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転生オークの流離譚  作者: 桜
転生編
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4. サバイバル日記

今回は主人公の心の中での日記形式です。

ダラダラと長いです。


次回からまた普通の形態に戻ります。


 サバイバル生活15日目。


 下流へ食料調達に向かう。魚を捕るには上流のほうが圧倒的に確立が高かったが、危険の少ない下流での採取作業は気分的に楽だ。それでも万が一に備えて手製の銛は手放せない。


 銛はポケットに入っていたマンションの鍵の先を、石で鋭く削って先端部分に使用した。簡単に削ると言っても銅やニッケルなどの合金で作られた鍵は思いのほか硬く、完成までには3日を要した。


 怪物になったとは言え、鋭い牙も爪も持たないオレにとって、この前時代的な普通の鍵を削って作った銛だけが唯一最大の武器だ。


 下流ではコゴミやアイコによく似た山菜の他に、タニシによく似た大きな貝をいくつか見付けた。自然界の植物には中毒を引き起こすものも少なくないため、有毒かどうかの見極めをシロにお願いする。差し出すと食べられる物は素直に手に取り、ときにはそのまま口にすることもある。有毒な物には警戒音を発し教えてくれる。これは本当に助かる。


 ときどき手に取ろうとしないが、警戒音も出さない物もある。

 単純に好みではないと言うことだろうか。




 サバイバル生活16日目。


 ラスに基礎からしっかりと叩き込まれたと言うものの、ゼロ出発のサバイバル生活は楽ではない。


 このような山奥で遭難した場合、一般的には体力を温存し救助を待つのが得策となる。だが、それは”人間”が遭難した場合の話である。化物であるオレのが伏生活をするにあたっては「水」「食料」「安全な塒」の確保が重要だ。最もそういう意味ではここは恵まれていると言える。


 綺麗な川で飲み水と魚などを確保できるうえに、木の実や山菜も採れる。出来ることなら刃渡り30センチ程度のナイフが1本。更に贅沢を言えば、寝袋、水筒、鍋、そして調味料があれば最高なのだが。


 初日にあんな化物に出くわしたので、しばらくはビビりながら生活していたが、どうやら危険動物はそれほど多くはなさそうだ。ちなみに今のところ確認している要注意動物は以下の通りだ。


 黄色と緑色の派手な模様の蛾。コイツの鱗粉はヤバい。

 以前にうっかり触れたときは体が痺れてしばらく動けなかった。

 オレはこの蛾に”痺れ蛾”と名付けた。


 こげ茶色の狸のような見た目で、普段はのんびりと木の上で寝ている動物。動きがゆっくりでナマケモノを想像させる癒し系動物と思いきや、こいつは背中と尻尾に鋭い棘を隠し持っており、襲われると全身を激しく振って棘を飛ばし抵抗する。棘には無数の返しが付いていて刺さると抜け難いうえに、無理に引っこ抜くと傷口が広がる。オレはこの動物に”棘狸”と名付けた。


 じつはもう1体。まだ正体はわからないが、シロがやたらと警戒する生物がいる。ときどき夜になるとシロがいつもより激しい警戒音を出し、何かに怯えるようにオレの傍らで丸くなって動かなくなっていることがある。そんなあくる日は、決まって周辺に巨大な何かが通った形跡が残されている。最初は例の大王サンショウウオがこんな陸地まで来たのかと焦ったが、足跡がまったく違う上に長い尻尾の跡も見当たらない。いったいどんな生物なのだろうか。気になる。




 サバイバル生活19日目。


 肉が食いたい。魚ではなく獣肉か鳥肉が食いたい。こんな贅沢が言えるのは、ここでの生活に少し慣れてきた証拠だろう。


 罠を仕掛けて放置しておくのが最も効率の良い方法なのだが、誤ってシロが罠に掛かる恐れもあるためそれは出来ない。いろいろ考えた結果、弓を作ることにした。じつは少し前に竹によく似た強くしなやかな植物を見付けたのだ。


