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転生オークの流離譚  作者: 桜
転生編
51/66

51. 蜘蛛の巣

ちょっと長いです♪

 バンガルは通りの中程で立ち止まると”ここだ”と言って一軒の店へ視線を向ける。店の名前は”蜘蛛スパイダーネスト”。その名を体現するが如く入口の柱の端には幾つもの蜘蛛の巣が張っている。闇地下街にある他のどの店とも同じように、お世辞にも立派な外観とは言えない。本当にこんな店でまともな弓銃が手に入るのだろうか。そんな皆の心配などお構いなしにバンガルは店の扉を開けた。


 「レイア、いるか?」


 バンガルの声に振り返る蜥蜴人種リザードマンの顔には驚きの表情が浮かんでいる。


 「バンガル……バンガルじゃない!?」


 そう言って手にした荷物をその場に置いて、レイアと呼ばれた蜥蜴人種の女性が駆け寄るとバンガル胸へと跳び込んだ。唐突な展開にクロたちは目を白黒させながらも、あまりじっと見入るのも悪いと思い不自然に視線を逸らす。


 「オレの妹さ」

 「レイアよ。よろしくね」


 バンガルの言葉に皆が驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべながら、レイアに会釈と挨拶を返した。


 「ところでレイア、弓銃を見たいんだが?」


 久しぶりの再会の余韻も冷めやらぬうちに、バンガルはすぐに訪問の目的である弓銃の件を口にする。あまりに素っ気ないその様子に周りがかえって気を使うが、レイアはまったく気にした様子もなくクロたちを店に招き入れると店の扉に鍵を掛けた。一瞬、クロたちがその行動に警戒心を露わにすると、バンガルが”心配ない。この辺りの店ではこれが普通なんだ”と説明する。


 部屋の突き当りの壁の一部をトンッと叩くと板が外れ、そこに手を掛けて引くと壁の一面が隠し扉になっていた。現れた小部屋の中には、様々な武器や道具が見事なまでに圧縮陳列されている。


 「すごいダヨ……」


 シンが思わず口にしたその言葉は、他の皆の内心を代弁したかのようだった。刃物だけでも手投げナイフから、身の丈程もある大剣や悍ましい形状の槍斧までが並ぶうえに、打撃武器や鞭の類、そもそもどの様に使用するのか想像も出来ないような武器までが所狭しと並べられている。その片隅には幾つかの弓銃も置かれていた。


 「コイツが使うんだが、弓銃はまったくの素人なんだ……何かお勧めのはあるか?」


 シンを指しながらのバンガルが問い掛けると、レイアはシンをつま先から頭の先までじっくりと眺める。腕組みをしながら”人間族ヒューマンね。身長は180センチってとこかしら”などと呟く。


 「視力はどう?」

 「オイラ、目はすんごく良いダヨ」

 「それは良いわね。弓銃使いは視力が良くなきゃね」


 レイアはそう言って笑顔を浮かべると、シンの手首にはめられた黒色の腕輪に視線を落とす。


 「その腕輪……もしかして魔法を使うの? 精霊魔法?」

 「いや、単一魔法ってやつダヨ。”角笛ホーン”と砂塩サンディーソルト”を使えるダヨ」

 「へえ、面白い組み合わせね」


 笑顔で相槌を打ちながら、レイアは弓銃の置かれた棚を物色しながら簡単に弓銃の説明を始めた。弓銃には大きく分けると2つの種類があるらしい。


 1つは”重弓銃”と呼ばれる文字通り重く威力の強い弓銃だ。使用される矢は通常の物より長く重い反面、その威力も桁違いである。その重量のため主に設置して使用されることが多く、取り回しは良いとは言えないがそれを補って余りある威力を持つ。


 もう1つは”軽弓銃”と呼ばれる小型の弓銃だ。ちょうどライフル銃の銃身を短くしたような形状をしており、クロが想像したように人間界のクロスボウに似ている。1発の威力は重弓銃に比べ遥かに劣るが、持ち運びのしやすさや矢の装填が簡単なことなどの利点があることから、駆け出しの弓銃使いから玄人にまで幅広く使用されている。


 レイアの店に置かれているのは軽弓銃だけらしい。どうやらその説明内容から想像するに、重弓銃というのは武器と呼ぶより”兵器”と呼んだほうがしっくり来る代物なのかも知れない。そもそも火筒銃にしても、あれを”銃”と表現していることから、この世界では”砲”という概念が無いのかも知れないともクロは考えていた。


 「この辺なんかどうだろかしら?」


 シンの前に差し出されたのは、全長1メートル満たない平均的なサイズの2つの軽弓銃だ。違う点と言えば一方は軽弓銃の先端にフックが付いており、もう一方は少し厚みがある点だ。


 「単装型の足掛け式軽弓銃と、連装型のハンドル式軽弓銃よ」


 そう言うとレイアは2つの軽弓銃の違いを説明する。”単装型”と”連装型”は装填する矢の数を意味する。文字通り単装型が1本ずつ、連装型は複数の矢を1回に装填することが出来る。


