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転生オークの流離譚  作者: 桜
転生編
6/66

6. トンパ兄ちゃん

ちょっと短いです。トンパ兄ちゃん視点です。

トンパ君とぺロポン君の種族も明らかになります♪


 しめしめ。ぺロポンのヤツすっかりグランツ先生の見た目の弱々しさに騙されてるな。あの不安そうな顔ったらない。このままにしておくのも可哀そうだし、ここらで種明かしでもしてやるか。


 「グランツ先生は魔法使いなんだぜ」


 ぺロポンに小声で耳打ちしてやった。それを聞いたぺロポンの表情は「魔法使い?」と言ったきり、目をまんまるに見開いて呆けている。まるで巣から卵を1つ盗まれたのに、何が起こったのか事態を把握できないでいる大怪鳥の母鳥みたいだ。オレは込み上げる笑いを押さえるのに必死だった。


 「そうなんですか? グランツ先生?」

 「いや、違いますよ。ボクはただの絵描きですよ」


 ぺロポンが問い掛けるとグランツ先生は慌てて否定した。

 それを聞いてぺロポンの頭上にわかり易く疑問符が浮かぶ。

 あぁ。もうダメだ、腹筋が崩壊しそうだ。


 オレは堪え切れずに腹を抱えて転げ回り大笑いした。そう。先生は自分が魔法使いだとは認めないけど、魔法を使えるのは本当だ。魔法にも色々な種類があって、その中には魔法使いと呼ぶに相応しくないものがあるのは確かだ。でも、先生の魔法は“本物”だ。


 いつか先生のような魔法使いになって世界中を旅して周りたい。

 ぺロポンにも聞かせたことのないオレだけの秘密の夢だ。

 最も魔法適正の検査なんか受けたことないんだけどね。


 そんなことを考えるとついつい笑顔がこぼれちまう。不意にペロンポンに目をやると、オレの方を見てふくれっ面をしている。アイツまた笑われてると勘違いしてるのかもな。


 「怒るなって。グランツ先生が魔法を使えるのは本当さ。自称“絵描き”でも魔法が使えるなら“魔法使い”だろ?」

 「トンパ君、“自称”とは失礼な。ボクは正真正銘の絵描きですよ」


 ぺロポンはオレたちのやり取りを聞いて、まだ意味がわからずに戸惑っている様子だ。百聞は一見に如かず。本物の魔法を見ればぺロポンも納得するはず。


 「先生、ぺロポンに魔法を見せてあげてよ。頼むよ」


 先生が頼まれると弱いタイプなのは承知だ。

 文句を言いながらも先生は渋々ながらぺロポンに向き直る。


 「たしかに少しばかり魔法を使えるけど、ボクは落ちこぼれでちゃんとした魔法使いにはなれなかったんだ。だからボクの魔法効果は頼りにならない。それでも良いかい?」


 真っ直ぐに見詰めるぺロポンの視線に耐えられなくなったのだろう。

 グランツ先生が言い訳するようにぺロポンに説明をする。


 「先生は落ちこぼれなんかじゃないよ。あのときだってオレを助けてくれたじゃないか。少なくともオレは先生の描く絵なんかより魔法のほうが断然に凄いって思ってるよ」

 「絵描きであるボクにとっては喜べない言葉だけど。ありがとう、トンパ君」




 半年ほど前。オレは村の裏通りで先生に命を救われた。


 通りの壁に立て掛けてあった柱が倒れ、物音に驚いた馬が暴走して馬車ごとオレの方にまっすぐに突っ込んできた。いつものオレなら簡単に避けられたのだが、倒れた柱の何本かが複雑に行く手を阻んで逃げ道を塞いでいた。大怪我は免れない。下手をすれば命を失う可能性も。


 馬はすぐ目の前まで迫っていた。オレは覚悟を決めて歯を食いしばり硬く目を瞑った。だが、衝撃が訪れることはなく、何故か馬の嘶きが聞こえ蹄の音が止まり、それとは別の大きな物音が聞こえた。


 オレは辺りを見回し、すぐに何が起こったのかを理解した。目の前に浮かぶ不思議な輝く球体。馬は突然現れたその球体に驚いて突進を止め、その場で立ち上がって馬車ごとひっくり返って動けなくなっていた。それが先生の魔法だと知ったのは少し後のことだ。


 マジで驚いた。最初は天使が迎えに来たのかと思った。

 でも、それはオレに夢を与えてくれた天使のようなものでもあるんだ。


 「ぺロポン君、どうしますか?」

 「お、お願いします」


 グランツ先生の問い掛けにぺロポンが少し緊張した面持ちで答える。先生はぺロポンに近付くと”大丈夫。リラックスしてください”そう優しく声を掛け、左手をぺロポンの額にかざした。そして”少しだけそのまま動かないでくださいね”と言うと目を閉じる。


