33. 闘技場
総合評価100pt越えアザース!
次の目標は200ptです。オナシャス!
白金貨1枚と大判金貨1枚。クロの持つ残金だけでは到底話にならない金額だ。話すだけで穴隙金貨1枚というのも相当なぼったくりだが、どうしてもきちんと話をしたいクロにとってそれは意味を成さない。いざという時のためにと、ドラケルドがラケルドに持たせてくれた金が幾らかは知らないが、普通に考えれば足りそうにない。
「連れの者と少し相談させて下さい」
「勿論ですとも」
クロの申し出を快く受けるチョメスの顔に余裕の笑みが浮かぶ。俗に大判金貨が”貴族の金貨”と呼ばれるのに対し、小判金貨は”平民の金貨”と呼ばれる。白金貨に至っては、一般人なら一生のうちに何度も目にする機会がないほどの大金だった。
「すまん。勝手に計画を変更してしまって」
2人に歩み寄るとクロは小声で手短に説明する。
「あの屍食族の少女が必要だ」
「クロさん、いったいどうしたんですか? あの少女も知り合いなんですか?」
「ああ。あの少女の持つ情報がどうしても必要だ。どうにか金を工面できないか?」
「工面って言っても白金貨1枚に大判金貨1枚は大金だぜ?」
ラケルドの驚き様も、バンガルの言うことも、当然のことだった。
「ラケルド、幾ら持ってる?」
「すみません。全てかき集めても穴隙金貨3枚に満たないと思います……」
ラケルドは悪くない。本来なら彼の持つ金は充てにするつもりはなかった。これでもドラケルドは装備を整えるにしては、かなりの大金を融通してくれたのは間違いない。出来る事なら白金貨1枚と大判金貨1枚も融通してもらいたいものだが、いくら何でもそれは無理な話だ。
「バンガルさん、短時間で金を作る方法はないか?」
「それほどの大金を短時間でってなると……やっぱ盗賊か?」
バンガルが悪びれもせずに言う。
クロは彼に聞いた自分の過ちだと自らに言い聞かせる。
「多少のリスクは構わないが犯罪はダメだ。捕まって今度は自分たちが奴隷になったんじゃ意味がないからね。ラケルド、何か思いつく方法はあるか?」
「街の知り合いを駆けずり回っても、さすがにそれだけの大金を貸してくれそうな方は……」
確かにそうだ。いきなりそんな大金を貸してくれなど怪しいにもほどがある。いくら知り合いとは言え無理な話だ。
「私なら手っ取り早く大金を作るとすれば闘技場でしょうねぇ。賭博にはリスクと同等のチャンスがありますから。運良くちょうど闘技会が開催されていますしね?」
知恵を絞る3人を遠回しに眺めていたチョメスが、微笑を湛えながら独り言のように口を挟む。金の算段をしていたのは遠目にも明らかだったようだ。
闘技場。確かにチョメスの言う通りリスクはある。だが、短時間で大金を作るには、それなりのリスクを抱えてでも成し遂げる必要があった。
「確かに闘技場なら……そうだ。ボクにちょっと考えがあります!」
その言葉に2人の視線がラケルドに集まる。
「何だラケルド?」
「あのですね、ただの博打では確率が低すぎますよね? だから、クロさんに出場してもらうんですよ。それに賭ければ────」
「なるほど! その手があったか!」
何が”なるほど!”だ。それこそ不確か過ぎる。盛り上がる2人を余所に、クロは浮かない表情を浮かべる。
「それと出場するのはクロさんだけではなく、バンガルさんもです」
「オレもか?」
「はい。本来なら酋長である父の許しが必要でしょうが、この際、緊急措置ってことで事後報告でも仕方ないですよ!」
「はぁ、きっと酋長に怒られだろうけど……他に方法はなさそうだな」
ラケルドの”考え”とはクロとラケルドの2人で参加することで、勝ち進む可能性を上げるというものだ。2人が同じ種目に参加したり、対戦相手に選ばれた場合には、どちらかが確実に勝ち進めるように協力するというものだ。これでもバンガルは集落きって腕利きの狩猟班だ。かなり頼りになる存在であることは、手合わせをしたクロも認めるところだ。そこへラケルドが賭けることで、上手くいけば短時間で手持ちの金が膨れ上がる。それこそ”賭け”ではあるが、どの道クロに残された選択肢は少ない。
「2人ともそれで良いのか?」
「クロさんのためにラインバルトに来たんですから」
「ああ。そうだぜ!」
2人の答えを聞くと、クロはゆっくりとした歩様でチョメスに近寄り、真っ直ぐにその顔を見据えた。
「お待たせしました。さっきの話に興味があります。しかし、今は持ち合わせがありません。少しだけ猶予を頂けませんか?」
