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予言の経済学 ~巫女姫と転生商人の異世界災害対策~  作者: のらふくろう
九章『虹の架け橋』

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1話:中編 仕事に逃げる

「アルフィーナ……。なるほど、貴方が古龍眼の巫女なのね。ええ、初めまして」


 古龍眼とは聞いたことのない言葉だ。俺はアルフィーナを見たが、彼女も首をかしげている。


「ふうん……。まあいいわ。貴方の水晶には興味があるけど、それよりも今はここのこと」


 俺たちの表情に何を思ったのか、メイティールは小さく笑う。そして、アルフィーナから俺に視線を移すや再びにじり寄ってくる。いや、そこはまずアルフィーナと話して欲しいんだけど。共同研究そのものよりも遙かにやっかいな人間関係のマネージメント、それを適切な人間にゆだねるという俺の計画が危うくなる。


「今日は面白い話を聞かせてくれるんでしょうねリカルド。ここに来てから屋敷に閉じ込められてて退屈だったのよ」

「そ、それはメイティール殿下が何を提供できるか次第です。情報というのはあくまで対等に交換する物でしょう」


 「リカルド……」とつぶやいているアルフィーナが気になるが、俺は潜在的スパイをまず牽制した。ノエルの状況を見ると、とてもじゃないが甘い情報管理は出来ない。今だって、俺たちよりも一歩でも先に来て少しでも情報を集めようとしたと考えるべきだ。


 預けられた先の公爵家でも、帝国との情報伝達は厳重に管理されているだろうけど、全く漏れないなんて不可能だ。


「あら、ずいぶん改まった言い方をするじゃない。これから一緒に研究する仲間なんだから、もっと砕けても良いんじゃないからしら」


 まあ初対面の時は一応国を代表してる感じだったし、第一ミーアを攫われて半分切れてたんだ。普段はあんな保身をぶっちぎった態度じゃないぞ。


「メイティール殿下。お立場もあるのですから……。その、少し距離が近いのでは?」


 再起動したアルフィーナが再びメイティールに話しかけた。心なしか眉尻が上がって居る。いや、俺と違って人徳のあるアルフィーナのことだ、きっとなんとかしてくれるはず。


「ああ、そうね。王国においては身分が絶対って話だったわね。でも気にしないで、私は虜囚の身だし。そもそも、リカルドに招かれてきたようなものだから」

「それはいささか違うのでは? そもそも、貴方がミーアを攫ったからリカルドくんは危険を冒して……」


 青銀の髪の王女と明るい紫の髪の皇女が対峙する。空気が重くなっていく。いや、身分を嵩に着られるよりもやりやすくて良いんだけど。俺の計画は?


「ほら。どうするのよ」「どうしますか先輩。策士の出番では?」


 いや、そういうことが無理だからアルフィーナに頼んだんだぞ。一度任せた以上は黙って見守るのがマネージメントの基本だしな……。


 というか、微妙に険悪な女の子同士の間に入るようなスキルがあるわけがない。日和ってるんじゃない。自分の実力に対する正確な評価だ。


「おお、やっと揃ったな。さあさあ早く始めるぞ」


 俺を救ったのは、上から聞こえてきた老人の声だった。ここの主が二階から降りてきたのだ。大賢者とか伯爵とかあるいは年を経た人言の重厚さとか、そういうのは全くない。もう、階段を降りる足から表情まで浮ついているのが丸わかりだ。


 背後にはなぜか疲れた顔のレオナルドがいる。


「館長。あんまり情報を無警戒にバラさないでくださいよ……」

「分っておる。大丈夫じゃ、年輪のこととかは話しとらんぞ」


 いやいや、話していないと言ってる口から何か漏れているし。ほら、メイティールがアルフィーナから一瞬でこちらに目を移してる。そして、無視されたアルフィーナの顔が曇る。


 リルカとミーア、さらにノエルが加わった視線が俺に刺さる。仕方がないな。


「……と、とにかく今日の会合を始めましょうか」


 俺は戦術的撤退を選択した。自分の陣地に引き上げて体勢を立て直すのだ。


◇◇


 フルシーの部屋に入り、席に着く。前に見たときと違い部屋の中は片付いている。戻ってきたミーアがノエルと一緒にやったらしい。自分が戻ってきて感動しているフルシーの心の隙をついたらしい。


