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21話 性能要求

 ラボに帰った俺達は二手に分かれる、フルシーは二階で殺虫灯ならぬ、紫魔力の発生装置の続きをしてもらう。最優先事項であることは変わらないのだ。俺はメイティールとノエルと一緒に、にわかに持ち上がった新兵器開発の方針を考える。


 ちなみに、アルフィーナはエウフィリアやミーアとの話し合いのため、大公邸に戻ってもらった。ロジスティクスなど、戦いを支える部分でも調整が必要なのだ。


 大枠としては仮説通りに検証されたのに、対策は全面的に修正が必要だ。


 ラボで魔力半導体の金型研究をしていたノエルを旧棟に呼んで、クレイグからの土産話をする。最近は威厳を持って、あくまでノエル基準で、出向者の指導をしていたノエルだが、俺達の話を聞いてこの世の終わりみたいな顔になった。


「まずは成虫型魔虫と戦うのに必要な条件を決めないとね」

「は、はい……」「そうなるよな……」


 メイティールが冷静に言った。俺とノエルが頷いた。いわゆる性能要求と言うことになるか。


「飛行中の成虫に当てることが可能なだけの速度が必要だな、螺炎の倍くらいの速度はいるんだろうな」

「射程距離も長くないと。こちらが届かない距離から一方的に攻撃されたんじゃ話にならないもの」

「…………威力もだよな。魔力の障壁を突破するだけの威力がいるんだったな」

「…………大群を相手にするなら、魔力を効率よく使わないと、現時点の螺炎よりも高い魔力効率も必要ね」

 俺とメイティールの声音がだんだん小さくなっていく。

「あ、あの、魔虫が魔力噴出口に生んでた卵って、一つのつがいで100個近かったんですよね。なら、使える人間も多くないと。あんまり複雑な魔術だと、それだけ……」


 俺達は思い思いに必要な要件を上げていく。そして、三人揃って互いを見つめ合い、


「……これ無理じゃないか」「無理ね」「無理だよ」


揃ってため息をついた。


「…………魔力半導体の性能と製造技術の方はどうなってるんだ」


 俺はノエルに聞いた。少しでもポジティブな情報を求めたのかも知れない。


「回路のラインだけなら、髪の毛とまでは行かないけど、かなり細くなっている。必要な魔力は従来の5分の1、それでいて回路の速度は3倍以上。魔導金の金型を使えば生産も容易。歩留まりも半分くらいまでは上がってる」

「聞いてるだけで馬鹿馬鹿しいくらいの進歩よ。次の災厄のことを知らなかったら帝国民に「我々は魔獣との戦いに勝利した」って宣言するわね」


 すごくポジティブな情報だった。普通ならもう何もしなくても俺達勝利確定ってくらいだ。もうこんな会議良いから慰安旅行のプランでも立てるか、と言うことになる。だが、そんな楽観の余裕は全くない。


「螺炎に適応したらどうなる?」

「帝国に持っていったもので、元々私たちが使っていた物の三倍以上。それと比べても更に倍の性能は出るわね。ただ、肝心の射程と螺炎自体の速度、威力はそこまで上がらない」

「…………だよな」


 一番力を発揮するのは発射までの速度、つまり演算速度と、魔力の効率だ。計算速度の上昇に合わせて精度も高まるだろう。それでも、クレイグの話を聞く限り駄目だ。


「やっぱり全く新しい魔導を検討するしかないか。ちなみに、螺炎以上の魔導ってあるのか」


 俺はメイティールを見た。


「あったら前の戦争で使ってる……。解ってるわ。現在の回路技術を前提に実用にたどり着くものってことでしょ」


 メイティールは真剣な顔で考え込む。だが、すぐに首を振った。


「螺炎の中心になってる魔導文字は魔獣の模様を元にしてるって話はしたわよね。そして、その模様は魔獣の模様の中で一番、いいえ飛び抜けて詳細に研究されたものなの。そもそも、リカルドの言葉が正しければ、魔獣の魔紋の中でも空気を操作するものは際だって進化している可能性が高いのよね」


 天才皇女は俺が教えた概念を持って不都合な真実を示した。


「螺炎の元になった魔紋が形になるまで、まあ形にしたの私だけど、どれだけかかったと思う? もちろん、膨大な先行研究を参考にしたから出来たのよ」

「つまり、他の模様は螺炎以上にブラックボックスってことか……。でも、それを検討するしか無いよな」


 俺の予想では魔力は高度で超効率的な情報処理だ。理論上出来ないことなどない。そしてそんな凄い技術は当然ブラックボックスだ。螺炎ですら、メイティールはほとんど原理が解らずに使っていたのだ。


