表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/280

13話 侵入者はどっち?

 コミュ障が学校内に作った秘密基地に逃げ込むように俺は学院の裏に向かった。


 ところが、目的地であるラボの様子は俺を裏切った。まず第一に、建物が二つになっていた。更に、その新しい方の建物に見知らぬ人間が出入りしている。確かに、出発前に拡張計画はあったけど……。


「大分様子が変わりましたねアル……クラウディア殿」


 俺はアルフィーナの隣にいるクラウディアに話しかけた。クラウディアはなんで自分にという顔になる。


「……私はあまりこちらには縁がないからな。おおかたリカルドの無茶に応えられるようにではないか」

「ははは、ご冗談を……。大体後数ヶ月で卒業ですよ」

「そうしたらラボ自体がお前に合わせて別の場所に移るのではないか」

「…………」


 俺は沈黙した。実は新都市に持っていきたかったりするが、流石に無理だよな。王国が手放すはずがない。ただ、新都市に魔力関係の教育学習施設は欲しいところだ。


 この学院の分校扱いとか駄目だろうか。まあ俺に教育とか無理なので、人材が必要なんだよな。といっても、教師にろくに知り合いがいない。まあ、ろくに授業受けてないしな。


 仕方ないよね。帝国に出張に行ったりしてたし。あれだ、公式試合に参加するためにやむなくみたいな感じか。全然違う気がする……。


 それはともかく人材である。俺の周りを見渡すに、そういうことが出来そうな人間がまた極度に少ない。気がする、例外があるとしたら……。


「卒業したら、リカルドくんは大河の向こうに行ってしまうのでしょうね」


 アルフィーナが言った。


 あの後、アルフィーナとはぎくしゃくしていた。つまり、上手く意思疎通が出来ていない。


 単純に時間がなかったというのが一つだ。セントラルガーデンと新都市準備委員会を立ち上げている親父と、ヴィンダー商会の運営をしているミーアとの話で殆どの時間を取られた。


 と言うか、それだけでも時間がいくらあっても足りないのだ。2人には、新都市セントラルガーデンが大災厄に対する、王国帝国両軍の後方支援基地になるから建設を5年は早める必要があるという話をした。


 ……そのときの二人の顔は何というか宰相や国王よりも恐かったかも知れない。


 俺のせいじゃない、天災なんだからしかたがないじゃないか。


「す、少なくとも次の災厄に対抗できるめどが立つまでは、ここからは離れられませんよ。幸い、大公閣下もまだ屋敷に留まるように言ってくださっていますし」

「そ、そうですよね。ごめんなさい。私こんなときに……」


 もう一つの理由は、根本的な方針がアルフィーナと一致していないことにある。いや、それに対する俺の迷いか……。


 思い起こせばアルフィーナと再会したときの俺の態度はかなり駄目な感じだった、なんであそこまで感情的になったのか。アルフィーナを心配するのは当然だが、彼女の主張だって間違っていない。むしろ冷静で論理的で、合理的。


 頼もしいと言っても良いくらいだ。ならば、ナッシュ均衡的に合理的なバランスというか落としどころを見つけるべきだったのだ。


 とにかく、今日の魔術班の会議にアルフィーナにも参加してもらうということで収めた。実際、事が紫の魔力に関わる以上は必要な事だ。


 少なくとも一度は仕方ないと俺も納得している。まさか大公邸にずっと閉じ……、いてもらうわけにはいかないし。


 だが、この空気は気まずい。俺がどうしようかと思ったとき、新しい方の建物から二人の女の子がおしゃべりしながら出てきた。


「シェリーにヴィナルディア」


 声をかけると、二人は俺の姿を確認して顔を見合わせた。


「ヴィンダー!! ………………ええっと、無事帰ってきて良かった、うん。…………お疲れ様、…………私」

「その、えっと、心配していたのよ。貴方と言うよりも貴方を心配してるナタリーをだけど」


 二人とも再会を喜んでくれた。最後におかしな台詞がくっついているけど。それは不問にふそう。


「そう言えば二人って結構仲良かったんだな」


 会話の声は弾んでいたようだった。さっきまでは……。


「まあ、ナタリーを通じて色々とね。それに……ほら助け合わないといけないことも多いから、ね」

「そうよ。そういうこと」

「それはいいな」


 俺は笑顔で祝福した。セントラルガーデン同士助け合う体制が出来ているのは良いことだ。今後の事を考えるとなおさら。


「ヴィンダー、なんか笑い顔が怖い……」

「それにしても、なんか見知らぬ人間が多いな」


 俺は新しい建物から出てきた2人から情報収集を試みる。コミュ障の俺としては知らない人間が多い場所というだけで怯むのだ。


「魔術寮からの出向組のこと? それならノエル……ノエル師に聞いた方が良くない? ……ああでも」

「なんだ?」

「今てんてこ舞いみたいだから、あんまり無茶は……ね」


 シェリーによると、技術移転の為に魔術寮のお偉いさんの弟子が来ているらしい。新しい建物は主にその為に使われているという。そして、その管理者がノエルということか。


 魔力触媒にしても新しい魔導杖にしても完全にキャパオーバーだったからな。受け入れは少し前から始まっていたらしいから、王宮の会議で決まった魔術寮を好きに使う云々とは別だな。


