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予言の経済学 ~巫女姫と転生商人の異世界災害対策~  作者: のらふくろう
十一章『凍りついた記録』

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12話:後半 交渉は冷静さが肝心

 彼女は俺の側……俺の……だけに…………いい。


「リカルドくん? あの恐い顔をして……。何かおかしいでしょうか」


 アルフィーナが不安そうに俺を見る。あれ、俺は今何を考えていたっけ。……そうだ、アルフィーナに無理をさせないことだ。


「い、いえ。確かに今の情報は重要だと思います。ただ、水晶の使用がご負担を……。じゃなくて、水晶から生じる魔力に関して一つ無視できないことがあるんです」


 冷静に、冷静にだ。俺は水晶から発せられる紫の魔力が魔虫を引き寄せる可能性を告げた。


「なるほど……王都に災厄を呼び寄せる可能性が…………」


 アルフィーナは少し困った顔になった。だが、すぐに顔を上げる。


「でしたら、もっと寒くなったらどうでしょうか。リカルドくんの仮説なら冬の間はその魔虫は蛹の状態になっていて動けないのですよね」


 むっ、それは……。論理的だ。だが、俺の目的とは違う。


「じ、実は魔虫に対抗するために水晶それ自体を用いる可能性があります。ですから、予言ではなくそちらに水晶を使いたいのです」


 俺は紫の魔力で魔虫の群れを引き寄せる装置を作ることが戦略の中心であることを説明した。


「なるほど、誰も居ない場所に魔虫の群れを引き寄せて。流石リカルドくんです。そちらの研究の方なら私も協力できそうですね」


 アルフィーナは言った。それは、俺が懸念していたことだ。紫の魔力を発生させるためにアルフィーナが必要不可欠になれば俺は詰む可能性がある。研究だけではない、実際の決戦にも。つまり、彼女を直接の危険にさらすことになるのだ。しかも、俺の想定では一年では済まない。


「おやめください。それではアルフィーナ様の負担が!」


 俺は思わず語気を強めた。


「リカルドくん……」


 はっとして、アルフィーナを見ると。彼女は驚いた顔で戸惑っている。しまった、冷静にと思っていたのに。俺の方が動揺してどうする。


「……リカルドくん。リカルドくん達が解き明かした災厄の規模は、私が見たものと一致します。リカルド君の言うとおり、本当に重大な災厄になる可能性が高いです」

「はい……」

「そして、あまりに時間がありません」

「それは、そうです」


 アルフィーナが俺に説いて聞かせるように言った。渋々うなずく。


「そして、私はちゃんとクラウやルィーツアに手伝ってもらって水晶に向かっています。負担はそこまで大きくありません」


 アルフィーナが後ろの二人を振り返って言った。二人は頷いた。実際、俺に駆け寄ってきたときの足もしっかりしていたし、俺に抱きついた腕の力も強かった。だけど、あんな高密度の魔力に晒されて負担がないわけはない。


「少しは負担があったと言うことでは」

「それはそうです。でも、誰でも自分の仕事を果たすときに、全く疲れないということはないですよね」

「いえ、あの魔力のことはそのレベルで考えるのは危険です。そのようなことはするべきではありません」

「リカルドくん……」


 アルフィーナは俺をじっと見た。まっすぐな視線に気圧される。


「先ほどからリカルドくんは少しおかしいです。リカルドくんが予想している災厄の危険性の大きさ、それを防ぐ重大さを考えれば、私ができる限りのことをするのは当然ではないですか」


 アルフィーナは言った。


「そ、それは、その。戦場の設定とか、長期的な戦略に基づく方法も考えています。ラボの皆やセントラルガーデンのメンバー。それに帝国のメイティール殿下の協力も得られますし。ですから……」


 どうやって説得する。俺は目を泳がせながら考える。不味い、良い考えが浮かばない。これまでは災厄の大きさをさんざん使って、国王達を説得してきたのに。立場が逆になってしまった。


「と、とにかく、私がなんとかしますから、アルフィーナ様は……」


 口から出たのはそんな理屈にもならない言葉だった。アルフィーナは俺を悲しそうに見た。


「そうしてまたリカルドくんが危険なことに近づくのですか」


 アルフィーナは静かに言った。何かに耐えるような表情で俺を見る。


「それは……。いえ、その、もう魔虫に近づいたりは……」


 しないとは言えない。少なくとも最終決戦には立ち会うことになるはずだ。よく分らない肩書きが幾つもあるし、そんなこと関係無しに、将来のセントラルガーデン建設にも関わるのだから。つまり、俺がその場にいないなんてあり得ないのだ。だがそこにアルフィーナも居る必要はない。それは駄目だ。


「それでも、アルフィーナ…………アルフィーナ様には……。アルフィーナ様は私の言うとおりにしていればいいんです」

「リカルドくん?」

「あっ、あれ?」


 根拠も論理も示さず、まるでだだっ子のようなことを言っていることに気がついた。しかも、アルフィーナに向かって命令している。


「リカルドくん。もう一度……」

「アルフィーナ様」


 後ろからルィーツアがアルフィーナの言葉を止めた。ルィーツアが俺を見る。不味いな。自分の主がこんなことを言われたら、いくらこの二人でも……。


「うーん。必ずしも悪い傾向ではないですけど。少し冷静になった方が良いですね」


 ルィーツアが言った。あれ怒っていない? それと悪くない傾向って何の話だ。


「そうだな、アルフィーナ様。リカルドも疲れている様子。時間をおいてもう一度話されては」


 クラウディアまで俺をフォローするようなことを言う。なんでそんな生暖かそうな目で俺を見る。確かに今のはちょっと冷静さをなくして、情けなかったけど。


 いや、そもそも二人とも話の内容を分かってるのだろうか。俺はアルフィーナの安全の話をしてるんだぞ。

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