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転生オークの流離譚  作者: 桜
転生編
55/66

55. 偏食

お昼は焼肉にしようかな?

ちょっと長めです♪

 クロたちは集落へ戻る途中に、仕留めた小人鹿(ピエ二)を小川の畔で捌くことにした。柔らかく癖の少ない良質の肉をより美味く保つには、出来るだけ早く血抜きの処理をして内臓を取り出し、小川で冷やしてやると良いとバンガルが教えてくれたからだ。


 後脚を持ってきたロープで縛り適当な太さの枝に吊るすと、バンガルは手際よく皮を剥ぎ取っていく。腹が開かれて内臓が取り出されると”うわぁあ”と声を上げてシンが背を向ける。意外にもロロナは薄っすらと笑みを浮かべながらその光景に見入っていた。ひょっとすると見慣れた光景だったのだろうか。調理の心得があるのかも知れない。


 取り出した内臓は、目の細かい網状の袋に入れて小川に放り込む。端から伸びた紐は、後から水に浸けた皮を剥がれ内臓を取り出した状態の小人鹿の前脚に結ぶ。このまま暫く水で冷やす。


 「付け合わせの野草でも探すか?」


 手持無沙汰なクロたちにバンガルが提案する。人間界での野草知識は多少あるものの、この世界での知識を得る機会はクロにとっても貴重だ。即席でバンガルが食べれる野草と、毒のある野草の見分け方などの講義をしてくれた。バンガルの講義は大雑把なものだったが、バンガルの野草を探す腕はなかなかのものだ。これだけ生い茂る植物の中から次々と食べられる野草を見つけ出しては、それが何と言う植物なのかを教えてくれた。


 薬草についても少し教えてもらったが、バンガルが知る薬草は擦り傷や打ち身に効果のある一般的なものだけらしく、もっと詳しく知りたいなら祈祷師のジャコナ婆に聞くと良いと勧められた。ジャコナ婆は薬草学に関してはこの集落で最も造詣が深いらしい。


 そんなバンガルの説明を最も熱心に聞き、積極的に野草探しに取り組んでいたのはロロナだった。狩りでまったく役に立つ場面がなかったのを気にしていたらしく”今度こそお役に立ちますから”と必死になって探し回っていた。だが、不思議なもので必死に探したからと言って、良い野草が見付かるわけではない。見付けた野草は食べれないことはないが、大して美味くもない物が多かった。


 「何か変わった植物があるダヨ。葉っぱの形が面白いダヨ」


 狩りで完全に燃え尽きた感のあった、シンの野草探しは不真面目そのものだった。だが、持ち前の直感と運の良さで、茂みの中に大きな丸い葉の植物を見付けた。


 「お! シン、そいつを引っこ抜いてみな」


 偶然に見付けたその植物をバンガルに言われて引っこ抜く。すると根の部分に細長い小振りの薩摩芋のようなものがたくさん着いていた。”長根芋”と呼ばれる野生の芋だ。この芋の中からとくに大振りになりやすい物を選抜して、人工的に品種改良を進めることで、大きく丸い物が採れるようになったのが”丸根芋”だ。一般的な主食の中でも特に珍重され、領主の菜園でのみ作付けが許されている。


 天然物の長根芋は小振りでやや筋張った触感だが、味が濃く煮ても焼いても美味い。バンガルにそのことを聞くと、俄然ヤル気を出したシンがせっせと芋を掘り出した。


 クロは野草の他に、いくつか香草や香辛料となる木の実も見付けた。以前に野宿をしていた山中では見掛けなかった植物もいくつかあり、バンガルに色々と教えてもらった。こんなことならラインバルトで帳面や鉛筆のようなものを、幾つか買い揃えておけば良かったとクロは悔やむ。この世界で生き抜くために知っておかなくてはいけない知識は、他にもまだまだあるからだ。だが、数区画ごとにコンビニがあって金さえ出せば何でも手に入る人間界とは違い、それらはひょっとするとかなり高価な物か、そもそもどちらも簡単に手に入るような物ではないかも知れないとも考えた。


 シンの活躍に功を焦ったロロナは、切り株の根本に偶然見つけたキノコを山盛りに捕り漁った。だが、こんなときは焦っても良い結果を得られないものだ。結局、それが毒キノコであることをバンガルに教えられ、泣く泣く調理に使う薪を拾って帰ることになった。


 こうして悔し涙を浮かべながら薪を拾うロロナ以外は、野草知識の勉強と採取を兼ねたとても有意義な時間となった。




 冷やした小人鹿の肉と内臓を持って集落へと戻ると、早速、採取した野草などを使って調理することにした。調理を担当するのはクロだ。名誉挽回とばかりにロロナが手伝うとはりきっていたのだが、思いのほか手際が悪くかえって足手まといになった。流石に何もさせないとなるとその場で泣き出しそうだったので、野草でサラダを作ってもらうことにした。サラダと言っても野草を洗って刻むだけなのだが。それでもロロナが楽しそうにサラダを作ってくれたのは幸いだった。