 軽弓銃の矢は牽かれた弦が戻る力を利用して射出されるが、その弦を牽く方法には2種類ある。軽弓銃を地面に垂直に立てて先端のフックにつま先を掛け、背筋を使って弦に取り付けられた紐を両手で思いっ切り引く”足掛け式”と、側面に付いたハンドルで巻き上げる”ハンドル式”だ。


 「この単装型の足掛け式軽弓銃は、弦が少し固いけど軽弓銃にしてはけっこう威力がある方ね。まだ割と新しい品よ」


 シンが手にする鈍く輝く黒色の軽弓銃をレイアが指さす。見た目よりだいぶ軽くこれなら取り回しも楽そうだ。


 「こっちが連装型のハンドル式軽弓銃。これは3本まで装填できる平均的な連装型なんだけど、ハンドル式だから足掛け式に比べて、次矢の装填にあまり力が必要ないのがポイントね」


 レイアが指さす少し厚みのある茶色の木製の軽弓銃は、使い込まれている感じはあるが良く手入れが行き届いているようだ。威力はもう一方の軽弓銃に劣るようだが、素人にとっては3本の矢が装填できるのが魅力的だろうと彼女は付け加える。


 「こっちの連装型の使い方を詳しく教えてもらえますか?」


 横からクロが訊ねると、レイアは軽弓銃を手にし実際に矢を装填して見せる。上面の挿矢口を開けて細い鉄製の矢を3本装填する。1本ごとに”カチッ”と音がするのが、いかにも入っている感じだ。挿矢口を閉じて、右側面に付いたハンドルを回して弦を巻き上げる。巻き上げが完了すると同時に”カチャリッ”と音が鳴り、矢は自動的に装填される。


 「あとは安全装置と外して引き金を引くだけ。2本目からは再びハンドルを回して弦を巻き上げる行程からね」


 そこまで実演するとレイアは”バシュッ”と矢が放たれる擬音を出しておどけて見せた。巻き上げが完了するまでにはハンドルを8回ほど回す必要があるらしく、足掛け式に比べてやや時間が掛かるのが難点ではあるが、足掛け式の場合は弦を牽く際に完全に無防備状態となるため、どちらが良いとは言い難い。


 「これはなかなか良さそうな軽弓銃ですね」


 ラケルドがクロの耳元で囁く。シン用に選ぶなら連装型だろうとクロも内心で考える。あとは価格次第だ。


 「ちなみにこの2つはおいくらですか?」


 「どっちも小判金貨2枚。新品なら穴隙金貨2枚はするわ。本当なら小判金貨2枚と大判銀貨1枚は欲しいところなんだけど、バンガルの連れだからね」


 かなりサービスしてくれているであろうことは理解できたが、あっさりとレイアが口にしたその金額は、クロたちにとって決して小さな金額ではない。シンなどは露骨にがっかりした表情を浮かべ項垂れている。


 「レイアさん、ちなみに矢にも種類があるんですか? 何かさっき1本だけ少し矢尻の色が違ったような?」

 「よく気付いたわね」


 そう言うとレイアは奥から箱を取り出した。その中には薄く鞣した革に包まれたたくさんの鉄製の矢が入っている。別のこげ茶色の革に包まれた矢の端には赤い線が見られる。


 「軽弓銃に使われるのは、通常の”鉄製矢”とこの赤い印の付いた”魔法矢”よ」

 「魔法矢……と言うのは?」


 レイアは1本の魔法矢を取り出すと、微かに赤色の怪しい輝きを放つ矢尻部分にうっとりとした視線を向ける。


 「魔法矢には”射出速度増加”の魔法効果が付与されているの。簡単に言えば矢の威力が上がるってわけ。その分、金額も上がるけどね。ちなみに価格は鉄製矢なら50本で小判銀貨1枚、魔法矢なら10本で小判銀貨1枚よ」


 5倍の価格差が威力にどれほどの違いを生み出すのか。普通に考えればかなりの威力の違いがあるに違いない。


 「通常の鉄製矢と魔法矢の威力の違いというのは、どれくらいのものなんですか?」

 「2倍程度ってとこかしら。鉄製矢が5センチの厚さの板を貫通する条件で、魔法矢を放てば10センチの板を貫通できる程度ね」


 流石に価格に比例して威力も5倍とはいかないようだが、2倍という数字は十分に魅力的ではある。だが、弓銃の素人である今のシンにとって、矢は質より量を重要視するべきだろう。

 

 「連装型のハンドル式軽弓銃と鉄製矢なら50本でお願いします。ちなみに弓銃を使うのに他に必要な物はありますか?」

 「そうね。矢筒かしら。矢を入れて携帯するための道具よ。弓銃と矢を買うなら中古品で良ければサービスするわ」


 小判金貨2枚と小判銀貨1枚。大きな出費だがシンが手にするならこの手の武器が最も有効的なはずだ。それに街で正規に弓銃を買うことが難しいのであれば、他に選択肢も少ない。