 ただ…………。


「無茶に関してはちょっと約束できないかな。そのうちシェリー達にも説明するけど」

「……そうだよね」「わかってた」


 二人は揃って乾いた笑いを浮かべた。


「いや、基本大儲けの話だから」


 俺は励まそうと明るい未来をアピールする。嘘じゃないぞと苦しい笑顔を浮かべた。シェリーとヴィナルディアは騙されないぞと言う顔で俺を睨む。


「あ、あの、大変だと思いますけど。よろしくお願いします」


 アルフィーナが二人に言った。


「……ま、まあ、私もアルフィーナ様と一緒に色々したから。乗りかかった船よね」


 打って変わってシェリーが覚悟を決めた顔になる。


「リルカやナタリーも集めないと。ううん、ダルガン先輩とプルラ先輩にも早く連絡取らないと駄目ね」


 ヴィナルディアも真剣そのものという顔でシェリーに言う。これが人徳の違いか。


「いや、ちゃんと機会を設けて説明……」

「間に合うわけないでしょ。だいたい、ミーアに聞く方が早いから」「そうね、一刻も早く状況を把握しないと」


 二人は言い捨てるように言って、校舎の方に駆けていった。アルフィーナと比べた人徳の無さに泣けてくる。


◇◇


 俺はカギを回して古い方、といっても数ヶ月前に立ったばかり、の建物の入り口からラボに入った。廊下を歩くと、新しい建物に続く通路ができている。廊下の向こうから見知らぬ若い、と言っても俺達よりは年上の、男女が歩いてきた。


 フルシーにつれられて魔術寮に行ったときに見たローブだ。魔術寮の制服だろうか。


 アルフィーナを見て全員が一斉にひざまずこうとする。そして、それをアルフィーナに止められた。次に、全員の怪訝な目が俺に突き刺さる。さて、何と説明するか。自己紹介苦手なんだよな。


 考えてみればこのラボにおける俺の立場って何だっけ? いや待て、そもそもそんな物ない可能性まであるぞ。そりゃそうだ、俺商人だからな。では俺はこの国家機密で出来ていると言っても過言ではない施設にどんな資格で出入りしてるんだ??


 考えてみれば保身的にかなりまずいことをやっていた気がする。うっかり切り捨てられてもおかしくないくらいのミスじゃないか。


 俺が自分の存在そのものに疑問を呈していると、魔術寮組らしい男女がざわつき始める。


「どうしたの皆。次はこっちの部屋で魔導銀の…………。ヴィ、ヴィンダー!」


 彼らの後ろに、こちらに来るノエルが見えた。ローブが派手になってる気がする。ノエルは俺に気がつくと固まった。


「丁度良かったノエル。ちょっと説明してくれ」


 俺はノエルに助けを求めた。ちなみに、俺にも俺の立場を説明して欲しい。ノエルの後ろに続いていた男女が一斉にざわめき始めた。


「何だあの男、師匠を呼び捨てにしたぞ」「いや待て、今ヴィンダーと言ったぞ。まさか……」

「師匠だって?」


 あまりに似合わない肩書きに俺は思わず声を上げた。


 ノエルは大きくため息をついた。後ろにつれている魔術寮の関係者を手で制すると俺の方に大股で歩いてくる。


「私、見習いが取れたの。卒業を待たずに正式な宮廷魔術師にされちゃったのね」

「それはめでた「めでたくない。あんたのせいだって聞いたけど」


 ノエルの剣幕に俺は困った。というか、俺のせいって何だ?


「俺は知らないぞ」

「あんたが御前会議で陛下に魔術寮をここの下に付けろって進言したんでしょ」


 ノエルの言葉に後ろの男女がざわめき始める。「御前会議で進言?」「平民の格好だよな」という声が聞こえる。


「いや、俺はあくまで次の災厄の事を説明しただけだ。大体あの場にはフルシーが居たぞ。ノエルの立場云々は、そっちの話じゃないか?」


 会議の後フルシーとグリニシアスがそんな話をしていた気がする。


「……ノエル。お前館長から何を聞いた?」


 俺が尋ねる。


「大体ヴィンダーのせいって……。でも、多分間違ってない」


 ノエルは納得しなかったが、とにかく現状の説明を受けた。後ろの比較的若い男女はシェリーの言っていた魔術寮からの出向組で、魔力触媒や魔導半導体関係の技術の移転のためらしい。やたらと若いのは、ノエルに師事することを嫌った魔術寮のお偉いさんが、弟子を寄越したかららしい。


 そして、フルシーはノエルを正式な宮廷魔術師にすることでその管理を押し付けた感じか。若いと言っても年上の弟子は胃が痛そうだな。かわいそうに、俺なら耐えられん。


「ノエルの功績を考えれば当然のことですね」


 後ろで黙っていたアルフィーナが口を開いた。


「アルフィーナ様。あの、この前はありがとうございます」


 ノエルがアルフィーナに礼を言った。クラウディアに聞くと、要するにノエルが如何に王家の信頼を得ているかの裏付けとして、アルフィーナも参加した新しいラボメンバーのお茶会みたいなのをやったらしい。


 なるほど、本来そういうことに気を回すべきなのが、あの老人じゃあな……。俺が二階への階段を見ると、丁度フルシーが顔を出した。


「館長。ノエルになんてデマを」

「おおリカルド理事殿ではないか。やっときおったか。お前が来ねば何も始まらん。この前の御前会議である程度のことは聞いたが、これからラボで何をどうするかとっとと教えてもらわねばな」


 「大賢者様に教えるだと!」「理事だって」背後のざわめきがますます大きくなってきた。

 ……そう言えばそんな肩書きを押しつけられたような。3つある中で最後だし、あろうがなかろうが、ここに関しては大して意味ないと思ってたから記憶から抜けてた。


「私はヴィンダーの危険性を説明してからすぐ行くから」


 ノエルはそう言うと。「いい、間違っても実家の権威とかそういうのを頼りにしないこと。……家が大切ならね」「もし無茶を言われたら私か大賢者様に相談すること」など、とんでもない注意を始める。


 誰だその理不尽な権力者みたいな奴は? 俺は内心の不満を抱えながら階段を上がった。

感想、ご指摘などお待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