 そのまま先生は暫く動かない。

 精神を集中してるんだ。


 「ねえ、先生どうしたんですか?」


 声を掛けても反応しない先生を見てペロポンが不安そうな表情を浮かべる。オレも最初はそうだった。でも、大丈夫。魔法に集中しているときの先生はいつもこうだ。何でも先生の使う魔法は光の精霊と心の中で話をする必要があるらしい。 


 「新緑の芽生え 月夜の滴 賢明にして聖なる光の精霊よ 彼の者に光りの加護を与えたまえ 『御聖光ホーリーライト』」


 その言葉に呼応するかのようにと、グランツ先生の左手には青白い仄明かりが宿る。やがてゆっくりとぺロポンの体全体を包み込むように広がり、まるで体の中に染み込むかのように静かに消えていった。


 「光属性の防御魔法です。腕の立つ魔法使いであれば上位の聖水を上回る効力も期待できるのですが、

ボクの魔力では低級の魔物を遠ざける程度しか……」


 そう言ってグランツ先生は申し訳なさそうに微笑む。


 「それでも、気休め程度の効果はあるはずです」

 「すごいよ。本物の魔法だ!」


 説明を聞くとぺロポンは興奮しながら何度も繰り返した。無理もない。始めて先生に魔法を見せてもらったときはオレもそうだった。この村では寺院にいる僧侶様たち以外に魔法を使う者はほとんどいない。僅かに使う者たちも”生活魔法”と呼ばれる、生活の補助的役目を目的とした魔法くらいだ。それだけでも十分に凄いことだが、先生の話だと都会に行くと魔法を学ぶための大きな学校もあるのだらしい。


 その後、ぺロポンのグランツ先生を見る目が一変したのは言うまでもない。ぺロポンのヤツ”最初から何か凄そうな人だとは思ってたんだ”なんて調子の良いこと言って。


 「ぺロポン、知ってるか。魔法ってのは特定の種族以外は”盟約”ってやつが必要で、それをするのはとっても難しいことなんだぜ」


 オレが先生から聞きかじった魔法への知識を自慢気に話すと、ぺロポンは「メーヤク?」と不思議そうに呟いた。まだぺロポンにはちょっと早かったかな。じつはオレも詳しいことは知らないんだけど。


 「”盟約”というのは精霊と仲良しになるための約束のことです」


 グランツ先生がオレたちのためにわかりやすく説明する。


 「じゃあグランツ先生も精霊と盟約を結んでるんだね」

 「いや、ボクは盟約を結んではいないんです……」


 ぺロポンが問い掛けると先生は少し都合が悪そうに答えた。盟約を結ばなくても魔法を使えると言うことは、先生が“特定の種族”なのを意味する。オレもそのことは初めて知った。


 「ほら。ボクの耳」


 オレたちが不思議そうに見つめていると、先生は少し困ったように自分の耳先を指さして言った。耳先が微妙に長い。もしかして。


 「あれ、先生その耳って────」

 「はい。ボクには耳長族エルフの血が少しだけ流れているんです」


 強調するとうに”少しだけ”と言ったそれ意味するもの。

 ぺロポンはピンときてない様子だったが、オレにはわかった。

 グランツ先生は混血種クロスブリードだ。


 オレは獣人族ライカンスロープ、ぺロポンは小人族ホビット。この村にはたくさんの種族が集まる。信仰する宗教は地域や種族に大きな影響を受けることが多い。そのためほとんどの場合、同じ種族同士で家庭を持つことになる。もちろん例外もあるのだが、表立って異種族間での婚姻がなされない理由はそれだけではない。


 例えば耳長族エルフ鉱坑人族ドワーフがお互いを毛嫌いするように、この世界には種族間での偏見が存在する。そして、更に酷い差別の対象となり得るのが混血種だ。


 混血種クロスブリードは両種族への裏切りと見なされることもあり、とくに純潔種ぺティグリーで占められる上流階級にとっては忌み嫌われる存在と言えた。


 「ボクは生まれつき魔法への適性がありました。ただ、その適性は純潔種ぺティグリー耳長族エルフから見れば無に等しいものです」


 先生の話は子供のオレたちにとっても無関係とは言えなかった。何故ならオレたち東エリアの外れにある貧民区に住む者たちにとって偏見や差別は付きものだ。誰に迷惑を掛けた訳でもないのに、自らの存在自体を否定されなければいけない悔しさや虚しさは、物心ついたころから常に付いて回る。


 「先生、オレたちで化物の証拠を見つけて村のヤツらを見返してやろうぜ!」

 「まったく、トンパ君は────」


 そう言う先生の顔には優しい笑顔があった。

 不条理な現実を吹き飛ばすかのように、オレも満面の笑みを返す。


 「でも、ボクが危険だと判断したら即座に戻ると約束してください。いいですね?」


 そうこなくちゃ。オレとぺロポンは満面の笑みでハイタッチをした。


読んでくれてありがとうございました。

この流れでいくと、次回の視点は?



※用語※

御聖光ホーリーライト

耳長族エルフ

混血種クロスブリード

純潔種ぺティグリー

獣人族ライカンスロープ

小人族ホビット

鉱坑人族ドワーフ



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