 ラスとのアウトドア教室で身近な武器についても学んだが、そのときに弓作りも体験していた。本格的な物を作るのであれば話は別だが、とりあえず使えるレベルの弓作りは道具さえあればさほど難しくはない。ただ、ここでは肝心の道具がない。


 竹によく似た植物を適度な長さに切り、予め準備しておいた蔓で作った細いロープを弦にする。1時間以上かけて出来上がったのは、全長40センチ程度の玩具のような短弓。矢は別の枝と棘狸が暴れた際にばら撒いた棘と、植物の葉も利用する。20分ほどでバーベキューの串のような矢が3本できた。


 試し打ちしてみたが道具も腕もイマイチなせいか、4メートル離れた場所から50センチ程度の的にギリギリ当たる精度だ。それに威力的にもあまり離れると仕留めるのが難しそうだ。


 今日はもう暗くなるので後日あらためて試してみよう。




 サバイバル生活21日目。


 明け方から降り始めた雨は次第に雨足を強め、結局1日中降り続いた。

 備蓄しておいた木の実を食べて住処で大人しく過ごす。


 ふと洞窟で見かけた豚面の怪物たちを思い出す。アイツらから見ればオレは同胞に見えるらしい。見ず知らずの者を怪物に変えてまで仲間にしようとするだろうか。あの反応からするとオレがスコップで殴ったヤツはオレのことを知らないようだった。じゃあ、誰がオレをこんな姿に変えて、あんな場所に閉じ込めたのか。


 人生には“雨”の日があれば“風”の日もある。でも、きっといつか晴れ間が見えるはずだ。だとすれば今のオレは”濃霧の真っ只中”といったところか。何がどうなっているのか、まったく見当がつかない。


 こんな時は歌でも歌って気を紛らわしたいところだが、流行りの歌にも興味がないせいかうろ覚えのサビ部分しか出てこないうえに、いつのまにか口ずさんでいたはずの歌が途中から別の歌に変わっていることに気付く。止めよう。静かに雨の音を聞きながら眠りにつく方が心地良い。




 サバイバル生活23日目。


 快晴。いよいよ手製の弓を試すときがきた。既に獲物は2種類に絞っている。小さな角の生えた野ウサギのような小動物か、丸々とした体つきの”プルプル”という奇妙な鳴き声の鳥のいずれかだ。どちらもよくこの森で見掛けるうえに、危険性も少なく初めての獲物にはピッタリだろう。オレはそれぞれに“小角ウサギ”と“プルプル鳥”と名付けた。


 弓を手にして林の中を歩き回るが、何度か高い場所を飛び去る鳥を見かけただけで、お目当ての2匹には出くわさない。諦めて住処へ戻ろうとしたとき茂みの中からプルプル鳥が飛び出した。


 プルプル鳥はあまり飛ぶのは上手くないが、体型に似合わず逃げ足は素早い。咄嗟に放った矢は的を外れて茂みの中へと消え、気が付くとプルプル鳥も姿を消していた。


 本日の成果は獲物ゼロ。矢を1本失くした。




 サバイバル生活24日目。


 シロと一緒い川原を森から中流の近場を散策。木の実と貝をいくつか見付けた。ついでに刃物の代わりにちょうど良さそうな鋭利な石もいくつか物色する。上等なナイフと鍋があればこの生活もだいぶ変わるはずなのだが。


 夜は焚き木をしながら木彫りをしてみる。仏像を彫ると心が落ち着くと何かで読んだことがある。結果的には上手く彫れずに、かえってイライラがつのる。バカバカしい。こんな石器時代のような生活で仏像なんて無理だ。やっぱりナイフが必要だ。




 サバイバル生活25日目。


 これまで足を踏み入れて無かった下流の対岸へ渡り林の中を散策してみる。


 この辺りはキノコが多い。倒木の根元にボリューム感のある白っぽいキノコがたくさん生えていた。シロの反応は問題なし。今夜はキノコパーティーかと思いきや、その後に見付けたキノコは軒並みアウト。他には細長い豆のような植物を見付けた。蔓で編んだ籠が一杯になるまでキノコと豆を採り漁った。少量の肉と味噌があればなあ。鍋物にしたら最高だったろうに。


