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転生オークの流離譚  作者: 桜
転生編
5/66

5. ペロポン少年

今回はペロポン少年の視点です。

1話の辺りをちょっと書き直しました。

お時間あれば読み直していただけると嬉しいです。

 出た。オイラの秘密の穴場に噂の怪物が出た。

 近頃、近隣の村々は村人をさらう怪物の噂で持ち切りだ。


 噂通りならもう少しでオイラもさらわれるとこだったのか。思い出しただけでもオシッコちびりそう。でも、慌てて逃げたもんだから、背負い籠と鉈を落としてきちゃった。こりゃ、母ちゃんに怒られるな。せっかく集めた解毒草の葉っぱも全部置いて来ちゃったし。薬師さんに売って何か美味いものでも食おうと思ってたのに、きっとオイラが食らうのは母ちゃんの大目玉だ。


 はぁ。何でオイラの秘密の穴場に噂の怪物が。あれ、ちょっと待てよ。あの怪物のことを寺院の衛僧詰所に届け出ればもしかしたら“ホ―ショ―キン”ってやつを貰えるんじゃないか。前に聞いたことがあるんだ。悪いヤツを見付けて衛僧詰所に届け出れば“ホ―ショ―キン”を貰えるって。


 衛僧詰所とは村の治安を守る衛僧様たちが待機する場所だ。


 こういう事は近所のトンパ兄ちゃんが詳しいんだよな。早速、聞きに行かなきゃ。オイラは村の東エリアの外れにある貧乏長屋へと走った。


 ここジャガパンタ寺院周辺独立自治区は、その昔ジャがパンタ寺院に救いを求めて集った者たちが勝手に周辺に住み着いたのが始まりと言われている。その人口が増えるにつれ、金儲けの匂いを嗅ぎつけ商人たちが集まり、周辺が賑わうことで旅の者も立ち寄るようになった。今では“村”と呼ぶにはあまりにも巨大になり、当然ながら近隣の村々の中では群を抜く存在となっている。


 ジャガパンタ寺院周辺独立自治区は南西に位置するフリーポイント領土に属する独立自治区だが、フリーポイント自体が中立領土を掲げておりジャガパンタ寺院周辺独立自治区にほとんど干渉しないため、事実上は別領土に近い扱いになっていた。


 人口の増加につれ村も大きくなり次第に発展し、いつしか人々に”ジャガパンタ村と呼ばれるようになっていた。だが、皮肉なもので規模が大きくなるにつれ、救いを求めて集まったはずの者たちの間にも貧富の差が見られるようになっていた。


 村は寺院を中心に東西南北の4つのエリアに分かれ、東エリアの外れには種族を問わずに貧民層の者たちが住み、村の者たちはこの一角を”貧民区”と呼んでいた。母ちゃんと2人で暮らすオイラも、トルグ爺ちゃんと一緒に暮らす4つ年上のトンパ兄ちゃんも、この貧民区にある貧乏長屋に住んでいた。




 「トンパ兄ちゃん!」

 「おう。ぺロポンそんなに急いでどうした?」


 オイラは噂の怪物に遭遇したことをトンパ兄ちゃんに話した。初めは煩わしそうに聞いていた兄ちゃんも、秘密にしていた穴場のことを話すと表情が変わった。やがて本題の“ホ―ショ―キン”の話になると明らかに目の色が変わり前のめりになった。トンパ兄ちゃんは儲け話に目がない。


 ここに住むヤツらは貧乏人ばかりだ。

 オイラだってトンパ兄ちゃんに負けないくらい儲け話には目がない。


 早速、一緒に衛僧詰所に行こうと駆け出そうとすると、トンパ兄ちゃんが逸るオイラを制するように手を掴んだ。驚いて見ると兄ちゃんの顔には下世話な笑みを浮かべて、“尻尾”を大きく左右に振っている。兄ちゃんがそうするときは何か良い金儲けの方法を思い付いたときだ。


 「何か思い付いたんだね?」

 「ああ。たしかに”報奨金”に目を着けたのはなかなかのもんだ。流石はオレの弟分だ。でも、それだけじゃあダメだ」

 「じゃあ、どうしたら?」


 トンパ兄ちゃんはクルリと背を向けると、腕組みをしながらもったいぶるように言葉を濁す。わざと焦らしているんだ。兄ちゃんの考えは尻尾を見ればすぐわかる。オイラが背中に掴み掛かると、兄ちゃんは笑いながら向き直る。