 「わかりました。それをいただきます」

 「アニキ!? 大丈夫なんダか?」

 「オレたちはチームだろ? お前が少しでも強くなれば、オレのためでもある」


 シンは感激して目を潤ませているが、クロは内心で心苦しく思っていた。体裁の良い言葉で誤魔化しているだけで、結果的にシンを戦いに巻き込むことになってしまったのには違いない。だからこそシンには十分な装備を与えてやりたいとも考えていた。


 「ちなみに他に何かお勧めの物はありますか? 例えば透明になる魔法の移動式住居とか、いくら馬車を牽いても疲れない魔法の動物とかいたら助かるんですが?」

 「魔法の移動式住居に、魔法の動物ねぇ……」


 半分冗談とも取れる突拍子もない問い掛けに、以外にもレイアは真剣に部屋の品を物色し始めた。クロ自身も本当にそんな物があると思って口にしたわけではないが、当たり前のように魔法を口にするこの世界では、何が”常識”なのかが人間界から来たクロたちには判り辛い。


 「魔法の移動式住居も魔法の動物もここには無いけど、予算がそれなりにあるなら掘り出し物もあるわよ?」


 そう言ってレイアが綺麗に装飾された箱から取り出したのは、小さな陶器の水筒と古びた革の鞄だ。正直なところ箱の作りの割に中身がボロすぎるというのが第一印象だ。


 「これは”スプリング水筒ボトル”って言う魔法の水筒よ。使ったぶんの水が少しずつ湧き出るから、枯れることのない泉の水筒ってわけ」


 陶器に革を巻き付けただけの小さな水筒を差し出しながらレイアが言う。枯れることのないというのは永遠に水が湧き出るという意味か。そのいかにも眉唾な内容に皆が一様に眉を顰める。


 「まあ、最初は皆そんな顔をするのよね。ちょっと待ってて」


 そう言うとレイアは大き目の木の器を用意してそこに水筒から水を注いだ。透明で綺麗な水が器一杯に注がれると、溢さないようにそっと持ち上げ”飲んで”と言っててバンガルへ差し出す。


 器を受け取ったバンガルは”どうせなら酒にしてほしいぜ”などと文句を言いながらも豪快に水を飲み干した。空になった器にレイアが再び水を注ぐ。水筒の水は器を一杯にする前に空になったようで、レイアは水筒の蓋をしその場に置くと、バンガルに再び器の水を飲み干させる。流石にバンガルも2杯目はきつかったようで、ようやく飲み切りと大きなゲップをした。


 「さて、とりあえず先にこっちの鞄の説明をするわね」


 そう言って古びた革の鞄を皆の前へ差し出した。何の変哲もないだいぶ使い込んだ感じのある、茶色の革製の腰巻き鞄だ。その鞄を開けるとレイアは刃渡り1メートルを優に超える中長剣を手に取る。そして、その剣を鞘ごと鞄の中へとに突き刺した。


 「なっ!?」


 一同の驚きはレイアの唐突な行動だけでなく、その行動がもたらした予想外の結果に向けられたものだ。そんなことをすれば剣が鞄に収まり切れないだけでなく、あまつさえ古びた鞄の底を突き破っても不思議ではない。だが、剣はそのまま鞄の中に姿を消した。


 「こ、これって……」

 「”無限鞄インフィニティーバッグ”よ。鞄の口を通る大きさの物ならかなりの量を収納することが可能よ。勿論、いくら収納しても重さは一定。まあ、名前に反して実際には無限ではないんだけどね」

 「中に入れた剣はどうなったんだ?」


 バンガルの問い掛けに答えるように、何事もなかったかのようにレイアは無限鞄インフィニティーバッグの中から中長剣を取り出して見せる。その瞬間に”おぉ!”と一同から歓声が上がった。


 「さっき無限じゃないって言ってましたが、どれくらいの量を入れれるんですか?」


 クロのその問い掛けに”そうねぇ”と呟きながらレイアは考えを巡らす。彼女も実際には剣50本までしか試したことがないらしいのだが、俗に”家1軒ぶんの家財道具”が入ると言われているらしい。ただ、実際には机や棚などの大きな物は、そもそも鞄の口を通らないので、家1軒ぶんの家財道具と言うのはあくまでも比喩的な話だろう。


 そこまで説明するとレイアは無限鞄インフィニティーバッグを傍らに置き、スプリング水筒ボトルを徐に手にすると蓋を外す。そして、先程バンガルが飲み干した空の器の上で傾ける。溢れ出す水はあっと言う間に器を一杯にする。


 「どう? まだ飲めそう?」


 バンガルに器を差し出しながらレイアは悪戯な笑みを浮かべる。どうやらどちらも本物の魔法の水筒と魔法の鞄のようだ。クロは目の前の2つの魔法の道具アイテムに、これまでの武器や防具以上の胸の高鳴りを感じていた。


読んでくれてありがとうございます。



※用語※

・”蜘蛛スパイダーネスト

・レイア

・重弓銃

・軽弓銃

・単装型

・連装型

・足掛け式

・ハンドル式

・鉄製矢

・魔法矢

・射出速度増加

スプリング水筒ボトル

無限鞄インフィニティーバッグ

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