 午後は上流に仕掛けた罠を確認しに向かう。上流は魚がよく獲れるが大王サンショウウオが現れる恐れがあるため注意が必要だ。


 3箇所のうちの2つの罠に魚が1匹ずつ掛かっていた。3つ目の罠を確認しようと向かうと、その先の岩場で大王サンショウウオが甲羅干ししている姿が見えたのでダッシュで逃げ帰った。眠っていたのか、それとも距離があったためか。いずれにしろこちらに気付いていなかった様子で助かった。


 持ち帰った魚の内臓を取って洗い、キノコと一緒に大きな葉っぱに包んで蒸し焼きにしてみた。キノコの風味が効いてなかなか美味い。味噌があれば間違いなくもっと美味いのになあ。ああ、調味料が欲しい。


 ここが海の近くなら塩が簡単に手に入った。でも、その場合は飲み水の確保に手間が掛かっただろうが。痛し痒しってとこか。




 サバイバル生活26日目。


 再び手製の弓での狩りに挑戦。


 今回はできるだけ獲物に接近できるように、自らにカムフラージュを施す。消し炭を使用して顔や体を部分的に黒く塗ってみた。気分は80年代の軍隊アクション映画だ。


 矢を追加で3本作って、合計5本を携えて出発。


 開始15分で小角ウサギに遭遇するが、弓を構えているうち逃げられてしまった。少し動き辛いが最初から弓を構えて進むべきか。30分後に再び小角ウサギに遭遇。放った矢は僅かに右上に外れた。


その後は1時間以上も獲物に出くわさなかった。ようやくプルプル鳥を見付けたのはそれから更に20分後だ。狙いを定めて放った矢はプルプル鳥の羽に命中。ようやく肉にありつける。そう思ったのも束の間。プルプル鳥は羽に矢が刺さったまま走り去ってしまった。矢鴨ならぬ矢プルプル鳥だな。


 中途半端な気分のまま住処へと帰宅。

 こんなときは早めに寝よう。




 サバイバル生活27日目。


 高熱で寝込む。見知らぬ地で1人ぼっちのアウトドア生活で寝込む豚面の怪物。怪物になっても不安も孤独は感じる。そう言えばラスとのアウトドア教室でも、体調を崩し寝込んだことが一度だけあった。回復した後に、ラスが妙に嬉しそうだったのが印象的だったな。


 あぁ。今のオレなら魔法で野獣の姿に変えられた傲慢な王子の気持ちがわかる気がする。ただ、オレの周りには美女はおろか、時計姿の執事も燭台姿の給仕頭もいない。代わりにシロが傍らで心配そうに見守ってくれている。




 サバイバル生活28日目。


 ひと晩寝込んだら熱は下がった。狩りの途中で赤と白の斑模様をした巨大な蚊がオレの周りを飛んでいた。きっと原因はアイツに違いない。


 足に残った数か所の刺し跡が腫れて、もの凄く痒い。

 オレはあの巨大な蚊に”激痒蚊”と名付けた。


 オレの中の欲しいものランキング第1位は不動の“調味料”だが、2位には 圏外からいきなり“虫よけスプレー”がランクインを果たす。


 痒み止めの薬草でもあれば嬉しいのだが。あれ。そう言えばラスの授業の中で、日本には生息していない薬草についても学んだな。もしかすると似たような植物があるかも知れない。明日にでも探してみるか。




 サバイバル生活30日目。


 高熱による倦怠感もだいぶ回復したので下流方面へ向けて散策する。


 ここに来てからというもの色々な植物や虫を試食してきた。もちろん見知らぬ地で見知らぬ植物や虫をいきなり口にするのは危険極まりないので、シロに活躍してもらったのは言うまでもない。