 もっとも何日持つか。魔力と違ってこの部屋の整理はちゃんと熱力学の第二法則に忠実だからな。


「そういえばレオナルド先輩はどうしてここに? 館長が予算のことでまた無茶を言ったとか……」


 俺たちと一緒に部屋に入り、書記官のようにペンを構えたレオナルドに聞く。


「私は宰相府から王立魔術研究所に出向ということになっている」

「それは……」


 レオナルドの言葉に俺は思わず目を背けた。前途ある若者がフルシーのせいで左遷とは。第一印象はよくなかったけど、研究予算関係での宰相府との連絡では苦労してもらったから罪悪感がある。

「なんでそんな哀れむような目で見る。研究所に予算のための領地が付属しているのは知っているだろう。クルトハイト……旧クルトハイト大公領で、ちょうど我が家の領地の隣接している。代官を兼任していると思ってくれ。後はまあ……」

「王宮からのお目付役じゃな。誰のとは言わんが……」


 フルシーが俺を見る。まあ当然の措置だな。宰相としてもメイティールと俺が何をするか把握しようとするに決まっている。


「それで、今日の議題はなんじゃ」

「そうよ、早く方針を決めてくれないと……」


 ノエルの視線の先には、二人の姫君が並んで座っている。アルフィーナが話しかけて、愛想のないメイティールに一言二言で話を切られるの繰り返し。そしてメイティールの視線がこちらに来ると。


 アルフィーナがどうこうじゃなくて、魔導の話にしか興味ないと言うことか。


「大河の北、血の山脈と大河に挟まれた地域が新しく王国の領地になりましたよね。でも、今のままでは飛竜が飛び回るここはなんの役にも立たない。魔術と魔導の知識を糾合してこの場所を王国にとってはもちろん、帝国にとっても欠かせない場所にする。それが目的です」


 俺は地図を広げた。賠償金と一緒に届いた地図だ。あまり詳しい物ではない。恐らく第一には飛竜の領域だから、第二には……。


 俺が指を置いたのは大河と山脈に挟まった三角形の平地。位置的には王都から北北東にある。


「最終目的はこの地に王国と帝国の交易市場、そして血の山脈の観測拠点となる都市を築く。商業的な話はここでは置きますが、昨今の魔脈の異常な変動を考えれば血の山脈の観測は重要です」


 よそ行きというか大義名分が多めだ。レオナルド向けを含むというのもあるが、新しい領土は王国にも帝国にも有用ですよと言うアピールが欠かせない。言ってみれば帝国、王国、魔獣に囲まれているのだ。もちろん、掛け値無しに両国に必要な存在にするつもりだ。俺達の保身のために。


 そして、その為に必要なのがここに居るメンバーと言うわけだ。


「いつも通りの無茶じゃな」「例によって無茶を始めたわ……」「リカルド君がまた無茶をするのが心配です……」「……」


 フルシーとノエルとアルフィーナが言った。ミーアは無言だ。


「まあ、目的はそれでいいわ。で、具体的には何をするの?」


 メイティールが言った。


「いくつか考えて居ることはある。けど当面の目的は館長の魔力測定アンテナと帝国の魔導技術を使って魔脈の情報をもっと詳細に得る方法を開発すること、かな」

「ふむ、それに関しては異存はないぞ」

「私たちに出来ることならね」


 フルシーとノエルが言った。大丈夫、二人に出来ないなら誰にも無理だと思っているから。


「その為に私が来たんだけど。もちろん、知識も技術もただでは渡さないわよ。あくまで交換。私が面白いと思う情報とね。例えばあの2種類の魔力触媒とか、それを使って回路を描くやり方とかね」


 メイティールが言った。さっきまでただで俺たちの情報を得ようとノエルを質問攻めにしてた気がするが。


「残念ながらそう言った応用に直結する話は、もう少し進んでからだな。まずは基本中の基本である魔脈について互いの情報をすりあわせしたい」


 魔術も魔導も魔力を使うという点で同じだ。だが、それぞれで得意分野があるというのが俺の予想だ。フルシーのアンテナが示すように、魔力を感知する精度や感度ではこっちが勝る。一方、帝国は王国では感知しにくい魔力のある領域について知っているはずだ。


 その二つの知識を組み合せて、魔力そのものの基本的な理解を進める。いわば魔力学の基礎研究からスタートするということだ。

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― 新着の感想 ―
敵国相手に気軽に行われる情報開示一つ一つが別作品だと自国民の何万人を殺すんだろうと考えると、この作品の人々の善良ぶりに感謝というか
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