表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さめた  作者: 雪冑
1/8

001 目覚めの時

短編で掲載したものをそのままぶちこんでます。既に短編を読んだ方は2話からどうぞ。





──────目が醒めた。流れ込んでくる記憶に今までの性格が塗り替えられる。所謂前世の自分の人格に今迄の人格を塗り潰された。そして自分の現状を把握した。




「ぜ、前日で良かった……!ギリギリ回避っ!」




悪役令嬢に転生してた件。しかも今までしっかりと悪役こなしてらっしゃいました。この体。

ロベリア・アイビー。宰相の職に就く父を持つ公爵令嬢。テンプレすぎる悪役。現在の私、否、ロベリア・アイビーが産まれたこの国、フラセチカ国の第二王子の婚約者なのもテンプレ。くたばればいいのにいろいろと。

それは兎も角。現状を打破したい。今はざまぁ前日の夜。学生寮でなく家に居るのは有り難かった。きっと思い出させてくれた何かが逃がしてくれると言っているのだろうなんて都合が良い解釈をさせて貰う。思い出した知識でなんとかなるだろうか?

ロベリア・アイビーは噛ませでもあるがスペック自体は高い。崇拝レベルでこの乙ゲーに嵌まっていた友人曰く魔法は魅了魔法以外ならなんでも使えるらしい。公式が言ってたそうだ。つまりはチート。というか魅了魔法とかフラグじゃ……気付かなかったことにしよう。んで、前世の───由依霞は、と言うか私はどちらかと言えばアクション系だとかRPGのゲームが大好物だった人間だ。小説も恋愛よりファンタジーだとかSFが好き。少なくとも進んで乙ゲーやるぜな人間ではなかったので友人が語っていた内容しかしらない。

題は忘れたが登場人物は覚えているこの乙ゲー。ストーリーパートとダンジョンパートに別れていたのでダンジョンをやらされたのは少し面倒だった。乙ゲーだからか戦闘がヌルかったのだ。


主人公はリリィ・ペチュニア。光魔法の使い手。状態異常狙いの戦法しか出来ない雑魚。ペチュニア男爵家の庶子。

攻略対象その一。セレウス・ユーセ・フラセチカ。炎と雷魔法の使い手。器用貧乏。ちょっと俺様?なフラセチカの第二王子。一応ロベリアの婚約者。

攻略対象その二。シーガ・カノノン。風魔法の使い手。公爵家長子。クーデレ。

攻略対象その三。リーロン・サーゼラ。土魔法の使い手。魔法使い家系である侯爵家の次男。チャラ男のフリした真面目。

攻略対象その四。クロマチス・アイビー。水魔法の使い手。ロベリア・アイビーの弟。養子。ゲーム内ではアイビー家に男が居なかったため引き取られたがこの世界では兄が奔放過ぎるので保険として引き取ったと兄から聞いた。クロマチスの両親は他界している。父の弟夫婦の子だそうだ。

攻略対象その五。シルバ・シレウス。炎魔法の使い手。ロベリア・アイビーの護衛。子爵家の次男。口数が少ない。

その他は隠しキャラが三人程いるが一人は第一王子の側近で二週目からしか出会えない。この世界のリリィはゲームに準じていたので接触は不可能。後二人はざまぁ後から開始するダンジョンパートにて一定条件クリアにて現れるので気にする必要はない。



「それはどうでもいいので、逃げよう」



クローゼットを開いて無駄にあるドレスから暗い色を探す。濃いピンクだとか赤とか派手な色の服ばっかじゃねえか!なんて内心愚痴を言いまくりつつ地味な色の服をベットの上に投げ飛ばしていく。ある程度出したらその服をリメイク。ロベリアは何故か幼少から髪色を金にしていたので時空魔法で少し弄って元の黒に戻す。プリンとか勘弁なんで。





「おっし、準備万端」




家を出るまでは幻術でゲームのままのロベリア・アイビーにしておく。万が一弟もしくは護衛にあって監禁とか勘弁なんで。いや、されたらそれこそ強行突破するけど。無駄な労力は使いたくないですからね。なんて。

部屋から出て軽い足取りで玄関へ向かう。ルートは厨房のある方向へ向かってから──────っと




「姉上?こんな時間に何をしているんです?」




どこか嫌そうな顔をした弟に私──いや、ロベリアは笑ってみせる。そして嫌味を言うのだ。何時もなら、の話だが。今はロベリアという人格は由依霞に塗り替えられたのでそんなことはしない。出来ないが正しいか。何をどうすればあんなにほいほいと嫌味を言えるのか。



「喉が渇いたので水を貰いに」


「侍女を呼べば良かったのでは?」


「明日が楽しみで落ち着かない、というのもありますわね。クロマチスこそこんな時間に何をしているのです?」




一瞬だけ強張った弟に、どうせ明日のざまぁイベントの打ち合わせでもしてたんだろう?と脳内でツッコミつつ、答えたくないなら答えなくていいわと言ってから私は再び歩き出す。弟は私があっさりと追求を止めたことに少し驚いていたが、直ぐに不機嫌な顔に戻してからぼそりと呟いた。


「───笑ってられるのは今の内ですよ」


「なにか言いまして?」


「いいえ、なにも」



あぁ!片腹痛いわ!前世で言う深夜のテンションだからか脳内はかなりはっちゃけている。弟のその苦々しげな呟きも、これから起こる事の彼等(・・)の処遇も。悪役令嬢(当て馬)らしく高笑いでもしながら見物させてもらおうではないか。

