者の手当てなどに使われることが多い。それをこの場で使用できるのは、単に熟練したジャコナの手腕によるものだ。


 「絶え間なく矢を射掛けろ!」


 祈祷術の発動のため、少しでも長く時間を稼ぐ必要がある。だが、巨大蛸のような徘徊魔植物は、そんな攻撃をものともせず少しずつにじり寄り間合いを詰める。射撃の合間にクロは油の壺を投げ付けた。ドラケルドが用意した物よりひと回り小さい、クロがラインバルトでボトムに用意してもらった物だ。壺は触手で薙ぎ払われ、宙で弾けると油が飛び散った。


 「火矢を射掛けろ!」


 クロが油壺を投げ込むのを確認したドラケルドが指示を出すと、援護班から4本の火矢が放たれた。僅かだが油を浴びた巨大蛸のような徘徊魔植物に火矢が届くと、思ったよりも簡単に引火した。だが、炎の勢いはすぐに弱まっていく。


 「ギュロロォォォオオ!」


 火を嫌って巨大蛸のような徘徊魔植物が巨大な触手を振り回し暴れると、土煙で一気に視界が悪くなる。次の瞬間にドラケルドの班から幾つかの悲鳴が上がり、ドサリと倒れる音が聞こえた。咄嗟にドラケルドは身構えた。戦場で何度か経験したことのあるそれは、理解不能のうちに訪れる窮地の兆候だった。僅かに何かが風を切る音が聞こえた気がする。流れ矢であるはずがない。では、あれはいったい。


 得体の知れない恐怖が彼らのすぐ傍まで迫っていた。

読んでくれてありがとうございます。


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