002 旅のはじまり
二度目まして皆様、悪役令嬢ポジションに転生をしていたロベリア・アイビーといいます。謂わばざまぁ前日に目が覚めた(前世の記憶を思い出した)私は思い出した当日に使えるものを使って兄であるニシキギお兄様の元へと向かい、答え合わせを求めた。欲しい回答はくれなかった。が、兄はアイビー家が今までロベリア・アイビーの我儘や高飛車なのを放置していたのかについては王に相応しいかを見定めるはじめの課題が婚約者の扱いであった為と私に伝えた。……それは私に前世の記憶が戻った時点で察していました。
で、ヒロインと攻略対象者についての扱いだがヒロインは本来なら居ない人の子供であった為、我が国のとても厳しい法律通りに。馬鹿仕出かさなければ生きてられたのにね、とは兄談である。攻略対象者については各々課題が課せられたらしい。ゆくゆくは彼等はダンジョン攻略せねばならないときいた。
私は兄の元へ来た翌日、旅支度をしてダンジョンのある都市へと出発した。フラセチカ王国が確認しているダンジョンは国内外総合で11ヶ所。フラセチカ王国内にあるダンジョンは7つ。そのうち6つのダンジョンが未攻略。兄が言うには難易度が高いそうだ。ダンジョンの中間であろうフロアでワイバーンが出たりする鬼畜仕様らしい。けしてフラセチカ王国の冒険者のレベルが低い訳ではない。
そういえばゲームではダンジョンが30あったけれどもこの世界にそれは適応されているのだろうか。ゲームのマップは覚えているから、ダンジョンの有無の確認をするのも楽しいかもしれない。
「ブルル、」
「お疲れ様レガシオン。街に入る?」
「フンッ」
ダンジョンのある街に着いた。本来なら兄の居た街から5日かかるところが1日で着いてしまった。レガシオンがUMAなのか私のエンチャント系の魔法が優秀なのか悩むところである。
レガシオンは街に入るつもりは無いらしく、ふてぶてしい態度で鼻を鳴らした後さっさと森の方へと向かってしまった。おそらく呼べば帰ってくるだろうが、レガシオンを街に入れた場合の被害を想像すると呼ぶのは怖い。アイビー家の執事はレガシオンに月一で誰かしら骨を折られていのだ。……うん、絶対街に連れていかない。
街へとは無事に入れたので冒険者ギルドへと向かう。テンプレに遭遇するなんてことはないと思っているが、はたしてどうだろうか。あったらあったで面白そうであるから誰か突っ掛かってくれないかな、とは思うが。
この街、ラガラガシェイガは王都の次に広い、ダンジョンを中心とした街だ。色々な人間が集い、その多くは名誉を求めてダンジョン内で散っていく。生き残るのはダンジョンに詳しい人間と悪運が強い人間だけである。無鉄砲に待つのは屍となる道だけだ。
「嬢ちゃん、こんなとこに手ぶらで何しに来たんだ?」
「あら」
わぉ、絡まれた。ギルドに入ってすぐにとか待ち伏せでもしてたのだろうか?と思ってしまう。明らかにやらしい顔をした男がにやにやとしながら私の前に立つ。とても邪魔である。
ギルドはなにか対応をするのか、と思えばどうやらなにもしないようだ。スルーをしようにも、声を出して反応してしまっているので今更男の横を素通りするという選択肢はない。──────それに
「ギルドへ来てやることなんて限られているでしょう?そんなことも解らないの?」
「あ?」
「用がないなら退いてくださらない?」
にこにこと笑ってそう言えば、男は逆上する。沸点が低いこと。振り上げられた拳に、アイビー家の護衛が動こうとしたが視線で制し、拳を避ける。女相手だというのに、顔面を狙ってきた男に情けをかける必要無しと迷うことなく身体強化。男の足を払って体勢を崩させ床に叩きつけられるようにと仰向けに倒れそうになっていた男の腹に踵落とし。
「ああ、ひとつ良いこと教えてあげます」
態々死角を突いてきた男の仲間に愉しげな表情を向ける。気付かれるとは思っていなかったのか驚いた顔をした男へ魔法を使う。
ふわりと重力を無視して浮かぶ複数の氷の剣は男の首回りをぐるりと一周して静止させた。
「私、魔法使いなのですよ」
苦笑していたギルド職員からダンジョンについて色々と話を聞いた。ラガラガシェイガのダンジョンは現在67層まであることが確認されていること。奥まで行くつもりなら解毒薬が必須なこと。
一人でダンジョンに入るのは危険だと心配もされたが笑って誤魔化した。誰かとパーティーを組むにしても私が貴族の令嬢であることもあって参加させてくれとも言いにくいのだ。(万が一私が死んで他の人間が帰還できてしまった場合に責任をとらされてしまうから)身分を隠して、というのは信用問題的に却下だ。
「悩んでんなら俺と組まねぇか?」
今日は宿でゆっくりしようと宿の食堂でゆったりとしていれば目の前に男が座り、私に向かってそう言った。思わずはぁ?と令嬢らしくない反応を返してしまったが咳払いをして誤魔化す。誤魔化せてないだろうけど。