 「いいか。怪物を見付けたのを通報しただけで報奨金を貰うのは難しい」

 「どうして?」

 「だって、証拠がないからな」

 「証拠?」

 「そうさ。もちろんオレにはお前が本当のことを話しているのがわかる。だが、衛僧様たちが信じてくれるかは別の話だ」


 そう言ってトンパ兄ちゃんはオイラの鼻先をチョンと小突く。


 「じゃあ、どうすれば?」

 「本当にそこに怪物がいるという“証拠”を持ち帰るのさ。例えば怪物の毛や鱗、爪や糞でもいいだろう」


 なるほど。流石はトンパ兄ちゃんだ。

 「ただ────」と兄ちゃんが話を続ける。

 オレたち2人だけで向かうのは危険だなと。


 たしかにそうだ。怪物に襲われたらひとたまりもない。すると兄ちゃんは何か名案を思い付いたらしく「1時間後に村外れの二股大木の下で待ち合わせだ」と言って走り出すと、少し先で立ち止まって振り返り「しっかり準備しとけよ!」と叫んで行ってしまった。


 そう言えばオイラも籠と鉈を無くしたことを母ちゃんに謝らなきゃだった。

 オイラは急いで母ちゃんの勤め先の工房へ走った。




 1時間後。約束の時間になってもトンパ兄ちゃんは現れない。


 母ちゃんに怒られて散々だったのに、オイラはちゃんと時間通りに待ち合わせ場所に来たんだぞ。まったく。兄ちゃんはいつだって時間にだらしないんだから。オイラは待ち合わせ場所の村外れにある二股大木に上り、通りを眺めながらトンパ兄ちゃんを待った。




 更に15分後。ようやく向こうに人影が見えてきた。

 トンパ兄ちゃんだ。でも、その傍らにもう1人誰かいる。

 兄ちゃんよりもだいぶ背が高い。大人のようだ。


 深緑色の丈の長いローブを着ていて、小さな鞄を袈裟懸けにし、首からは何やら色々なものをぶら下げてる。銀色の長い髪を後ろで纏め、手には身の丈ほどの杖を持っているけど。男か女かわからない青白い肌の綺麗な人だ。いったい誰だろう。


 「待たせたな、ぺロポン」

 「あ、うん。ところで兄ちゃんその人は?」


 その問い掛けを待っていたとばかりに、トンパ兄ちゃんは得意気な笑みを浮かべる。そして、ローブ姿の人の手を引いて無理やりオイラの前に連れて来た。


 「ジャジャーン。オレたちの用心棒。グランツ先生だぁ~」

 「せ、先生だなんて。しかも、ボクは用心棒でもないですから。ダメだって言ってるのにトンパ君たちが子供だけで怪物を探しに行くと────」


 トンパ兄ちゃんが妙な節を付けて紹介したけど、グランツ先生はあまり乗り気じゃないようだ。


 「まあ、まあ、詳しいことは向かいながらにしましょうよ、先生」

 「だからボクは先生なんかじゃ────」


 何だかずいぶんと頼りない感じの大人だけど、大丈夫かな。


 「大丈夫さ。グランツ先生はマジで凄いんだから」


 オイラの心配を見透かすように兄ちゃんはそう言うと「さっさと行こうぜ」と先頭を歩き始めた。オイラのほうが今まで待ってたっていうのに。



 

 「その場所と言うのはまだ遠いのでしょうか……」


 ようやく丘のてっぺんを越え下り斜面に差し掛かったあたりで、息を切らしながらグランツ先生が漏らす。トンパ兄ちゃんが「もうちょっと進んだら休憩するから頑張ってよ」となだめすかすが、こんなやり取りをさっきから何度か繰り返していた。オイラも何か先生の気を紛らわしたほうが良いのかな。


 「先生、その首に掛けているのは何ですか?」

 「ぺロポン君まで先生だなんて。ボクは本当にそんなんじゃないんですってば。えっと、これは、お守りです」

 「お守り?」


 オイラが不思議そうに聞き返すと、グランツ先生は首から幾重にもぶら下げたお守りを手に取って見せた。


 「はい。これは虫除けのお守り、こっちのが運気を上げるお守り、この緑色のがリラックスのお守りで、この白色のは精神集中のお守りです。他にも食あたりのお守りや、つまずいて転び難くなるお守りに、良い夢を見るお守りなんてのもあるのですが、あまり多いと肩が凝るもんで置いてきました」

 「…………」


 何だか頼りない。お世辞にも強そうには見えない。

 いくら大人とは言えこんな人に一緒に来てもらっても意味あるのかな。


 心配だなぁ。


さて問題です。ペロポンの種族は何でしょう?


次回もよろしくお願いします♪



※用語※

・ジャガパンタ寺院周辺独立自治区

・ペロポン

・トンパ

・グランツ

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