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予言の経済学 ~巫女姫と転生商人の異世界災害対策~  作者: のらふくろう
九章『虹の架け橋』

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12話:前半 自信作

 公爵邸で出張料理をしてから一週間。書庫での資料調査を切り上げた俺とアルフィーナはラボに向かった。今日はメイティールから成果を見せると予告された日なのだ。ちなみに、褒美を忘れるなと念を押されている。


 おかげで今、館長室ではナタリー達がアイスクリームを作っている。


 ラボの二階に上がりドアを開けると、腕組みをして俺達を睥睨するメイティールがいる。部屋の奥には光路台を調整しているノエルと、板のような物を持っているフルシーがいる。


 良かったミーアも間に合ったみたいだ。ちょこちょこ顔を出して手伝ってくれたんだよな。


「アイスクリームというのは用意出来てる?」

「第一声がそれか、ああ今作ってもらっているよ」


 俺はメイティールの背後に目をやった、ノエルが弄っている光路台には大きな違いは見えない。俺の目に分かるのはプリズムが1つに戻っていること。その1つが前よりも大きいことくらいだ。


「じゃあ説明を開始するわ。私達が工夫したのはこれ」


 メイティールが棒に刺さった二つの部品を掲げた。両手に一つずつ、くるくると回転させているのは、丸い輪っかに収まった透明な部品だ。


「レンズか? でも……」


 恐らく竜水晶製だろう。光の実験と考えれば特に違和感はない。


 レンズで絞れば表面積が小さくなる。つまり、単位面積当たりの魔力の密度が上がる。だが、デメリットが二つあったはずだ。一つは、間隔も狭まるので、波長の違いを区別する目的と矛盾すること。そしてレンズは当たる場所で屈折率が変わる。


「一つ目はここ」


 首をかしげる俺を満足げに見て、メイティールは一つ目を光路台に設置した。俺の予想と違って、スリットとプリズムの間だ。


「スリットから入った光をレンズで絞るのか。それはおかしくないか」

「違うわ。逆よ、逆」


 メイティールがフルシーを見た。フルシーが立ち上がり石板の前に行く。レンズに当たった光が焦点を結ぶ図が描かれる。そして、焦点の位置にスリットが書き加えられる。


「今お主が言ったことをひっくり返してみるのじゃ。このレンズの焦点は丁度スリットにあっておる。スリットで絞られた魔力がレンズに向かって広がっていくとどうなる?」


 光を絞るのではなく、絞られた光が広がってきたのを受け止める。紙を燃やす理科の実験ではなくて、虫眼鏡で物を見る時の方向か。


「スリットから広がる過程で角度が付いた光をレンズで平行に戻すの。これが決定的に重要だったの」

「そうか、全ての光がプリズムに同じ角度で当たるんだ」


 なるほど、スリットで絞った魔力は僅かながらプリズムまでの間で広がる。つまり、魔力の中心から端に向かって色々な角度でプリズムに当たる。それでは屈折する時に同じ波長でも曲がる方向が僅かに変わる。つまり、映し出される像が左右にぼやける。だが、魔力がまっすぐ進むようにレンズで調節したら、その問題は消える。


 ……いかん、俺の知識が小学校で止まってることを再認識させられた。


「そういうこと。そして、もう一つのレンズはここに置くの」


 メイティールが左手に持っていたレンズをプリズムの後に置く。


「これで、魔力波長毎にずれた場所に焦点を結ぶの」


 俺が最初にイメージした効果だ。魔結晶から発した光がスリットにより一点に絞られた後で広がる。それを最初のレンズで平行に戻し、プリズムで波長毎に分ける。波長毎に分かれた魔力は次のレンズで、その波長毎に異なる場所に焦点を結ぶ。今度は波長毎に場所をずらして絞られるわけだ。


 魔力の流れを単純に考えれば両端を削った鉛筆か。一つ目のレンズが虫眼鏡。二つ目のレンズが人間の目と考えてもいい。


 俺はぐわんぐわんとなる脳みそでなんとかそう理解した。


「しかし、よくこんなの思いついたな」

「ま、まあ、リカルドの言葉がヒントにとも言えなくもないわね。喰城虫の頭部の奥に奇妙な魔力の流れがあったのを思い出したの。今考えれば、その流れの形を真似るためにはどうすれば良いか考えたわけ」


 なるほど、公爵邸でメイティールが調べていたのはそれだったのか。


「さあ論より証拠よ。新しい分析器の力を見せてあげるわ」


 メイティールの合図で、ノエルが小さな魔結晶を改良型スペクトラム測定器に設置した。前回全く測定できなかった、粘菌魔獣の一匹分の魔結晶だ。


 |▍|


 感魔紙がほんの数分で感光する。普通の魔結晶を使った時並の速さじゃないか。確か、粘菌魔獣のくず魔結晶の魔力量は百分の一だったよな。


「こんなに変わる物なのか」


 俺の驚きに、メイティールが胸を張る。


「レンズを中心に各箇所で効率化が重なっているのよ。プリズムに当てる前にレンズを通すことで、スリットで取り込む魔力源の幅も増やせる。そして、レンズの効果で分離能が増したからプリズムが一つで済む、プリズムでのロスは半分になるわ。分解された波長を絞ることで単位面積当たりの露光量も。後は……」


 メイティールがノエルとフルシーを見た。


「感魔紙の色素を紙ではなく魔導銀に塗ったのじゃ、紙の繊維の並びによるぶれをなくし、魔力の吸着性も増した。……費用は大分増えるがな」

「プリズムは減ったけど、レンズの精度を出すのは苦労したわ」

「それに、ミーアが光路の距離や角度を計算してくれた。おかげで試行錯誤は最低限で済んだわ」


 四人がうなずき合った。俺がいない間にすっかりチームの雰囲気がある。


「これを魔脈に向けるのが今から楽しみでならん。さて、何を見せてくれるかのう」

「錬金術の工程の解析にも使えそう。魔導寮に設置した方が良いと思う。というか、こんなの独占したら何言われるか分からないわ」

「これでやっと帳簿に戻れます……」


 和気あいあいと今後の展望を語る魔術班。一人俺の心臓を攻めてるのがいるけど。


「これの可能性はそんな物じゃないわ。これまでにないレベルで魔力分析が出来るのよ。用途はいくらでもあるわ。……そちらの意向が絡むけれどね」


 メイティールが一番後ろにいるレオナルドを見ていった。レオナルドが困ったように俺を見る。装置の力が大きければ大きいほど頭が痛い問題になる。いや、魔術班が成果を上げた以上、それを活かすのは俺の責任だな。まずは魔脈の測定で王宮にも分かるように有効性を示す。そして水晶の予言のメカニズムに切り込む。


 まあ、それは後の話だ。今は、自慢気に胸を反らしながら期待の目を向けてくるメイティールに応えよう。


「じゃあ、約束の物を……。シェリー頼む」


 俺が後ろの扉に向かっていった。それを合図に、シェリーとナタリーがトレイに乗せた皿を運び込む。


 皿の上に乗っているのは茶色のクリームが波打ち、その上に黒い粒が散らしてある。茶色と黒。見た目の地味さにメイティールが首をかしげる。ちなみに、これを作るのに協力してもらったプルラも同じ顔をしていた。


「こっちも論より証拠だ。食べてみてくれ」


 俺の言葉に、シェリーがおずおずと、ナタリーがゆっくりと頷く。メイティールがあれだけ自信満々だったからな。こっちだって自信作を用意させてもらった。

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