活発そうな男は頬杖をついて私の反応を待っている。が、とりあえずツッコませてほしい。なんでこんなところにいるんだ攻略対象者。いくら隠しキャラだといえ、悪役令嬢()と行動するのは少しばかりいただけない。
「ニシキギお兄様の依頼ですか?」
「あ?よくわかったな」
「でしたら私が否と言う選択肢など無いでは御座いませんか」
「断っても構わないぞ?」
「御冗談を。行動を共にしないなら影からこそこそついてくるのでしょう?レガシオンの驚異的なスピードについてきていたのは貴方。振り払うのも面倒ではないですか」
気付いてたのかと驚いているが、レガシオンの爆走っぷりを追走するのでバレないというのは無理があるからね?レガシオンが走っている時にはエンチャント系の魔法+土魔法でレガシオンの走る道を一瞬一瞬補強して砂埃を発たせない様にしてたけど貴方してなかったでしょ?アイビー家の護衛は元々この街に居た諜報員が臨時で護衛していた人だし。……それはいいんだが。
目の前の男──────ティルフィン・リヴェムはさっき言った通り隠れキャラである。ダンジョンパートにしか出てこないのにプラスして出現がランダムであったキャラクターだ。黒髪に黒と赤のオッドアイの彼は由依霞であった頃、使い勝手が良かったが故の固定パーティーキャラだったりするために親近感がある。警戒してしまわないというのも問題があるがそこは見逃してほしい。
「ギルドでの依頼はどうする?」
「採集を中心に各々でやりましょう。ところで御名前を聞いても?」
「あ、すまねぇ。ティルだ」
「…………」
「嬢ちゃん?」
「嬢ちゃんと貴方に言われる筋合いはありません。それとその名前以外の名前を名乗ってください」
ぽかんとしたティルフィンに内心苦笑しつつも真顔で奴の方を見る。何故こんなことを言ったが解らないようだ。
由依霞の記憶でも彼の事を知っていたがロベリアの記憶でも彼のことは覚えていた。ロベリアにはオッドアイというものがとても印象的だったらしい。特別に見えた。色濃く残っている記憶は、ロベリアの初恋だったのかもしれない。それも、今は関係ないが。
「生憎ですが私はリヴェム家の方を愛称で呼ぶわけにはいかないのです」
「知ってたのか?」
「偶々ですけれどね。オッドアイというのも覚えやすかったです」
「オッドアイ……?」
この世界にはオッドアイという概念は無かったのか。
「私のことはカスミと。家に帰るまではそう名乗るつもりですので」
「……貴族ってのは相変わらず面倒くせぇな」
不機嫌そうな顔をしたティルフィンに嘲笑をプレゼントすればじろりと睨まれた。怖くないけどね。ティルフィンは散々悩んだ後にじゃあ、オッドで。と言ったのでそう呼ばせてもらう。
オッドは私の行動に合わせてくれるらしくこれからの予定を聞かれたので、明日にはダンジョンアタックしに行くと伝えたら準備をきちんとしろと怒鳴られた。1層でもそれほど危険なのか?
「はじめてなので午前中に感覚だけ掴んで午後は準備しようと思っていたのですが」
「感覚?1層だとかだけ行くつもりなのか?」
「特攻なんてしません。なにをするにせよ下見は基本です」
「なれてくっとそんなことしねぇからなぁ」
感心した様に頷くオッドを見てこの世界の人間は馬鹿なのだろうかと思う。ゲームでは戦闘においてはヌルかったものの、ダンジョン的には初見殺しの仕掛けが数ヶ所あった。1層で大体の傾向が解る為、一度は1層のみの探索をすべきだろうに。私のゲーマー魂的な感覚だけというのもあるかもだが。
オッドとパーティーを組むに当たって各々のポジションの確認をした。オッドはゲーム通り前衛のアタッカー。魔法は属性魔法が全部使えるもののMP総量が少なめなのでバリエーションを増やす為だけの使い方しかしない。物理か魔法かと問われれば物理系の人間だ。対して私は魅了魔法以外の魔法を全て使える上に魔力の総量はかなり高い。ゲームの例えでいうのなら初期状態から人より一桁多くのMP。100と1000の差があった。(断罪で処刑されたにも関わらず特殊なロベリアファンに答えるため有料ダウンロードでダンジョンパートに参加していた)完全な魔法職だが近接戦闘も可能。オールラウンダーなのだ。
「魔法職に剣士ってバランス良いな。カスミのエンチャント系の魔法を見る限り優秀だろうしな」
「お褒めに預かり至極光栄、とでも言っておきますね」
「敬語止めねぇ?」
「構いませんが癖で敬語で話すこともあるでしょう。そこは見逃して下さいね?」
「癖は仕方ないな」
楽しげなオッドにここ最近軽口を叩くような相手と行動を共にしていなかったのかなと思いつつそこそこに会話をする。宿は別のところだというオッドと別れた。集合は明日の6時にラガラガシェイガのダンジョン前。下見とはいえ、油断大敵。さて、そろそろ寝てしまおう。