50. 遠距離武器
ついに50話です。このところ頑張って連日で投稿したからなぁ。
第1章は何話で完結するのやら……
あれ程あった穴隙金貨も今や財布の中には3枚のみとなってしまった。クロは徘徊魔植物との決戦に向けて、少しでも戦力を補強しておきたいと考える一方で、残りの金をどうしたら最も有効に使えるか思案していた。
魔法具屋の双子姉妹が言うように、シンに剣や鎧の装備を準備してやるべきか。シンは”魔法剣士”という言葉にノリノリの雰囲気だったが、何の訓練も積んでいないシンを化物の前に晒すわけにはいかない。クロにとってその案は現実的とは思えなかった。シンには暗に”この先の危険に備えて……”と装備を充実させることの大切さを言い含めておく。
クロが考えていたのは遠距離武器による攻撃だ。相手がどんな戦力を有するか不明な際に最も有効とされるのは、接近前に遠距離から仕留めることだ。ヴィルヘムの店でベルタの作った火竜槍を買ったのもそのためだが、残念ながら火竜槍は2本しかない。投げ槍である火竜槍の命中精度を高めるには、出来るだけ的に接近する必要がある。それではとても遠距離武器とは呼び難い。
「ラケルド、この辺で手に入る、弓以外の遠距離武器は何があるかな?」
「弓以外ですか……そうですね、思い当たるのは、手投げナイフ、ブーメラン、投石器、弓銃あたりですかね」
ラケルドの答えを聞いたクロの顔に僅かに驚きの表情が浮かぶ。
「その”弓銃”と言うのは?」
「矢を装填して撃つ装置型の弓って感じですかね」
ラケルドの言う弓銃とは恐らくクロスボウのことだろう。だが、クロが引っ掛かったのは弓銃自体ではない。
「もしかして弓銃の他にも銃の種類はあるのか?」
「まあ、ありますけ────」
「そ、それはどんな銃なんだ!?」
ラケルドが話し終える前にクロが食い気味で問い掛ける。それ程にクロにとっても誤算だった。ある程度の文明を持つことは理解していたつもりだが、まさか銃が存在するとは思ってもいなかったのだ。
「例えば”火筒銃”とか……魔力を使用する”魔力銃”というのもあります」
やはりこの世界には銃がある。
何故もっと早く教えてくれなかったんだ。
「バンガルさん、その店はこの辺にありますか?」
「ああ。確か火筒銃専門の工房が東側にあったはずだぜ。魔力銃の工房はこの街にはなかったはずだが……魔法具屋に行けば置いてるのか?」
バンガルはそう言ってラケルドに視線を向ける。
「どうでしょう。さっきの店では見掛けませんでしたね。魔力銃はかなり高価なうえに扱いが難しいですから……」
「取り敢えずその火筒銃専門の工房に行きましょう」
「おう。了解だ。でも、クロさん、あんな物どうすんだ?」
バンガルの言葉の意味が判らず、クロの頭の中に疑問符が浮かび上がる。銃を手に入れれば徘徊魔植物との戦いを優位に進められる可能性が高いことなど、説明しなくても理解できるはずなのに。それとも何か別の意図があるのか。
徘徊魔植物との決戦の件はラケルドに知られてはいけない。それは移動集落の酋長であるドラケルと交わした約束の1つだ。そのためクロが武器や防具を買い求めるのは、表向きは彼が個人的に使用すると言う目的になっている。
「その火筒銃があれば遠距離からの攻撃が可能でしょ?」
クロの言葉を聞いたラケルドが表情を曇らせる。
「す、すいません。火筒銃は確かに遠距離武器ではありますが……一般人が使用するような武器ではないんです」
「まあ、説明を聞くより見る方が早いだろ。行ってみるか!」
そう言ってバンガルは馬車を東にある火筒銃専門の工房へと進めた。
