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29話:前編 目標修正

2017/09/20 0:15

前話『28話:後編 二つの世界』を改稿しました。読み返して引っかかる文章が多かったためです。内容に変更はありません。

 朝、俺とアルフィーナは互いに一糸まとわぬ姿でベッドにいることに、揃って赤くなった。だがそんな、照れくさい時間を楽しむ余裕はない。クレーヌがくれた情報を忘れて良い時間は終わっているのだ。俺は一緒に災厄に立ち向かうことを改めてアルフィーナと約束して、自分の部屋に戻った。


 具体的な計画を立てねばならない。アルフィーナも一緒に来たがったが、彼女には身だしなみを整える時間が必要だった。いささかならず無理をさせてしまった気がする。


 ……だって「二つの世界で一番だって言葉、証明してください」なんて耳元で言われたら、ひとたまりもない。


◇◇


 部屋に戻り、大量の紙を無駄にした結果、なんとか方針だけはまとめ上げた。空腹感を覚えて部屋を出たところで、さっきの俺と同じ方向に向かう黒髪お下げの少女と出会った。


「おはようミ――」

「朝帰りですか先輩?」


 俺の挨拶を遮って感情を感じさせない言葉が発せられた。


「いや、家にいた…………のですが、はい」


 朝帰りも何も元々この屋敷にいたのだが、その迫力に俺はたじろいだ。


「そうですよね。さて、私はアルフィーナ様に呼ばれているのでいきます」

「は、はい」


 俺はミーアの背中を直立不動で見送ると、食堂に向かった。


◇◇


「ふぁ」


 食堂に入ったところで思わずあくびが出た。さっき一度引っ込んだ眠気が帰ってきたのだ。


「眠そうじゃな」


 長いテーブルの一番奥から、突然声が掛った。エウフィリアが食堂にいる。なんでだ、朝見たことなんて一度もないのに。


「すいません、ぼっとしていて。お、おはようございます」


 俺は家主と上司と…………婚約者の後見人に挨拶する。


「気にするな。リカルドが災厄を防ぐために尽力していることは妾もよく知っておる。……昨夜も遅くまで頑張っておったのではないか?」


 ねぎらいに偽装された刃が突き付けられる。


「…………」


 冷や汗がこめかみをぬらす。からからの喉に無理矢理つばを飲み込んだ。


「ただのう。リカルドが頑張るとアルフィーも一緒に無理をしようとするじゃろう。多少は気を遣って欲しいものじゃ」


 そして、そのままえぐってきた。


「…………ご、ごめんなさい」


 俺はテーブルに頭をぶつけるまで下げた。


「確認する。本当に良いのじゃな」


 下げた頭にエウフィリアの言葉が届いた。


「その件は数ヶ月前に終わってます。大公閣下こそ、前言を翻さないでくださいよ」


 確認の必要などないことを強調した。あの時点では未遂だった”責任”もすっかり完遂している。


「……解った。この件に関して生じるあちら側の問題は妾に任せよ。最悪帝国とも交渉せねばならんがな」

「ありがとうございます」


 後見人の許しがないと結婚なんて出来ないし。平民が王女を娶るとなると色々とあるはずだ。エウフィリアが請け負ってくれるのはありがたい。


「すいません。大公閣下もまだ――」


 バチン


 大きな音を立てて羽扇が開いた。いかん、口が滑った。保身力が回復していない証拠だ。


「それで、これからどうするつもりじゃ」


 エウフィリアは俺に聞いた。その表情には様々な感情が見え隠れしている。この人にしてみれば珍しい。そりゃそうか、俺と違って生まれつき国家の一角を背負ってるんだからな。


「ごく当たり前のことをやります。全力で」


 俺はいった。これまで目を背けていたリスクを見据え、対策を考えて実行する。考えた結果出来ることは地味そのものだった。


 その先に理想的な結果があるかは解らない。ただ、得られた未来をアルフィーナと一緒に歩むだけだ。


 無論それは俺だけでは出来ない。俺は何か言いたげなルィーツアとクラウディアをつれたアルフィーナと一緒にラボに向かう。玄関先でミーアも合流した。


◇◇


 俺達は先日と同じく二階の部屋に上がる。メイティールはいつも通りの表情、隣には緊張したクレーヌがいる。フルシーとノエルにも当然同席してもらう。


「まずは、メイティール、クレーヌ。昨日のことを謝らせて欲しい」


 俺は二人に頭を下げた。昨日は冷静な判断は吹き飛んでいた。帝国も災厄対処で忙しいのだ。有力者であるクレーヌがあれほど手間の掛る調査をしてくれたことには、どれだけ礼を言っても言い足りない。