クロマチスは大きな事を見過ごしている。それがきっと今後の未来を決めるだろう。もし、ロベリアが気付いていたならクロマチスを助けただろうが今は霞だ。今から兄に答え合わせをしに行くのが楽しみで仕方ない。弟は気付かなかった。私は由依霞の記憶と共に気が付いた。大きな差。


思い出したことに感謝を!不様に散るような事にならなかったのだ。別にざまぁの舞台に立っても発言での起死回生は可能なのだが態々奴等のために晒されるつもりもない。''なにを''したかの追求が悪事(学園内での器物破損程度)の私と婚約者がいるにも関わらず蔑ろにした彼等と比べれば一目瞭然であるし。


では''彼等''にとっての悪役は早々に退場いたしますかと目の前のクロマチスを放置して向かうべきところへ足を進める。幻術で部屋に戻る私も見せておくべきか。念には念を。そうしておこう。



家を出て少し離れたアイビー家の馬屋へ向かう。脚の速さだけなら暴れ馬である黒い馬、名をレガシオンが良いだろう。ロベリアの言うことは聞かないだろうが今は聞くだろう。────否、聞かせて(・・・・)みせる。



「レガシオン」



ブルル、と鼻息荒く此方を見るレガシオンの正面から話し掛ける。私の言うことをきいてくれるわよね?と、圧力を掛けてみせれば多少ではあるが大人しくなった。この様子なら問題は無いでしょうとレガシオンを馬屋から連れ出しその背に跨がる。合図をすれば待ちきれなかったかの様に走り出したレガシオンに遠い目をしつつも操って兄が居るであろう街の方を目指す。

ちらりとアイビー家の方を見てバレていやしないかと数秒伺ったが騒ぎだす気配がしないので意識をレガシオンに集中させさっさと街を出る。







「おひさしぶりにございます放浪好きなニシキギお兄様。ところで答え合わせをしたいのですが宜しいでしょうか?」


「うん、久しぶりロベリア。大分雰囲気が変わったね」


「答え合わせを」


「必要ないよ。父ではなく''俺''のところへ来たのでロベリアが正解に辿り着いたのは解るから」



ふわふわと掴み所のない笑い方をする兄に思わずキョトンとしてしまう。王都から離れたのは正解ってことだと言った兄にやはり強制元サヤの可能性があったのかとゲンナリする。霞の記憶が無い頃なら喜んだだろうが、今はそれすらも嫌である。



「ロベリアが正解に辿り着いたから彼等も首の皮が一枚繋がった状態だ。まあ、クロマチスは家を継ぐ可能性は失せたけど」


「あ、家督継ぐ気御座いましたのね」


「ロベリア本当変わったね。前だったら俺に話し掛けようとしなかったのに」


「例の彼女の処遇は?」


「無視?まあ良いけど。例の彼女なら処刑。本来なら赤子の時にそうなる筈だった訳だしね。因みに余計な子種を撒いたペチュニア男爵は去勢」



兄よ、笑って言うことじゃないと思う。というか重くない?そう思って青ざめると兄はそうだった、そこ教えてなかったねと呟くと長々と語り始めた。



「我が国とその周辺国家は''貴族''と''一般市民''を徹底的に別けていてね、貴族が一般市民に手を出して子供を作ったら子供は殺して貴族は去勢が決まり。逆に一般市民が誘惑して貴族が手を出した場合は貴族は爵位剥奪の上規制塔で強制労働。誘惑した方は娼館にブチ込む。一般市民が貴族の女性を犯した場合は一般市民は処刑。貴族の女性は協会で保護」


「何故かしら、色々と初耳な事があるのだけれど」


「ロベリアは''そう''育てられていたからね。王に相応しいか判断するための踏み台になるために、ね。王妃になる存在をどう扱うかというのが歴代の王の最初の仮題だし。今の王妃様は正直に言うとロベリアより酷かった。それを彼処まで育てた王には本当脱帽するよ。王妃様の時は例の彼女の様な存在はなかったけど」



このくらいかな、と話を切った兄は此方を見て猫っぽいなぁと呟いて頭を撫でてきた。兄は気分屋過ぎてどんな行動に出るか予想できませんねと内心苦笑する。



「ロベリアはこれからどうするの?」


「どうする、とは」


「父からは5年は自由にしていいよと伝言貰ってるけど」


「折角ですので、ダンジョンを巡ってみたいと思います」



そう言うと兄はロベリアもアイビー家の人間だねと笑う。我が家はダンジョンアタックが好きらしい。兄の放浪癖といい、旅だとか好奇心が擽られる行動がアイビー家の人間のなにかに触れるのだろう、なんて考察してみる。



「いってらっしゃい、と言えばいいかな」


「はい、いってきます」



これから5年は自由に過ごせるのだ。恐らく内密に、私が死なないために護衛は付いているのだろうがそこは気にせずにダンジョンを巡ろうと思う。

踏み出した一歩は楽しみ故か軽く、気持ちも浮わついている。ロベリアという名前は暫く封印して、霞として冒険者になろう。

5年の自由を、謳歌しよう。




─────この時の私は知らなかった。2年後に何故かダンジョンで攻略対象者達と再会することも、その内フラセチカとサーゼラに惚れられることも、隠しキャラに求婚されることも。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