途中で何度か道を確認してようやく工房が見えて来る頃には、鉄を溶かす炉から立ち上る煙の独特な匂いが辺りに立ち込める。火筒銃専門の工房は思ったよりも立派な門構えだ。馬車を停めるとすぐに、門の前に立つ革鎧に身を包んだ衛兵たちが近寄って来た。
「そこに馬車を停められては困る。すぐに移動してくれ」
「わかりました。工房を見学させていただきたいのですが……」
「工房の見学? 許可証はあるのか?」
許可証が必要なのか。それはバンガルも知らなかったようで肩を竦め”どうする?”とクロに視線で問い掛ける。
「判りました。諦めましょう……」
クロのその言葉でバンガルは馬車を再び進める。
「クロさん、ほら、あの門のところに紋章があるだろ?」
そう言ってバンガルが顎で指す先に目をやると、確かに紋章らしきものが掲げてあった。バンガルの説明によれば、その紋章はフリーポイント領主の紋章らしい。つまり国が管理する工房なのだろう。
「火筒銃ってのは、要は戦争で使われる武器だ。兵士8人掛かりで1つの火筒銃を操作するんだ」
「8人? 1人じゃ持てないんですか?」
「持つだって? クロさん、あんなの巨人族でも1人じゃ持ち上げられないぜ?」
どこか話が噛み合っていないのを感じ、クロは火筒銃の詳しい内容について聞いてみる。バンガルの説明によると、火筒銃と言うのは大きな青銅製の筒が、木製の台座に乗せられており、そこに取り付けられた鉄と木で作られた車輪によって移動が可能となっている物だ。しかし、その重量が馬2頭分にも相当するため、火筒銃の操作には最低8名が必要となる。そのうち5名が移動や火筒銃の設置角度の調整係となる。残り3名のうち2名が炸薬込めと火球込めと筒口の清掃係、最後の1名が指令を出す責任者となる。
そこまで聞いてクロは内心で”なるほど”と呟く。火縄銃のような物かと想像していたが、どうやら火筒銃とはむしろ大砲に近いものらしい。
筒口から”炸薬”と呼ばれるものを入れ、”革布”と呼ばれる厚手の布を押し込み、その上から”火球”と呼ばれる円筒状の弾を込める。火筒銃の後方にある炸薬口に炸薬を注ぎ”点火棒”と呼ばれるトーチのようなもので点火すると、轟音と共に火球が勢い良く発射される。火球は空中で破裂し中に入った球に引火すると、テニスボール大の火の玉が空から降り注ぐ。
攻撃範囲が広く着弾時に炎による追加効果が得られる半面、1発ごとに筒口を清掃し冷却する必要があるため、連射することが出来ないという弱点もあるらしい。
「手投げナイフと投石器は遠距離と言うよりは、中距離武器って感じだろうな」
「ブーメランは狩りの道具には良いでしょうが、武器として使用するには難しいかも知れませんね……」
バンガルとラケルドが消去法で手投げナイフと投石器とブーメランを消す。
「そうなると残るのは弓銃か」
火筒銃はちょっと見当違いだったが、弓銃は説明と聞く限り限りなくクロスボウ近い武器だろう。多少の練習は必要だが、今から弓を練習するよりはよほど現実的だ。
「あぁ……でも、今はタイミングが……」
ラケルドが残念そうな声を出す。
タイミングとはいったい何のことだ。
「じつは先月、街中を通っていた貴族の子弟の乗る馬車に、弓銃の矢が打ち込まれたとかでちょうど取り締まりが厳しくなってて……許可がないと売ってもらえないかも知れませんよ?」
「あぁ。そう言えばそんな事件があったな……だったら、ちょうど良い場所があるぜ?」
一行はバンガルのそのひと言で闘技場方面へ向かった。バンガルの言うその店は、闘技場の裏手の小路を入った場所にあった。狭い間口の入口には”楽園の黄昏”と書かれた古ぼけた看板がひっそりと掲げられている。扉の隙間から中を覗くと、酒樽の並ぶバーカウンターらしきものと、酒を呷る数人の男たちの姿が見える。