 小人鹿の肉は食べたことがないものの、人間界の鹿肉を基準に考えれば、その味はわりと淡白で脂肪分が少ないのが特徴だ。クロは捌いた内臓を綺麗に洗い流し、塩、胡椒、糖蜜、香草、酒で作ったタレに漬け込んだ。酒は買い置きがなかったのでバンガルから借りた。ついでに鍋や器も足りないので借りることにした。


 調理をしているうちに、シンにはドラケルドとラケルド、いつも美味しい料理をご馳走になっているテナを呼びに行ってもらった。細やかな食事だがいつもご馳走になっているお礼だ。


 そのうちに出汁を作る。たっぷりの水に小人鹿の骨と酒と香草を加えてコトコトと煮込む。灰汁を取る係は早々にサラダを完成させてしまったロロナだ。はりきり過ぎて灰汁だけでなく出汁まで掬って捨てそうな勢いなのがちょっと心配だ。


 赤身の肉は長根芋と一緒に豆と麦を入れて炊き込むことにする。本当なら汁物でもと思ったのだが、淡白な肉に合わせる調味料がなかったからだ。こんなときに味噌でもあればと思ったが、さすがに異世界で日本の調味料は無理だろうと諦めた。いずれ時間があればテナにでも、この世界の調味料について詳しく聞いてみる必要がある。そんなことを考えながらクロは調理を続ける。


 先に肉は塩、胡椒をふって炙り焼きにする。次に鍋で豆を乾煎りして焦げ目をつけたら、長根芋入れて油をしいて火が通たら麦を入れ、骨を煮込んだ出汁を注ぎ入れる。最後に先程の炙り焼きにした肉を入れ、あとはお焦げが出来る程度に炊き込むだけだ。


 肉は使い切れないので残りは塩で漬けておく。明日にでも干して非常用の食料としよう。


 最後はタレに漬け込んでおいた小人鹿の内臓を、枝を削って作った串に刺し、糖蜜のせいで焦げやすくなっているのに気をつけながら炙り焼きにする。差し詰め小人鹿のホルモンBBQと言ったところだ。火に炙られると香ばしい香りが辺りに漂う。


 「わぁ、美味しそうな匂いですね!」


 最初に現れたのはラケルドとラチータだ。ドラケルドの家へ向かう途中で、薬草を摘んだ帰りの2人にシンが出会い誘ったのだ。一緒にいたラチータが来てくれたのはちょうど良かった。思えばクロがこの集落へ来るきっかけとなったのは、この2人と出会ったためだ。


 「クロさん、その節は本当にお世話になりました」


 ラチータがクロに礼を言って頭を下げる。峠の向こうの沼地で沼触手スワンプテンタクルスから救ったときのことを言ってるらしい。つい何日か前のことなのに、今のクロには随分と前にそんなこともあったかもな、といった感覚だった。


 肩に掛けている若草色のストールは、ラケルドがラインバルトで買い求めたものだ。いつもながらラブラブの様子だ。


 「これがシンさんが射止めた小人鹿(ピエ二)ですね。軽弓銃は使ったことがないって言ってたのに、初めての狩りで獲物を捕まえるなんて凄いですね」

 「ああ。確かになかなかのもんだ。この調子なら次はもう少し大きな獲物を相手にしても大丈夫かもな」


 シンはラケルドたちに小人鹿を仕留めたことを、自慢気に話してからドラケルドを迎えに行ったらしい。すぐ調子に乗るあたりはシンらしい。でも、バンガルから見ても今回の狩りは及第点が与えられたようだし、今日のところは素直にシンの成果を褒めてやりたいとクロも思った。


 「さあ、座って遠慮なく食べて」


 クロが声を掛けると、2人は小人鹿のホルモンBBQを手に、並んでその場に腰を掛ける。それから暫くするとシンがドラケルドとテナを連れて戻って来た。シンは小さな酒樽を抱えている。どうたらドラケルドの差し入れのようだ。ようやくメンバーが揃い、細やかな料理を囲んでの宴会が始まった。


 「クロさん、私まで誘っていただきありがとうございます。少しですがこれ……お酒に合うかと思って」


 そう言ってテナが差し出したのは魚を開いて干したものだ。脂がのってて美味そうだ。有難い。ついでにコレも炙っていただこう。


 小人鹿の内臓は捕まえたばかりだけあって、新鮮で歯ごたえもあり濃厚なタレが絡んで美味しく焼けた。冷えたビールがないのが惜しいが、ドラケルドが差し入れてくれた酒もなかなか小人鹿に合う。