 今日は4種類の植物と2匹の虫を見付けた。

 いずれもシロのチェックを通過した食材候補だ。


 3つの植物はそれぞれノビルによく似た植物、ゼンマイを大きくしたような見た目の植物、楕円形の固い殻に覆われた木の実、そして、気になる植物の葉だ。その葉はラスの授業で習った、解毒効果や整腸作用のある植物の葉によく似ている。


 まずノビルによく似た植物を少しだけかじってみる。シャキシャキと心地良い触感が特徴的だ。青臭さと苦みが少し鼻につく。塩揉みして味噌で和えれば酒の肴にでもなりそうだが、ここには調味料が一切ない。残念。


 続いてデカいゼンマイのようなのは、エグ味が酷く生では食べれそうにない。少し茹でればどうにかなるだろうか。また次回に試してみよう。


 楕円形の木の実の殻を石で割る。中に入っていた乳白色の部分を少しだけ口に入れて噛む。ナッツだ。カシューナッツのように味わい深く、クルミのように香ばしい味がする。これはイケる。美味い。オレはこのナッツを”クルミもどき”と名付けた。これなら保存食にも最適だ。次に見付けたら少し多めに収穫しよう。


 気になる植物の葉はシロのチェックでは問題なさそうだが、今は解毒効果や整腸作用について確かめようがない。ただ、ほろ苦さと微かな甘みがあって、食材としてもいけそうな気がする。オレはこの植物を”解毒胃薬の植物(仮)”と名付けた。


 2種類の虫はどちらも芋虫だ。

 もちろん2匹ともシロのチェックを通過したものだ。


 1匹は生成色で背中に薄茶色の筋があり、もう1匹は青緑色で薄っすらと茶色の毛が生えている。日本でも地域によってイナゴの佃煮や蜂の子を食す文化があるように、食虫文化は世界中に存在している。滋養強壮に高い効果が期待されるものもあり、一部の愛好家たちには最高の珍味とされている。


 まずは生成色の芋虫を試す。牙が意外と鋭いので先に取っておく。クリーミーな触感とほのかな木の香り。癖の少ないまろやかな味わいが芋虫らしからぬ美味さだ。少し炙れば更に美味しく食べれそうだ。


 続いて青緑色の方を試す。ラスとのアウトドア教室で色々なゲテモノも食べてきたので、今更、虫を食すこと自体に抵抗はほとんどない。ただ、この見た目はまったく食欲を掻き立てない。恐る恐る口に入れて噛んでみると、あまりの予想外な味に思わず吐き出した。何だこの塩辛さは。とても食えたもんじゃない。まるで塩の塊を口に放り込んだかのようだ。


 オレは慌てて水で口をゆすいだ。

 待てよ。塩の塊のような。


 その時、天啓のごとく1つのアイディアがオレの頭に降りて来た。オレは急いで木で作った器に飲み水を注ぎ、その中に青緑色の芋虫を絞った。水に滴り落ちる緑色の腸をかき混ぜる。見た目は最悪だ。だが、オレは勇気を出してそれをゆっくりと口へと運ぶ。


 濃い塩水だ。この味は塩だ。気が付くと塩水を飲み干したオレは、無言でガッツポーズをしていた。塩だ。オレは塩を見付けたんだ。


 オレは青緑色の芋虫に”塩虫”と名付けた。

 その後、陽が暮れるまで塩虫の採取に没頭した。

 夕方までに5匹をゲット。


 夜は久しぶりに塩味の焼き魚に有り付いた。美味い。濃い塩味の効いた焼き魚を咀嚼していると、無意識に涙がこぼれ出た。




 サバイバル生活32日目。


 気が付くとこの生活を始めて1か月が過ぎていた。

 本当にあっと言う間だ。


 昨日に引き続き塩虫と木の実を採取へ。上流の罠に魚が掛かっていれば干物でも作ってみよう。またいつ強い雨が降り続くかもしれないし、備蓄用の食料確保は大事だ。


 採取の途中でまたあの謎の化物の足跡を見付けた。

 足跡はいつものように林の奥へと続きそこでパタリと消えている。

 正体がわからないぶん不気味さも増す。


 渓流で少し大きめの斑模様のある、カニとエビの中間のような生物を2匹捕まえた。シロの反応は問題なしだ。住処へ帰って塩虫の腸を水で溶いたものを塗り焼いてみる。殻が赤色になってくると辺りには香ばしい匂いが立ち込める。何とも言えない食欲をそそる匂いだ。