「バンガルさん、ここって────」
「まあ、いいから付いて来な」
そう言うとバンガルはどんどん店の奥へと進んで行く。ラケルドがその後に続き、その後をクロとロロナが、最後尾からシンが続く。ぞろぞろと店内に入って来たクロたちを酒飲みたちが物珍しそうに目で追うが、すぐに興味を無くしたように手にした酒を呷り仲間との談笑に講じる。
バンガルは勝手を知るように店の最奥の通路を右に折れ、突き当りの扉の前に立つと独特の拍子を付けてノックをする。すぐに扉に取り付けられた小窓が僅かに開く。
「陽は?」
扉の向こうからの問い掛けにバンガルが”また昇る”と答えると扉が開き、全身に入れ墨を施した筋肉隆々のスキンヘッドの大男に招き入れられた。
「久しぶりじゃねえか、バンガル! まだ生きてやがってか!」
「スカルヘッド、元気そうだな。レイアは店を開けてるか?」
「ああ。ちょうどさっき開いたところみたいだぜ。あとで頭のとこにも顔を出してやってくれ!」
どうやら2人は顔見知りらしい。スキンヘッドの大男と簡単に言葉を交わし部屋の奥の扉を開けて大きな石造りの階段を降りると、何とそこには予想外の光景が広がっていた。
「うわっ……」
巨大な地下道のような通りの両側に、たくさんの店が建ち並んでいた。まるで地下洞窟のの商店街だ。通りの天井には白く輝く石のような物が所々に埋め込まれており、地下街にも関わらず夕暮れ時以上の明るさを確保していた。
「どうだい驚いただろ?」
「これ凄いダヨ……」
通りは約500メートルの直線が中央辺りで交差したような造りになっており、交差した中央には4本の巨大な柱が立っていて、ちょっとした広場になっている。横の通りの両端付近はスラム街になっているらしく、治安があまり良くないので近付くなと警告された。
「ここはボクも初めて来ました……」
どうやらラケルドですら、この商店街の存在は知らなかったようだ。
「ラインバルトの闇地下街さ」
「でも、どうしてこんな地下に店を?」
「まあ、名前通り”闇”なのさ。ここならヤバい薬から、規制の厳しい弓銃まで何でも手に入る。ただし、中には粗悪品も混じってるから気を付けなきゃな?」
そう言って笑うと”でも、アイツの店は大丈夫さ”と言って先へと進む。通りのあちらこちらにガラの悪そうな男たちの姿が見られるが、その中の何名かはバンガルに気付くと笑顔で声を掛けて来た。
「バンガルさん、ずいぶん知り合いが多いみたいですね?」
「ああ。オレは元々ここの出身だからな」
あっさりと口にしたバンガルの言葉に、クロたちだけでなく同じ集落に住むラケルドも驚きの表情を浮かべた。
バンガルは少年時代にこの闇地下街のスラム街で暮らしていたらしい。ある時ここを訪れたドラケルドとデオケルドに目を付け、金品を奪い取ろうと仲間たちと一緒に襲い掛かったのだが呆気なく返り討ちにされる。そして、デオケルドの強さに憧れ、その場で弟子入りを志願し、後に酋長となったドラケルドに認められ、正式に集落の一員となり狩猟班に抜擢されるまでになったらしい。
「ほら、これがそのときの傷さ」
そう言ってバンガルは、左腕に残る小さな傷を指さし”あの頃は青かったぜ”と高らかに笑った。ドラケルドとデオケルドから金品を奪い取ろうなど、バンガルはどれほど無謀な少年だったのだろう。ラケルドはバンガルを見詰めたままポッカリと口を開いた。
読んでくれてありがとうございます。
何か用語も多めです……
※用語※
・弓銃
・火筒銃
・魔力銃
・炸薬
・点火棒
・楽園の黄昏
・レイア
・ラインバルトの闇地下街