「ありがとうございます。メイティール殿下。クレーヌ殿」


 アルフィーナも俺に倣う。


「いいわ、私は以前あなたに余計なお節介を焼かれたから。お返しと言うことにしておくわ」


 アルフィーナにメイティールが言った。


「一体何の話じゃ」「…………うん」


 フルシーとノエルが俺達の雰囲気に怪訝な顔になる。アルフィーナと話し合って仲間とは情報を共有することを決めてる。俺は、アルフィーナに起こりうるリスクの説明をした。フルシーとノエルが顔色を変える。勿論、この後はリルカ達にも伝える。言い方が難しいけど。


 ミーアは朝俺とすれ違った後で、アルフィーナから直接聞いたらしい。


 ちなみに今、ルィーツアは自分が前に集めた王国の調査結果と帝国からの資料を付き合わせている。クラウディアはドアの外で誰も通さないと言わんばかりに仁王立ちしている。


「それで、これからどうするの?」

「基本的にこれまで通りに進める。アルフィーナも含めて、皆で全力を挙げて大災厄に立ち向かう」


 俺はいった。アルフィーナも隣で頷いた。メイティールは深い息を吐き、クレーヌはあからさまに安堵の表情になる。二人には精神的負担を背負わせて悪かったと思う。


「……」「……」


 フルシーとノエルが唇をかみしめている。


「基本的には、といったわね?」


 メイティールが物問いたげな視線を向けてくる。俺はつばを飲み込む。


「実際には、一年目で決定的な勝利を収める事を目指したい」


 方針としては平凡きわまりない。アルフィーナを災害対策に参加させる以上、出来ることはなるべく期間を短くすることだけだ。


「具体的にはどうするの。これまで準備してきた魔力レーザーはかなりの物よ。楽観するつもりはないけど、私は勝算が十分あると思っている。そして、その準備だけでも一刻を争う。もっとはっきり言えば間に合う保証はない」


 メイティールが言った。フルシーとノエルも頷いた。


「ああ、俺もレーザーは良い線いってると思ってる。基本的にこれまで通りというのはそういうことだ」


 空飛ぶ成虫の大群を大量生産したレーザーで撃ち落とす。戦いながら情報収集して来年に向けて対策を考える。今でも間違っているとは思えない。


「問題は、俺達の戦略に見落としがあった場合だ。致命的な物は勿論、大きな見落としがあれば戦いを何年も延ばす可能性がある。万全の備えこそ、最短距離の勝利への道だ」


 災害対策という物は、元来そういう物のはずだ。


「言っておることは解るぞ。じゃが、800年ぶりの魔力期の到来とその結果の大災厄じゃ。見落としに備えると言っても限界があろう」


 フルシーが首をかしげた。言ってることはもっともだ。全てに備えるというのは、理想的に見えて効率が悪い。生命の進化が多数の個体と種の犠牲を前提としていたように、未知のリスクはそれが生じてから対処した方が良いのも確かだ。


 だが、俺には一つ当てがあった。もし大きな見落としがあるとしたら、それは俺がこれまで直視を避けていた物に関連する可能性が高い。


「予言の水晶、いや古龍眼と言うべきだな。見落としがあるとしたらこれに関係する可能性が高い。だから、古龍眼について徹底的に調べたい。レーザーの量産だけでギリギリなのは解っている。だけど、俺の……、いや、俺達の為に皆の力を貸して欲しい」


 俺はアルフィーナと一緒に皆に頭を下げた。


「てっきりレーザー以上の魔導兵器を作るって言い出すかと思ってたのに。拍子抜けしたわ。それくらいで良いなら約束通り協力してあげる。……壮大なのろけを聞かされたのは引っかかるけど」


 さっき一刻を争うと言っていたメイティールがいつもの自信家の顔で言った。


「ふむ、其方らのおかげでこれまでずいぶん面白い物を見たが、儂としてはまだ足りぬ。古龍眼を探求するというのならのらぬ手はあるまい」


 フルシーはにやりと笑った。まるで本気でそう言っているように聞こえる。


「……あの、クレーヌさんが来てくれて、さっき相談して、えっと、魔導杖の量産はちょっと余裕がでそうだから。私は手が空いてる、かな。うん」


 ノエルが無理矢理胸を張った。クレーヌもそれに合わせて頷いてくれる。ただ、二人の顔が若干引きつっている。さっきの相談の結果がうかがえるという物だ。


「先輩とアルフィーナが各7パーセント、大公閣下が49パーセント。議決権の半分を大きく超えてますね。ヴィンダーの役員パートナーとしては協力せざるを得ません」


 ミーアが指折り数えながら言った。そんな計算俺でも一瞬で出来るのに。

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