 熱々の殻を割ると中からホクホクと湯気の上がる身が姿を現す。もちろん味は文句なし。よく詰まった濃い味の身に、ほんのりと塩味が染みて美味い。身を分けてやるとシロもガツガツ食べていた。


 夜になるとまたシロが怯えている。

 いつにも増して激しい怯え方だ。

 またアイツが現れたのだろうか。




 サバイバル生活33日目。


 懲りずに弓での狩りへ。

 何としても塩味の肉に有り付きたい。

 もちろんカムフラージュも忘れない。


 その前にオレはあるものを求めて林の中を散策する。

 探していたのは痺れ蛾だ。


 見付けた痺れ蛾を手で触れないように枝で慎重に抑え込み、持ってきた矢の先に鱗粉を塗り着ける。これによって手製の弓の威力を補う作戦だ。


 開始15分で豹柄模様が特徴的なイタチのような小動物をゲット。あまり美味そうには見えないが、毛皮としては利用価値が高そうだ。冴え先の良いスタートだ。


 それから更に20分後、上流付近で予想外のものを見付ける。死体だ。それもオレにとってこの付近で最も注意するべき存在。あの3メートルを超える大王サンショウウオが死んでいる。


 死体は下顎から脳天へひと突き。状態はとても綺麗だ。昨晩か今朝方に殺されたのだろう。こんな化物を一撃で屠るなんていったいどんな化物だ。


 とりあえずオレは突然目の前に降って湧いた天からの恵みを解体する。腹を裂いて内臓を確認する。やはり死んでからそれほど時間が経過していない。内臓を抜き取り皮を剥ぎ、手足と胴と切り離す。3回にわたって住処まで運び、木に吊るし終える頃には陽が暮れかけていた。とりあえず塩虫で作った塩水を、吊るした肉にたっぷりと塗り込む作業までは終えなければ。塩虫が少し足りない。明日でも探しに行こう。


 作業を終える頃には辺りは真っ暗になっていた。流石に疲れたし腹もペコペコなので、大王サンショウウオの身を少し焼いてみる。白身の肉は鶏肉と魚の中間といった感じで、塩虫の塩味も効いて飽きのこない食べやすさだ。上手く干物が出来れば、暫くは食料に困らないはずだ。そのうえ上流での脅威が1つ排除された。これからは魚が捕りやすくなりそうだ。


 そう言えばヒョウ柄のイタチのこと忘れてたな。




 サバイバル生活34日目。


 大王サンショウウオの干物を仕上げるために塩虫探しに出掛ける。

 そこでオレはまた予想外のものに出会う。


 人だ。大きな籠を背負った少年が林の中から現れた。山菜か木の実でも採っていたのだろうか。オレの姿を見ると少年は口をパクパクさせて、その場に尻もちをついた。まさか人間がいるとは思っていなかったのでオレも驚いたのだが、彼の驚きはオレの比ではなかったはずだ。林の中で豚の怪物に出会ったのだから。


 少年は悲鳴を上げると、その場に籠と鉈を投げ捨てて逃げ去った。


 籠の中には例の解毒胃薬の植物(仮)が何枚も入っている。少年が集めていたということは、この植物の葉に何らかの使い道があるのは間違いなさそうだ。それにしても、悪いことをしてしまった。脅かすつもりなど毛頭なかったのに。


 結局、この日は塩虫2匹を見付けただけで住処へ戻る。


 少年の落としていった鉈は、石器時代のような生活をしていたオレにとって業物の名刀にも見えた。また会うときまで貸してもらうことにしよう。


 それにしても子供が1人でウロウロするなんて。

 意外とこの森は人里近くにあるのだろうか。


読んでくれてありがとうございます。


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