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予言の経済学 ~巫女姫と転生商人の異世界災害対策~  作者: のらふくろう
十一章『凍りついた記録』

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22話:後半 対マルチタスクの秘策

 部屋から出る俺にミーアが廊下まで付いて来た。


「すまん。本当に苦労を掛けてる」


 俺はミーアに頭を下げた。ミーアがいなければとてもじゃないが債券なんて扱えない。そもそも、本業が潰れているだろう。

「私が支えられる部分はいいんです。いささか癪ですけど、アルフィーナ様がラボの……秘書として頑張っておられます。でも先輩の体は一つです」

「あ、ああ、解ってる。でもほら、今が一番忙しいときで、これさえ切り抜ければ……。解ってる、次の仕事に取りかかる前にちゃんと整理して、優先順位を整えるから」


 俺の言葉に、ミーアは黙ったままだ。


「えっと、皆待ってるぞ」


 ミーアは困った顔のまま、部屋に戻った。


◇◇


「…………落ち着け。俺は確かに混乱している。良し、現状認識OKだ」


 部屋に戻った俺は机の前で、一回深呼吸する。


「だが、だがだ。俺はこういう時のための方法はちゃんと解っている」


 焦る自分にこれからする行動の必要性を言い聞かせた。今からやるのは、個々の仕事ではなくその全体の俯瞰と言うべき物だ。この忙しいときに具体的に進まないことは無駄に見える。だが、これをやらないことが最大の無駄を作る。


 俺は二枚の紙を机に並べた。俺は沢山のプロジェクトを抱えている。それに伴い、毎日大量のタスクが発生している。お粗末な頭脳を更にぼけさせる。いわゆるマルチタスク状態だ。生産性向上の最大の敵だ。


 最大限に脳を働かせなければいけない時に、脳の働きを低調にするという素晴らしい効果があるのだ


「だから整理して、優先順位を付ける」


 タスクを処理する為の基本的なフローを確立する。このフローは個々のタスクの内容とは独立している。おかげで、一つ一つのステップは単純で明確、いわば思考のロジスティクスの規格化だ。


 俺は最初の紙を広げた。これはいわゆるインボックスだ。発生したタスクはまず全てここに書き込まれる。この時点ではただ書き込こむだけ、決して分類したり処理したりしようとしない。


 次に、このインボックスに集めたタスクをプロジェクトごとに分類する。例えば、先ほどの債券の発行。紫魔力発生装置の開発などだ。……多いな。


 最後に、分類されたリストの中から優先順位を考慮して、今日やることリストを作るのだ。仕事を始めたら基本的に見るのはこの最後のリストだけ。これで、膨大なタスクが脳を埋め尽くすことはなくなる。今やるべき事だけが、目の前にあるというわけだ。


 と言っても、インボックスにはここ数日だけで大量のタスクがたまっている。相手がある上に、俺よりも偉い、から単純じゃない、分類整理となるとなかなか骨だ。


「プロジェクトの優先順位ももう一度整理するか」


 紙に十字に線を引いた。アイゼンハワーマトリックスだ。【重要ー重要】でない【緊急ー緊急】でない。この二軸で各プロジェクトを大まかに4等分にする平面思考。これで、プロジェクトレベルの優先順位は視覚的に明白になるのだ。大統領の職務すらこなせる方法だからな。


「まず、魔虫を引き寄せる紫魔力発生装置の開発。これはもちろん緊急かつ重要だ。次に、新しく出てきた成虫型に対抗できる新型魔導杖の開発。緊急かつ重要に格上げだ。戦いのためのロジスティクスの構築。そして、さっきの戦費と新都市の建設。魔虫の脅威が深刻化したから、万全の準備が……緊急かつ重要 ………………あれ??」


 俺は十字の左上。決しておろそかに出来ない領域に並ぶプロジェクトを見て首をかしげた。


「いやまて、そうだロジスティクス関係は宰相府。債券関係はミーアに任せているから……。でも、新都市の根本的な形そのものは俺が示さなければならないよな。現状でどの程度のことが物理的に可能かを勘案しなくちゃいけない。宰相府とセントラルガーデンの皆、建設ギルドや輸送ギルドとの情報交換がいる……」


 俺は重要だが緊急ではないに移そうとしたプロジェクトからペン先を離した。


 落ち着け、どれも重要なのは解っているんだ。問題は、その重要な中で優先順位を付けること。


「ラボの方が優先なのは確かだ。えっと新型魔導の開発。メイティールには螺炎を除けば一番研究が進んでいた破城槌の魔導文字を中心に考えてもらってるけど……。一つに賭けるわけには行かないよな。やっぱり俺が何かアイデアを出さないと。紫魔力発生装置は絶対に譲れない最優先事項だし。…………魔虫との戦いの武器は、戦いを経て進歩させるんじゃなかったっけ……。いや、そうじゃない。成虫型の実力が解った今そんな余裕がないことが解ったんだ…………」


 目の前に書かれた整理されているはずのリストが、俺の目に次々と飛び込んでくる。視点が定まらない。文字の量に、視界がゲシュタルト崩壊しそうだ。


「そう言えば、魔虫の標的になる紫魔力の噴出口を感知するためのアンテナも…………。ラボへのコミットをより高めるべき……、でもいまでもちゃんとそっち優先で…………」


 俺は自分の行動を中心に考え直そうとする。頼りになる仲間がいるのだから、任せることが大事だ。大丈夫だ、プロジェクトメンバーは皆超が付くほど優秀。そう、皆の力を集約さえ出来れば、人類を滅亡から救う程度のことは出来るはずなんだ。


 問題があるとすれば、その優秀なメンバーを束ねるのが、本質的は凡人に過ぎない俺であることだ。だから、俺が頑張らないと。


 危機的状況で時間がない。ミーアを始め大事な仲間達皆が危険だ。新都市に関わる以上、普通の商人達よりも災厄に近づくことになる。そして、一番危険なのは手段を選べなくなったときのアルフィーナの扱いだ……。


 アルフィーナ一人に頼るシステムの脆弱性を解決しないと…………。


 そうしたら、彼女を俺が独…………も……。


 ……………………



 ………………



 ……





 ガン!!


「…………ぁ、れ……!?」

 衝撃が頭部を襲った。何が起こったのか解らない。意識が混沌としている。目の前に紫色のモザイクが浮んでいる。なんで、目の高さに床があるんだろうか…………。机が倒れたのか。机の脚が横に見えるけど。


「リカルドくん!!」


 バサバサという紙の落ちる音がして、アルフィーナの悲鳴のような声が聞こえた。なぜアルフィーナが横に見えるのだろう。まるで忍者のように壁を歩いている……。


 アルフィーナの足音が側頭部に振動として伝わってくる。ああ、なるほど俺が倒れたのか…………。


「リカルドくん。しっかりしてください。リカルドくん。リカルドくん!!」


 駆け寄ってきたアルフィーナが頭を抱き起こそうとする。俺の意識はそこで途切れた。

2017/08/27:

来週は通常通り水、金、日に投稿の予定です。

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