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25話:前半 兵器の原理

 俺はあの現象の原理を示すことから始めることにした。と言っても、パーツは全て揃っている。用意してもらったのは深紅の魔結晶。”魔力”を空にした赤い魔結晶を平らに整形したもの。同じ形にした負の魔結晶。螺炎の魔力波長純化カートリッジ。

 そして、魔力を反射する触媒を塗った魔導金の鏡が二種類、三枚だ。一枚目と二枚目の鏡には魔力を完全反射する魔力触媒。三枚目にはそれよりも性能の劣る反射触媒をコートしている。


「準備できたわよ」


 光路台を設置したノエルが言った。


「魔力が空からの赤い魔結晶と真紅の魔結晶? それに魔力を純化するカートリッジときたら、魔結晶の充填と同じかしら」


 メイティールが首をかしげた。


「正解。じゃあ、頼めるかメイティール」

「真紅から魔力を引き出すだけよね」


 メイティールは深紅の魔結晶に手を当てる。くみ出された魔力がカートリッジで純化され、空になった赤い魔結晶に吸収される。本来なら竜水晶によって波長を分離する。そちらの方がロスは少ないし、カートリッジの魔力触媒は劣化するからだ。ただ、今回は実験だから無視する。


「出来たわ」


 メイティールが手を離す。これで、赤い魔結晶の中の魔素が、均一な形で”励起”された。この現象に合せれば、魔力によるポンピングだ。


 励起した赤い魔結晶と負の魔結晶を紫魔力発生装置の器具をつかって平行に並べる。赤と負の魔結晶の貼り合わせ面には、魔素が勝手に流れないように障壁となる魔力触媒を塗る。念のため、建物などがない方向に向ける。


「館長、お願いします」


 赤と負の魔結晶をぎりぎりまで近づけると、俺はフルシーに頼んだ。


「儂を指名すると言うことも意味があるのじゃろうな」


 正解だ。この中で、単純な魔力の出力なら一番低い魔術師を指定した。


 フルシーが赤の魔結晶の魔素を刺激する。魔結晶の中の魔素に干渉する魔術師により、短い距離の絶縁が突破される。いつも通り、赤と負のバンドギャップに対応した真紅の魔力が生じる。正負の魔結晶の間で生じた魔力は鏡1で角度を変えて、鏡2と3の間で反射を繰り返す。


 殆ど何もしていないのに、真紅の魔力は殆ど糸みたいな細さになって鏡の間で光を増していく……。フルシーが魔力をくみ出し続けるにつれて、その光はどんどん強くなる。


 そして、その一部が反射しきれずに、鏡3から外に飛び出した。


真紅 カートリッジ  赤

◇~~~~□□~~~~▱ ~~~~ ▽鏡1

          負▰    / 

            鏡2(←………………→)鏡3


「ノエル。感魔板を貸してくれ」


            鏡2(――――――――)鏡3ーーーーー→  |感魔板


 俺はその光線に向かって感魔板を下ろす。増幅された魔力の光線の一部が、鏡を突き抜ける。真紅の細い光が感魔板に当たる。下から上に、まっすぐなルビーの閃光が生じた。そして……。


 カラン。


 俺の指に挟まれていない側、が台に墜ちた。音も立てず煙も出さず、感魔板は真っ二つに切れたのだ。俺はフルシー達に見えるように、切断面を向けた。


「儂の引き出した魔力で、これほどの…………」


 魔結晶から手を離したフルシーが唸った。メイティールは目をきらきらさせて、まだ鏡の中に残っている光線を見た。


「あまり目を近づけない方が良い。特に高い資質を持っているメイティールは」


 俺は注意した。メイティールの瞳が俺に向いた。


「どういうこと!」

「簡単に言えば、魔力という波の波長と位相をどちらもそろえた効果だ」


 魔力は直進性が高い。理由は、魔力そのものの性質と、空中に魔力と相互作用する物質がほとんど存在しないこと。そして、魔力が自然光よりも限られた数種類の波長からなることだろう。


 今回は赤い魔結晶の中の魔素の励起状態をそろえることで、発生する波長を1種類にしている。同エネルギーの魔力は同じ波長だ。そしてさっき見た紫魔力の発生器や、今簡易で作ったこの理論モデルのように、その光が鏡の間で反射する。結果、波長だけでなく波の位相が揃う。波同士がぴったりと合わさるのだ。