 女性陣は内臓料理に抵抗を示すかと懸念したが、そんな心配は杞憂に終わった。とくにロロナは自分の作ったサラダには目もくれずに、ひたすら小人鹿のホルモンBBQを食べ続けていた。まあ、いくら小さいとは言え鹿1頭ぶんの肉だ。この人数でそうそう食いきれるものではない。もし残るようなら焼いて陰干しにして、明日にでも食べようかとクロは考えていた。


 程なくして麦と長根芋と豆と小人鹿の炊き込み料理が出来上がった。クロは器に盛る前に試食する。うん。歯応えのあるちょうど良い炊き加減だ。出汁が染み込んでいて美味い。炊き込み料理はとくに、ラケルドとラチータとテナに好評だった。ロロナは炊き込み料理の中から、小人鹿の肉が多い部分だけを選んで器にとっていた。よっぽど肉好きらしい。


 「ロロナ、サラダはいらないのか?」

 「あ、あの……果実以外の植物はあまり……」


 植物って。気になってクロが問い掛けると、ロロナは困った表情を浮かべて答えた。気になって見ていたが先程から、炊き込み料理に入った豆や長根芋の欠片を少し口にした程度で、それ以外は肉しか口にしていない。


 「クロ殿、そちらのお嬢さんは、もしや屍食族グールなのでは?」


 クロたちのやり取りを横目で眺めていたドラケルドが問い掛けた。


 「はい。そうらしいです」

 「なるほど。だから肉をな……」


 ドラケルドは何か納得したように頷くが、クロにはまったく意味がわからない。それを気にしたロロナが申し訳なさそうに小声で説明する。


 「あの、クロ様……屍食族はほとんどが肉食性に近い雑食で、肉以外には新鮮な血液を好んで口にしますが、ほとんどの者はそれ以外は滅多に口にしません。果実を好む私などは一族では偏食気味な方なのです……」


 肉以外を食うのが偏食だなんて。そんなことがあるのか。でも、そうだとしたらロロナは今まで肉を口にしたいのを黙って我慢していたことになる。


 「ロロナ、そういう大事なことはちゃんと言わなきゃダメだ!」

 「も、申し訳ありませんでした」


 クロが強い口調で注意すると、ロロナは俯いて小さくなった。酒の器をその場に置いて立ち上がったクロは、保存用に置いてあった小人鹿の肉から、塩を軽く洗い流して厚めに切り分けた。それに2本の串を刺すと、焚き木でじっくりと炙り焼きにする。分厚い肉からジュウジュウと音を立てて肉汁が滴る。ひっくり返して裏面もしっかりと焼くと、調理台の上に置いて切り分け、軽く塩と胡椒で味を調えた。


 「ほら、ロロナ専用だ。遠慮しないで、いっぱい食べて良いんだからな」


 表面はカリッと香ばしく、中央にはやや赤身が多く残った焼き加減の小人鹿のステーキだ。クロが笑顔で差し出したステーキをロロナは当惑した表情で受け取る。


 「ごめんな。全然気付かなくて。これからも何かあったらちゃんと教えてくれよ?」


 てっきり叱責を受けるのかと身を固くしていたロロナは、礼を口にするのも忘れてステーキとクロを何度も往復するように視線を向けた。


 「あの……私……」

 「あれ、もうお腹いっぱいだったか?」

 「いえ。これ……私のために?」

 「勿論。肉が主食ってことはそれくらいは食べるかと思ったんだけど、流石に多過ぎたかな?」

 「いえ。嬉しいです。でも……よろしいのでしょうか……」


 クロが笑顔で頷くとロロナは”ありがとうございます! 嬉しいです!”と礼を述べると、分厚いステーキ肉に齧り付き”おいひぃ”と口に肉を頬張ったまま満面の笑みを浮かべた。その後に、シンが”ロロナばっかりズルいダヨ”と言い出し、結局クロは追加でステーキを何枚か焼く羽目になった。


 ようやく食事も終盤。あれだけあった樽の酒もほとんど無くなった。随分と残る予定だった干し肉用の小人鹿の肉も半分ほどに減っていた。テナとロロナとラチータとラケルドは食器を洗いに行き、シンはだいぶ前から酔い潰れて寝てしまっている。


 気が付くと森の向こうに綺麗な夕焼け空が広がっていた。焚き火を囲むクロとドラケルドとバンガル。口には出さないが3人が考えていたのは徘徊魔植物クロウリングブッシュとの決戦のことだ。明日か明後日なのか。その日が判ればすぐにジャコナ婆から知らせが来ることになっていた。


 いずれにしろ決戦の日は近い。肉を焼いてばかりであまりゆっくりする時間がなかったクロは、落ちる陽を肴に最後の一杯となるかも知れない酒で、名残惜しそうに喉を潤した。


読んでくれてありがとうございます。



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