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彼女に出会ったのは、春休みのことだった。
歩いていたら空からハンカチが降ってきた。
思わずそれをつかむ。
いったいどこからきたのだろう?
首をかしげていると声がした。
「すいません!
それ私のです!」
見上げると民家の二階の窓から身を乗り出している少女がいた。
「そこで待っていてください!」
少女はそう言うと窓から体を引っ込めた。
そうして家の玄関が開く。
少女は恵と名乗ってハンカチを受け取った。
「僕は翔太。よろしく」
そう言うと恵は微笑んだ。
翔太が入学したのは私立和泉高等学校だ。
もうすぐ入学式が始まる。
教室で翔太は見知った顔を見つけた。
恵だった。
「恵!一緒の学校だったんだ」
翔太がそう言って笑うと恵は不審な顔をした。
「あれ?恵だよな?」
「違うわ。私は留美よ」
え?こんなにそっくりなのに?
翔太は驚いた。
そんな翔太を見て留美は笑った。
「恵は私の姉よ。
何、あなた姉さんを知っているの?」
姉!こんなに似ている姉!
「私たちは双子なのよ。
恵は体が弱いから学校へは通っていないけれど」
そうだったのか、翔太は納得した。
「これからは妹の私もよろしくね」
留美はそう言って翔太の肩をたたいた。
性格はまったく違う二人の姉妹。
姉の恵はおしとやか。
妹の留美は元気がいい。
そんな二人と知り合って半年がたった。
体育の授業で留美が足をくじいた。
右足を少しひきずるようにして歩く留美。
「家まで送っていこうか?」
翔太がそう声をかけると、留美は首を横に振った。
「平気。翔太に送ってもらったのが恵にわかったら嫉妬されちゃうもの」
そう言って留美は手をヒラヒラとふり、帰って行った。
別に嫉妬なんてしないだろう。
妹に。
そう思ったけれど、翔太は黙って留美の後姿を見ていた。
次の日は休日だった。
翔太は恵に会いに行った。
「どうしたの?」
恵は右足に包帯を巻いていた。
留美と同じだ。
「階段から足を滑らせてしまって。
少しくじいただけだから平気よ」
そう言って恥ずかしそうに恵は微笑んだ。
「昨日、留美も同じところを怪我していたよ」
「ああ、私たちっていつもそうなのよ。
同じところを怪我するの」
「双子の神秘ってやつ?
不思議だな」
翔太はそう言って頷いた。
そうね不思議ね、と恵は笑った。
仲の良い双子だと思っていた。
実際、そうだった。
だから気付かなかった。
教えられるまで分からなかったのだ。
留美が風邪をひいて学校を休んだ日、翔太は留美の家に届け物をしに行った。
出てきたのは留美の母親だった。
「まあ、あなたが翔太君?
いつもあの子がお世話になって。
あなたのおかげであの子も随分元気になったのよ。
さあ、上がって」
そう言われて案内されたのは仏間だった。
「…あなたには教えておかなければならないことがあるの」
母親はそう言うと仏壇を見せた。
そこにあるのは、少女の写真と位牌。
「!」
その顔は…!
翔太の顔を見て母親は頷いた。
「ええ、そうなの。
あの子はもう亡くなっているのよ」