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よくある話でありえない話  作者: にゃんぞんびー
1/1

想定外過ぎるといっそ冷静になるよね

よくある話でありえない話。

僕は異世界の神子&神女召喚に巻き込まれ、なんやかんやありつつ、なんとか元の世界に送還されることになったんだけれども…。



「え、どゆこと?」





******




二年ぶりとなるアスファルトを踏みしめ、感慨深く周りの建物を眺める。

看板は英文字だらけで、その時点で「あ~あ」と思った。けど、これは事前に聞いていたことなので予測の範囲内。


召還された時の座標軸に合わせるのはほぼ不可能と聞いていたからだ。小難しい説明を聞いてイメージしたのは回転してる地球儀にダーツを投げるアレ。

だから海や山じゃなくてラッキー。英語圏なら日本の大使館だってあるだろうう、ちょぴっとなら英語も話せる。

大使館まで距離があったとしても、アチラの世界からシンプルな細工の施されていない換金向きの金の指環も持ってきたし、携帯食だって十分ある。


とりあえずホテルで電話借りて家族と連絡さえ取れれば、後は父さんが何とかしてくれるはず。

そう高をくくり、人通りの少ない、というか歩行者ゼロの通りを、先ほど見つけたホテルの看板目指して歩いていく。


早朝だからか、車も一台だって走ってない。どう見ても廃車な事故起こして放置っぽい車がそこかしこに有るし、通り沿いにある店は全てシャッターがおりている。


通りの隅や路地裏で眠っている路上生活者がいなければゴーストタウンだと思うほどの寂れっぷり。

はっきり言って汚い町だなぁ…と思った。


治安も悪そうだし、ホテルに急ごう。


そう考えて気持ち小走りになったぼくの足音で目が覚めたのか、路上生活者達がむくりと起き出し、こちらを凝視してきた。

その視線に何となく嫌な感じを受けたぼくは、彼らの視線を振り払うようにホテルを目指して走った。



はぁはぁと息を切らしながら半ば飛び込むように入ったホテル。ロビーは朝日が射し込み多少は明るかったが、非常灯ぐらいしか灯っていない館内は薄暗かった。

そこそこ広いエントランスを進み、カウンターのベルを鳴らす。


リン


涼やかな音が無人のエントランスに響き渡る。

けれどロビーの明かりは消灯したまま、灯りが点く気配もなくホテルマンも出てこない。

再度鳴らしてみるもののスタッフオンリーと書かれたドアは開かない。

日本なら何かしらの応答があるんだけどな、と少しの不満を感じつつも、ロビーに置かれたソファーに座り待つことにした。


下手にスタッフドア開けて不審者と間違われて撃たれては敵わない。アメリカとかならあり得る話だし。


そうして待つこと少し。

ホテルだというのに空調が悪いのか何だか臭い。我慢できない程でもないけど、このホテルに泊まるのは避けたいな、と親と連絡が着いた後のことを考えていたら、がたり、と音がした。

見るとエレベーターホールから人が数人連れだってやってきた。宿泊客だろう。

荷物が多いのか足取りは重そうだ。


とにかく無人のロビーで一人で待たなくてよくなりほっとした。

他人でも誰かいると心細さが違うな、などと思いながら視線をカウンターに戻した。

宿泊客のチェックアウトなんだから流石にもうスタッフだってやってくるだろう。


ずず、ずず、ず、、


そんな荷物を引き摺る音を立てながら、ロビーにやってきた客。


少しの違和感を感じ、いったい何を引きずっているんだろうとそちらを見た。


「………え」


非常灯の明かりしか無かったエレベーターホールとは異なり、太陽の光で少しは明るいロビー。宿泊客の姿を今度はちゃんと見ることができた。


ずず、ずず、ずず、


カウンターを過ぎ、ロビーを進んでこちらに向かってくる彼ら。

彼等の手に荷物は無かった。



ずず、ずず、ずず、


赤黒い何かを引きずりながら、一歩、また一歩と近づいてくる。

その赤黒い何かを視線で辿り、終着するのは彼等の腹。

お腹はぽっかりと開き、赤黒い空洞と骨が空気にさらされていた。



「!!!!?」



引きずっていたものが何か、それを理解した途端、息を飲んだ。


「な、なに、なになに?? え、ドッキリ? ドッキリ? 海外にもドッキリあったっけ? あ、あったよね、うん、TVで見たことある!」


リアルに見えるけど、きっと作り物に違いない。

そうに違いない。そうであってくれ!!



ぼくの声に気付いた彼らがこちらを見た。視線がかちあう。


「GRHAAAAOOOU!!!」

「うわぁああああ!!!」


本物だ!!


そう理解して悲鳴をあげるのと、獲物を見つけたとばがりに彼らが咆哮をあげたのは同時だった。



むかってくる彼らから逃げようと、ホテルのエントランスまで走る。彼らの動きは鈍かったのが幸いして、彼らとの距離を保ったままドアまでたどり着いた。


助かった…。


ドアを開き外に出てほっと一息ついた。




…のも一瞬だった。



「GHUUOOOOOO!!」



周りを見渡し事態に気付く。


僕を獲物の定めた濁った眼、頬が裂け大きく開かれた口からは発せられた、おぞましい咆哮。鼻につく腐臭。

何人もの“元は人間”が集まってきていた。




ああ、どうやら認めないといけないようだ。



「送還ミスだなコレ」







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