その言葉を聞いたチョメスは、顎に手を当ててわざとらしく考え込む仕草を見せる。
「うむ~、良いでしょう。ただし、真夜中の鐘が鳴る深夜12時まで。それを過ぎた場合、この話はなかったことにさせて頂きます」
「わかりました。寛容なご配慮に感謝します」
その答えを聞いてクロたちは足早にチョメスの屋敷を引き揚げる。クロが一切の価格交渉をしなかったのは、最終手段であるこの時間稼ぎだけはどうしても通さなければいけなかったからだ。本来ならじっくりと価格交渉をし少しでも良い条件を引き出すのが定石なのだが、万策尽きた今となっては金を工面するための時間を作ることが最優先だ。
3人はその足で闘技場へと向かった。
馬車の進む先に庁舎と闘技場が見えてきた。かなり遠くからでも大きいとは感じていたが、それは建物に近付くにつれて3人の遠近感を狂わすような巨大な建造物であることを実感する。クロは近代的な重機も無しによくこれだけの建造物を造ったものだと考えたが、すぐにヨーロッパの古代建築物にも同じことが言えることに気付く。先人の知恵とは素晴らしいものだと実感する。
闘技場の正門横には立派な厩舎が用意されており、クロたちはそこに馬車を預かって受付所へと向かう。受付所では闘技会の内容や今後の日程などを確認する場所で、闘技者としてのエントリーもここで行われる。
「どうやら午後の部にまだ間に合いそうですよ!」
代表として窓口に並んでいたラケルドがエントリー票を手に戻って来た。
闘技会は朝の部、午後の部、夜の部の3部からなる。
「種目は何だ?」
「”黄金狩り(ゴールドハント)”ですね」
バンガルが顔を顰めながら”黄金狩りかよぉ”と不満そうに漏らす。狩猟班である彼が、狩猟が目的らしき競技にケチをつけるのはどういう意味なのか。クロは首を傾げた。ラケルドの説明によると闘技会では”格闘””黄金狩り(ゴールドハント)””狂球”の3つの競技が順番に行われているらしい。
午前中に行われた格闘は、闘技会で最も人気の競技だ。その名の通り武器を持った者たちの戦いで、武器もしくは素手で相手をノックアウトか場外に突き落とした者が勝利する。それ以外にはリタイヤかダウン時に審判による10カウントで勝敗が決する。ただし、装備も武器も運営側が用意したものを使用しなければならない。
黄金狩り(ゴールドハント)は、闘技場内に作られた迷路を進み、人為的に放たれた下級の魔物の妨害をかわしつつ、黄金鹿と呼ばれる素早い鹿によく似た魔物の角を最初に手に入れた者が勝者となる。言うまでもなく種目名となっている”黄金”とはこの魔物の名前だ。
狂球は、3つの中で最も観客の好みが分かれる競技だ。5人1組での参加となり狂球と呼ばれる特殊な魔法が施された球を、相手の陣地に叩き込めば得点となる。10分間の前後半で得点の多い方が勝利する。相手選手を羽交い絞めにし、殴り、蹴り飛ばす。とにかく手段を択ばず得点を奪えば良いのだ。ときには狂球そっちのけで殴り合いが行われることもあり、終了の鐘が打ち鳴らされるまでどんな試合展開が待ち受けているのかわからない。観客の好みが分かれる最大の理由は、その残虐性と稀に起こるグダグダな試合展開を嫌煙するためだ。
ちなみにバンガルが不満を漏らしたのは、黄金狩り(ゴールドハント)を嫌ったと言うよりは、どうせ出場するなら格闘で存分に暴れまくりたいという意味だったらしい。格闘の優勝者経験者は街でも人気者で、5回の優勝で殿堂入りした者は英雄的な賞賛を得る。
「エントリー代は1人1種目につき小判銀貨1枚で、優勝賞金は穴隙金貨3枚です」
優勝すれば元金の300倍となる。白金貨1枚と大判金貨1枚にはほど遠いが、今は少しでも効率良く金を増やすことに専念するしかない。
「黄金狩り(ゴールドハント)は優勝者が賞金を総取りするルールです。どちらかに”角”を取ってもらわないと元金が減りますが……」
「やるしかない。バンガルさん、力を貸してくれますか?」
「あたりめえだろ。オレはクロさんのサポートにまわる。賭け金はクロさんに一点張りしよう!」
「わかりました。賭けはボクが責任を持って引き受けます」
3人は早速、午後の部で行われる黄金狩り(ゴールドハント)に向けて動き出した。
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※用語※
・黄金狩り(ゴールドハント)
・格闘
・狂球
・黄金鹿