 波の力は、その波長の短さだけでなく振幅の大きさだ。多くの波が位相をそろえる事により、その振幅が大きくなる。つまり、極めて高いエネルギーを減衰すること無く運ぶ波となるのだ。


 まるでレンズで集光した太陽の光のように、ほぼ一点に集中した魔力は、感魔板を焼き切る位の力を持つ。単位面積あたりなら、アルフィーナの水晶を測定した時に感魔板に穴を開けた時に匹敵するかも知れない。針の先のような小さな穿孔だから、面積は百倍以上違うからだ。


 しかし、幾ら魔力でもここまで集中するのか。


 魔力や光のような力の粒子は、そのスピンの値から複数個が同じ場所に重なって存在する事ができる性質を持つ。膨大な数の魔力(子)が一つとして振る舞ってるなんて事はないだろうな。目に見える量子現象……。


 自分の理解を超える部分は取敢えず置いておこう。俺が理解すべき事は一つ。これは魔力のレーザーだということだ。


 俺は赤と黒の魔結晶を見た。レーザーはその光源の形式から幾つか種類がある。前世の基準なら、今目の前にあるのは半導体レーザーに近い。


 半導体がレーザーを作り出すのは不思議な感じがするが、そうではない。半導体は電子の流れを制御するものだ。そして、電子の流れは光を産む。乱暴に言えば電球とかわらない。電子の溢れたN型半導体と電子を引きつけるP型半導体を合わせると、電子の移動から今のように純粋な波長の光を生み出せる。


 普通の魔結晶は魔素があふれたN型半導体、負の魔結晶は魔素を引きつける正孔を持ったP型半導体に近い。電子ではなく、魔素が落下して純粋な魔力波長を作る。


「こんな単純な構造で、ここまで派手な効果を作り出すなんてね」


 メイティールがいった。そう、半導体レーザーはレーザの中でも高い効率と、コンパクトな構造を特徴とする。まあ、純粋に魔力の現象であって魔導ではないかな。魔力レーザーというのがふさわしいか。


「そうか、これが新しい魔導杖の原理に……」


 ノエルがはっとした顔になった。


「そうだ。成虫魔虫を倒すための性能を思い出して欲しい。まず第一に必要なのは魔力の密度、メイティールの言葉なら魔力圧だな。レーザーによって超高密度に圧縮された魔力は、その一点だけ見れば破城槌よりもずっと高い圧力を実現できる」

「強い魔力圧で守られた成虫魔獣の装甲を突破できるわね」


 メイティールが頷く。


「次は射程距離だ。純粋な波長と位相により、ただでさえ直進性が高い魔力は拡散することなく、その魔力圧を遠方まで保つ。そして、速度は言うまでもない」

「上空を飛ぶ魔虫を狙い撃てる、そういうわけじゃな」


 フルシーが髭を扱きながらいった。


 俺の予想では魔力の波の速度は光速、少なくともそれに近い。魔虫は恐らく感覚毛で空気の流れ、あるいは魔力を感じ取り反射的に回避している。


 ミサイルを回避するには、そのミサイルに電磁波レーダーを当てて、その反射を感知する。これは電磁波、要するに光がミサイルとの間を往復してなおミサイルよりも遙かに高速だから可能だ。だが、レーザーは違う、感知したというのは当たっているのだ。


「最後が数だ。さっきの通り、必要なのは魔結晶の魔素に刺激を与えて、スイッチを入れることだけ。少なくとも資質がある人間なら誰でも使えるはずだ」


 魔結晶と負の魔結晶との間に何らかの障壁、今回の場合は空間距離、を置き資質を持つ者に魔結晶の中の魔素を刺激するというステップで制御が可能になる。


「……この前の、インターフェースを噛ますことで、螺炎の使用者を拡大したどころじゃないわね。帝国王国合わせて何千人って揃えられる」

「この構造はとても単純だし。魔導文字もつかってない。これなら沢山作れる……」

「膨大な数の魔虫の群れとも戦えると言うわけじゃな」


 魔術班は俺の言葉を先取りする。そう、魔力レーザーはクレイグから聞いた成虫魔獣に対する兵器として理想的だ。ただし、問題が少なくとも二つある。


 俺は全く無傷の自分の指を見た。

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[一言] 毎度毎度記号で表されてる図が何を表現してるのかさっぱりわからんわ
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