「一応、次に研究が進んでるのがあの破城槌のかしら」


 なるほど、魔導金を回転させる。でも、それですら跳ね返されたんだよな。しかし、他に選択肢は無いか……。


「リカルドはおるか。そろそろこちらに……」


 フルシーがドアを開けて入ってきた。こっちのめどが付いたらなるべく早く二階に顔を出すって約束していた。


「私は一応他の魔獣の模様について調べておく。これに関しては私が一番詳しいでしょうから。ノエルも手伝って」

「解りました」

「頼む」


 俺は二人に頭を下げた。


「解ってるわよ。そっちが最優先だものね。論理的にも、そしてリカルドにとっても」


 メイティールは少し頬を膨らませていった。


◇◇


「紫魔力の発生装置の方はどうですか?」


 二階に上った俺はフルシーに聞いた。目の前にある試作機は、見たところ前と全く変わらない。魔力関係が変わっていても俺は解らないのだが。

「進んではおる。だが、要求が上がったのはこちらも一緒じゃからな」


 フルシーが言った。紫の魔力をなるべく広範囲に広げる。いわば、紫光の光度勾配を作るのだが、魔力触媒の種類で決め打ちは出来ても、調節するのが難しいらしい。


「まだ、魔力効率も心許ないしのう」


 フルシーが空になった魔結晶を見て言った。


「回路で節約できる魔力には限界がありますからね」


 例えばパソコンでも、CPUの電力効率はどんどん高めることは出来る。大昔の部屋一杯の大きさが、小指の先に乗るように。だが、ディスプレイの電力効率の上昇は大きな制限がある。


「いろいろ試しておるが、何しろ特殊な魔力じゃからな。これまでの感覚が通用せん事も多い」

「そうですよね……」


 理解は出来る。何しろ、水晶くらいしかなかった魔力の波長だ。


「紫の魔力の発生を高感度で感知するアンテナも必要じゃから、工夫するしか無いがな」

「イーリスを作るのは材料の竜水晶がネックだから、紫の魔力に反応しやすい魔力触媒を使って、ですね」

「紫の魔力に特化させる代わりに、小型で簡便な仕組みにするしかないじゃろう」

「後は、魔虫の群れをとらえるためのレーダーも……」

「そっちは深紅の魔力じゃからもう少しましじゃな。これまでの改良で間に合うじゃろうが……」


 成虫が予想よりも強力で、予想通りの大量発生が生じる以上、レーダーの能力も底上げしないといけない。簡単と言っても、フルシーの時間を取ることは変わりない。


 出向組にどれだけの役割を振れるかノエルに相談しないと。いや、これに関してはアルフィーナに頼んだ方が良いか……。


 俺はなるべく最優先事項、紫魔力に集中しないと。


「いろいろ試してみるしかないですね……」


 俺の手持ちはあくまで魔力のない世界の知識、それも厳密な理論では無く曖昧な物だ。そして、俺の知能でそれを魔力に適応するには、試行錯誤しながらアイデアが生まれるのを待つしかない。


 フルシーと一緒に手を動かしたり、メイティール達の調査を手伝ったりしていたら、あっという間に深夜だった。結局、今日の成果は新しく採用された魔力触媒の性質について多少知識が付いた程度だ。


 このままラボに泊まり込みたいくらいだが、明日はセントラルガーデンと話し合いもある。


 俺は文句一つ言わない迎えの馬車に恐縮しながら乗り込んだ。馬車の周りを十騎を超える騎士が併走する。……いつもはここまで多くないけど、深夜だからだろう。肩書きが重い。


 近々、一度宰相府にも行かないといけない。春に向けて騎士団の準備をするであろうクレイグとも連絡を密にしなくちゃいけないだろう。と言っても、今の段階では何も報告できないけど。

2017/08/24:

感想欄等の停止について


申し訳ありませんが、少なくとも完結まで感想とレビューの受付を閉じさせていただきます。

後書きに「感想、ご指摘などお待ちしています」と書けないのは残念ですが『予言の経済学』を完結させることを優先したく、このように決断することにしました。


申し訳ありませんが、どうかご理解お願いします。


私の感想欄への気持ちなどは時を改めて活動報告に書きたいと思います。

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